新約:とある戦士達の黙示録   作:一条和馬

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第10話『強襲!照山最次』

【1】

 

 所変わって、上条教会内部居住地。

 教会の内部と言うよりは、教会のすぐ横に住居を増設したような形の一軒家、が正しいが、こんな荒廃した世界では建築基準法も何もあったものではない話なので割愛する。

 

「ほぉ、それでイヴを連れて来ようとして入れ違いになった訳か。大変じゃのう」

 教会の居候の内の一人、木製の椅子に深々と座っていた白衣の老人、ギドは、寂しくなって久しい自分の頭頂部を撫でながらブレイド達から事情の説明を受けていた。

 

「爺さん、テッカマンと聞いてもあまり驚かないんだな」

 Dボゥイにそう言われるも、ギドは冷静に両手を組みながら向き直る。年長者としての余裕が垣間見える動作だ。

 

「ブラックスポットに長く住んでいれば、大抵の事では驚かなくなるもんじゃよ」

「おい博士。そいつがテッカマンだぞ」

「何じゃとおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」

 ブレイドの指摘に、ギドはおっかなびっくり椅子から転げ落ちた。

 

「思いっきり驚いてる……」

 年長者の余裕が一瞬で瓦解する中、レナに冷静にツッコミをいれられるギド。

 

「じょ、冗談はさて置き……」

「その震える足止めてから言えよジジイ」

「ゴ、ゴホン! しかし、極東支部にテッカマンが加わるかもしれないという事は、またシメオンとのいざこざが増すかも知れない、という訳か」

「ギド博士は、『ニードレス狩り』の事をご存じで?」

 レナの問いかけに、ギドは頷く。

 

「フェンリル庇護下のアナグラの中じゃとあまり聞かないかもしれんが、相当の被害が出ているという噂じゃ。日本……今では極東と呼ばれるようになったこの国には東西二つのブラックスポットがあるが、それに対してフェンリルは極東支部一つでこの国と周辺を担当している。流石にフェンリルとて、世界を二分したシメオンの本格的な活動を支部一つの力で抑えるのは不可能じゃからの」

「私、何も知りませんでした……」

「最も、ワシも西側のブラックスポットがシメオンによって掌握されたという話を聞くまでは与太話と思っておったがな。東側は極東支部が近い手前、おいそれと本格的な侵攻が出来ないというのが実情じゃろう」

「だが、それも時間の問題かもしれないな」

 窓から外の景色を見ていたDボゥイが呟く。

 

 彼の視線の先には、荒野の真ん中にそびえる建築途中のビルが存在していた。

 第三次大戦とアラガミ、ラダムの影響でほとんどの都市が壊滅し、新たにビルを建てようにも建築途中に襲われるのがオチだ。

 そんな中、件のビルは何一つ損害を受ける事無く粛々と天を目指して伸びていた。

 

「シメオンの極東支社、と言った所か」

「こんなご時世にブラックスポットのど真ん中にビルを建てるなんて、やっぱ金持ちボンボンの考えは分かんねぇな」

 

 ブレイドが懐から煙草を取り出し、一本口に咥えようとした、その時だ。

 礼拝堂へと続く道への扉が開き、インデックスが部屋へと入ってきた。その顔は困り顔と怒り顔が混じった様な、端的にいうと機嫌の悪そうな顔をしていたのだ。

 

「ブレイド、お客さんだよ」

「客だぁ?」

「今懺悔室の中に居るよ。『首に変なチョーカー付けた長身のアダムって男を探してる』って言ってたし、間違いなくブレイドの事だと思う」

「ブレイドさんって苗字アダムだったんですね」

「言ってなかったか?」

「なんかすっごい怒るの我慢してたみたいだけど、また何か恨まれる事した?」

「んな訳ねーだろこちとら神父様だぞ神父様ァ。ったく、煙草吸いながら行くか」

 どの辺に神父要素があるかさっぱり分からないブレイドが煙草を咥える。が、ライターの油を切らしている事に気が付いた彼は悪態を突きながら部屋を後にした。

 

 

 

 

「さて、と、それじゃあワシらも行くかの」

「こういう機会を逃すのは勿体ないからね!」

 

 ブレイドが部屋を出て間髪入れずにギドとインデックスの二人はそろりそろりと部屋を出ていこうとした。レナとDボゥイから逃げるというよりかは、ブレイドの後をこっそり追いかけようとしている様子だ。

 

「あの、ギド博士……? インデックス、さん……?」

「レナ君たちも着いてくるかね?」

「なんたって久しぶりの懺悔だからね。気にな……ゲフンゲフン。あのブレイドの事だから何しでかすか分からないし、監視役を兼ねて同席するのはシスターとして当然の行動なんだよ。その折に、懺悔室内部の会話が誤って耳の中に入ったとしても、それはそれとして致し方ない事なんだよ」

「……どうしましょう、Dボゥイさん?」

「俺に聞かないでくれ……」

 

 テッカマンとゴッドイーターである以前に常識人である二人には、暴走するジジイとシスターを止める術がなかった。

 ペイラーに『潤滑油』扱いを受けたレナだが、そんな物全く必要ともせずに暴走列車の如く話は進んでいく……。

 

 

【2】

 

「ん?」

 インデックスに言われて礼拝堂へと戻ってきたブレイドはある事に気が付いた。

 

 懺悔室は懺悔する側とされる側、つまり教会の人間が入る個室がそれぞれ存在するが、その両方から人の気配を感じ取ったのだ。

 

 片方は、例の来客だろう。

 

 ならばもう片方には一体誰が入っている?

 

 すこし耳を近づけてみると男女の声が。どうやら二人で秘密の会話を楽しんでいるらしい。

 

「よし、盗み聞きするか」

 先程インデックスがオブラートに包んだ言葉を情け容赦なく言い放ち、懺悔室の壁へと耳をくっつけるブレイド。そのまま全神経を尖らせるように、会話を聞き取りのみに意識を集中させる。

 

 

 

 

 

 

『シスター様と神父様が不在の間、私がお相手致します』

 

『何度だって言うぞ。俺はここのアダムって男に用事があるんだ。他の奴は良い。男を出せ!』

 

『神は寛大です。どのような罪であっても、必ず救いの手を差し伸べてくれるでしょう』

 

『このご時世で神様頼みする馬鹿がいるかよ? 俺達は日々アラガミってカミサマと殴り合ってるんだ。そんな連中を拝んで懺悔する奴の気が知れないぜ』

 

『神の救いの手は平等。信仰心なき者であっても構いません。ここは私と貴方、そして神のみぞ知る空間。さぁ、どうぞ心の奥底に眠る不平不満やら青春時代のちょっとほろ苦い記憶をぶっちゃけてください……』

 

『……まぁ、少し、無い事もない』

 

『お話下さい。全て受け止めましょう』

 

『なら、懺悔しなきゃならねぇ事がある……実は、死んじまった仲間の一人にダイジュウジって男がいたんだが、そいつの大事にしていた本を間違って燃やしちまったんだ……』

 

『他には?』

 

『そうだな……アカギのトタンで組み上げたロボットをついうっかり押し倒して海の藻屑にした事もあるし、大将の旦那が可愛がっていたハムスターも誤って燃やして証拠隠滅の為に夜食にした事もあったな……それに、それにだな……』

 

 

 

 

「……」

「ほぅ、中々やりおるもんじゃのぅ」

「私よりシスター出来てる。なんかジェラシー感じちゃうかも」

「しかし、懺悔の内容自体は実につまらんな。もっとヘンテコな事を言い出してくれた方が神としてはからかい甲斐があるのだが」

 

 気が付くと、ブレイドの他にギドとインデックス、そして先程箱に厳重封印されたはずの人形(?)が仲良く縦に揃って聞き耳を立てていた。

 神のみぞ知るとは言ったが、ここの神様は随分とお口のチャックが緩いらしい。

 

 その神に仕える内の一人、神父のブレイドはゆっくりと懺悔室の扉から耳を離す。

 

 ゆっくりと、その拳を振り上げた。

 

 そして。

 

 

 

「なぁぁぁぁにヴァニラたんと仲良く会話してんだ羨ましいわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 

 

 理不尽。

 

 あまりにも理不尽極まりない一撃が、木製の懺悔室の壁を突き破り、中で半泣きになっていた男の顔面へと真正面から拳を叩き込んだ。

 

「ぐわあああああああああああ!?」

 

 そのまま男は後方へと飛ばされ、礼拝堂に置かれていた長椅子を次々に破壊しながら正面扉横の壁へと激突する。

 

「えええええええええッ!?」

「何やっとんじゃブレイドおおおおおおおおッ!!」

「何の騒ぎだ!? ラダムか!?」

「もしくはアラガミ!?」

 流石に物音に異変を感じ取ったDボゥイとレナも礼拝堂へと飛び込んでくる。

 だが、ペガスが近くにいないDボゥイと神機を置いてきたレナはこの状況で敵とは交戦出来ない。

 

「くっそ……何しやがる!」

「オラお目当てのアダムが来たやったぞ文句あんのか!?」

 

 懺悔室にいた男は、オレンジ色の短髪で、背中に『夜露死苦』とペイントされた白い特攻服を纏っていた。

 吹き飛ばされ、壁にぶつかったダメージをものともせず、男はブレイドの前に立ち塞がる。

 

「そうか。テメェがアダムか……。ここであったが百年目、覚悟しやがれッ!! 仲間の仇……討たせて貰うぞっ!」

「仲間の仇だぁ?」

「そうだ。そして俺の名前は照山最次(てるやまもみじ)。それだけ覚えて地獄の仲間に詫び入れてきな、アダムッ!!」

 そう言うと、男……照山の右拳から炎が噴き出し始めた。

 何か道具を使った訳でもなく、ごくごく自然に現れたその炎は、照山の腕を焦がす事無く、しかし彼の猛々しい心を表すかの如く拳に纏う鎧と化していた。

 

「あやつまさか、ニードレスか!?」

「リトルボーイ!」

 

 大型のアラガミさえも一撃で倒してしまうその一撃を、真正面から受け止めるブレイド。

 

 

 しかし。

 

 

 

「なっ……、コイツ、俺のリトルボーイを受けて……!?」

「貧弱貧弱とはこの事かァ!?」

 さしてダメージを受けた様子もなく、照山を挑発しだすブレイド。

 

「効かねぇんだったら……効くまで殴るまでだ!!」

 

 

 

 

 その後も、ブレイドは照山に一方的に殴られていたのだが、ギドとインデックス(+謎の人形)は静観を決め込み、一切の手出しをしていなかった。

 

「あの、ブレイドを援護しなくても良いんですか?」

「ブレイドの奴、敢えて手加減しておるようじゃの。インデックス君、どう見る?」

「近くにルーンの気配もなく、かといってこれと言った魔術的装飾を身につけている訳で

もない……間違いないよ。あれは魔術じゃない」

「ならば、ブレイドの狙いは一つじゃな……レナ君、Dボゥイ君。手出しは無用じゃ」

 

 なぜなら、とギドが続けようとした時、状況に変化があった。

 

 

 

「もう一発だ! リトルボーイ!!」

 

 最早何度目か分からぬ、その拳。

 

 だが、その拳がブレイドの身体に到達する前に、彼はニヤリと笑って呟いた。

 

「……『覚えた』!」

 

 その言葉に呼応するかの如く、ブレイドの拳が炎に包まれる。

「リトルボーイ!」

「のわっ!?」

 

 自分の技である筈のリトルボーイの直撃を受けた照山は、数回バウンドしながら地面を転がった。

「テメェ……。噂の『覚える』フラグメントのニードレスかっ!?」

 

 叩きつけられた体を起こしながら照山はそう告げた。一瞬困惑した様子を見せつつすぐに思考を巡らせている辺り、見た目よりは頭が良いのかもしれない。

 

「だが、同じ技でも、オリジナルより強い筈がねぇ!」

 照山の拳が再び炎に包まれる。対するブレイドも、同じように拳を固めた。

 

「つくづく馬鹿だなお前! 同じ技を持つ者同士の戦いで勝つのはな……」

 

「「リトルボーイ!」」

 

 

 

 二人の拳が交わる。

 

 

 

「ぐわぁ!?」

 鮮血に塗れ、先に拳を下げたのは照山の方だった。

 一方のブレイドは依然として余裕を見せている。

 

 そして、ブレイドは照山に『同じ技を持つ者同士ぶつかった』と時の勝者の条件を高らかに叫んだ。

 

「拳の頑丈な方だ!!」

 

 

【3】

 

 

「くっ! ……野郎、なんて硬ぇ拳なんだ!」

 出血で感覚がマヒした腕を無理やり動かしながら、照山はブレイドを見つめる。

 

「ウおらどうしたぁ! 炎のニードレスの兄ちゃんよぉ!!」

「仮にも神父を名乗ってるんだから、そういう悪役みたいな物言いは遠慮してほしいんだ

よ」

 白いシスターに呆れられながらも、尚も黒い神父はゆっくりと照山の方へと距離を縮め

ていく。

 

 しかし、照山にも引けぬ理由があった。仲間の仇がすぐ目の前にいるのだ。

 

 仮に『覚えられる』可能性があるとしても、出し惜しみをしている理由も余裕も今の彼

には存在しなかった。

 

「勝ち誇るなら、俺の最強技を食らってからにしやがれッ!!」

 

 両の手から火の玉を出現させ、合わせる。

 巨大な一つの火球となったそれは照山の腕から数センチ程浮き上がってもなお、その火の勢いを殺す様子は無い。

 

 

「遠距離技に切り替かえる腹積もりだな。避けられないとでも思っているのか?」

「避けられるもなら避けてみろ!」

 ただし、と照山は続ける。

 

「テメェが良ければ後ろのジジイ共に当たるぞ!」

「!!」

 

 本来ならアダム以外の人間には手出しするつもりはなかったのだが、前述のとおり彼には余裕がなかった。

 だからこそ、目の前の男の良心に漬け込むような外道の策にさえ、彼は遠慮なく手を染める。

 

「喰らいやがれ! ヴァルカンショックイグニション!!」

 

 

 巨大な火球が飛びかかったその時だ。

 

 

 

 

 

「フン」

 ブレイドはバックステップで移動しインデックス(+しがみ着いた人形)とレナを脇に抱えて、上方へとジャンプした。

 己で危機を察知したDボゥイはとっさに横合いへと避ける。

 

 

 

「え?」

 ただ一人、呆然と立ちつくすギドを除いて。

 

 

「ぎゃあああああああああ!?」

「ええぇぇーーーーーーーーーーーーーーっ!?」

 

 

 

 流石に撃った本人の照山でさえ驚愕でつい叫んでしまった。

 

 

「ばっ、馬鹿な!? 老人だけを見殺しにするとは、鬼か貴様!!」

 

 

「大丈夫か!?」

 ブレイドに抱きかかえられていたインデックスとレナに駆け寄るDボゥイ。

 そこには優しかった老人の姿はない。

 

 

「気を付けろ! 『魔神』とて痛いものは痛いのだぞ!!」

「ちょ、ちょっと酔いそうだったかも……」

「なんか前にもこんな事あった様な……」

 

 

「この人でなしがーッ! 避けるなァーッ!!」

「あ、なんだ生きてたのかジジイ」

 

 所々燃えてはいるものの、割と元気そうだったギドに悪態を突くブレイド。

 

 

 

「俺が人助けする人間に見えんのか? あ?」

 

 

 

 本物の外道はここにいた。

 

 

 

 その外道は、照山と同じように腕から炎の球を形成する。

 

「しまった! 『覚えられた』か!?」

「ヴァルカンショックイグニション!!」

「!」

 

 しかし、照山は拍子抜けする。『覚える』フラグメントだからこそ、自分と同程度の物が来ると予想していたのだが、黒い神父が放ったのはサイズこそ拮抗するものの、速度に難があった。

 照山のヴァルカンショックイグニションをスポーツカーに喩えるなら、黒い神父のそれは田舎の老人が運転する軽トラだ。

 

「まだ完全にはコピー出来てないのか…?」

 まだ勝てる見込みがある。

 そう思った照山の算段は、しかし黒い神父の次の一手で砕かれる事になる。

 

「マグネティックワールド・反発(アンチ)! 『ヴァルカンショックイグニション!!』」

「なにィ!?」

 

 照山は失念していたのだ。

 

『覚える』ニードレスならば、他のフラグメントを『覚えている』可能性を。

 

 しかし、それでも彼はその油断のツケを取り戻す事を諦めてはいなかった。

 要は少し速度が上がっただけの自分の技。対抗策が思いつくのも容易だった。

 

「うおおおおおおおリトルボォォォォォォイ!」

 迫りくる火の玉に対し、照山は炎の拳を下から救い上げるような形で叩き付ける。

 

 衝撃を炎で相殺し、軌道を逸らしたのだ。

 

「ハッ! そんな小手先の技で俺を騙せると……!」

「ジャイルグラビテンション!!」

 

 勝ち誇ろうとした照山の身体が重くなる。

 

 比喩表現ではない。本当に重くなったのだ。

 

「なッ、か、身体が……!?」

 

 地面をよく見ると、自分の周囲の床もメキメキと音を当てて沈んでいるのが見て取れた。

 

「重力を操るフラグメントだ」

 

 そして、と黒い神父は照山が現状を正しく把握するよりも前に、告げる。

 

「重力が強くなった場合、お前の頭上にいる『アレ』はどうなるだろうな?」

「しまっ」

 

 

 瞬間。

 

 マグネティックワールドによって速度を上げられ、グラビトンで無理矢理降下させたヴァルカンショックイグニションが、照山の身体に直撃した――

 

【4】

 

「てめぇ、能力を、合わせて……ッ!」

 爆発から一命を取り留めた照山だったが、追い打ちをかける様に腹部にブレイドの拳が突き刺さる。

 

「ぐおぉ!」

「これはテメェに焼き殺された……ギドジジイの分だッ!」

「死んでません」

 横から真顔で訂正をいれるギドだが、当のブレイド本人は気にせず話を進める。

 

「殺す前に聞いてやる。『仲間の仇』ってのは、何の話だ?」

 

 ブレイドからすれば当然の話だ。

 

 彼がいかに邪知暴虐で理不尽な性格をしているとはいえ、一応は分別を弁えるタイプの人間だ。

 

 そりゃまぁ、こんな所で生きていればご近所さんとの諍いなんて紛争地帯みたいなレベルに発展する事は稀によくあるし、実際にお手々が真っ白だとは彼も思っていない。 

 

 だが、そこで妙に感じたのだ。ただのゴロツキの仇討としては、この男から放たれる気迫が並々ならぬものであると言うことに。

 

「とぼけんな! 『ニードレス狩り』で罪もねぇゴロツキ共を散々殺したじゃねぇか! フェンリルと世界を二分するなんて言いながら、影で人殺しを良しとする糞企業がよ!!」

「あ? 何言ってんだテメェ」

「だから、とぼけんなよ……?」

 予想に反した反応をしたのか、凄んでいた照山の態度が変わってくる。

 

「ちょ、ちょっと待て! 前半はほぼ100%合っていたが、後半は違うぞ!?」

 何か事情を察したのか、ギドがフォローを入れてくる。

 

「……な、なに言ってるんだよ……?」

 だんだんと、照山の額から毛色の違う汗がダラダラと流れ始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前……アダム・アークライトだろ?」

「は? 誰それ」

 即答だった。

 

 

 

 

 

「え?」

「………………………………………………」

「………………………………………………」

 

 沈黙が、場を支配する。

 

「……人違い?」

 確認するように、照山はオーディエンスを決め込んでいたレナやインデクス達に視線を向ける。

 

「……」

「……」

 皆、何と言って良いかわからない、という顔をしていた。

 なんたって、ブレイドがゴロツキを見境なくボコボコにしているのは事実なのだ。その半分当たった事実に対してか、皆一様に口が堅くなっていた。

 

 

「ぶわっはっはっは! まさか、根城まで突き止めて置いて肝心の名前を間違えるアホが居るとはな!!」

 ただ一人(?)、インデックスの裾の辺りで腹を抱えて転げまわる人形が居たが、そもそも数にカウントされていなかったのか誰も気にしない。

「……ごめん」

 

 とりあえず非を認め、照山が素直に謝罪を述べた、その時だ。

 

 

 ブロロロロロロロロロロロ!

 

 

 大地に鳴り響く鈍い音と共に、大型のバイクに跨った少女が破れた教会のドアから颯爽と登場した。

 

「うぉ!? なんだこの状況は!? さては昨日ボコボコにしたチンピラの生き残りか!?」

 

 

 背中まで伸びる長い青髪に、胸周りの布と褌にハイソックスしか纏っていない危ない格好の少女がバイクから降りるや否や、先程までブレイドと戦闘をしてボロボロになった照山と顔を合わせる。

 

「まさかお前がやったのか!」

「待つんじゃイヴ! この照山くんは勘違いしただけで何も悪くはな

「問答無用鉄拳制裁! 覚悟しろ、て、て……内田ァ!!」

 そう言うと、青髪の少女、イヴは大型のバイクの前輪部分を掴み、

 

「どっせええええええええええええいっ!!」

 

 まるでバットの如くフルスイングした。

 

 ボールの代わりは、照山改め内田だ。

 

「ああああああああああああああああああああああ!?」

 現状を把握する前に、内田(照山)は教会の壁に人型の穴を作りながら空の彼方へと吹き飛んでいく。

 

「ふぅ……ブレイド! みんな! ぼくが来たからにはもう安心して「はなしのとちゅうだったんだけどねー」

 

 

 どこからか取り出したバット(本物)でプロリーガー顔負けの美しいスイングを披露するブレイド。

 

 

 

 教会の壁にもう一つ人型の穴が増えた。


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