【1】
そんな訳で。
「では改めて、スペースナイツのメンバーを紹介しよう」
フリーマンの指示によりギャラクシーエンジェル隊の前にスペースナイツの全員が召集されていた。
「ブルーアース号のパイロットのノアルだ。最近はソルテッカマンに入って戦う事の方が多いけどな」
「同じくブルーアース号のパイロット、如月アキです。……
「もう、アキったらヤキモチさんかしら? 私はレビン。スペースナイツのメカニック担当よ!」
「同じく、メカニック担当の本田だ。よろしくな」
「オペレーター担当のミリーです! ほら、次はDボゥイの番よ!」
後で合流したレビン、整備班班長で『おやっさん』というあだ名を持つ大柄な男性、本田と、元気に笑顔を振りまく少女、ミリー。
「……」
その横でDボゥイは仏頂面を見せていた。
機嫌が悪いとか緊張しているとかではなく、
「あはぁ~んDボゥイ様ぁ~♡」
なんかよく分からないくねくねしたチャイナ美女に抱き着かれて反応に困っていたのだ。
「……Dボゥイだ」
「はいはい質問! DボゥイさんのDって何の略ですか? あ! やっぱ言わないで下さい当ててみせますよ! うーん、そうです! ドリーム! ドリームのDですよね!?」
一同ずっと気になっていた様子だったので、それを率先して聞いてくれたミルフィーユに内心感謝していた。
一方で、その回答を聞いたノアルは首を振りながら否定する。
「おっと、中々にロマンチックな回答だが外れだぜ。正解は『デンジャラス・ボーイ』でDボゥイだ。因みに、こいつがテッカマンブレードな」
「まぁ、あの時のヒーロー! 顔も声もオッケーで強いなんて文句なしにいい男じゃな~い!!」
「ちょっと!」
「待てってアキ。きっと向うの世界ではあれが普通の挨拶なんだって」
「なんか蘭花のせいで私ら全員揃って変態扱いされてるぞ! 急いで引っぺがせ!!」
なんだか取っ組み合いで喧嘩を始めようとしていたアキと蘭花を、双方のメンバーが頑張って止める。
原因の渦中にあるDボゥイだけは我関せずと言った顔でフリーマンと、その隣にいたウォルコット中佐の方へと歩み寄っていく。
「チーフ。少し話がある」
「私からもなDボゥイ。少し急ぎの用だから、先に話していいか?」
「……ああ」
「うむ。記念すべき異文化コミュニケーションを楽しんで貰っている最中非常に申し訳ないのだが、我々スペースナイツに転属命令が下りた。転属はフェンリル極東支部だ」
「極東?」
「実は、最近ラダムの動きが妙でな。ミリー、例の地図を出してくれ」
「ラーサ!」
フリーマンの指示でミリーは部屋に備え付けてあった大型ディスプレイに世界地図を展開した。
それを待っている間、ウォルコット中佐はひっそりとDボゥイの方へと近付いてくる。
「あのー、Dボゥイさん。『ラーサ』という言葉は、了解、という意味の言葉で合っているのでしょうか? どうやら翻訳機がそのまま再生しているのですが……」
「あぁ、それで合っているよ、中佐」
「おほほ、すいませんね。こういう所で積極的に前に出ないと出番が回ってこなそうだったもので」
「?」
「諸君、この地図を見て頂きたい。ここ数週間、ラダムの襲撃を受けた地域を各支部が調べた結果なのだが、ご覧の通り、アジア方面。特に極東ブラックスポット支部近辺においてラダムが本格的な兵力投下をしている事が伺える」
フリーマンの言葉通り、地図にはラダムが現れた場所に赤い光点を指示していたが、その大半がアジア大陸や旧日本へと集中していた。逆に、ヨーロッパや欧州方面はほぼ真っ白だ。
「私はこれをラダムの重要な作戦の一環であると考え、迅速な対応を取る為にスペースナイツの転属を決定した。つい先程、先方に受理された所だ」
「ちょ、ちょっと待ってくれチーフ!」
「なんだノアル?」
「話は分かるが、そしたらこのテキサス支部はどうなるんだ? ゴッドイーターが居るって言ってもたった三人。しかも一人はよちよち歩きの新米だぜ? この広大な土地をブルーアース号なしで守るのは無理があるんじゃないのか?」
「……俺もそう言ったんだがね、どうやら別の所に飛ばされるんだとよ」
そう言いながら部屋へと入って来たのは、右手に赤い腕輪をはめた、三人の男女だった。
三人の内、長身でタレ眼の男、真壁ハルオミは続ける。
「なんでも三人仲良くグラスゴー支部に転属だと。ま、あそこならアラガミやラダムの出現率も低いし、俺達だけでも何とかなる」
「ハルオミ! でもよ…」
「おいおいノアル。自分たちがいなきゃ不安だってか? 大丈夫だって。なんでもグラスゴーには最前線に出たがる武闘派の支部長が居るって話だし、のんびり羽を伸ばさせてもらうさ」
「ちょっとハル。遊びに行くんじゃないんだからね?」
ハルオミの横にいた長髪で眼鏡の女性、ケイト・ロウリーは呆れた様な声を上げた。
スペースナイツにこの二人の神機使いを入れたメンバーが、テキサス周辺のみならず、南米ほぼ全域を警備していた『世界一防衛範囲が広いフェンリル部隊』である。
そしてもう一人、未だ専用の神機が見つからず、訓練や雑事のみに従事している少年がいた。
ギルバート・マクレイン。
少し前までただの素行の悪い少年だった彼は、ハルオミとテッカマンブレードであるDボゥイに命を救われ、改心をしたのだ。
「Dボゥイさん」
「どうした、ギルバート?」
「俺、Dボゥイさんから教わった槍捌きで絶対強いゴッドイーターになってみせます!」
「そう言えば、槍型の神機が開発中という話だったな。頑張れよ、ギルバート」
「はい!」
「相変わらず、ギルとDボゥイは仲良いわね。声も似てるし、兄弟みたい」
「兄弟、か……」
「なぁチーフ。三人がグラスゴーに飛ばされるってんなら、余計にこの辺の化け物退治はどうしようってんだよ?」
「無論、心配はいらない。実は『移動式フェンリル支部』の試作機が完成してな。外宇宙開発機構の技術提供で完成が早まった事の礼として、テキサス周辺で試験運用されるらしい」
「移動式フェンリル支部。いつの間にそんな物が……」
「ともかくだ。これで後顧の憂いなく、我々は極東支部に行く事が出来る筈……だったのだが」
「なんだ、まだあるのかチーフ」
「あるというか、君達が『連れてきてしまった』んだがね」
「……あー」
そう言うと、スペースナイツの面々はギャラクシーエンジェル隊の方へと視線を向けた。
「ウォルコット中佐。我々には貴方達を拘束する権限も、理由もない。ここに留まるなら手配するし、どこか他に行く当てがあるなら止はしないが」
「何だったら、一緒にグラスゴー支部に行こうぜ。こんなに美しいお嬢さんが一緒だなんて、滅多にないからな」
「ハルはちょっと黙ってて!」
ケイトに凄まれて、渋々部屋の端へと移動するハルオミ。
ギルバートが心配そうに歩み寄ろうとしたので、ケイトがとっ捕まえて動きを制する。
「構ってほしいだけだから、調子つかせちゃダメよ」
「おやつ用に持ってきたクッキーとか、いります?」
「女の子が絡むのは最もダメよホント軽いからコイツ!」
「相変わらず苦労してるわね、ケイト……」
横目でチラチラ見ているハルオミと『なんだか面白そう』という理由だけで絡みに行こうとするミルフィーユをケイトが制し、それを見たアキがため息をつく。
「……あのー、フリーマン司令達は『極東』なる場所に行くのですよね? それでしたら、我々も同道した「はいはーい! もうロストテクノロジーとかどうでもいいので、私Dボゥイ様に付いて行きまーす!!」
「……ミント。ガムテーム、残ってるか?」
「ダメですフォルテさん。マジックテープしか残っておりませんわ」
「くそっ、さっき使い過ぎたか!」
「……ウォルコット中佐、理由をお伺いしても?」
所構わず漫才を始めるエンジェル隊の娘達を無視して、フリーマンは話を進める。
ウォルコット中佐も慣れているのか、真面目な流れをそのまま維持して続けた。
「はい。実は、我々が探しているロストテクノロジーは『鋼の聖女』と呼ばれている物でして。それが最後に確認されたのが極東の『SIBUYA』という街という話なので、目的地が一緒なら現地の方と行動を共にした方が良いと思いましてな」
「わかりました。では、極東の支部長にもそう伝えておきましょう」
それでは、と一度会話を打ち切り、フリーマンは改めてスペースナイツに命令を通達した。
「これより、スペースナイツ、及びギャラクシーエンジェル隊はフェンリル極東支部へと出向する。各員出撃準備!」
「「「「「「「「「「「ラーサ!!」」」」」」」」」」」
スペースナイツの6人と、ちゃっかり混ざるエンジェル隊5人計11人の声が部屋に響き、早速各員は格納庫へと走り出した。
「そうだ、すまないDボゥイ。君にはもう一つ伝えなければならない事があったのだ」
「どうしたんだ、チーフ?」
「いや、実は極東支部でテッカマンの少女を一人、保護したらしい。そのテッカマンは、自分を『相羽ミユキ』と名乗ったそうだ」
「何だって!? ミユキが……妹が生きているのか!?」
【2】
―『第97管理外世界地球』フェンリルロシア支部隣接空港―
「あっついですわー……ここちょっと暑すぎだと思いませんかヴァニラさん?」
「……」
「……ヴァニラさん?」
『たっ、大変ですよ! ヴァニラさん、立ったまま気絶しちゃってます!!』
「何だか面白い光景ですけども……今はとにかくメディック! メディーック!!」
ピンクの良く分からないぬいぐるみのノーマッドを抱えたまま直立不動だったヘッドギアを頭に乗せた縦マキロールの少女、ヴァニラ・
事態に気が付いたミリーが救急箱を求めてブルーアース号の中へと戻っていった。
ここは目的地の極東ではなく、道中に立ち寄ったフェンリルロシア支部だ。
かつては極寒の地とも言える程寒い地域であったロシアだが、第三次大戦とアラガミの襲来による大規模な異常気象により、常夏の世界と化してしまった。
ハルオミ達をグラスゴー支部に届けた後、スペースナイツのメンバー+ウォルコット中佐を乗せたブルーアース号はエンジェル隊の搭乗する紋章機と共に、ヨーロッパの広大な空を極東に向けて横断している最中だった。
しかし、フリーマンの指示により、一度ここで降りる事となったのだ。
本来なら予定にはなかった行動なのだが、丁度この地に極東支部長がやって来ていたという事で、道中ついでに拾う話になったらしい。
燃料節約のために空調を利かせて待機する事も出来ず、一同が灼熱の大地の中をぶつくさ文句を言いながら待機していると、施設の方から三人の男女がブルーアース号の方へと近付いてくるのが見えた。
「直接会うのは何年ぶりになるかな。久しぶり、フェンリルテキサス支部支部長兼、外宇宙開発機構所長兼、スペースナイツの司令のハインリッヒ・フォン・フリーマン?」
「今はただのスペースナイツ司令だよシックザール。やっとその長い肩書から解放された訳だ」
(彼らの基準で)軽いジョークを交わした所で、男がエンジェル隊の方へと視線を移動させる。
「そちらの一団が、例のギャラクシーエンジェル隊だな?」
「そうだ。諸君、紹介しよう。こちらがフェンリル極東支部支部長のシックザールだ」
「只今ご紹介に与った、フェンリル極東支部支部長のヨハネス・フォン・シックザールだ。そして、私の隣にいる彼女は、これから極東支部に転属となる新型ゴッドイーターだ」
シックザールに紹介された新型ゴッドイーターは、銀色の髪に、赤いベレー帽とミニスカートを纏った、白い肌の少女だった。
胸元が超絶怪しい服を着て身の丈以上の大きなケースを持った彼女は、特に親しげにする様子もなく、昔のロシアを彷彿とさせる冷たい目でスペースナイツやギャラクシーエンジェル隊の面々を観察してから、口を開いた。
「アリサ・イリーニチナ・アミエーラです」
「そして、その隣が、医者のオオグルマ先生だ」
シックザールは、アリサの隣にいた白衣の中年男性の簡単な紹介を済ませる。本人も深く語るつもりがないのか、軽く会釈するだけで何か言いたいことはない様子だった。
「細かく紹介してやりたいが、何よりここは暑い。まずは極東支部に戻り、改めて場を設ける事にしよう」
こんな暑い中コートにマフラー姿の男は暑さに適応しているのかと思っていたが、どうやらそうでもないらしい様子だった。
いつの時代でもファッションは命がけらしい。