【3】
「おじさん、お肉焼くの上手だね!」
「まだおじさんなんて年じゃねぇ!」
「……う、ん?」
少女と男の声が聞こえ、閉じていた目を開けるアミタ。
日は落ちて既に夜となり、空には満天の星が広がっていた。
横になっていた体を起こしてみると、すぐ横にあった薪の炎がアミタの顔を照らした。
その向こうには、骨付きの巨大な肉に噛り付く未央と、その横でため息をついている男の姿があった。
「お、気が付いたか」
身を起こしたアミタに気が付き、視線を向ける男。
「本当は放っておくつもりだったんだが、この嬢ちゃんにどうしてもって頼まれてな、まさかこんな時間まで眠ってるとは思わなかったが」
「すいません。ありがとうございます……」
「ま、生身でヴァジュラに挑もうとしたガッツは中々だったぜ」
「ヴァジュラ?」
「あのアラガミの名前だよ。そんな事も知らねぇのか?」
アミタの問いに、男は困惑したような顔で答えた。
「い、田舎から出てきたものですから……」
「田舎ねぇ……」
咄嗟についたアミタの嘘に、疑心を向けた様な顔をする男だったが、その前を横切って未央がアミタの元へ駆け寄った事で会話が中断される。
「お姉ちゃん、お腹空いてない?」
そう言って未央は、薪の傍で焼かれていた骨付きの大きな肉を一つ取り、アミタへと手渡す。
「ありがとうございます、未央さん」
「えへへー。おじさんが焼いてくれたんだよ!」
「おじさんじゃねぇ! 俺の名前は照山!
「照山さん、ですか? 私はアミティエ・フローリアン。アミタって呼んで頂ければ」
「アミタに、未央か。所で、お前たちはこんな所で何をしていたんだ?」
「私は、はぐれてしまった妹を探していまして……」
「未央も、友達とはぐれちゃって……」
照山の問いかけに、アミタははっきりと、未央も続く様に答える。
「あの、私と似た様な服を着ていて、未央ちゃんみたいな髪の色の女の子なんですけど、照山さんは見ませんでしたか……?」
「……いや、俺も人を探して辺りを彷徨っていたが、今日人間に会ったのはお前らが初めてだぜ」
「そうですか……」
「じゃあ、未央の友達もこの辺には居なかったのかな……」
意気消沈する未央。
その姿に小さい頃のキリエを重ねてしまったアミタは、片手でそっと未央を抱き寄せ、頭を優しく撫でる。
「大丈夫ですよ未央ちゃん。お友達が見つかるまで、私と照山さんがご一緒しますから」
「そうだな……ってちょっと待て! 何で俺までセットで話が進んでいるんだよ!?」
「良いじゃないですか。偶然にも荒野の真ん中に人探しをしている私達が集まったんです。旅は道連れ世は情け、というらしいじゃないですか?」
「……はぁ、とりあえず、アミタの妹と、未央の友達探せば良いんだろ? 手掛かりがないんなら、先に俺の人探しからやらせてもらうからな」
「皆でバラバラになって行動するより、皆で行った方がすぐ見つかるかも知れませんしね。わかりました。それで、照山さんはどんな人を探しているんですか?」
アミタの問いで、照山は何かを思い出して一瞬怒りの表情を見せると、歯を食いしばりながら言葉を紡ぎ始めた。
「この『ブラックスポット』には、俺の仲間を殺した野郎がいるんだ。そいつは聖職者みたいな振る舞いで長身の、首に悪趣味なチョーカーをはめた『アダム』って男だ」
「アダム、ですか……」
「!」
照山の言葉に異様に反応した未央だが、アミタの影に居た為にその姿を彼に見られることはなかった。
「俺はそのアダムって男の詳細を知る為に、隣のブラックスポットからやって来たって訳だ。とりあえず、明日にはこのブラックスポット一番の情報屋の所に行こうと考えている。耳の早い奴だ。お前らの探している連中の事も知っているかもしれないな」
二、三時間程寝かせてくれ、とだけ言い残し、さっさと横になってしまった照山から視線を離したアミタは、未央に手渡された肉を食べ始めながら、空を見上げた。
気が付くと、未央もアミタに寄り添いながら小さく寝息を立てている。
キリエや一緒に姿を消したディアーチェ達の事も気になるアミタだったが、未だ体力が全快していない事も理解していた彼女は、未央をゆっくり地面に寝かせると、火の番と護衛を兼ねて、ブラックスポットと呼ばれた荒野の真っ黒な夜景に目を向けながら、故郷に残した両親への想いを馳せるのだった……。
(続く)