「…………はぁ」
目の前で起きているちょっとした騒動を目の当たりに、上条は深い溜め息をつく。
高町なのは達と合流してから早くも三日の歳月が経っていた。
上条の目の前では、
「タバコ買ってこい山田ァ!!」
「ヒィィ!!」
と、ブレイドとクルスの漫才が繰り広げられていた。
スバルとティアナはその直ぐ横で自主トレ、ヴィータは何やらインデックスと話しているが、上条の耳までその内容は届かない。
ここで、解らない人の為に(ニードレス)と(フラグメント)について軽く説明しよう。
説明……と言っても、ニードレスは能力者、フラグメントはその能力…と言ってしまえばそれで説明がついてしまうのだが。
「イヴさん!助けてください!」
「情けないなぁ山田は…」
そう言った後にイヴはクルスの手に何枚かお金を渡す。
「イヴさん?」
「スーパーゲル状デロドロンドリンク買ってこい山田ァ!!」
「ひぃぃやぁぁ!!」
そんなのんびりと過ごしている彼らから少し離れた位置で、なのははアースラに居るはやてと連絡をとっていた。
【はやてちゃん、その話本当!?】
【私も信じられへんねんけどな、二日前から通信がさっぱりとられへんねんや】
【フェイトちゃん達に一体何が………】
【後、なのはちゃん、調査中に少々厄介な物を発見してしまってもうてな…】
【厄介な物?】
【そう。特定地域にAMFに酷似した反応が見られたんや】
【AMF? 何でここに?】
AMF、アンチマギリングフィールドとは、魔力の錬成を妨害する特殊な結界の事だ。次元犯罪者ジェイル・スカリエッティが無人兵器『ガジェットドローン』から発生させる事により、質的戦力差を埋めたのは記憶に明るい。
【という事は、(時のねじれ)関係もスカリエッティは知っている可能性がある……という事かな?】
【……確かに、スカリエッティやったらこの事について何か知ってるかも知らへんな。よし、今から確認の為に本局に連絡を入れてみるわ】
【お願いね。はやてちゃん】
【うん。任せといて。なのはちゃん達も頑張ってな。何かあったら夜天の主である私がどこにでも助けにいくからな】
【にゃはは……その時は期待しているよ】
【そうならんのが一番やけどね】
【そうだね……スカリエッティの件、頼んだよ】
【任されたよ。ほんならなのはちゃん、おおきにな】
はやての言葉を最後に念話が切れた。
「…………ふぅ」
通信を終え、一息つくなのは
(フェイトちゃん、シグナムさん、エリオ、キャロ、無事でいてね……)
青く澄んだ空を見上げながらなのははそう願っていた
と、そこへ、
「こら山田!僕が頼んだのはスーパーゲル状デロドロンドリンクだぞ!これはただのデロドロンドリンクじゃないか!?」
「い、いや、これしかなかったから……」
「言い訳なんて聞いてない!!もっかい行ってこい!」
「そ、そんな~…」
「イヴちゃん、クルス君、どうしたの?」
なのははイヴとクルスの元に行き、話し掛けた。
「僕がお使い頼んだら別の物を買ってきたんだ!」
「いや、だから売ってなかったんです……」
「それで、今から町に行くのかな?」
「はい……」
「じゃあ、私も同行していいかな? 地形調査のついでになるし」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
「よし!山田が間違えないように、僕も着いていくよ」
こうしてなのは、クルス、イヴの三人は、町に向かっていった。
……………………………
…………………………
………………………
「……………」
ブラックスポットのとある一角に、三人の少女がいた。
「………どうやら、彼女達と再びまみえるようですね……」
茶髪ショートヘアの少女がそう呟いた
彼女は黒い服とスカートを履き、手には紫色の杖が握られていた
「あいつらと再開するのは何年ぶりだったかな? えぇーっと、いーち、にーい、さーん……あぁ!長すぎて僕にはわからないよ!!」
青く長い髪をツインテールにした少女は頭を抱えながらそう叫んでいた。
黒い服の上から黒いマントを羽織った彼女の横には、斧にも見える黒い杖がある。
「まあ、何年経とうと、我らのすることにはかわりはない」
銀髪の少女が混乱している青髪少女に対してそう言った。
彼女も黒い服を身に纏い、手には紫色の十字架の様な杖を持っていた。
もう片方の手には紫色の辞書の様な物を携えている。
「……では、そろそろ動くのですね?」
「その為に『結界』を取り外したのだ……あの塵芥共に一矢報いる為に……」
そう言って白い髪の少女は手に持つ紫色の本を何回かさすった
……………………………
…………………………
………………………
「クルス君! そこにいると見つかっちゃうよ!」
「は、はい!」
なのはに手招きされたクルスは彼女が今隠れている建物のかげに来た
「くっ………こんな所でテスタメントと鉢合わせなんて……僕達ついてないね」
なのはの横にいたイヴがそう呟いた。
今の状況を簡単に説明すると、スーパーゲル状デロドロンドリンクを買いにきたなのは達は、町を見回っていたテスタメントの視界から逃れるように息を潜めている最中だった。
「仕方ない……クルス君、イヴちゃん、ここは私が注意を引き付けるから、その間に!」
「で、でもなのはさん?大丈夫ですか?」
「大丈夫。なのはさんは強いから。……行くよ、レイジングハート」
『了解しました。マスター』
そう言うとなのはは赤い玉……レイジングハートを空に掲げた。
「レイジングハート! セェェェェットアァァァァップ!!」
『スタンバイレディ』
ピンク色の魔力光が彼女を覆った。
その光が収まった中から、白い服、バリアジャケットを着たなのはが杖の形になったレイジングハートを構えている。
「一撃で決めるよ! レイジングハート!」
『バスターモード』
ガチャン! という機会音と共に、レイジングハートの先端が形を変えた。
「ディバイィィィィン!」
なのははレイジングハートの先端をテスタメントに向けた。
「バスタァァァァ!!」
轟! という音と共に、レイジングハートからピンク色の魔力光が放たれた
バキィ! ドカーン!!
テスタメントは抵抗する間もなく粉々になった。
あれは絶対殺傷設定である。
「す、すごい……」
クルスも、なのは達と合流した時に話だけは聞いていたので、なんとなくは知っていたのだが、実際に見ると凄いものだな、と心の中で思っていた
……が、感心しているも束の間、爆発音を聞いて他のテスタメントもこちらに近付いてきた。
「あっちゃー…やり過ぎたかな?」
『みたいですね』
えへへーとか言いながら自分の頭にゲンコツを置いて舌を出してやっちゃった♪みたいな表情をするなのは
「そんな事言っている場合じゃないぞ!ほら!早く逃げるぞ!」
走って行くイヴについていくクルスとなのは。
三人は近くの廃ビルの中に入っていった。
「…………………それで、これからどうするんですか?」
廃ビルの二階、何もない部屋にきた三人
「うーん……やっぱりこのままあいつらが去るのを待つしかないかな」
「事態を悪化させた張本人が何言ってんだ……」
「うっ! ………ごめんなさい…」
イヴのキツイ言葉にションボリしながら謝罪するなのは。
彼女には悪いがイヴの言う通りである。
「……こんな所で仲間割れかい?」
「「「!?」」」
三人が振り向いたそこには、いかにもマジシャンですよな服装の子供(♂)が宙に浮いていた
「やっと追い詰める事が出来たよ………さあ、大人しく神父の居場所を吐いてもらおうか」
「し、神父様を探して一体何をするつもりなんだ!!」
宙に浮く少年に対しクルスが問い掛ける。
「何って………勿論、殺すんだよ」
「なっ……」
少年の言葉に、クルスは驚愕する。
「そんな事を聞かされると、教えられなくなるね」
なのはが静かな口調でそう答えた。
「そうかい……じゃあ君たちに用はない」
そう言うと少年は右手を上に上げた。
「光栄に思ってねお姉さん達、シメオン四天王である僕、
バッ!と右手を振り降ろす右天
その刹那、無数のナイフがマシンガンの様なスピードでなのは達を襲った。
「レイジングハート!」
『プロテクション』
「ドッペルゲンガー!!」
ガンガン!!
なのはは防御魔法プロテクションを、イヴは自分のフラグメント、ドッペルゲンガーで腕を盾にし、攻撃を防いだ。
「へぇ……変身(ドッペルゲンガー)のフラグメントか……そっちのは一体どんな能力なのかな?」
珍しそうな物を見る目でなのはを見る右天。
「まあどちらにせよ、ここで死ぬから問題ないんだけどね」
右天は再び右手をあげた。
「ッ! イヴちゃん! また来るよ!」
「わかっている!山田!僕の後ろに隠れてろ!」
「は、はい!」
再び防御体制に入る二人
しかし、
「残念、ハズレ~」
右天が右手を振りおろすと、彼女達の真上から巨大な鉄球が落ちてきた。
「マズイ!」
慌ててガードを上に向ける二人
ゴン! という鈍い音を出しながらも、直撃は免れた。
「お姉さん達凄いね~……でも、これは防げるかな?」
なのはとイヴがガードしていて守りが薄くなった正面からナイフが幾多も飛んでくる
「うわぁぁぁ!?」
当たると思いクルスは頭を抱え地面に丸くなるように這いつくばった。
が、ナイフはいつまで経っても襲ってこない。
「?」
クルスは恐る恐る目をあけた。
「……な、なんだと!?」
右天は目を丸くしながら驚いていた。
先程のナイフよりも数を多くしておいたのに、茶髪の女性が片手から出した魔方陣の様なもので全て防がれていたのだ。
(一体あのフラグメントは何なんだ……まさか、奴もミッシングリンク級のニードレスなのか!?)
右天は見たことも聞いたこともないなのはの「魔法」に戸惑っていた。
「ふぅ……間一髪……」
安堵の息をもらすなのは。
「やるじゃないか! 高町なんとか!」
イヴのその言葉に、なのはの中の若かりし頃の記憶が甦る。
「にゃ! なのはだよ! 高町な・の・は!!」
「どっちでもいいじゃないか!」
「良くないの!!」
口喧嘩を始める二人。
余裕がありそうで何よりである。
「高町なんとかって、貴女はヴィータちゃんか!」
「何気にあの赤服ハンマー幼女バカにしてないか?」
「赤服ハンマー幼女って長くない?」
「じゃあ略して赤女だ」
「どうやって読むのそれ!あかおんな?せきじょ?」
「どっちでも良いだろう!」
「良くないよ!ヴィータちゃんはヴィータちゃんなんだから!」
「………………」
「………………」
スルーされる少年二名。
先に動いたのはクルスだった。
「あ、あのー……今戦闘ちゅ
「「うるさい!」」
「すいません……」
「………はっ!見たことのない能力には戸惑ったけど僕の能力、バミューダアスポートの敵ではないね!」
なんかハミゴ感バリバリだったからかいきなりネタバラシしだす右天。
ハミゴって10年近く聞いてないよおじさん。
「僕の能力は、何もない所から物質を造り出す事が」
「うすさいっつてんだ!」
イヴの怒声に、右天の声が止まる。
「さっきから一人でボソボソと、集中できないでしょ」
「ふ、ふん! 知ったことではないな! 止めたければ力ずくで止めてみろ!!」
「その言葉、忘れないよ?」
なのはは靴から羽のような物を出し、数メートル上に飛んだ。
こんなものは序の口と言わんばかりにレイジングハートの矛先を右天に向ける。
「アクセルッ!!」
レイジングハートの周りにピンク色の魔力球が幾つも現れた。
「シュート!!」
風を切る音と共にその球は右天を襲う。
が、
ガガガガガ!!
なのはが放った攻撃は見えない壁に防がれた。
「ハハハ!! この程度かい?」
「こいつだけじゃないぞ! ドッペルゲンガー!!」
右腕を鉄の拳に変え右天の近くまで近付くイヴ。
「イヴキャノン!!」
当たれば無事では済まない鋼の鉄槌を叩き付けるが、これもまた防がれた。
「無駄だよお姉さん達、そろそろ気付きなよ。君たちと僕とでは根本的な部分が違うんだ」
挑発する右天に、なのはさんがキレた。
「じゃあ、非殺傷は要らないね?」
「はっ?」
再びレイジングハートを構えるなのは。
再び魔力球が現れる。
「アクセルシュータ……」
そう言ったと同時に、轟! と音をたてながら魔力球が右天に襲い掛かる。
対して余裕の笑みを崩さない右天であったが、
間を隔てていた壁は、容易く砕かれた。
南無。魔王を怒らせるとは。
「なっ……!?」
右天は、自分の前に展開されていたバリアがコンクリートが崩れるように崩壊するのを唖然としながら見るしか無かった。
『バリア』の正体に最初に気が付いたのは、クルスだった。
「イヴさん! なのはさん!! アイツのフラグメントの正体が解りました!!」
「何っ!?」
「クルス君、本当?」
イヴとなのはの言葉に、クルスは頷く。
「アイツ……右天のフラグメントは、物体を見えなくする事ですっ!!」
ババーンという効果音がバッチリ似合いそうなくらいの力強い指差しをするクルス。
「くっ!」
トリックが見破られて旗色が悪いと判断したのか、階段に向かって走り出す右天。
「………逃がさないよ」
再びレイジングハートからアクセルシューター(ガトリングver)が飛び出し、右天を襲う。
「ひぃぃぃぃぃぃぃ!?」
全力で走る右天であったが、階段が瓦礫で埋もれ、逃げ出す事が出来なくなってしまった。
「高町なんとか! トドメは任せろ!! ドッペルゲンガー!!」
腕をドリルに変えたイヴが右天の前に立ち塞がった。
キュイィィィィン!! と音をたてながらドリルは回転する。
「行くぞ! イヴキャノン!!」
グワッ! と、ドリルが右天の横腹を貫く。
「判決ッ!死刑!!」
「ギャアァァァァァ!!」
腹の真ん中に穴を開けられた右天は、もがく事も出来ずに絶命した。
「ふぅ……」
バリアジャケットを解除しながら、なのはは肩の力を抜いた。
「……お疲れ様、レイジングハート」
『ありがとうございます。マスターもお疲れ様でした』
「それにしても凄かったな高町なんとか。さっき杖から出していたヤツ」
ドリルの形だった腕を元に戻しながらイヴはなのはに言った
「まぁ、あれはつい最近考えた技で、まだ試し撃ちもしてなかったんだけどね」
「ヤツはとんだ災難だった訳だな」
戦闘を行っていた廃ビルから出た三人は、教会に向かって歩き出した。
「……………ん?」
帰路についていた途中、なのはは何かに気付いた。
「どうしました? なのはさん?」
いきなり止まったなのはに声をかけるクルス
「……何でもないよ、気のせいだったみたい」
「そうですか?」
「おぉーい! 山田ァー! 高町なんとかァー!! 早くしろぉ!」
少し先を行っていたイヴも足を止め二人を手招いている。
「行きましょう。なのはさん」
「そうだね」
【レイジングハート。さっきすぐ近くに……】
『ええ、確かに魔力反応はありました。』
【フェイトちゃんに似てるけど、少し違うような……一体誰だろう……?】
なにか晴れない気持ちのまま、なのはは先を進むイヴとクルスの元へ小走りで向かった………