新約:とある戦士達の黙示録   作:一条和馬

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第8『旧友たちの邂逅』

【1】

 

―『第97管理外世界地球』フェンリル極東支部『アナグラ』内部―

 

 本日のお仕事。

 日本海上空で襲撃を受けたシックザール支部長、及び新たに仲間になる方々の救出。

 

 しかし、肩口までで揃えられた黒髪を持つ男物眼鏡の少女、有栖レナはやった事と言えばヘリコプターの中で高さと揺れで震え、挙句味方に『誤射』されて半分泣きながら絶叫しただけだった。

 

 これでは何をしに行ったかさっぱり分からないというものだ。

「あー、この仕事向いてないのかなぁ……」

 そんな彼女は現在、神機格納庫の端で体育座りをしながら缶ジュース片手に黄昏れている最中だった。

 噂では新しい人の内一人は自分と同じ『新型』で、尚且つ初戦で華麗に空を飛んだり跳ねたりしていたそうだ。それに比べて自分のこれまでの戦いをといえば?

 

 初戦で人のいる教会の屋根をブチ抜いて落下。

 

 先輩の死に動揺して神機を空振り。

 

「……はぁ」

 思い返すだけで憂鬱にもなろうというものだ。

 

 ぐい、っと缶ジュースに口を付けて傾けるレナ。

 柄も見ないで適当に選んだものだが、正直外れだった。一気に飲み干し空き缶をゴミ箱に放り棄てた後、再び同じポジションでブツブツと呟き始める。

 

「こんな所で何してるの、レナ?」

 ボーっとしていたレナを見かねて声をかけてきたのは、上はシャツ一枚に作業ズボンを穿いた、全身煤だらけの少女だった。

 神機の整備を担当している(くすのき)リッカだ。

 

「リッカこそ、何してるのさ?」

「何って、ここは私の戦場だよ?」

「そっかー。ここにも私の居場所はないのか……」

「何ナイーブになってんの?」

 歳が近いという事もあり、二人は出会ってすぐ仲良くなっていた。

 元々友人が少ないのと、リッカが技術班所属で友達が少ない所で変な意気投合の仕方をしたらしい。

 

 リッカが自分の隣に座ったのを確認してから、レナは口を開いた。

 

「いやぁ。新しくやって来た賑やかな人達の中に、一人神機使いが居たじゃない? あの人の華々しい戦果を聞いて、私なんて足元にも及ばないなぁって」

「あぁ。そんな事」

「リッカには分かんないよ私の気持ちなんてさー」

「いや、解るよ。沢山の神機使い達を見てきたから」

 ちょっとこっち来て。

 とリッカに腕を掴まれながらレナが連れていかれたのは、普段は整備班くらいしか入らない彼らの戦場、神機の工房だった。

 

 壁際に均等に配置された作業台にはまさに現在修理中の神機が並べられており、リッカはその内の一台を指し示す。

「ほら、これ……彼女、例のアリサって女の子の神機なんだけど」

「この『ガラクタ』が?」

 頭をポリポリ掻きながら、レナは顔をしかめた。

 

 今彼女の目の前にあったのは、辛うじて元が神機である事が解る程度の残骸だった。

 刃は欠け、銃身は折れ、至る所に凹みが生じている。

 

「高々度での高速変形や、捕喰形態で敵を『掴む』攻撃。本来想定されていない無茶な使い方をし過ぎたみたいなんだよね」

「そんな使い方思いつかないよ普通」

「そう。私達も『思いつかなかった』。だからこそ、それに対応する調整をしようとも思っていなかったんだ。まぁ、これは『新型』だからこそと言えるね。なんたってウチの支部にもレナ一人しかいない様なレア物なんだから」

「私ってそんな貴重だったんだ……でもでも、そのアリサ? なら私よりもずっと上手く使いこなせるんじゃ……」

「いや、ダメだよ。私から言わせてもらうと、レナの足元にも及ばない」

 え? という素っ頓狂な声を上げるレナ。

 気にせずリッカは続ける。

 

「あの子、神機を全く大事に扱ってないんだよ。確かに、神機は人じゃない。アラガミを倒す『兵器』だって事は重々承知してる。でもね、ゴッドイーターって、チーム戦が基本だけど、たった一人で任務に赴く事だって少なくないんだ。そんな時、たった一人で戦うゴッドイーターを支えてくれているのが神機、この子達なんだよ」

「……そっか。こいつらも『仲間』なんだよね」

「そう。レナの場合はまだまだだけど、神機を大切に、でも性能限界まで引き出そうとしているのは解るんだ。だから、ただの道具としか思ってない使い方をするアリサとは雲泥の差があるんだよ」

「え? 私の使い方までわかるの!?」

「当然。レナの優しさが神機にも伝わって、私達に教えてくれるんだよ」

 リッカのその言葉に感銘を受けたレナは、思わず自分の視界が霞んでいる事に気が付いた。

 それが涙と分かるや否や、リッカに抱き着き頬ずりを始めてしまう。

 

「ちょ、ちょっとレナ!?」

「ありがどうリッガァ……わだじ、がんばるぅ……」

「分かったからちょっと離れて! 鼻水! 鼻水が顔に!!」

「ずぴー……ッ」

 女の子らしからぬ間抜け顔で鼻水を拭うレナを、リッカはため息交じりに見守る。これでは友人というより姉妹だ。

 

 甘えん坊の妹レナは「そうだ」と呟き、しっかり者の姉リッカに新しい話題を振る。

「ならさ、神機にも名前付けてあげようかな」

「おっ、良いね。きっと喜ぶよ」

「そうだなぁ……」

 うーん、と唸りながら記憶の中にある、良さげなワードを検索するレナ。

「……『残虐行為手当』とかどう?」

「いや、意味分からないし。どこをどう思考したらそんな単語創造するのさ!?」

 間髪入れず却下された。

「じゃあ、『油揚げ定食』?」

「何も妥協出来てない!」

 自分で言っておいてなんだが、何ともしっくりこない単語ばかりであった。何というか、聞く分には問題ないが、自分の口から出すのには抵抗がある感じだ。

「えーっと、じゃあ……『護業』とかどうかな?」

「ごぎょう?」

「そ。護る業と書いて護業。なんか色んな武器がある所とかベストマッチな感じだよね!!」

「レナが何の電波拾ったか知らないけどさ、まぁ、さっきのナントカ手当とかナントカ定食よりは断然良いと思うよ、うん」

「よーし、心機一転。頑張るぞ、護業ちゃん!!」

「……一つ得た事と言えば、レナにはネーミングセンスが皆無だという事だね。これだと将来のお子さんの名前とか大変なの付けそう」

「むー。じゃあその時はリッカに付けてもらう!」

「ちょっ、何で私なの!? だ、旦那さんに頼めば良いんじゃ……」

「じゃあリッカが今から私の旦那さんだ!!」

「待って」

 

 

 自分でも滅茶苦茶な事を言っていた事にレナが気が付いたのは、いつの間にか部屋で寝ていた彼女が、飲んでいた缶ジュースの成分表に『アルコール度数15%』と表記されている事に気が付いた後だった。

(※本作品はフィクションです。お酒タバコは二十歳になってから!)

 

 

 

 

【2】

 

 レナがリッカとイチャイチャしていたその頃、アナグラの作戦会議室に集まったヨハン、ペイラー・(さかき)、フリーマン、Dボゥイ、ウォルコット中佐、ノーマッドの5人(+ぬいぐるみ)は巨大な机を囲んでいた。

 しかし、これからは始まるのは親睦会を兼ねたパーティーではなく、今後の方針を決める大事な会議だった。

 

「では、これより我々フェンリルと、スペースナイツ、ギャラクシーエンジェル隊による合同会議を開始したいと思う。榊博士、現在極東支部が置かれている状況を彼らに解説して欲しい」

「解ったよ、ヨハン」

 榊博士と呼ばれた丸眼鏡の男性、ペイラー・榊が席から立ちあがる。

 

「……榊博士。気持ちはわかるが、一応仕事中だ。公私混同は控えてくれ」

「あぁ、済まない。僕とヨハ……シックザール支部長とフリーマンチーフは知古の間柄でね。つい昔を思い出してしまって」

 改めて、とペイラーは会議室に集まった一同を見渡し、口を開き始めた。

 

「フェンリル極東支部技術部門主任、ペイラー・榊です。今後とも、よろしく。さて、挨拶が済んだ所で本題に入ろうか。まずはこちらの世界地図を見ながら話を進めていこうと思う。この画像は既に本部を通して全支部へと送信された『ここ数か月のラダム出現パターン』の分布図だ。既にご存知の通り、ここ、極東を始めとしたアジア大陸周辺での目撃情報が頻発している。スペースナイツを要するテキサス支部の様に空中、果ては宇宙での積極的な活動が出来ない我々では、降下してきたラダムに対し、後出しでゴッドイーターやフェンリルギルドのメンバーを送らざるを得ない状況だ。この状況を打破する為にヨハンが四方八方に手を尽くしてスペースナイツを呼んできてくれた訳だね。しかも、ギャラクシーエンジェル隊という、嬉しい誤算付きで、ね」

「呼び方が戻っているぞ、ペイラー」

「そういう君こそ」

「……話が円滑に進むなら、それでいい。ペイラー、続けてくれ」

「やれやれ、自分だけ逃げたか……さておき、ここに来る前にギャラクシーエンジェル隊の皆はアラガミ、ラダムとの三つ巴戦になったようだけど、アラガミが如何にして脅威足り得るのか、というのを身を持って実感して頂いたと思うんだ」

「それはもう、しっかりと」

『僕の場合、戦闘が終わった後の方が死ぬかと思いましたけどね……』

 

 ウォルコット中佐に続き、そう言ったノーマッド。彼(?)の身体は全身に包帯や絆創膏を纏った重症患者のコスプレ状態だった。

 囮に使われたミントの怒りを買って、それはもう描写出来ない程グロッキーな惨状になっていたのだ。もうしばらく花柄模様のあしらわれたチェーンソーは見れそうにない。

 

「そもそも、アラガミやラダムが何故この地球を狙っているのか。部外者としてはそれが気になりますな」

「残念ながら、アラガミもラダムもまだ不明な点が多くてね。ラダム到来から約半年、アラガミに至っては二十年程経過しているにも関わらず、研究成果の方の進捗は時間に伴っていないのが現実だ」

 しかし、とペイラーは一度話題を区切り、沈黙を保っていたスペースナイツの面々へと視線を向けた。

 

「フリーマン達は何か掴んだようだね?」

「あまり精査できている内容ではない為、まだ私見の域を出ないのだが、我々はアラガミとラダム、そして『ノーバディ』には何かしらの因果関係があると踏んでいる」

『ノーバディ? ここに来て新しい単語が出てきましたね』

「宇宙でお前達を襲った『黒い球体』を覚えているか? あれを俺達は『ノーバディ』と呼んでいる」

「地上ではその姿が一切確認されず、宇宙ではラダムを頻繁に襲撃している事からアラガミの一種であると我々は睨んでいたのだが、つい先日『所属不明の戦艦』が、ノーバディに『吸収』された事からその線は更に濃厚になった」

「確か、アラガミは『他の物質を捕喰して取り込む』という話でしたな」

「少し違うかな。『捕喰行為によって得た物質から情報を学ぶ』というのが正しいアラガミの生態だよ」

「話を戻そう。地上のアラガミの様に何かしらの生物を模していない事から『名無し(ノーバディ)』という名を冠することが決定された。無論、これは未だ連中がアラガミと断定されていないという意味も込められているのだが」

「あのー、先程から話を逸らしてばかりで申し訳ないのですが、先程一瞬触れた『所属不明の戦艦』とは?」

「今から一週間程前にラダムとノーバディに襲われていた、正真正銘謎の戦艦だ。最も、本当に戦艦だったかどうかまでは確認出来なかった。その前に『取り込まれてしまった』のでね」

「……ノーマッドさん。管理局から頂いた『L級次元航行艦』の画像を出して頂けますか?」

『分かりました。では、パネルのコードをこちらに』

 ノーマッドの指示に従い、ウォルコット中佐はディスプレイから伸びていたコードを狸なのかペンギンなのか良くわからな謎の生命体を模したぬいぐるみの口へと容赦なく突っ込んだ。

 

「「「…………」」」

 

 余りにも異様な光景にウォルコット中佐を除いた4人はドン引きしてしまうのだが、シュールでカオスな事が日常茶飯に起きているトランスヴァール組には気にも留めなかった。

『うわぁ……これはまた原始的な機材を使っていますねぇ。出力時に解像度が落ちてしまいそうですが、それでも良いですか?』

「構いませんよ。お願いします」

『では皆々様。画面の方にご注目してください』

 

 ノーマッドの指示に従い、画面へと注目する一同。そこに写ったのは、

 

 

 

 

 なんかやたらモザイクかかって見えるライトグリーンの髪の少女、ヴァニラのHあられもない画像だった。

 

 

 

『あ! すいませんヴァニラさんとの思い出のツーショットを出してしまいましたフヘヘヘヘ』

 照れながら画像を切り替えるノーマッドだが、一同(今度はウォルコット中佐含む)の顔は先程にも増して引きつっていた。

 

 元は普通の写真なのだろうが、輪郭が解る程度のモザイクのせいでどことなくいやらしい画像に変貌していたからだ。

 こう、R-18的なアレとだけ言うと聡明な紳士諸君はご理解頂けるかもしれない。

 

 その後も、タコの様な生物に絡まれる赤髪の女性や、砂漠を歩く複数の着ぐるみ、フリフリミニスカートを履いてステッキを持つ少女達、大木のど真ん中に青い髪の少女が生えているシュールな写真(全て画質が酷いので詳細は不明)が流れていく中、1枚の写真へとたどり着いた。円錐を2つ平行につなげた様な形をした人工物が、虹色の空間を背景に浮かんでいる。

 

 例に漏れず解像度が低いが、確かに、戦艦と言われればそう見えるかもしれない。

 

『こちらが、時空管理局から頂いた彼らの主力艦『L級次元航行艦』の画像ですね。半年ほど前から世代交代が始まっているらしいので、現在このタイプの艦はほとんど残っていないそうですよ』

「どうかね、Dボゥイ?」

「色は少し違うが、これで間違いない。俺達の前で『喰われた』連中と同じものだ」

「それはつまり……?」

 

 

 時空管理局の遺失物管理部隊。

 

 

 奇しくもギャラクシーエンジェル隊と同じ使命を持つ別世界の戦艦は、彼女らが到着する前から既に『存在しなかった』のだ。

 

 

「……」

 

 

 

 衝撃の事実に、思わずウォルコット中佐は沈黙してしまう。

 

 そして、思ったのだ。

 

 ただの異文化交流を兼ねた合同での宝探しの筈が、随分と話がシリアスな方向に進み過ぎてはいないだろうか? と。

 

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