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「ちゃんと避けろ内田ァ!」
「照山だっ!」
ブラックスポットの中央にそびえ立つシメオンビルの内部で、照山達はイヴを救うべく洗脳されているイヴに対して攻撃を仕掛けていた
照山の攻撃……リトルボーイは揚々と回避され、その隙を見逃すまいとフラグメントを発動するセトとソルヴァ
しかし、それも華麗に……それこそ空を駆け、宙を舞うが如く回避していた
一方、ライトニング分隊との戦闘を終えていたなのは達だったが、休むことなく、セツナ、未央、梔の三人と対峙していた。
「…あんまりよろしいとは言い難い状況だね」
セツナの攻撃を交わし、射撃体制に移るなのは
“管理局の白い悪魔”と称された彼女であっても、長年の相棒であるフェイトとの戦いで疲労が募っていたのだ。
さらに悪い事に、セツナのスピードは最高速こそ
相性の悪いスピード型と二連戦ともなると、流石の彼女とて冷や汗の一つかこうというものだ。
「でもっ! 空中からの一撃必殺ならばっ!!」
フェイトとの違いである空戦能力の有無を利用し、地の利を得るなのは。
しかし、
「なっ!?」
瞬間、ガクンッ! っと、なのは達の力が抜けた。
飛行魔法が消え、地上に不時着したなのはは、同様に違和感に気が付いたスバル達を見据え、すぐさま一つの結論に至った
「AMF……アンチマギリングフィールド!?」
何故いきなり? と考えるのも束の間、強力なAMFによりほとんどの力を失ったなのはは、セツナの蹴りを受ける
「うっ!?」
スピードのフラグメントでかなりパワーアップしているセツナの蹴りで、魔力が少ないバリアジャケットでは全て飽和する事が出来ず、何割かの痛みがなのはを襲う
「っ!」
声にならない声を上げるなのは
確かに、彼女はこの数年管理局に勤め、教官として働いていた為、生身でも常人以上の身体能力は持っている。
しかし、フラグメントという異能な力を前にしては常人に毛が生えた程度で、従ってモロに攻撃を受けると、かなりダメージを食らうのだ
最も、バリアジャケットが何割か飽和していなければ命に関わる事態になっていたのだが。
「なのは!」
「逃がさないよ!」
なのはの救援に向かおうとしたヴィータの前に仁王立ちする未央
「チッ……邪魔すんなっ!」
アイゼンを構えたヴィータは、そのまま未央に向かって突撃した
「どかねぇとケガすっぞ!」
アイゼンが横に一閃薙ぎ払われる音が響く
しかし、未央はアイゼンを真正面から受け止めてしまったのだ
「なにっ!?」
「んー!」
そして、ガッチリ掴んだまま大きく回転を始める未央
「未央ちゃーーーん……すくりゅーーーー☆」
「なななっ」
「てりゃー☆」
「わぁぁぁぁ!?」
高速で回転していた未央の手から離れたヴィータは、落下の衝撃より、回りすぎによる酔いで混乱していた。
攻撃には絶好のチャンスだったのだが……
「うにゅー……」
バサリ、と音を立てながら同じようにその場にへたり込む未央
後の事を考えていなかったのか、そのまま目を回して倒れてしまったのだ!
〔乳がデカいピンク頭のくせにつよい〕
走り書きのスケッチブックを片手に、しかしシグナムと互角の剣戟を繰り広げていたのは梔だった。
あの
だが、防戦の一途をたどっていたのは剣を持つ方のシグナムであった。
〔どんなかたいてきとて!〕
一旦スケッチブックのページを開きなおして新たに台詞を書き足す
〔私のフラグメントを持ってすれば、いくらきょにゅうとてコワクナーイ!!〕
鉄火巻を前方に構える梔
「くるかっ!?」
レヴァンティンを水平に構えて身構えるシグナム
だが、鉄火巻きから放出されたのは、火薬や金属の類ではなく、ただの“香り”だった
「目くらましか。この様な小細工が、私とレヴァンティンに効くと……っ!?」
喋っている間に異変に気付くシグナム
(う、動けんだと!? この煙のせいなのか……)
身体中が麻痺しているのに気付いた時には完全に体はいうことをきかなかった。
〔これであなたはうごけない〕
チラッ
梔の視線がシグナムの胸部を捉える
〔みなさん、おまたせしました〕
ハァハァと荒い吐息を吐きながら、手をワキワキさせてシグナムに近付く梔
〔おたのしみのすけべの時間でーーーーーーー〕
「やっ…やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」
シグナムが自分の命以外の物の危険を感じている最中も、照山達によるイヴ救出戦が続いていた
フリーになったスバルとティアナも加わり、戦力的には優勢だったが、いかんせん直接向こうを攻撃してもドッペルゲンガーで回復される上に、
「右側から炎の能力者が来るわ!次は後方!銃を構えた女が狙っているわ!気を付けて!!」
「ティア!これじゃあラチがあかないよ!」
イヴの拳を防御魔法で防ぎながら、後方へ移動するスバル
「やっぱり、あの胡桃って奴をどうにかしないといけないと僕は思うんだ」
「同感ね。今その為の策を練っている所なんだけど……」
チャキッっと、クロスミラージュを胡桃に向け、躊躇なく発砲するティアナ
しかし、魔力で出来た銃弾は、胡桃に当たることなく、そのまま彼女を通り越して反対側の壁に激突していた
(やっぱり、あれは本体じゃない……どこに本体がいるか……戦いながら探すのは難しそうね……だったら!)
【クルス君、インデックスさん、聞こえる?】
「え?えぇ!?」
「クルス君静かに。これは通信魔法の類いだよ」
突然の念話に戸惑うクルスと冷静を装うインデックス
【理解が速くて助かるわ。二人に手伝って欲しいんだけど、今、手空いてる?】
ティアナの質問に、小さく頷く二人
(むむっ、この通信魔法……十万三千冊の魔導書の中にもない……やっぱり異界の魔法は魔術とは似て非なる物みたいだね……)
念話について少し探りを入れていたインデックスであったが、根本的な部分から違う為、結局断念していた
【やってもらう事は簡単。胡桃っていうあのイヴを後方から援護している奴の本体を見つけ出して、バレないように内田さん達に教えて。私とスバルはギリギリまで時間を稼ぐから、頼むわよ】
そう言うと、ティアナからの念話が切れた
「インデックスさん……」
「うん。一緒に頑張ろう。クルス君」
一方、ブレイドは未だに意識を回復させていなかった
「応急措置じゃあ間に合わない!せめてドッペルゲンガーがあれば……」
チラッっと、イヴの方を見るディスク
そこでは、スバルやセト達が苦労しながらもイヴの足止めをしている所であった。
「ギド、ブレイドはどうにかならんのか?」
「…………」
「ギド!」
上条の言葉に苦い表情をするギド
「ギド。お前、何か隠してないか?」
「……上条よ」
「何だ?」
「もう少し待ってくれんか?そしたら……」
「……そうも言ってられないんじゃないの?キド博士……いや、イヴプロジェクト主任、
「なんだって!?キド!イヴプロジェクトとは……」
「……昔の話じゃ。今は細かく説明出来んが、ブレイドのイヴの出生に深く関わっていた事だけは認めよう」
「……そうか。で、ディスク、何故時間がないと?」
「単にブレイドが弱り始めているから……これが一番の原因ね。早くイヴを解放して、彼女のドッペルゲンガーで回復させないと……」
「そうか……」
スッっと立ち上がる上条
「どうした?」
「決まっているだろ」
疑問を掛けてくるキドに平然とした表情で言葉を返す上条
「イヴを縛る幻想を、ぶち殺しにさ────」
(う………ん?)
体が重い。上から下に叩き付けられたのか、全身から均等に痛みが伝わっていた。
(ここは……?)
辺りを見渡す。そこには、
(……っ!?なのは!?)
更に視点を移動させると、
(エリオ、キャロ……)
意識を失っている二人を見た後、再び視点を変えると……
(シグナムにヴィータ……スバルとティアナまで……)
そして、仲間と共に戦う見知らぬ人と、それと戦う少女達を見つめる
しかし、少なからずダメージがあったからか、冷静な判断が出来ず、ただ黙して彼女達の戦いをみているだけであった。
そんな状況の中、とある声が耳に入ってきた
「───もうすぐ、もうすぐ、闇が世界を覆う……僕達は、再び闇の一部になれる……」
自分と似た声の主は誘うかのように語り掛けてきた。
「君もどうだい?僕達と闇にならないかい?」
(───闇?)
「そう。全ての悲しみから開放され、暗く、広い闇の中で生き続ける。痛みも、悲しも感じずに、永遠に時をさ迷える……どうだい?」
(全ての痛み、悲しみから開放される………でも)
「────お母さん」
ビクッ
「優しくしてくれとは言わない。ただ、昔みたいに笑ってほしかった。氷の様な冷たい眼差しが、オーラが怖かった。自分が頑張ればまた笑ってくれる……昔のお母さんに戻ってくれる。そう思っていたんでしょ?」
(…………)
「でも、それは上手くいかなかった。それは何故か?途中で邪魔が入ったからでしょ?」
(……邪魔?)
「そう。お母さんの為に、お母さんの笑顔の為に戦っていただけなのに、それを邪魔してきたやつがいたでしょ?あれで本当に良かったと思っているの?もしかしたら、ジュエルシードの力で、お母さんの笑顔だけじゃなく、アリシアもリニスも帰ってきたかも知れないのに?」
(どうして、二人の名を──?)
「僕は君。君は僕。君の辛い事、思い出したくない過去、なんでもわかる───」
(なんでも──?)
「君が心のどこかで彼女を恨んでいるのは知っているよ」
(私が、なのはを……恨んでいる?)
「あいつが居なければ、今頃テスタロッサ家は静かに暮らしていた。お母さんも、きっと君の事をアリシアの代わりと思わずに、“フェイト”として、アリシアの妹として接していただろうね」
(お母さん……アリシア…………)
「さぁ、恨め。憎め。彼女を。高町なのはを──君の全てを台無しにした、あの女と、まわりの全てに恨みと憎しみをぶつけるんだ!」
(……………)
私は、今まで間違っていたのか?あの時、へましていなければ、本当にお母さんやアリシア達と平和に暮らせたのだろうか……
そう思うと、胸が痛くなっていくのを感じていた
───でも、
『友達になりたいな。』
『名前を呼んで。私は、なのは。高町なのは。』
その言葉の暖かさを、今でも覚えている。そして、
『フェイトちゃん?ウチは八神はやて。よろしくな』
『テスタロッサ……その名、覚えておこう。我が名はシグナム。烈火の将、シグナムだ』
自らの運命に逆らわず、受け入れる少女と、主の為に戦う騎士そして──
(エリオ……キャロ……!)
昔の自分と似た境遇をもつ本当の息子や娘のような可愛がる二人……
全て、なのはの一言がなければ手に入らなかった。否、知ることすら無かった。
きっと、優しい少女は闇に飲まれ、今住む街も、世界も、少し前のJ・S事件で跡形もなく消滅していただろう。
だったら、
(私は、なのはを恨んでなんかいない。憎んでなんかいないっ!)
「なんで?どうして?君の生き甲斐を奪ったのに?お母さんを奪ったのに?」
(なのはは、それ以上の事を私に与えてくれた……沢山の友達と、仲間を……そして、同じ様な境遇の子に手を差し伸べる勇気をっ!)
「…………」
(私は、闇には屈しない。誓ったんだ。もうお母さんの様な……昔の私みたいな人は出させないと!だから!!)
そこで、フェイトは目を覚ました。
近くでは、なのは達が精一杯戦っている。名も知らない青年少女たちも一緒に。
(これは、オチオチ寝てられないね。)
スッ……っと立ち上がるフェイト
『おはようございます』
「おはようバルデッシュ。お互い寝起きで悪いんだけど、ちょっと無茶していい?」
『了解』
「……ありがとう。バルディッシュ」
闇からの誘惑を断ったフェイトは、一歩踏み出した。