「あんたも財産目当てにフローラに迫ろうっての?」
その問いにリュカは
「そんなつもりはないから大丈夫だよ」
あっさり否定した。
「そう、なら良いわ」
それからデボラは話すことはなく、何杯か飲むとその場を去っていった。
「いやはや、珍しいこともあるものですな」
「何がですか?」
マスターにそう聞くと
「デボラお嬢様がこの時間帯にくるのもそうなんですが、お嬢様は誰かと話すとあまり飲まずに早々に退散してしまうんですよ」
「そうなんですね」
リュカはあまり興味なさげではあるが
「もしかしたらデボラお嬢様は貴方を多少なりとも貴方を気にしているかもしれませんね」
そんな、まさかと笑い飛ばすリュカだったがマスターとウェイトレスの女性は普段のデボラを知っているだけにあながち間違いじゃないかもと思っていた。
「ただいま」
とりあえず、バーのマスターから色々な話を聞いたリュカはピエール達の待つ馬車に戻ってきた。
「お帰りなさいませ、何か情報はありましたか?」
リュカをピエールが出迎える。ブラウンとスラりんはゲレゲレの腹を枕に寝てしまっていた。
「あぁ、ルドマンの家宝の盾を手に入れるにはお嬢さんと結婚しなきゃならないらしい」
家宝の盾を確認するにも婚約者候補にはならないだろうなと、ボヤくリュカ。
「ヘンリーさんとマリアさんはその結婚?とやらをして楽しそうでしたが、主人はしたくないのですか?」
リュカはサラボナに着く前に祝った友人を思い出す。
「幸せな結婚もあるけど、俺は旅人だからなぁ……相手を1人置いてくにしても連れて行くにしても幸せにはできないだろ」
大して知らない相手ならなおさらな、とリュカは話す。
「そうなんですね」
ピエールが一応は納得すると
「結婚はしないつもりだけど、盾を確認するためにも明日はルドマン邸に行ってみるよ」
そして夜はふけていった。
「フローラお嬢様の婚約者候補様はこちらへどうぞ」
翌日、予定通りにルドマン邸に来たリュカは婚約者候補の控え室に通された。
「にしても、こんなチャンスが来るとは思わなかったですよ。フローラお嬢様と結婚すればルドマンさんのバックアップ間違いなしで我が店も安泰です!」
そこには己の欲望を隠そうともしない人がたくさんいたが、端の方には細身の青年が悲しそうに立っていた。リュカは手持ち無沙汰なのもあり、話しかけてみた。
「貴方もあちらの人みたいに?」
「え?あ……いえ、僕はフローラとは幼馴染なんですけど昔から彼女が好きで……」
そう照れながらも話す青年に、まともな人もいて良かったと安堵するリュカ。さすがに欲望ダダ漏れな人ばかりじゃちょっとフローラお嬢様が可哀想だと思っていたのだ。
「皆さま、おまたせいたしました。こちらへどうぞ」
そしてメイドに案内され、屋敷の広い客室へと通された。
「(見つけた!!)」
客室に通されリュカが見たのは暖炉近くに飾られている、天空の剣と同じような装飾を施された盾だった。
「いやはや、お待たせして申し訳ない。今回はフローラの婚約者を選ぶというわけなんですが……」
そこに恰幅の良い男性が入ってきた。サラボナ、ひいては世界的にも有名な大富豪ルドマンその人である。
「私が提示する条件をクリアした者を婚約者とし、さらに家宝の盾を証として譲ろうと思っております」
そう話していると
「何だか騒々しいと思ったら、例の婚約者候補?誰も話にならなさそうね」
「デボラ!!お客様に何を言うか!?」
下がってきたデボラはが辛辣に言うとルドマンはそれを叱るが
「あら、アンディ……あんたもフローラの婚約者候補のつもり?あんたみたいなのがフローラと結婚だなんて100万年早いわ」
「そ、そんなぁ……」
ルドマンの実績などどこ吹く風のデボラから、さらに追い討ちをかけられる細身の青年アンディ。
「デボラ、下がってなさい!!」
「はぁ、わかったわよ……」
そう言い下がるデボラ。その時リュカと目があったが、そこには僅かに落胆の色があった。
「娘が失礼しましたな。改めて、フローラの婚約者となる条件ですが……それは、この大陸にある炎のリングと水のリングの2つの指輪を持ってくることです」
そしてそれぞれは南方の火山と北の巨大な滝の洞窟にあると言う伝承も告げてきた。
「では、期待していますぞ」
そしてルドマンが退室すると
「とんでもない条件を出されましたな」
そう口にしながら出て行く人が多かった中、アンディは何か決意しているようだった。
「(さて、準備するかな)」
そんな中、天空の盾を手に入れるためにリュカはあくまでマイペースに構えるのだった。