新約:とある戦士達の黙示録   作:一条和馬

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第9話『上条教会』

【1】

 

―『第97管理外世界地球』フェンリル極東ブラックスポット支部『アナグラ』内部―

 

「前から思ってたんだけど」

 肩口までで揃えられた黒髪で男モノの黒縁眼鏡をかけた少女、有栖レナは自室前に設置された自販機の前で一人、呟いていた。

 彼女の目の前の自販機には先日誤って飲んでしまった忌むべきアルコール飲料の他にも色とりどりの商品が並んでいる。

 

「……どう考えても人類の飲物じゃないよね、これ」

 少し喉が渇いたという理由でこの場所へとやってきたレナだったが、どうも彼女の考える『喉が渇いた時に飲む飲み物』が一切表示されていない事に困惑していた。

 

「苺おでん、冷た~いおしるこ、黒豆サイダー、きなこ練乳、ヤシの実サイダー、ガラナ青汁、スープカレー、冷やしカレードリンク、カツサンドドリンク……」

 

 端から順番に読み上げていくも、次第に怪訝な表情を見せていく。

 

 最も、この荒廃した世界で生まれ育ったレナにとって、名前の由来となったモノのオリジナルは見た事ないものばかりだが、少なくとも本家を冒涜するかの如きデザインと味なのは理解出来た。

 というか、まだ豊かだった時代の人達が今の自分たちより味覚が狂っていたとは思いたくなかったのかもしれない。ファミレスやカラオケのフリードリンクコーナーで片っ端から順番に入れて混ぜるオリジナルブレンドゲテモノドリンクに通じる狂気を感じるのだが、しかし残念な事にレナやこの世界の人間にとってこの例えが通じる人間は少ない。一番理解してそうなのが異世界人のギャラクシーエンジェル隊というのがまた変な話だ。

 

 結局、一番マトモに見えたヤシの実サイダーを購入。本物のヤシの実とどこまで味が一緒かも定かではない炭酸飲料水で喉を潤していく。

 

「ぷっは。まぁ、味は悪くはないんだよね……間違いなくコイツよりは」

 誰に聞かせるでもなく一人ブツブツ呟くレナの目線の先にあったのは、自販機のカオスなラインナップな中でもひときわ目立った飲み物だった。

 

「スーパーゲル状デロドロンドリンク……」

 そう書かれた飲料(?)の外見には黄緑を基調としたドロドロの液体の絵が描かれており、蛍光灯の明かりが反射して艶やかに光る特殊なコーティングが施されていた。もう缶のデザインからヤバさが滲み出ている。

 

「……どう考えても人類の飲物じゃないよね、これ」

「そんな二回も言わなくて良いんと思うんだ」

「だってどう見てもどぅえぇぇ!?」

 誰も居ないと思っていた所で話しかけられて飛び上がるレナ。

 手に持っていたヤシの実サイダーの缶は空だったが、代わりに他の所から込み上げそうになったのを必死に抑え込む。

 

「さ、榊博士……?」

「ふむ、驚かせるつもりはなかったんだけどね? 余りにも気が付いてくれなかったから、つい」

 丸眼鏡をかけた男性、ペイラー榊はどこか悲しそうな表情でレナに話しかける。彼が悲しむ理由は単に存在が認知されなかったから、あるいは他に原因があるのか。

 

「申し訳ありません……」

 ペイラーの心中いざ知らず、ヘコヘコと頭を下げるレナ。

 

 ペイラーはここ、極東支部の技術主任だが、同時にゴッドイーター達への講座の際は教鞭を振るう事がるので、どちらかと言うと『先生』という印象の方が彼女には強かった。

 

「しかし、最近入れた冷やしカレードリンクは売れ行きがよろしくないみたいだね。昔作った他のドリンクが親しまれているのは嬉しいけど、やはり全く違うアプロ―チの作品を作らざるを得ないか……」

「あ、あの、榊博士! こんな所に態々何の用事ですか!?」

 『昔作った他のドリンク』とかいう聞き捨てならないワードが聞こえた様な気がしたが、更に後に続いた『全く違うアプローチの作品』に本能で危険を感じたレナは、無理やりにでも話の軌道を逸らす。きっと時間稼ぎ程度にはなってくれる筈だ。

 

「あぁ、そうだった。すまないレナ君。急ぎの任務が入ったんだ。是非とも、君の手を借りたい」

「急ぎの任務、ですか?」

「と、言ってもただ人を呼んできて欲しいだけなんだけどね。とりあえず、私の部屋まで一緒に来てくれるかい?」

「わかりました」

 空き缶を丁寧に潰してゴミ箱へと投擲すると、予めペイラーが呼んでいたフロア移動用のエレベーターへと二人して乗り込むのだった。

 

 

 

 エレベーターに揺られて数分としない内に到着したペイラーの研究室兼自室には、先日華夏の村騒動で一緒に行動した長身サングラスの謎神父ブレイドと、スペースナイツメンバーとして極東に転属してきた本名不明の青年Dボゥイ。

 

 そして『自称』異世界人のギャラクシーエンジェル隊、それに所属する一人の少女だった。

 ライトグリーンの髪を縦ロールにして金属製ヘッドギアを付けた彼女の名前は確か、ヴァニラ・(アッシュ)だったか。

 無表情で棒立ちのヴァニラに対し、チンピラ座りで彼女の真横を陣取るブレイドと、その更に横で困り果てるDボゥイの様子は先程の自販機の内容とどっこいどっこいレベルで異様な光景だった。

 

「ヴァニラたんヴァニラたんゲヘヘヘヘヘ」

『ちょっとなんちゃって神父さん! 僕のヴァニラさんにそんな汚らしい手で触れようとしないで下さい!』

「玩具風情が失礼だな! 神に仕える身であるこの俺がそんな邪な気持ちで女の子と触れ合いたいと思っていると言うのか!?」

『じゃあその手をワキワキさせるの今すぐやめるんですね!』

「……すまない榊博士。俺にはこれを止める術がない」

 ヴァニラが手に持っていたピンク色の謎のぬいぐるみ、ノーマッドとブレイドが一人の少女の為に醜く言い争うのを、横に居たDボゥイは成す統べなく放置していた。

 

「うん、少し異様だけど、ちゃんとコミュニケーションが成立している所は僥倖と言えるだろうね」

 ペイラーがこの状況をどう『僥倖』と認識出来るのか甚だ謎だったが、Dボゥイと同じように困惑していたレナは黙って流れについて行けない常識人アピールをする。

 

「さて、集まってくれた所で状況を説明させて欲しい。今、この極東支部では二人のテッカマンが居るんだ。ここに呼んだDボゥイ君と、彼の妹のミユキ君だね。酷い熱を出していたミユキ君を療養させるために隔離病棟で安静にしてもらっているんだけど、ここに来て少々厄介な問題が発生したんだ。実は、そのミユキ君の容態が芳しくないんだ」

「なんだって!?」

 Dボゥイが驚愕する中、困り顔のままにペイラーは続ける。

 

「まだ時間はあるから心配しないでくれたまえ。……検査の結果、いくつかの臓器が酷く損傷している事が発覚したんだ。更に運が悪い事に、テッカマンとして身体をフォーマットされた際の弊害なのか、通常の臓器移植を受け付けてくれないんだ」

「俺の臓器を移植することは出来ないのか博士!?」

 ほぼゼロ距離までペイラーに詰め寄るDボゥイだが、彼は両手で押し返しながら、

 

「その手も考えたけど、君は対ラダムとの切り札だ。一応、ブルーアース号や紋章機へのフェルミオン砲換装作業は順調だけど、いつラダムのテッカマンが襲ってきてもおかしくない今、君の身体から臓器移植する方法は取る事が出来ない」

「くそ……!」

「そこで、だ。少しインチキくさい方法だけど『ニードレス』に頼る事にしたんだ」

「ニードレス、ですか?」

「ここからはブレイド君に説明してもらおうかな」

「面倒だが、まぁ、良いだろう」

 キョトンとするレナに対し、今度はブレイドが説明を始めた。

 先程まで言い争っていたぬいぐるみから視線を外し、レナ達の方へと向き直る。

 

「俺の連れにイヴって女が居るんだが、そいつの持つフラグメント『ドッペルゲンガー』を使って、そこのDボゥイって奴の健常な臓器をまるまるコピーして移植しようって訳らしい」

「その、『ドッペルゲンガー』と言うのは?」

「細かい原理は知らねぇが、質量が大きく変わらなければ、どんなものにでも姿を変える事が出来るフラグメントだ。その応用で自分や他人の傷を癒すことが出来る」

「無論、細かい問題は残るけど、現状を打開できる大きな一手である事は変わりない訳だ。そこでレナ君。君はヴァニラ君の紋章機に彼らと同乗し、イヴ君を無事にここまで招いてほしいんだ」

「それは構いませんけど、なんで私なんですか?」

「ふむ。イヴ君を呼ぶだけならブレイド君だけで充分だけど、車を使用しても時間がかかる。ミユキ君の兄として協力してくれたDボゥイ君と、換装作業を一番最初に終えたヴァニラ君の紋章機も必要だが、何分初対面だ。問題があれば困るだろう?」

 

 だからこそ、とペイラーは悪魔の様な一言を付け加えた。

 

「他の神機使いもほとんど任務に出ている事だしね。極東支部のゴッドイーターを代表して、是非とも君には円滑なコミュニケーションの為の潤滑油になってくれればと」

「……」

 

 

 ただ単に貧乏くじを引かされただけだった。

 

 

【2】

 

 

―『第97管理外世界地球』極東ブラックスポット旧学園都市第十二学区『上条教会』―

 

「……」

 

 ギャラクシーエンジェル隊一、無口で何を考えているか分からない少女、ヴァニラはこの任務への同行に並々ならぬ情欲を見せていた。

 常に一緒に行動するノーマッドにすら「こんな情熱的なヴァニラさんは見た事がありません!」と言わしめる程、彼女は昂っていたという。

 外見はその真逆に位置するほど無を体現しているが、別に感情がないとかではないらしい。

 

 そんな彼女は現在、アナグラを出て北に数十キロほど離れた荒野に佇む一件の廃教会の前に訪れていた。

 

 

 

 上条教会。

 

 

 

 第三次大戦後に『上条』なる人物がここに移住を開始し、律儀に名札を掲げていたら勘違いされて今の『上条教会』という名が付いたそうだ。

 

「最も、俺やイヴなんかは、知り合いの伝手で後から転がり込んできた居候なんだがな」

 説明しながら、ブレイドは教会正面の扉を開く。

 定期的に清掃されているであろう木製の大扉を開くとそこには、閑散としつつも、どこか神秘的な雰囲気に包まれた空間が広がっていた。

 

 教会の顔とも言うべき礼拝堂だ。

 

 所々割れたステンドグラスから差し込む陽の光の下には女神像が立てられている。像の目の前には丸テーブルが設置されており、上には木箱が置いてあった。横幅4、50センチの長方形の木箱はまるで小さな棺桶を模しているようだ。

 

 その木箱の正面、純白の布に金の刺繍が施された修道服を纏った人物が祈りを捧げていた。ここは教会だ。ブレイドが神父だとするならば、シスターがいてもなんら不思議ではない。

 

 扉を開く音に反応したシスターが振り向くと、少女の顔がそこにはあった。長いストレートの銀髪に、エメラルドの様な緑色の瞳。『美女』と言うよりかは『美少女』という方が表現的には正しいだろう。

 

 しかし、ブレイド以外の一同はそこではなく、修道服の数か所に留められた安全ピンの方に目を向けてしまう。最初こそ違和感を覚えるも、あまりにも自然に馴染み過ぎていたので、独特の意匠が込められているのかもしれないと思うレナ達。

 

「あれ、今日は随分帰ってくるの早いねブレイド。もしかしてサボり?」

「ちげーよ。イヴはいるか?」

「さっき出かけたよ。お昼には戻るって言ってたし、もうすぐ帰ってくると思うかも」

「そうか」

「……で、後ろの人達は誰かな? とーまじゃあるまいし、その辺歩いてたら女の子拾った訳じゃないよね?」

「仕事仲間だよ。あぁ、紹介する。コイツはインデックス。俺らと同じ居候だ」

「む、その言葉には語弊があるかも。ここは私ととーまが最初に根城……もとい、移住した訳で正確には『先住の居候』の方が正しいよ」

 居候である事は否定しないのか、と一同が思っている中、ヴァニラだけが小走りに女神像の下へと近づいていく。

 

 そして、先程インデックスと呼ばれた少女と同じように、像の下に屈み、両手を合わせて祈り始めてしまった。

「神よ。罪深き我らをどうぞお赦し下さい……」

「おっ……おおおおおおおおおおおおお!? 凄い! 凄いよブレイド! すんごい久しぶりに祈ってる人見たよ!!」

 おおよそシスターが言っていいような台詞ではない気がするが、聖職者として祈りを捧げる人間が他に居るのがうれしかったのか、隣に座って同じように祈りを捧げ始めるインデックス。

 

「今日この日共に祈る仲間が出来た事を感謝します」

「私も嬉しいかも……」

 涙声で女神像を見上げるインデックス。すると丁度、棺桶の様な木箱の蓋がゆっくりと開けられ、中から全長15センチ程の人形が登場した。

 

「ふぁあああ……」

「なんか出てきた!?」

 ウェーブかかった長い金髪に片目を眼帯で覆った色白の肌に、黒い三角帽を被った人形は欠伸をしながら、ゆっくりと箱から這い出して来る。

 

「そんなに祈ってくれるなら仕方ない。どれ、一つ『魔神』の力の一端を見せてや「ッッッッッッッッ!!」

 

 ガタン! と勢い良くインデックスによって人形は木箱に戻され、その扉を幾重ものカギと鎖で厳重に封印し始める。

 

「何をする禁書目録! 謙信深い信徒の前に神が現れて祝福するのはなんら変ではないだろう!? 本音を言うと暇だ相手をしろ!!」

「あー、知らない見えない何も聞こえないかも」

「じゃあ聞こえる様に何か言ってやろうか!? 原作とあまり見た目が変わってない癖に、作品の設定のせいで年齢が20前後引き上げられたのに容姿がほとんど変貌していない哀れな年増シスターの話をわばばばばばばばば! 揺らすな! 狭くて暗い所で揺らすなぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

「なんだ教会なのに違和感しかないなこの景色……まぁ良いか。奥の部屋で待っておこうぜ」

 謎の人形について一切触れないブレイドに案内され、レナとDボゥイは教会の奥の扉から中へと案内されていく。

 

 

 

 余談だがペガスとノーマッドは紋章機ハーベスターの横で警備を兼ねて待機していた。AI同士気が合った(?)らしく、あまりにも仲が良さそうだったのであのヴァニラが明確に戸惑いの表情を見せたほどだ。

 

 最も、ノーマッド以外には一瞬動きが止まった程度の認識しか出来なかった訳だが。

 

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