「アンタはきっと、近日中に騒動に巻き込まれるよ」
今年も半ばに入ったある晴れた日の昼、胡散臭い占い師のオバチャンが言った。
新宿のこの一角はとても静かで、都心部とは思えない。
ビルとビルの間からカップルや家族連れの姿が見える。
隣に見えるおっちゃんのラジオは大音量で競馬の結果を流している。
「へぇ、俺を女の子達が取り合ったりするのかな?
モテ期到来って訳だ」
鈴木明は手に持ったパピコを2つに折りながら聞いた。
占い師のオバチャンは鈴木の目を見つめたまま言う。
「恋愛運に変化は無いけど、アンタは何かに巻き込まれて暫く家には帰れないだろうね。」
と、オバチャンは言う。
サラッと失礼な事を言う奴だな、と鈴木は思ったが、黙ってオバチャンの話を聞く事にした。
「あとは…近いようで遠い所に連れてかれるね。」
「なんだそりゃ。どこの事だよ。」
「そりゃとても遠い場所だよ。」
予言の内容があやふやでどうにも信用出来ない。
実は鈴木、この占い師のオバチャンの事を声を掛けられた時からあまり信用していない。自分に目をつけたかと思うといきなり占い料として2000円を要求してきたのだから。尤も、払ってしまった自分にも非はあるのだが。
「やめとけやめとけ、その婆ちゃん、ぼったくりだぞ。
たまに予言が当たるって評判だったが今はこのザマだ。」
急に後ろから声をかけられ、鈴木は後ろに振り向いた。
さっきの競馬のおっちゃんが新聞を小脇に挟んで立っている。おっちゃんは「じゃあな」とだけ言うと向こうに見える人混みの中に入って行ってしまった。
「とにかく用心した方がいいよ!」
オバチャンが強く言う。
「へいへい。わかりましたよ。」
鈴木はこの予言を全く信用していなかったが、おっちゃんの「昔は予言が当たる事があった」という発言と、オバチャンの妙な雰囲気に当てられ、心の隅には留めておくことにした。
鈴木が別れの挨拶をするとオバチャンは少しだけ手を振った後、新聞を読むのに精を出し始めた。
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鈴木は足早に大通りに出た。
バックからスマートフォンを取り出し、目的の番号にかける。7回という長いコールの後、若い男の声がする。
「はい、黒澤です」
「今から事務所に帰るけど、先に事務所に行っておいて。」
「了解した。お目当ての物は買えたのか?」
「ああ、買えたぞ。次の文化祭で使うヅラ。」
「そうか。では事務所で待っている。」
通話はそっけなく切られてしまった。
あ、他のメンバーにも声を掛けるように言っておけば良かったな、とも思ったが 別にいいか、と思った後鈴木は
江東区にある自分の事務所…もとい自分の家に向かう為に足早に新宿を後にした。
プロローグなのでめちゃくちゃ短いですね…!
今回は周りの環境を文で書き表す事に力を入れてみました!
まだ幻想郷にも突入していないですが暖かい目で見ていただける有難いです。