新約:とある戦士達の黙示録   作:一条和馬

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第4話『テキサスに舞い降りた天使たち』

【1】

 

―『第97管理外世界地球』フェンリル南米テキサス支部周辺空域―

 

「む、そう言えば……」

「どうしたんだい、ウォルコット中佐?」

 紋章機、ハッピートリガーの操縦席に相乗りしていた御髭が命のウォルコット・O・ヒューイ中佐の呟きに、モノクルと軍帽がトレードマークの長身の女性、フォルテ・シュトーレンが反応した。

 

「いえ、確か先方の時空管理局の方に『なるべく現地の人間との接触は控えてくれ』という話を聞いたような、聞いてない様な事を思い出しまして」

「マジか今更だな中佐。じゃあ、今からトンズラして雲隠れしなきゃならないのかい?」

「『なるべく』なんで仕方がないとしましょう。それに、助けて頂きながら礼も言わずに去るのは、軍人云々というより良識人としての感性を疑われますからな!」

『……通信繋がったままなのだけど、それって私達に聞かれたら不味い秘密の会話なんじゃないかしら?』

 コックピット内の全天周モニターの一部を切り抜いた四角いディスプレイの先には、フォルテ達トランスヴァール軍人とは違う、ジャケットの様な赤い服を纏っていた女性の姿が映されてる。

 

「如月アキ、だっけ名前? 別に気にしなくて良いんだよ。約束破って集合場所に現れなかった連中に尻ぬぐいは全部任せるさ」

『そっちが良いなら良いけど……』

「そんな事より、今私達が向かっているのは、アンタ達の基地で良いんだよな?」

『そんな事より、良い男居るかしら!? ねぇ、どう思うミルフィーユ!』

 人が真面目な話をしていたのに、つい緊張の糸が取れたブロンド髪のチャイナ娘蘭花(ランファ)・フランボワーズが無理やり雑談を始める。

 それに対し、話を振られた頭に花飾りを乗せた桃色髪の少女ミルフィーユ・桜葉は「うーん」と少し唸った後、口を開いた。

 

 

『私思ったんですけど、さっきの虫さんってケーキにして食べたら意外と美味しかったりするんじゃないでしょうか?』

『会話が成立していない!』

『ゲテモノにも程がありますわミルフィーユさん! はぁ、この廃墟っぷりを見ると、わたくしの眼鏡に適う着ぐるみを探すのは一筋縄ではいかなそうですわ……』

『ミント! サラッと私を居なかった事にするんじゃな

「お前らやかましいわーッ!!」

 

 別に雑談するなとまでは言わないフォルテだが、順次現れるモニターの数々が視界を圧迫した挙句、それで真面目な話を遮断された身としては堪ったもんではなかったのだ。

 

「全く、お前ら。少しはヴァニラ見習って真面目に静かに聞けんの『青い空、広がる下界に、蕎麦落とす』

『流石ヴァニラさん! 深すぎて全く意味が分からない一句ですね!』

「だああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーッ!!」

『……そっちは大変そうね』

 

 知り合って間もない人に心の底から心配されたフォルテであった。

 

 

 

【2】

 

―『第97管理外世界地球』フェンリル南米テキサス支部外宇宙開発機構内『スペースナイツ』基地―

 

 フェンリル南米テキサス支部外宇宙開発機構。

 

 それは、元々フェンリルとは別の組織であった民間組織、外宇宙開発機構がフェンリル南米支部と合併した欧州最大の防衛機構の一つだった。

 

 高地の間を利用した天然の要塞の中の施設は地上からの外敵対策には非常に有効で、その機能を再現したとあるレジスタンスが日夜巨大な悪と戦っているらしい。

 

 そんな外宇宙開発機構は内部に特別チームを編成していた。それこそが、ギャラクシーエンジェル隊を助けたテッカマンブレードやブルーアース号が所属する、スペースナイツである。

 基地の格納庫に紋章機を着地させたエンジェル隊の面々は、オーバーホールを来た細身の男性に先導され、基地内を移動していく。

 ブルーアース号に収容されたテッカマンブレードが気になるが、どうやら整備やら報告書やら色々あるらしく、後に合流する事となった。

 

 広く長い廊下を渡り切った先で案内されたのは、応接間だった。

 壁の一面がガラス張りで外の荒野を見渡せる部屋の中央には、綺麗に整えられた横長のソファーが二つ、膝辺りまでの高さのガラステーブルを挟んで並べられている。

 

 その部屋で窓から外を眺めて待っていたのは、白い髪をオールバックにまとめた男性だった。

 独特な逆三角形デザインのサングラスをかけた男の目は細く、どんな些細な事も見逃すまいとした油断ならぬ人物である事を匂わせている。

 

「ようこそスペースナイツ基地へ。私はこのフェンリル南米支部を預かる支部長兼、外宇宙開発機構所長兼スペースナイツ司令のハインリッヒ・フォン・フリーマンだ」

「こちらこそ。トランスヴァール皇国軍聖女シャトヤーン様直轄遺失物管理部ギャラクシーエンジェル隊の司令をしております、ウォルコット・O・ヒューイ中佐です」

「肩書の長さで対抗すんなよ中佐」

 フリーマンが差し伸べた手を取り、握手するウォルコット中佐の横で、フォルテがため息をつく。

 本来なら彼女もボケ役の筈なのに、今日はツッコミ役に徹し過ぎな気がしていた。

 

「……所で、彼女達が今どんな状況に陥っているのかお聞きしたいのだが……」

「んーっ! んんーッ!!」

 部屋につくや否や勝手に行動しようとしたウォルコットとフォルテ以外のエンジェル隊はガムテームにより強固に束縛されていた。こう、エロい感じとか一切なく、足先から髪の毛のてっぺんまでグルグル巻きにされている辺りに本気度が伺える。

 

「気にしないで下さい。あれがトランスヴァール流の労いです」

「異文化とはおそろしいな……」

 場を和ませるための軽いジョークのつもりが、本気でフリーマンの顔を引きつらせてしまう。

 

 異文化といえばお前の逆三角形サングラスも大概だよとは思ったフォルテだが、そこは大人なので我慢した。

 

「フリーマン司令。まずは大事な部下達をお助け頂いた事、本当に感謝します」

「何、最終判断を下したのは私ですが、最初に助けると決めたのは私の部下達です。お気になさらず」

 

 それよりも、とフリーマンは部屋の中央に置いてあったソファーに腰かける様にフォルテ達に促す。

 エンジェル隊が座ったのを確認し、フリーマンも反対側のソファーに腰かけた。大半がガムテームのよく分からない生物群を出来るだけ視界に捉えないようにフリーマンは話を続ける。

 

「早速ですが、あそこで何をしていたのか、お聞きしても?」

「えぇ、構いませんよ」

 

 フリーマンの鋭い鷹の様な眼光に恐れる事無く、ウォルコット中佐は最初から話を始めた。

 こういう時の物動じない姿勢の中佐は格好いいと素直に感心するフォルテ。

 

 言ったら絶対に調子に乗るので大人のフォルテは言うのを我慢したが。

 

 

【3】

 

 

「うーむ……」

 フェンリル南米テキサス支部支部長兼、外宇宙開発機構所長兼、スペースナイツ司令のハインリッヒ・フォン・フリーマンは柄にもなく困惑していた。

 

 オービタルリング近宙でラダムに襲われていた集団がいると聞いた時、最初はフェンリルの別支部の部隊の事だと勘違いし、救援を許可したのだ。

 現在、地球から宇宙へと上がる手段を持つのは、ブルーアース号以下、地下に整備途中で放置されているシャトル群を保有する外宇宙開発機構を除くと、ほとんど無に等しい。

 

 フェンリル本部に席を置くコルベット准将がどこからかシャトルを調達して地球製テッカマンである、ソルテッカマンを宇宙へ上げたという予想もあったが、そもそも彼は少し前のオービタルリング奪還作戦の失敗を追求され、謹慎処分を受けている筈だ。

 

 だからこそ、正体不明のウォルコット中佐達には興味があり、護衛も着けず直接会話する選択をしたのだが、今は少し後悔をしていたのかもしれない。

 

 なぜならば、ウォルコット・O・ヒューイという男が話す言葉のほとんどが、彼が初めて聞く者ばかりであったからだ。

 

 

 別世界の広大な宇宙に君臨する星間国家トランスヴァール皇国。

 

 

 古代遺産ロストテクノロジーを使用した紋章機。

 

 

 異世界転移技術を持つトランスヴァールの同盟世界ミッドチルダ。

 

 

 そして、異なる世界同士を繋ぐ次元の海の治安を守る時空管理局。

 

 

 正直『学園都市の超能力者』だの『魔術師』だの『ニードレス』だの『ゴッドイーター』などがおり、『アラガミ』や『ラダム』といった超常と毎日殴り合っている身としてはもうこれ以上何が起きても驚かない自信があったフリーマンの心をあっさり砕く様なスケールの話がポンポンと流れてくる事に、彼は本気で対処に困っていた。

 

 それでも尚、ポーカーフェイスを崩さなかったのは、ある意味で彼がどれ程の実力者かを図るには十分すぎる材料でもあったのだが。

 

「つまりですな」

 そんな彼の心中などいざ知らず、『自分たちの世界の常識』をペラペラと話していたウォルコット中佐がまとめに入った。

 

「我々はこの地球に発生している『とある超常現象』と、その原因を担っていると思われる『ロストテクノロジー』……ああ失礼。この世界の管轄的には『ロストロギア』が正しいんですな。ともかく、その回収と調査が目的となっております」

 

 サラッと『この世界の管轄』とか謎のワードが飛び出したが、恐らく気が付いていないウォルコット中佐は続ける。

 

「ラダム、でしたかな? 彼らの様に地球侵略を目的として遠路はるばるやって来た訳では無いという事だけは、理解していただきたい所です」

「……わかりました。とりあえずは、我々スペースナイツが招いた来賓という形で貴方方を歓迎します」

 

 

 そう言うしかないではないか。

 

 

【4】

 

「レビン! その話はマジかよ!!」

 ブルーアース号の整備をしていたオーバーオールを来た細身の男性、レビンの胸ぐらを掴んで叫んでいたのは、パイロットのノアル・ベルースだった。

 と、言っても別に喧嘩をしている訳では無い。

 レビンが見た例の『宇宙人』について、彼は興味津々だったのだ。

 

「いっ、痛いってやめてよノアル! もう、ホントにホントの話。あの戦闘機から出てきたエイリアンって人間そっくりなの。それもダンディーなオジサマと女の子が五人。ま、地球人じゃないから男女逆かもしれないケド」

「まさかお前じゃあるまいし」

「あーっ! ひっどーい!!」

 女言葉で喋るレビンだったが、彼は間違いなく男だった。ただ、心が乙女なだけなのだ。何も心配はいらない。

 

「でもでも、この戦闘機、紋章機(エンジェルフレーム)って言うらしいんだけど、皆セクシーよね。でも、この赤いのは頂けないわ。色はテッカマンブレードとお揃いでイイ感じなんだけど、武装がアンカーのみって、イマイチ美しさに欠けちゃうわ」

「そうか? 俺は男らしくて好きだぜ?」

「ほら、ロボに付けるドリルはロマンってのと同じ思考でしょ!? 男って皆馬鹿なのね!」

「お前も男!」

「私は乙女!」

「……二人とも何してるの?」

 そんな掛け合いは永遠と続くかと思われたが、そこへ書類仕事を終えた如月アキと、彼女と同じ赤いジャケットを羽織った男性が現れる事で中断された。

 

「あ! Dボゥイ! と、アキ」

「レビン。私をオマケ扱いしないでくれる!?」

「お、帰って来たなお二人さん」

「お前に書類仕事を全部押し付けられたからな」

 ノアルが調子よく挨拶すると、Dボゥイと呼ばれた男性はボードに挟んだ資料を彼に手渡した。

 

「へっ、珍しくポーカーに付き合ってくれたと思ったら、まさかDボゥイがあんなに弱かったとはな!」

「……分の悪い賭けは嫌いだ。もうしないぞ」

「そんな拗ねんなよDボゥイ。っと、こんな事してる場合じゃねぇ。チーフが例の宇宙人達とお茶してるって話だ。覗きに行こうぜ!!」

 

 ノアル、アキ、Dボゥイの三人は既にブルーアース号のコックピットから通信でエンジェル隊の面々を見ていたが、画面の関係上上半身しか確認出来ていなかった。

 その為「上は美女揃いだけど下半身がグズグズドロドドロのスライムだったらどうしよう」と(主にノアルが)心配していたのだ。

 

「そう言えばDボゥイ、この戦闘機が気になるって言ってたわよね」

「ああ」

 早足でガンガン前進するノアルの少し後ろで、アキがDボゥイに話しかけていた。ノアルも少し意識を向けて会話の内容を盗み聞ぎする。

 

「あの性能、地球の物ではないのは確実だ。エイリアンというのは間違いない」

 だが、とDボゥイは一度区切って、何かしらの考えを自分の中で纏めてから口を開いた。

 

「あれと同じかは分からないが『ラダムに植え付けられた知識』の中に、似たものが存在するんだ」

 ギョッと驚きの表情を見せるアキと共に、ノアルもその話題には流石に黙れなかった。

 

「おいおい、簡単に言ってくれたが、それって相当ヤバイ話なんじゃねぇのか?」

「ラダムに襲われた他の惑星の生き残り、って事かしら……?」

「そこまではわからない。だが『ラダムの記憶のアラガミ』よりもずっと古い時代の知識なのは間違いない」

「以前話していた『ラダムはアラガミを知っている』って話よね」

「なんつーか、このままの勢いだと連中、宇宙の裏側まで知ってそうだよな」

「また報告書に書く事増えそうだけど、どうするの?」

「チーフには口頭で説明しようぜ。目下最優先事項は未知との遭遇だ!」

 そう言って立ち止まったノアルが指さす先には、応接間のドアがあった。会話をしながら随分と移動していたらしい。

 

「おっと、そう言えばこの国ではエイリアンに会う時には黒いスーツとサングラスがマナーだって聞いたんだが、用意した方が良いかな?」

「何の話をしているんだ?」

 

 昔みた映画の話を持ち出すも誰にも理解されず、その上ドアを開けるという楽しみまでDボゥイに奪われてしまうノアル。

 流石に最初に中に入るのだけは譲らんとした男の意地で、二人を押しのけ部屋へと足を踏み入れた。

 

 そこで待っていたのは――

「……なんじゃこりゃあ!?」

 

 髭の男性はさておき、その横に座っていた赤い髪でモノクルを付けた女性はモニターで見た通りの美人だった。

 すらっとした足と、豊満な胸。しかし、この場に立った今現れたノアル達の視線を持って行ったのは、ガムテーム製のミイラ四体と、その横で何食わぬ顔で珈琲をすする我らがフリーマンチーフの姿だった。

 

「あぁ、ノアルか。これは彼ら流の労らいらしい」

「どう見ても殺人現場だろ頭おかしくなったかチーフ!?」

 

 その時だ。ミイラ(?)の内の一体がピクピクと痙攣を始めた。

 

「お、おい……なんか一体動いてるぞ……?」

「ふ、ふふふ。ふふふふふふふふふふふふ」

「まさか、これでまだ動けるってのかい蘭花!?」

「ふはははーっ! 私の良い男センサーに反応ありよ!!」

 

 直後、布のガムテープで足先から頭のてっぺんまで拘束されていた筈のミイラが世紀末救世主伝説の男よろしくガムテームを引きちぎりながら外界へと姿を現した。

 

 ブロンドの美しい髪にマラカスの様なヘアアクセサリーを二つツインテールの端に着けていたチャイナドレスの女性の目は、確実にノアル達の方へと向けられていた。

 

「良い男か…参ったぜ。ついに俺の美貌が宇宙に認められちまった訳……」

「ねーねーそこの無口なお兄さんお名前伺ってもよろしいですかぁー!?」

「ちょっと!」

「いや、良いんだアキ。俺はDボゥイ。少し君の話が聞きたい」

「良いですとも!」

「……」

 

 完全に無視されたノアルがその場で固まっていると、フリーマンが怪訝な顔を彼に向けた。

 

「……ノアル。宇宙に、なんだって?」

「やめてくれチーフ。結構割とマジで心が折れそうだ」

 

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