新約:とある戦士達の黙示録   作:一条和馬

18 / 26
第6話『空中戦』

【1】

 

―『第97管理外世界地球』アジア旧日本海上空―

 

「ミユキ……」

 無理矢理席を増設した事によりすし詰め状態となったブルーアース号のコックピットの一角で、Dボゥイは妹の名を小さく呟いた。

 

 その時だ。

 

 けたたましい警戒音と共に、コックピット内が赤いランプで照らされる。

 

「ミリー、何があった!?」

「高速で接近する機影を多数確認! 飛行型アラガミです!!」

「アキ、極東支部に救援依頼を送れ。大至急だ!」

「ラーサ!」

 ミリーが観測用のレーダーを見る横で、アキが素早くキーボードを打ち込んでいく。

 間髪入れずに、フリーマンは別の指示を部下に飛ばした。

 

「Dボゥイ! 君は先行出撃してブルーアース号の護衛だ。こうも人が多いとブルーアース号での戦闘は無理だろう」

「ラーサ!」

『おっと、ちょっと待ちなチーフさんよ。私達の存在を忘れてるんじゃないのかい?』

 通信ウインドウ越しに自信満々の表情を浮かべていたのは、フォルテを筆頭にしたギャラクシーエンジェル隊の面々だった。

 

『そのアラガミ? は、宇宙で私らを襲った虫共とは違うみたいだけど、要は敵なんだろ? 軽く撃ち落としてくっから待ってなって』

 それじゃ、と短く挨拶を済ませてからウィンドウが閉じたと思うと、ブルーアース号周辺を飛んでいた紋章機達がフォーメーションを変更。

 ブルーアース号の前面に扇状に展開する形で編隊飛行を始める。

 

「ミリー、観測を!」

「ラ、ラーサ! 紋章機(エンジェルフレーム)、飛行型アラガミへ攻撃を開始! 着弾まであと10!!」

「果たして異世界の武器は連中に通じるのか……」

「……3……2……1……着弾確認! 全弾命中です!!」

「何体落とせた!?」

「確認します!」

 しかし、ミリーがレーダーで観測するよりも先に、再びエンジェル隊との通信ウィンドウが開いた。

 先程とは違い、焦りの表情が伺える。

 

『おいどういう事だい! 連中、掠り傷一つも受けちゃいないよ!?』

『すっごい硬いです~!!』

「やはり無理だったか!」

「チーフ! 予定通り俺が出てアラガミを駆逐する!!」

「そうだな。連中に自分たちの天敵がゴッドイーターだけではない事を教えてやれ!!」

「ラーサ!」

 

 シートを離れたDボゥイは、ブルーアース号後部にある格納庫へと走る。

 格納庫には、胸部装甲が開いたパワードスーツがあるが、Dボゥイはその前を素通りする。

 彼が向かった先には、パワードスーツより一回り二回り大きい元作業用ロボットのペガスが収納されており、相棒の到着を待ちわびていた。

 

 Dボゥイはペガスの前に立ち、胸部装甲に備え付けられたクリスタルへと意識を集中させる。

 

「ペガス! テックセッターッ!!」

『ラーサ!』

 

 Dボゥイの叫び呼応するように、ペガスは台座ごと180度回転し、背面装甲を展開。

 その先には、人が一人入れるほどのスペースが確保されていた。

 Dボゥイは躊躇なくその中へと身を投じる。

 

 

 ブルーアース号の底面ハッチが開き、背中のウイングを大きく開いたペガスが宙を舞う。

 

 

 そして大空の真ん中で、ペガスの頭部パーツが開き、中のDボゥイが外へと現れた。

 

 

 否、今の彼はDボゥイではない。

 赤と白の鎧を纏い、両刃の槍を携える、宇宙の騎士。

 

 

 そう、彼の名は。

 

 

「テッカマン! ブレード!!」

 

 

【2】

 

「行くぞ、ペガス!」

『ラーサ!』

 両刃の槍、テックランサーを携えたブレードが、ペガスの背に乗りアラガミの群れへと切り込んでいく。

 

 アラガミは黒い卵に白い女神の石灰像を模した口のある小型アラガミのザイゴートと、青いドレスを纏った女性の風貌を持つ中型アラガミ、サリエルによる構成だった。

 飛行能力を持つこのアラガミは、神機使いにとっても戦法が限られる相手だ。

 

 しかし、テッカマンには関係ない。

「うおりゃあああああああああああああ!!」

 テックランサーをコマの様に回転させるブレード。

 紋章機五機による一斉攻撃で傷一つ負わなかったその堅牢な身体が、いとも容易く引き千切られ、その体を瓦解させながら眼下に広がる大海原へと落下していく。

 

 だが、アラガミ達もただの的で終わる気はない様だ。

 

 二種類のアラガミが得意とするのは遠距離攻撃。

 ザイゴートの毒の弾とサリエルの光弾が分厚い弾幕を張りながらブレードを次第に追い詰める。

 

 上下左右縦横無尽に移動する事で攻撃を掻い潜り、その間際に敵を切り捨てるブレードだが、如何せん数に圧倒的な差があり過ぎた。

 

「くっ、やはりボルテッカを使わざるを得ないか!」

 ボルテッカは、威力、範囲共に高いテッカマンの必殺技だ。

 しかし、一度の変身で一発しか使用できない事から、使い場面は自然と限られてしまう。

 

 だが、彼に迷っている時間は無かった。

 こうしている間にも、アラガミの弾幕は激しさを増していく。

 

「せめて10秒……いや、5秒隙があれば!!」

『5秒10秒と言わず、1分くらいゆっくりさせてやるよDボゥイ!』

 

 ブレードの横合いから、ミサイルと砲撃の一斉射が轟いた。

 続く様に五体の銀河の天使達がアラガミの群れの中をかき乱すような滅茶苦茶な軌道を描いて戦場を暴れ回り始める。

 

「エンジェル隊か! しかし、君達の武器ではアラガミには対抗する事は……」

『例え攻撃できなくても、囮くらいこなしてみせるさ! 行くよ皆!!』

『うおおおおおお! 気張るのよ蘭花・フランボワーズ! 死ぬのが怖くて恋が出来るかァーッ!』

『キャー! そう言えば、自分の部屋の冷蔵庫にある卵を使い切るのを忘れてしまいました!!』

『ミルフィーユさん、流石にあの黒卵を見てそれを思い出すのはどうかと思いますよアババババババヴァニラさん! そんなチキンレースみたいな変態軌道しなくても良いんですよ!』

『当たらなければどうという事はない……』

『皆さんやる気十分みたいですけども、結構一杯一杯なので早めに対処して頂くと助かりますわーッ!』

 そんなエンジェル隊の動きが功を奏したのか、ブレード一体に集中砲火を浴びせていたアラガミ達の狙いが分散される。

 宣言通り1分程度の余裕がブレードにもたらされる。

 

「助かった! 後は任せろエンジェル隊!」

『お前ら最後の仕事だ! 敵さんをDボゥイの真ん前に案内してやりな!』

『『『『了解!!』』』』

 ペガスが変形し、ハイコート・ボルテッカの発射体勢が整うと同時、5機の紋章機達も直線軌道で射線上から退避する。

 

 ブレードが肩の装甲を展開すると同時、彼の前にフェルミオン粒子の球体が生成されていく。

 

「ハイコート! ボルッテッカアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 宇宙でエンジェル隊を取り込もうとした『黒い何か』を焼き払った時とは違う、全力のハイコート・ボルテッカが青い空を一直線に切り裂いた。

 ミサイルやレーザー攻撃では掠り傷一つ負わないアラガミの身体を、内部のコア事纏めて消滅させる。

 

「……やったか!?」

『アラガミの消失を確に……ッ! 待ってください! 一匹射線から逸れました! ブルーアース号に向かってきます!!』

「何!?」

 ミリーの叫びに反応し、自分の後方へと振り返るブレード。

 ボルテッカの一撃を免れた一匹のザイゴートが特攻も辞さない勢いでブルーアース号の方へと飛んでいく姿が眼に写された。

 

「アキ! 皆!!」

 残り一体とは言え、相手はアラガミだ。対抗手段のない宇宙船等、的に等しい。

 

「クラッシュイントゥルード……は、残りのエネルギー量では使えないか! ペガス!」

『ラーサ!』

 

 咄嗟の判断で、ペガスを高速移動形態へと変形させるブレード。

 しかし、距離を考えればアラガミがブルーアース号と接触する方が早い。

 

「クソッ! 何か手は……」

『おっと! まさかこの期に及んで俺の存在を忘れてるんじゃないだろうな、Dボゥイ!!』

 通信に割り込んできた声の主は、ノアルだった。

 

『スペースナイツにゃもう一人テッカマンが居る事を教えてやるぜ、この卵野郎!』

 

 呼応するようにブルーアース号の上部ハッチが開き、中から青と白のテッカマンが現れる。

 

 否、正確にはテッカマンではない。

 

 ラダムのテッカマンのデータを参考に作られた地球製テッカマン、『ソルテッカマン』だ。

 ソルテッカマンはバックパックに装備された射撃武器、フェルミオン砲を回転させ、砲身をザイゴートへと向けた。

 右腕部分に装着されていたレーザーライフルと合体させる事によりフェルミオン砲の展開は完了だ。

 それと同時、射撃用の特殊なバイザー付きヘッドパーツがソルテッカマンの頭部へと装着される。

『フェルミオン砲を食らいやがれ!』

 

 フェルミオンとは、テッカマンのボルテッカで使用される反物質『フェルミオン』を解析し、そのまま兵器に転用した物だ。

 廉価版なので一発の威力は本家には及ばないが、燃費を抑えた結果使用回数が確保された。

 だが、そんな廉価版とは言え、アラガミ一匹程度消し飛ばすのには十分すぎる威力を持っていた。

 

 反撃される事を考慮していなかったザイゴートは成す統べなくフェルミオン砲の光を浴びて消し飛んでしまう。

 

【3】

 

『助かったぞ、ノアル!』

『ヘッ、主役は最期に遅れて登場するものなのさ!』

「ノアルがまた調子に乗ってるわ……」

「しかし、助けられたのは事実だ。それよりアキ、極東支部からの救援は?」

「……現在軍用ヘリで第一部隊が急行中。10分後には合流可能だそうです」

「10分か……Dボゥイの方の『残り時間』は?」

「まだ20分以上ありますが、ボルテッカを使用したのでもう限界が近いかと」

「そうだな。後はノアルに任せて、一旦Dボゥイを下がらせよう」

 一通り支持を出し終えた所で、フリーマンは椅子の上で一度深く深呼吸する。だが、彼らに与えられた平穏はその一瞬のみだった。

 再び警報が船内に鳴り響く。

 

「チーフ! レーダーに新たな反応あり! 上空から多数接近中!!」

「上空!? まさかラダムか!?」

『こちらミント! わたくしの方のレーダーでも敵を感知! 後ろから黒い卵の御一行がやってきますわ!!』

『あーっ!! そう言えば今日は卵パックの特売日で『ミルフィーユはちょっと卵から離れなさいよ!!』

 

 目尻に涙を浮かべながら心の底からエンジェル隊の台所事情を心配するミルフィーユの言葉を蘭花が一刀両断する。

『お待ちくださいな! ラダムと思しき一団の中に、人型の生命体を一体確認致しましたわ!』

『見えた! 奴はテッカマンだ! 俺が叩く!!』

「待ってDボゥイ! 今の状態でテッカマンと戦うのは得策じゃないわ!」

『だが、テッカマンは俺でしか倒せない。いや、俺が倒さないといけないんだ!!』

 アキの叫びを聞いてもなお、ブレードは止まらずに通信を遮断。単身ラダムの群れへと向かっていく。

 

「仕方ありませんな……あー、エンジェル隊の皆さん。ここはDボゥイさんを援護してさ『今行くわDボゥイ様ァーッ!!』

『おい待て蘭花! くそっ、皆、あの脳筋を追いかけるよ!』

『おいおい、俺一人でアラガミとやり合うのか!? 少し数が多すぎるぜ!』

『なんだよ主役だって啖呵切った癖に情けない奴だねぇ……蘭花の援護はヴァニラとミルフィーユに任せる! ミントは私と一緒に死神とダンスだ!!』

『ちょっと待ってくださいフォルテさん! 何でわたくしがまた囮などあああああああああああああ勝手に操縦がオートにあああああああああ!?』

『ヴェハハハハ! こんな事もあろうかと、仕込んでたんですよオート機能!!』

『今だけは良くやったノーマッド!』

『後で腹ん中のワタ引きずり出してやりますから覚悟しておきなさいこの腐れぬいぐるみああああああああああああああああ!!』

「……」

「……ウォルコット中佐」

「いや、良いんです。ちょっと出しゃばって指揮官みたいな事をしようとした私がいけないんです。どうせ私は昼行灯で窓際族ですから……」

 

 窓から明後日の方向を見続けるウォルコット中佐に、フリーマンはこれ以上かける言葉を見つける事が出来なかった。

 

【4】

 

 上空からブルーアース号目掛けて降下する一団の中に紫色の円盤の様な生命体の上に立った深緑色のテッカマンの姿を見たとき、思わずテッカマンブレードはその名を口にした。

「テッカマンアックスか!」

「ハッハッハ、久しぶりだなブレード! いや、ここは敢えてタカ坊と呼んでやるかな!」

「貴様は俺の知るゴダードではない! その体を乗っ取った悪魔、ラダムだ!!」

「つれないなタカ坊! どれ、昔の様に稽古を着けてやろうじゃないか!」

「笑わせるな!」

「逆立ちしたってワシに勝てないお前との戦いなど、稽古と呼ぶのにふさわしいわ!!」

 ブレードのテックランサーと、アックスが持つテックランサーの切っ先が激突する。

 アックスの持つテックランサーは先端に斧の様な半月の刃が備わっており、アックスは槍というより斧を振り回す様にブレードの攻撃を逸らしていく。

 

「ダガーを倒した程度で調子に乗っているようだが、今のお前はまだまだ半人前よ!」

「いつまで師匠面するつもりだ!」

「師匠らしく『お前が俺を倒すまで』とでも言ってるみるか!?」

 

 アックスの言葉に逆上してテックランサーを乱暴に振り回すブレードだが、どこから攻撃しても綺麗に捌かれ、反撃を許してしまう。

 師匠を称するのは伊達では無く、アックスはブレードの、Dボゥイの戦う時の動きの『癖』を完璧に把握していたのだ。

 

「ボルテッカが使えない今のお前なら潰すのは容易だからな。『特異点』探しの邪魔だけはさせんぞブレード!」

「『特異点』だと? ミユキはもしかしてそれを追って……?」

「ほぅ、テッカマンレイピアもここに居るのか! これはますますこの先に通せなくなってしまったな!」

「しまっ……!?」

 その時だ。

 赤と白の紋章機、蘭花の乗るカンフーファイターが二人のテッカマンの間を引き裂く様にして飛び込んできた。

 

「ヌゥ!?」

『相手が疲れている所を狙ってくる卑怯者が図々しく師匠なんて名乗るんじゃないわよ!』

 アンカーアームの先をそのままテッカマンアックスにぶつけ、円盤生命体の上から彼を殴り落とす蘭花。

 紋章機のパイロットである以前に一人の格闘家である彼女の拳を感じ取ったアックスは笑いながら、

 

「拳の付いた戦闘機とは中々面白い! だが今のワシはラダムのテッカマン。勝つ為なら己の格闘家としての矜持も棄ててみせるわ!!」

 一人の格闘家である以前にテッカマンだった彼はアンカーを根元からテックランサーで切り落とし、いとも容易く窮地から脱して見せた。

 再び円盤生命体の上に陣取り、態々落下していくアンカーアームを見ながら余裕の態度をブレード達に見せつける。

 

「女の手を借りてもこれかタカ坊! 正直見損なったぞ!」

「くそっ!」

『大丈夫ですかドリームボゥイさん!』

『デンジャラスですよミルフィーユさん!!』

 ミルフィーユとヴァニラ(喋っているのはノーマッドだが)も合流するも、アックスは以前余裕の体勢を変えなかった。

 

「ラダム獣よ、あの戦闘機の動きを止めておけ! ブレードにはワシが直接引導を渡してやる!」

「キシャアアアア!!」

 奇声を上げながら突撃するするラダム獣の群れと、それを先導するアックスに対抗するべく、ブレードとミルフィーユ達は少ない時間で迎撃準備を整える。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。