新約:とある戦士達の黙示録   作:一条和馬

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銀河の天使と宇宙の騎士(2)

 

【2】

 

―『第97管理外世界地球』大気圏外オービタルリング周辺―

 

『へぇー。これがチキュウですかー』

『見た目は普通ね』

 ミルフィーユと蘭花が通信越しにワイワイ言いながら、眼下に広がる青い星を眺めていた。彼女らは今、紋章機(エンジェルフレーム)と呼ばれるロストテクノロジーで作られた専用の戦闘機にそれぞれ搭乗していた。銀色のフレームに個人に合わせたカスタマイズが施されている。

 

 ミルフィーユはピンクのボディにレールガンを装備した一号機『ラッキースター』に、

 

 蘭花はシャインレッドのボディにアンカーアームをセットした二号機『カンフーファイター』に、

 

 ミントはライトブルーのボディに高度なセンサーを取り付けた三号機『トリックマスタ

ー』に、

 

 フォルテはディープパープルのボディにミサイルやキャノン等、武器をふんだんに搭載

した四号機『ハッピートリガー』に、

 

 ヴァニラはライムグリーンのボディに補給や回復用の装備を取り付けた五号機『ハーベ

スター』に、それぞれ搭乗している。

 

「私的には、星を取り囲むこいつに興味があるねぇ」

 フォルテが指さした先には地球を取り囲むように円形に繋がった人工物が存在した。

 この星の住民でない彼女らには分からぬ事であったが、この人工物は丁度、地球の赤道の上をなぞる様に浮かんでいるものだ。

 

『何でございましょう? この星の物だとは思うんですけれども』

「あぁ、これはオービタルリング……という名前でしたかな」

「オービタルリング?」

「確か宇宙開拓への前線基地として開発されたものだと聞きましたよ」

 フォルテの問いに、ウォルコット中佐は応える。

 

 ウォルコット中佐は一人、フォルテの乗る紋章機のコックピットにサブシートを作って座っていたが、これは彼専用の紋章機が存在しないからだ。

 紋章機はロストテクノロジーという事もあって絶対数に限りがあるのと同時、特別な条件を満たしたものにしか使用することは出来ないのだ。

 

『宇宙開拓がまだ始まっていないという事は、この星の文明レベルは相当低いということになりますね。本当にこんな所に我々が出張ってくるようなロストテクノロジーがあるとは到底思えませんが?』

「それを言われましてもノーマッドさん、元々ここは先方である時空管理局の管轄ですから、詳しい事は……」

『っていうかさ、その肝心の管理局? とかいう連中いないじゃない!』

『わたくし達を右も左も上も下も分からない宇宙のど真ん中で待たせるなんて、全くもって非常識極まりないですわ! ぷんすかぷーんですわ!』

『えー? でも見てると結構面白いですよ? ほら、すぐそこに虫さんの群れも見えますし』

『『え?』』

 蘭花とミントが間抜けな声を揃えたのと、ミルフィーユが見た「虫さん」が明らかに彼女達に向って突撃している事を認識したのは、ほぼ同時だった。

 

『なっ、何ですのアレ!?』

 コックピット内のモニターのカメラ倍率を調整し、その姿を確認したミントは、そのおぞましい形相に思わず仰天してしまう。

 緑の白の身体からは何本もの爪のような突起物が突き出しており、顔と思われる部分にはある幾つもの赤く光る眼がまっすぐに彼女らを捉えていた。それもミルフィーユが『群れ』と言ったように、一体ではない。ざっと見積もっても三〇体は存在していた。

 

『もしかして、あれがチキュー人さんでしょうか?』

『だとしたら未知との遭遇も良い所よ!?』

『えー? でもお手軽ビームとかでお友達に……』

『なれる訳ありませんわーーーッ!!』

 兎にも角にも、と命の危機を感じたギャラクシーエンジェル隊の乗る紋章機は謎の昆虫型生命体から距離を取る様に後方へと進み始める。

 

「友好的な連中には見えないね! 悪いけど叩き落とすよウォルコット中佐!」

まぁ、仕方ありませんな。と一呼吸置いたウォルコット中佐は、モニター越しに指示を待つギャラクシーエンジェル隊の面々の方へと視線を向けた。

 

「ギャラクシーエンジェル隊、あの謎の生命体への攻撃を許可し「よっしゃーッ! そうと決まれば先制あるのみだ! 私とミルフィーユが適当に撃って数を減らす! ミントは私達の照準補佐! 蘭花は討ち漏らした敵への迎撃! ヴァニラは蘭花を援護してやりな!!」

『『『『了解!』』』』

 

 フォルテに指示に従い、各紋章機達は機首を一八〇度回転させ、後ろから迫ってくる昆虫型生命体と真正面から対峙する。

 

「え、あのフォルテさん。私の格好いい見せ場が……」

『おや、フォルテさんって隊長っぽい事できたんですね』

「なんか言ったかいノーマッドォ!?」

「見せ場……」

『なっ、何でもないですよ何でも! あ! ヴァニラさん! 敵が近づいてきていますよ!!』

『……底知れぬ悪意を感じます……』

「みせ……」

 

 

 

 ギャラクシーエンジェル隊の一糸乱れぬ連携により、謎の生命体は数分もせぬ内に全滅した!

「あぁ……私の見せ場が……」

 

 

 

【3】

 

「なぁーんだ。楽勝じゃな~い!」

 緊張して損しちゃった、と蘭花は紋章機のコックピットの中で大きく伸びをした。

 

『完全にビジュアル負けしていましたわね』

『他の世界で紋章機が上手く動くか心配だってけど、この分だと問題なさそうだねぇ』

 フォルテはそう杞憂してはいたが、その理由は紋章機が先代文明の遺したものをそのまま使っている所謂骨董品だからだ。

 

 しかし、その戦闘力は一機で現在のトランスヴァール皇国標準の宇宙戦艦一隻と同等の力を持っていると言われており、おそらく少々不備があった程度では負ける事はまずなかったであろう。

 

『これくらいなら、もっと強いのが来ても大丈夫そうですよね~』

「あのねミルフィーユ。私達はこんな虫野郎と宇宙で追いかけっこなんて真っ平ごめんで……」

『おかわりです……』

『ッ! レーダーに反応あり! 先程よりも小さい個体が二つ、高速でこちらに接近してきますわ!!』

 ミントの乗るトリックマスターから映像が送られてくる。

 先程の虫とは違い、人の形をしたそれは、瞬きする間に蘭花達の前に現れる。

 

「ほらミルフィーユ言わんこっちゃない!」

『え~! 私のせいなんですかぁ~!?』

 ミルフィーユの『凶運』が招いた結果であるかもしれないと思った蘭花だが、その事を口にすることなく、グリップを握る手に力を込めた。

 操縦者の思考を読み取り稼働する仕組みの紋章機にとってその行為はあまり意味のある事ではないが、そうせざるを得ない程の緊張が彼女を包んでいたのだ。恐らく、それは残りのエンジェル隊も同様なのだろう。軽口がピタリ、と止んだ。

 

「……なんだ、貴様らは?」

 全身をアーマーで包んだ人型の内の一体、ダークグリーンで丸みを帯びたボディに弓の様な武器を持っていた謎の生命体は、男の声でそう問いただしてくる。

 顔の左半分には大きな傷の様な物があり、そこから昆虫型生命体と同じ、赤い色の目が殺意を隠す事無く漂わせていた。

 

『私達は、ギャラクシーエンジェル隊で~す!!』

 一人緊張とはほぼ無縁だったミルフィーユは軽く応える。

「ギャラクシーエンジェル隊? 何かは知らんが、ブレードの他にラダム獣をこうも簡単に倒せる存在をみすみす逃す訳にはいかないな! やれ、テッカマンダガー!」

 テッカマンダガーと呼ばれたアーマーに指示を出したのは、もう片方のアーマーだった。

 ダガーとは対照的に全身が鋭利に尖っており、赤と黒のカラーリングも相まって悪魔と表現するにふさわしいデザインをしていた。

 

「了解です。エビル様!!」

『来るよ皆! 散開!!』

「遅い!」

 フォルテの指示が来た時には既に、テッカマンダガーは弓の様な武器を構え、蘭花の乗るカンフーファイターへと突撃を開始していた。

 

「こなくそ…っ!」

 カンフーファイターはギャラクシーエンジェル隊の使用する紋章機の中で一番近接格闘戦に優れ、小回りも効く機体だった。

 しかし、それは『戦闘機としては』という括りの中での話なので、人間の成人男性より少し大きい程度のサイズのテッカマンダガーに小回りで勝とうというのは土台無理な話であった。

 初めこそ距離を取ることに成功するものの、すぐに距離を詰められてしまう。

 

「ちょっと! なんで私ばっかり狙うのよォー!?」

「赤と白! その色が気に食わない!!」

「そんな意味不明な理由で負けてなるもんですかーッ!」

 

 感性を無視した急転進から続けて、アンカーアームをテッカマンダガーに向け、発射する。

 ワイヤー付きのアームは正確にテッカマンダガーのいる場所に向かって射出されるが、テッカマンダガーは速度を緩め、身を捻りながらこれを回避してみせた。

 

「嘘ォ!?」

「そんな遅い動きでは、ラダム獣は仕留められてもテッカマンには掠りもせんぞ!」

 懐に入り切ったテッカマンダガーは、弓型の武器を振り上げる、よく見ると、形こそ弓だがまるで刀を上下につなげ合わせた両刃になっていた。

 それは近接戦も視野に入れられていたのだろう。バリアで凌げるかもしれないと思った蘭花の思考が一瞬止まり、その隙にカンフーファイターとテッカマンダガーの距離が一気に縮んでしまう。

 

「まずは、一つ!」

『蘭花さん!!』

「チッ!」

 コックピットへの直撃だけは避けるべく、機体を横へ大きく逸らそうとした、その時だ。

 

 

 

 

 

「クラッシュ! イントルード!!」

「何!? うわぁぁぁぁぁ!?」

 カンフーファイターの目前まで迫ったテッカマンダガーは、横から現れた一条の光によって蘭花の視界からその姿を消した。

 

「今度は何よ!?」

 伸びきったアンカーアームを回収しながら、光の先をモニターで追いかける蘭花。そこに居たのは……。

 

 

 

 

「テッカマン! ブレード!!」

 

 

 青い人型ロボの背中に立って現れたソレは、赤と白のアーマーに身を包んだテッカマンだった。

 

 

 

【4】

 

「テックランサー!」

 テッカマンブレードと名乗った男は、両肩から飛び出した二本の剣の柄頭を合わせて両刃の槍にすると、二体のテッカマンとギャラクシーエンジェル隊の間に入った。

「現れたな裏切り者ブレード!」

 

 先程までカンフーファイター相手に余裕の態度を見せていたテッカマンダガーの声が、憎しみを帯びる。

「まだ死んでなかったのかフリッツ! いや、テッカマンダガー!!」

「当たり前だブレード! この顔の傷の恨み、果たすまで地獄にはいかんぞ!!」

「俺も貴様等ラダムを一人残らず消し去るまで死ぬつもりはない! 行くぞ、ペガス!!」

『ラーサ!』

 青い小型ロボ、ペガスがバーニアを吹きダガーへと距離を詰める。

 

「うおおりゃああっ!」

「はああっ!」

 二人のテッカマンが何度も交差し、その度に両者の武器から甲高い音が鳴り響く。

 

 何度目かの接触の後、ダガーは弓型のテックランサーを形通り弓の様に構えた。

「この距離なら回避出来まい!」

 弓型のテックランサーから矢状のエネルギー弾は何発も連射され、テッカマンブレードの方へと飛んでいく。

 これこそテッカマンダガーの必殺技、コスモボウガンだ。

 

「ちぇりゃあああっ!」

 しかし、この技は一発一発では大した威力はない。テッカマンブレードは冷静にテックランサーを前方に突き出し、コマの様に高速で回転させる事によってその全てを弾き返す。

 

「なんだと!?」

「トドメだ! ボル……ッ!?」

PSY(サイ)ボルテッカァァァァァッ!!」

 テッカマンブレードがテッカマンダガーに必殺の一撃を打ち込もうとしたその時、両者を阻むように赤黒い光が放たれた。

 間一髪逃れたテッカマンブレードはすぐさまペガスに指示を送り、その場から離れる。

 

「まさか俺が手を出さないとでも思ったのかブレードォ!」

「チッ! エビルか!?」

「これ以上貴様と遊んでいては、地上のラダム樹への被害が広がってしまう! 名残惜しいが、一気に殺してあげるよタカヤ兄さん!」

「ッ! シンヤァァァ!!」

 

 テッカマンブレードとテッカマンエビルが持つお互いのテックランサーが真正面からぶつかる。

 ダガー戦とは打って変わって、力任せの体力勝負だった。

 

「どうした兄さん! 兄さんの大好きな兄弟愛はどこにいったんだい!?」

「俺にはもう親も兄弟もいない! 貴様等ラダムに殺された!!」

 テッカマンブレードの怒りの声と共に、徐々にではあるが力の均衡が崩れる。

 

「ブレードォ! 俺は、貴様だけにはアァァァ!!」

「おおおおおおおおおおおおっ!!」

「まだ俺との勝負は着いていないんだぞブレード!」

 何人たりとも入る余地なしと思われたブレードとエビルの前に、テックランサーを構えたテッカマンダガーが現れる。

 そのまま無防備なテッカマンブレードの横腹に、容赦なくランサーを突き刺した。

 

「ぐわあぁあぁ!?」

「死ねぇブレーェドォ!!」

 いくらテッカマンが強大な力を持とうとも、二対一の戦いでは当然テッカマンブレードは不利だ。

 しかし、この場に居たのはテッカマン達だけではなかった。

 

 宇宙の騎士達の頭上で、銀河の天使達が舞う。

 

 

『やっと動きを止めたわね!』

 テッカマンブレードと同じ赤と白の戦闘機から女性の声が響く。

 テッカマン達がその声を認識した時には、既にその大きな金属の塊は眼前へと迫っていた。

 

 その正体は、蘭花の乗る紋章機、カンフーファイターのアンカーアームだ。

 すばしっこく動いていたテッカマンダガーが動きを止めたのをチャンスと感じた彼女の奇襲により、ダガーをアームでキャッチ。そのままブレードから無理やり引き剥がす。

 

 

「しまったぁ!?」

『よいしょおおおおおおおおっ!!』

 ダガーを掴んだまま移動していた蘭花は、カンフーファイターを急停止させる。

 

 流れる様にアンカーが振子の如く慣性の法則に従い大きく弧を描く。

 

 その先には、全兵装のチャージを完了した、四機の紋章機の姿があった。

 

『よくやったね蘭花! 後は任せな!!』

『わたくし達をビックリさせた罪、その命を以て償って貰いますわ!!』

『神の世界への引導を渡します……』

『どかーんと派手にやっちゃいますよ~!』

「やっ、やめろ! うわあああああぁあぁあ!?」

 

 戦艦四隻と同等の火力が一点に絞られ、テッカマンダガーへと降り注ぐ。

 

 いかに強力な装甲に覆われているといえども、流石に耐えられる物ではなくテッカマンダガーの身体はボロボロになり、身体の節々から赤い液体を吐き出し始めた。

 

「ごぷっ……」

 まだ息こそあるものの、ダガーの命は風前の灯火であった。

 

 彼が最早血まみれの指先を動かす事すら叶わないと踏んだ蘭花は、テッカマンダガーの拘束を解き、そのまま他の紋章機と共にテッカマンブレードを援護するべく機首を回頭させた。

 

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