新約:とある戦士達の黙示録   作:一条和馬

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崩れた街のアミタ(2)

「……して、彼奴らは何者だ?」

 

 銀髪の少女は、先端が槍の様になっている杖を取り出し、フローリアン姉妹に向けた。先程彼女らに向かって投げられた黒い光の槍と同じものが無数に銀髪の少女の周囲に現れ始める。

 

「この二人は僕が怪獣に襲われていた所を助けてくれた良い奴なんだよ!」

「……なんだと? 本当か?」

 

 未だ怪訝そうな顔をしていた銀髪の少女がアミタ達に問いかける。

 

「はい。ほとんど成り行きだったのですが……」

「そうか。知らぬ事とはいえ、臣下を救った者に何も言わず手をかけようとした早計さには謝罪をせねばならんな」

 

 黒い光の槍を消し、向けていた杖の切っ先もアミタ達から離す銀髪の少女。

「我が名はディアーチェ。絶対にして無敵の闇の化身、ロード・オブ・ディアーチェよ!」

「レヴィと同じく、ディアーチェの臣下をしています、シュテルと申します。この度はレヴィを助けて頂きありがとうございました」

 

 よく聞いたら王を名乗ったディアーチェは自己紹介しかしていないのだが、そのはすかさず割って入った茶髪の少女、シュテルが補佐に入る。王と臣下の関係というのは、冗談や遊びの類ではない様だった。

 

「ねーねー王様。こっちのピンク髪の妹の方がさー、僕達の仲間になりたいんだって」

「は?」

 

 キリエを指さしながらそう話すレヴィの言葉に、ディアーチェは素っ頓狂な声を上げてしまう。

 

「我らの仲間に、だと?」

「はい~。遠路はるばる、王様達に仕える為にやって来たキリエ・フローリアンと言います。こちらは、お友達のイリスです」

『実体がないのでこの様な姿ですけど、よろしくお願いしますね』

 

 イリスの映った石版を持ちながらペコリ、と頭を下げるキリエ。

「む、その石版の女……どこかで見た事がある様な……」

『……初めてお会いした筈ですけど?』

「ディアーチェ、大昔の霞んでしまった記憶の中に、似た様な顔の人物がいたのかも知れませんよ」

「他人の空似か。まぁ、大方そんな所であろうな」

 

 シュテルの言葉に納得し、ふと思い浮かんだ疑問を思考の彼方に消し飛ばしたディアーチェは、とりあえず、と前置きを置いてキリエの方へと視線を戻す。

 

「レヴィを救ってくれた恩義もある。一応、話くらいは聞いてやろう」

「ありがとうね、王様!」

 

 レヴィの時と同じく頭を撫でようとするキリエだが、ひと撫でした所で異様に警戒されて後方へと下がるディアーチェ。

 

「なんだか馴れ馴れしい奴だな! 王ぞ? 我、王ぞ? 頭が高いわ!!」

「あっ、ごめんなさい。こういうの嫌いだったかしら?」

 

 まるで警戒する猫の如くフーッ! っと喉を鳴らしながら杖を構えるディアーチェの姿からは、あまり闇の王としての威厳は感じられなかった。

 

 

 

「しかし、ディアーチェ。彼女らの異世界からの渡航者が現れたという事は、この世界に張った『結界』の効果が切れたと見て間違いないでしょう」

「……うむ、時は熟したと見るべきだろうな」

(時は熟した……?)

 

 ディアーチェの言葉に首をかしげるアミタ。それに気が付いたディアーチェは、ニヤリ、と悪い顔をして反応して見せた。

 

「失われた我らの力も十二分に取り戻すことが出来た。異界との繋がりが復帰した今こそ、永遠結晶と共に全世界を闇と混沌へと叩き落とす時が来たのだ!!」

「永遠結晶!?」

 

 それは、キリエがエルトリアを出る時に口にしていた言葉だ。

 キリエが「糸口を見つけた」と言ったのは、恐らくディアーチェらが永遠結晶と関わりのある人物である事を見抜いたからだろう。

 

「貴様、永遠結晶の事を知っているのか?」

「い、いえ。名前を少し聞いた程度で……」

 

 無用な混乱を避ける為、アミタは限りなく正直に答えた。「キリエがそれを奪う為に来たのを阻止しに来ました」なんて言おうものなら、あの三人に何をされるか分かったものではないからだ。

 先程のラダム獣と戦っている時にレヴィの戦闘能力を推し量っていたが、恐らくアミタとキリエの二人がかりでも勝てるか怪しい相手だろう。それが純粋に三人に増えたと思うと、人数的にも力量的にも勝ち目はない筈だ。

 

「そうか。貴様等なら消えた永遠結晶の在処を知っていると思ったが、流石にそんな出来過ぎた話は無かったか……」

『そんな……ッ!?』

「永遠結晶が無いって、本当なの!?」

 

 ディアーチェの言葉に異様に反応したのはキリエとイリスだった。

 

「言葉に語弊があった。正確には『盗まれた』だ。我らが異星人と破壊神共にじゃれつかれている間に、まんまと住処を荒らされてしまってな」

「あの場所、遊ぶ所が沢山あって結構好きだったんだけどなぁー」

「我々は賊を探すと共に、新たな居住地を探して旅をしていたのです」

『犯人に心当たりはないの!?』

「妙にがっつく奴だな……少なくとも、この世界の住民ではない。次元を渡る力を持つ箱舟に乗った連中だ。恐らく、忌々しい小鴉か、その仲間と言った所だろうな……」

「タカマチナノハが名乗っていましたね。『時空管理局』という名だった気がします」

 

『じゃあまずは、その時空管理局の人達を探すお手伝いをすれば良い訳ね?』

「だが、まだ完全に貴様を信用したのではない事を忘れるなよ」

『大丈夫よ。ね、キリエ』

「炊事洗濯から戦闘まで、お手の物よん♪」

「それは大変助かります」

「うむ、家事分担が楽になるのはありがたい話だな!」

 戦闘要員というより炊事洗濯要員の追加に大いに喜ぶシュテルとディアーチェ。

 

「と、いう訳でごめんねアミタ。何度止められたって、私は私の目的の為に行くから」

「待ちなさいキリエ! そんな簡単に許すと思って……!?」

 

 ディアーチェ達と共に飛び去ろうとしたキリエを止めようとしたアミタだが、彼女の身体を幾重もの赤い光の縄が締め付け、その場に拘束してしまう。

「これは……ッ!?」

「私の拘束魔法です。簡単には破れませんよ?」

「へー、こんな事も出来るんだ。シュテルって器用なのねぇ」

「えっへん。自慢の技の一つです」

「これに捕まると、僕でも中々抜け出せないんだよね。赤髪、強く生きるんだぞ!」

 

 シュテルは一度自信ありげに胸を張ると、後ろで元気に手を振っていたレヴィ達と合流し、その場を去ってしまう。

 

 

「くっ……このままキリエを見逃してしまったら、時間が……ッ!」

 

 立ちあがる事も出来ないままに身を捩るアミタだが、シュテルが「自慢の魔法」と豪語していただけあるその拘束は全く振りほどける気配がなかった。

 

「こうなれば、アレをするしか無いようですね……」

 

 そう小さく呟いたアミタは一度だけ目を閉じて深呼吸をしたのち、力強く目を見開いた。するとそのグリーンの瞳に、エルトリアで使用されている文字の羅列が浮かび上がった。

 

 アミタとキリエは体内に特殊なナノマシンを内包しており、そのナノマシンの力で能力を解析、物にもよるが、解除や無効にする事も可能なのだ。

 

 動きが制限された状態で、しかも自分とは異なる世界の全く違う技術。

 その基礎構造から解析している事もあり、法則性を理解するのには数十分ほどの時間を要してしまう。だが、それさえ済めば、後は数分も必要なかった。

 

「解析……完了! 術式解除!!」

 

 シュテルの拘束魔法を引きちぎる様に解除したアミタは、靴底に仕込まれた小さなブースターの力によって空中へと飛翔。荒野の上空に滞空する。

 

「流石に見失ってしまいましたか……」

 

 しかし、と続けながらアミタは眼下に広がる荒野に目を向けた。

 文明の跡と思われる建造物の名残などが転々と見受けられるが、そのどれもが残骸同然な上に、まるで虫に食われた様な穴が幾つも空いている。

 

「この星も、エルトリアと同じ様に死に直面している様ですね……おや?」

 

 ふと、視界の隅に建造物らしきものを発見するアミタ。大型の建物を中心に住宅等が広がり、外側を壁で円形に覆った街らしき場所だ。

 

 おそらく、外敵から身を守る為に作られたものなのだろう。あの様な壁で宇宙から飛来するラダム獣を追い払えるとは思えない事から、もしかしたらラダムが来る以前から存在するものなのかも知れない。

 

 存在する、と言えば。と今度は空の先、地平の彼方へと視線を向ける。アミタがいる場所より遥かに上空の場所に、巨大な人工物らしき物が地上に沿ってアーチを描いていていた。

今のアミタには知る由もないのだが、それはこの星をぐるっと囲むように建造されたリング状の建造物であったのだ。

 

「ともかく、現地の人に見られても厄介なので、あの場所には近付かない方が良いですね……」

 

 そこで長時間飛んでいると誰かに見られることに気が付いたアミタは一度下に降りて今後の対策を練ろうとした、その時だ。

 

「キャー!!」

「!」

 

 アミタのすぐ近くから少女の物と思われる悲鳴が聞こえた。

 丁度建物の残骸で死角になっている場所だ。

 

「誰かが襲われている!? でも……」

 先程妹に「他の世界への干渉は云々」と言ってしまった手前、自分が率先して破って良いのかその話。と考えるアミタ。

 

 しかし、身体は先に動いていた。

 アミタの思考は次第に単純化し「とりあえず助けてから考えよう」となった所で固定される。困っている人がいたらつい助けてしまう、それが彼女なのだ。

「どこに行っちゃったのセツナ! (くちなし)―!!」

 

 悲鳴の主は、ピンク色の髪の小さな少女だった。頭の後ろの黄色いリボンを揺らしながら、熊の様な茶色のぬいぐるみを大事そうに抱えた少女は、四足歩行の獅子の様な怪物に追い回されていた。

 その体躯は大型車両並みに巨大で、冠や兜に見える突起が頭の上に存在し、首筋からは薄い縦長の器官が数枚、まるでマントの様に風になびいて揺れていた。

 知り合いらしき人間の名前を呼びながら逃げ回る少女を、怪物は容赦なく壁際まで追い詰める。

「このままじゃあの子が!」

 

 最早考えている時間すら惜しいと思ったアミタは、体内のナノマシンに緊急救助用の加速機動『アクセラレイター』発動の指示を出す。

 すると呼応するようにアミタの身体が発光を始め、特に毛先が淡く光を発し始める。正常に稼働し、放熱機能が働いている証拠だった。

 

「アクセラレイターッ!」

 

 まるで弾丸の様にその場か急加速したアミタは、少女の元へと向かう。しかし、少女は既に怪物と目と鼻の先にいた。このまま割り込んで救助するにしてもリスクが高過ぎる事を察したアミタは身に纏った運動エネルギーをそのまま攻撃に転用する事にした。

 

それ即ち、突撃だ。

 

「てやーっ!!」

「!?」

 

 相手が認識した頃には既にアミタはその懐にまで接近し、自分の何倍も体積のある怪物の横腹に突き刺さる様に特攻した。

「ギャアアア!?」

 驚きの様な悲鳴と共に怪物は横へと吹き飛び、ビル跡らしき廃墟へと吹き飛ぶ。

 

 その衝撃で瓦礫が崩れ、その全てが怪物へと覆いかぶさっていく。

 

「お、お姉ちゃん誰……?」

「ただの通りすがりのお姉ちゃんです! とりあえず、ここから離れますよ!」

 

 アクセラレイターは緊急救助用、という名だけあって常時展開できるものではない。稼働時間の間に少女を出来るだけ遠くへ移動させようと、ぬいぐるみを離そうとしない少女を抱きかかえて離脱しようとする。

 

 しかし、

 

「おっ、重い!?」

 見た目以上に重量があった為に離陸に失敗し、少女を軸に回転するアミタ。

 そのまま背中から地面に叩き落ちてしまう。

 

「いたたたた……どうやら、時間切れみたいですね……」

 

 アクセラレイター発動に身体にかかる莫大な負担を気合と根性で抑え、よろよろと立ち上がるアミタ。

 そんな彼女の元に、襲われていた少女が心配そうに傍に駆け寄った。

 

「助けてくれてありがとう! その、大丈夫?」

「ちょっと体は痺れてますけど、大丈夫です。お姉ちゃん、見た目以上に頑丈ですから」

 

 長剣を杖代わりに立ちあがるアミタはガクガクと震える足を叩いて活を入れながら、少女に向かって満面の笑みを向けた。

 安心したのか、少女も負けない様な笑顔を見せる。

 

「私、未央(みお)! あの、お姉ちゃんってもしかして、ゴッドイーター?」

「ゴッド……? なんですか、それ?」

「ゴッドイーターじゃないの? じゃあ、ニードレス? 超能力者?」

「? ???」

 

 未央と名乗った少女の質問に困惑するアミタ。

 神を喰らう者、不要者。とは翻訳機の何かの間違いである可能性も捨てきれないが、超能力者、という単語ははっきり聞き取ることに成功した。何のことかさっぱりわからないアミタだが、未央の方はかなり重要な質問をしているようで、その眼差しは真剣そのものだった。

 

「一身上の都合で言えないのですが、少なくともそのどれでもないですよ」

「え、じゃあどうやってアラガミに攻撃を……?」

「アラガミ?」

 

 先程未央を襲っていた怪物の事だろうか?

 疑問に思ったその時だ。

 瓦礫の下敷きになったはずの怪物が動き出し、怒りに歪ませたその顔をアミタ達の元へと向ける。

「あれで無傷!?」

 咄嗟に未央の前に立ち、剣を分離。

 二丁拳銃に変形させ、銃口をアラガミと呼ばれた怪物へと向けるアミタ。

「安心してください未央さん。貴女は、私が守ります!!」

 

 ここまで来て見過ごすわけにはいかない。

 すいません原生生物さん、と心の中で謝罪しながら、トリガーにかけた指に力を込めた。

「バルカンレイド、ファイア!」

 

 銃口から光の弾丸が六発交互に放たれ、その全てがアラガミの眉間目掛けて飛んでいく。

 だが、アラガミの方は避けるそぶりすら見せずに全てを受け、痛み所か痒みすら感じていないと言わんばかりに余裕の表情を見せつけていた。

「効かない!?」

 

 追撃をかける様に光の弾を打ち続けるアミタだが、アラガミは一歩、また一歩とその距離を縮めていく。

 

「くっ、せめて、せめて解析が出来れば……!」

 

 ここにきてラダム獣との戦闘の疲労にも苛まれ、膝をつくアミタだったが、まだ諦めてはいなかった。

 キリエと共に帰るという目的があったからでもあるが、今は自分の後ろで怯えている未央を護ると決めたのだ。それに、今の身体だと逃げるという選択肢はそもそも存在しなかった。未央を助けるという選択を後悔しない為にも、アミタは残る力を振り絞り、アラガミに対峙する。

 

「……あれ?」

 満身創痍で意識を保つ事ばかりに集中していたアミタの後ろで、未央が疑問の声をあげた。

 その声は彼女にも聞こえたが、最早返答する余力もない状態だった。代わりに、未央の言葉に耳を傾ける。

「アラガミが、怯えている……?」

 

 未央のそんな言葉と、アミタらの後ろから人影がすっと現れたのは、ほぼ同時だった。

 

 

「得物を前に余裕かまして舌なめずり、って奴か? 獣の癖に随分と余裕じゃねぇか」

 

 影の正体はアミタより背の高い男だった。

 

 オレンジ色の短髪に、肩にトゲが付いた白い特攻服を羽織っており、その後ろには「夜露死苦」という文字が書かれているのだが、その言葉の意味と読み方はアミタには理解出来なかった。

 アラガミはこの男に反応していたのだろう、視線がアミタと未央から男へと移される。

 

 

 対して男の方はタバコを咥えながらゆっくりと前へと進み続ける。アミタが瞬きをしたその一瞬で、男の咥えていたタバコに火が灯される。

「丁度むしゃくしゃしてたんだ。テメェで憂さ晴らししてやるぜ!」

 

 男の叫びと共に、周囲の温度が一気に上昇した事を肌で感じるアミタ。

 まるで炎を纏ったように。

 否、本当に炎を纏った男が、その炎を右拳へと集中させる。

「喰らいやがれ! 炎の拳、リトルボーイ!!」

 

「うっ……」

「お姉ちゃん!?」

 体力の限界でその場に倒れたアミタが最後に見たのは、心配そうに駆け寄って自分を抱きかかえる未央と、今まで全く傷を負わなかったアラガミが男の炎を纏った拳を受けて、悲鳴を上げながら倒れる光景だった。

 

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