新約:とある戦士達の黙示録   作:一条和馬

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第7話『宙を舞う神機使い』

【1】

 

 一方その頃、ブルーアース号を護衛していたノアル、フォルテ、ミントもまた苦戦を強いられていた。

 

『おいノアル! 攻撃の頻度が落ちてるよ! まさかサボってんじゃないでしょうね!?』

『うるせぇ残弾気にして慎重になってんだよ! クソッ、ちょこまか動く上に数に限りがねぇ!』

『あぁもう、腹いせに攻撃してもヒビ一つ入らないなんて、なんて憎たらしい卵でしょう! はっ! まさか、この前ミルフィーユさんとショッピングに行った時にコーナー一角の棚ごと割った卵達の怨念がわたくしを執拗に追いかけてきているのでは……?』

 やけくそになったミントは他の事を気にできる程度の余裕を見せてはいたものの、緊迫した状況は脱せてはいなかった。

 

「第一部隊到着まであと5分です!」

「それまで持ち堪えられるのか……?」

「これはもしかして、悠長に構えていられなくなるのも時間の問題ですかね……?」

 焦りが滲み始めたフリーマンとウォルコット中佐の後ろの席で沈黙を守っていた『彼女』が、遂に動き出す。

「支部長。ここは私が出ます」

 

 彼女、アリサ・イリーニチナ・アミエーラは横に置いてあった巨大なケースを片手で軽々と持ち上げ、座席から立ち上がった。

「君はまだ訓練生上がりだろう? それに、空中戦を想定した特殊な訓練など受けていない筈だが」

「例えどんな戦場であっても、アラガミと戦うのはゴッドイーターの役目です。出撃の許可を」

「許可も何も、君はまだ極東支部の人間ではない。向うで正式な手続きを済ませるまで、私に君への命令権は存在しないよ」

「それでは、自己の判断で向かわせていただきます」

 一人ブルーアース号後部の格納庫に向かいながら、アリサは厳重にロックされていたケースを開いた。

 

 現れたのは、青い刀身の神機だ。

 片刃のロングブレードに、ガトリング砲デザインのアサルト、青い円盾のセットが、彼女の扱う神機だった。

 

 訓練が始まった頃からの相棒を携えて、上部ハッチへと至る昇降機に乗るアリサ。

『上部ハッチ開放します! アリサさん、ご武運を!』

「……」

 ミリーの言葉を聞きながら、アリサは目を閉じた。

 

 

 自身の内面世界に入り、記憶を反芻する。

 

 

 憎き敵、アラガミ。

 

 

 その姿を、思い出す。

 

 

 あの、あの憎き『黒いアラガミ』を倒すまで、自分は死ねない。

 

 

 ハッチが開き、アリサの身体を強風が襲い始めると同時、目を開く。

 

 

 もう、あの頃の弱かった自分はいない。

 

 

 パパとママと死なせてしまった自分はいない。

 

 

 手にした神機の重さを全身で感じながら、アリサは一歩、前へと踏み出した。

 

 

 

「ん? おい! いくらゴッドイーターって言っても、こんな空の上じゃ……」

「その話題は先程終わりましたので」

 ソルテッカマンに入るノアルの言葉を軽く遮りながら、アリサは神機を銃形態へと変形させながら跳躍する。

 

「ッ!」

 直後、ドガガガガガガガガガガガガガガガガガ!! と神機の銃口から轟音が鳴り響き、数多のオラクルの弾丸が射出される。

 神機は言わば、武器の形をした『アラガミ』だ。

 当然、どの攻撃も程度の差こそあれ、アラガミには有効だ。そんな死の弾丸を、アリサは容赦なく空中にバラ撒いたのだ。

 

『おいヤバッ……! 避けろミント!』

『えっ? きゃあああ!?』

 放たれたオラクル弾の一発がミントの乗るトリックマスターを掠める。

 掠めた弾丸は速度を落とす事無く、死角から襲おうとしていたザイゴートを仕留めていた。他の弾もほぼ直撃か悪くても至近弾だ。実質全弾命中と言っても差し支えないだろう。

 

『ちょっ、危ないじゃありませんか! もう少し違った方法を取って頂いても良かったのではありま

「いえ、良い位置です」

 激昂するミントの言葉を遮り、空中で自由落下していたアリサはフォルテの乗るハッピートリガーの上に飛び乗る。

 反動をそのままバネにして大空へと舞い戻っていく。

 

『私を踏み台にしたぁ!?』

 フォルテの叫びをバックに、神機を近接形態へ変形させる。

 近くにいたサリエルを切り捨て、返す刀でザイゴートを二体巻き込んで三枚おろしにしてしまう。

 しかし、アリサは新型とは言えただのゴッドイーター。テッカマンや紋章機の様な飛行能力は存在しない。

 だが彼女の目には諦めの表情など一切なかった。ただ冷めた目で憎き怨敵の親類を見据えるだけだった。

 

 それを隙だと勘違いした一体のサリエルが奇声を上げながら特攻してくる。

 だが、それこそ彼女の待ち望んだチャンスでもあった。直後、神機から伸びた巨大な『牙』がサリエルに喰らい付く。

 

 

 捕食形態(プレデターフォーム)

 

 

 本来ならアラガミから素材やコアを回収する為の形態だ。

 しかし、アリサはそれでサリエルを『掴み』、まるで空中ブランコにでも乗っているかの様な華麗な動きで高度を上げた。

 回転の支点となったサリエルは神機の咢によって食い破られ、そのまま下へと落下していく。

 

「これで……ッ!」

 刃を上段に構え、勢いよく振り下ろす。当然、足を付ける地面がないので踏ん張って力を溜める事は出来ないが、アリサは逆に地面がない事を逆手に取り、そのままコマの様に縦に回転を開始。

 そのまま眼下にいたアラガミの残党を一掃したのだ。

 

「終わりました。楽勝ですね」

「……すげぇ」

 ブルーアース号の上に綺麗に着地する所までを見て、援護射撃を忘れて見とれていたノアルがつい感嘆の声をあげてしまう。

 

『あー、こちら極東支部所属ゴッドイーター第一部隊、隊長の雨宮リンドウ少尉であります。只今そちらを目視で確認。で、アラガミが全滅しているようですが、とりあえず合流します』

「……」

 なんか適当な調子の男の声が通信で流れてくると、呼応するようにフェンリルが使用する黒いヘリコプターがブルーアース号へと接近していた。

 

 ヘリの扉は開かれており、そこから赤黒い神機を持った男と、その横でドアに必死にしがみついている眼鏡の少女が全力で何かを叫んでいた。

 アリサからは何を言っているか分からないが、辛うじて悲鳴を挙げていそうな口の動きをしている。

 

「おい……おい!」

「……!」

 何やら視界がぐらつくと思ったら、ソルテッカマンことノアルに肩を掴まれて上半身を揺さぶられていた。

 

「私が、何か?」

「何かじゃねぇよ! 『味方に向かって』撃つなんて、正気とは思えないぜ!?」

「え……?」

 

 ノアルに指摘され、自身の手元を確認するアリサ。

 そこにはいつの間にか銃形態に変形していた神機の銃口がヘリへと向けられており、何発かオラクル弾を発射した形跡が確かに残っていた。

 

「何で……?」

 神機を変形させながら、アリサは困惑してしまう。

 

 何故だろう? 『居る筈のない』怨敵の姿が一瞬映った様な気がしたのだが、とまで考えて、アリサは首を横に振る。

 

 

「……一つ、良いですか?」

「なんだ?」

 意識を切り替える為にも、アリサは近くにいたノアルに話しかけ始める。

 

「噂のスペースナイツやギャラクシーエンジェル隊って、意外と大したことないんですね」

「おまっ、最後に出て来て美味しい所全部持って行った奴の台詞かよ!」

『人を踏み台にするわ、味方に誤射するような奴に言われたかないねぇ!!』

『全くですわ! 貴女これからデンジャラスガール決定ですわ!!』

「事実を言っているだけです。それと、変な名前付けないで下さい。ドン引きです」

「畜生、最初に俺達に会った頃のDボゥイより酷いな、お前!!」

 

 

 

 

【2】

 

 

 

「やれやれ、まさかあんな隠し玉が用意されていたとはな。増援も来てしまった様だし、タカ坊、本日の稽古はここまでとするか!」

「逃げるのか、アックス!」

「見逃してやる、と言っているのだよバカ弟子め! 正直癪だが、何、折を見てレイピア共々地獄へ葬ってやるさ!」

 劣勢側に立たされていたにも関わらず、全く余裕を崩さなかったテッカマンアックスはラダム獣を囮に使い、その場を去ってしまう。

 

「くそっ!」

 

 残った敵をミルフィーユ達と共に蹴散らしたブレード。

 だが、今の彼には遥か彼方のオービタルリングに戻ったアックスを追いかける力も『時間』も残されてはいなかった。

 

 しかし、と呟きながら、ブレードはブルーアース号の方へと視線を向ける。

 丁度、援軍だったヘリが合流を果たしている最中だった。

 

「『新型』となると、ここまで違いが出るものなのか……?」

 知古の神機使い達の顔と彼らとの戦いの日々をを思い浮かべながら、ブレードはミルフィーユ達と共にブルーアース号へと戻っていった……。

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