ありふれた愛が欲しいだけの人生だった   作:愚か者

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あまり長くお待たせするのも心苦しいので少しだけ投下。



胎動

 

 

 イシュタルと名乗る老人に連れられ、私たちは幾つもの大きなテーブルが並んだ広間に通された。上座から順に、畑山愛子先生や天之川君達四人組が席に着き、彼らの取り巻きもそれぞれが適当に座っている。ちなみに私は後方にあった手近な席に座り、うつらうつらと船を漕いでいた。

 

 侍女と見られる人達がその場にいる全員に飲み物を給仕した後、イシュタルがこの状況についての説明を始めた。

 

 彼が言うには、この地はトータスと呼ばれており、私たちに住む日本とは異なる世界にあるらしい。

 現在トータスでは、人間族と魔人族が数百年にも渡る戦争を繰り広げているという。それぞれの力は拮抗していたものの、近年になって魔人族が魔物の使役を行い戦力として投入し始めた。それにより、これまでの均衡が崩れ人間族は滅びの危機に瀕している。

 そこで、世界の創造主であるエヒト神が人間族の滅亡を回避するために、上位世界に存在する私たちを召喚した、というのが事のあらましのようだ。

 

 ──なんとまあ、身勝手な話だ。

 

 話の全てを信じたわけではないが、この世界の勝手な都合で誘拐同然の事をされ、戦争にまで参加しろとはな。この世界の神はいい性格をしている。……私の頭に直接語りかけてくる男も、エヒト神とやらなのだろうか。

 傲慢な神を盲目的なまでに信仰しているイシュタルらを含めて、この異世界はかなり歪(いびつ)だ。早々に元の世界に帰してもらいたいが、おそらくは……。

 

 生徒を守るためか、愛子先生が立ち上がり猛然と抗議の声を上げる。

 しかし、イシュタルが放った一言に、先生や生徒たちは凍りついた。

 

「お気持ちはお察しします。しかし……あなた方の帰還は現状では不可能です」

 

 その場が静寂に包まれる。

 

 生徒たちは軽いパニックに陥っているが、私は先ほどの話である程度の予想は出来ていた。

 この手の輩は相手を盤上の駒のようにしか見ていない。自らの望みを叶えるまで、私たちを決して逃がさないだろう。神官達も私たちを通してエヒト神を見ているに過ぎない。何を言っても無駄だ。

 私は頭に響くく(・)ぐ(・)も(・)っ(・)た(・)声(・)に、心の中で抗議した。

 

 そうしていると、誰かがテーブルを叩く音が。

 

 その場にいる全員が音の聞こえた方へと注目し、私もそちらへ顔を向けると、天之川君が立ち上がっていた。どうやら彼は、この世界を救うために戦争へと参加するつもりのようだ。

 

 ……ここにきて、彼の悪癖が出てしまったか。

 彼の発言を受けて、坂上君と八重樫さん、それに白崎さんが賛同する。

 

 こうなってしまっては、クラスメイトが戦争に参加することを止めることはできないだろう。愛子先生が必死になって流れを止めようとしているが、天之川君のカリスマの前では無力だった。

 ……イシュタルはこの状況を見越して、天之川君を扇動するよう誘導していたのか? だとすれば、彼はなかなかに油断ならない相手のようだな。教皇という立場なだけはある。

 

 こうして私たちは全員が戦争へと参加することになってしまった。

 

 

 

 

 私たちは戦いの術を学ぶために、今いる『神山』の麓にあるという『ハイリヒ王国』へ向かうことになった。

 ……まさかこの教会が山の頂上に建てられていたとは。空気の薄さなどは感じなかったのだが、これも異世界の技術だろうか。

 

 王国に向かうため教会の門から外に出る。

 目の前には、陽の光を反射して煌めく雲海と、透き通るような青空が広がっていた。頭(・)に(・)響(・)く(・)鐘(・)の(・)音(・)も合わせて、どこか私たちを祝福しているようにさえ思える。

 その光景に惚けている私たちを見て、どこか自慢げな顔のイシュタル。悔しいが、こればかりは見事と言うしかない。

 

 彼に促されて先に進むと、柵に囲まれた巨大な台座が見えてきた。あれに乗れということか。台座には魔法陣のようなものが刻まれている。おそらくは、この紋様の力で移動するのだろう。

 私たち全員が乗り終えると、イシュタルが何かを唱え始めた。

 

「彼の者へと至る道、信仰と共に開かれん──〝天道〟」

 

 その言葉と同時に足元の魔法陣が輝き出して、台座が滑らかに地上へと下っていった。

 

 初めて見る魔法に皆が騒ぎ出す。

 かく言う私も、この光景を見るまでは魔法などについての話は半信半疑だったのだが、実際にこの目で見てしまえば信じる他なかった。

 

 雲海を抜けると地上の様子が見えてきた。どうやらあれがハイリヒ王国の都らしい。この台座は王宮へと繋がる塔の頂上に続いているようだ。

 

 ──これではまるで神の降臨だな。

 

 神山から降りてくる台座の演出に、私は苦笑した。

 

 

 

 

 王宮に着いた私たちは、真っ直ぐに玉座の間へと案内された。

 扉を潜った先には、レッドカーペットが延びた奥に位置する玉座の前で、王と見られる男性が立ち上がって待っていた。どうやら教会の力は国の中枢にまで及んでいるらしい。まあ、密接な関係があることは聞いていたのだが、教皇の方が立場が上だとは。中世ヨーロッパでの宗教観に近い考え方を持っているのだろうか。ハイリヒ王国は聖教教会の下についている、という事は覚えておいた方がいいだろうな。

 

 教皇と国王のやり取りが終わると、私たちに王族や国の重鎮達の自己紹介が行われ、その後に晩餐会が開かれた。王子であるランデル殿下がしきりに白崎さんに話しかけていたのは印象に残っている。

 

 ちなみに、異世界の料理はとても美味しかった。

 

 

 

 

 王宮では私たちの衣食住も保障されているとの事で、晩餐会が終わり皆と解散した後、各自に与えられた部屋へと案内された。

 一人一室、天蓋付きのベッドまであるとは太っ腹なことで。

 私としては、家事を行えないとなると自らの取り柄が無くなってしまい非常に困るのだが……。

 

 そこまで考えたが、この世界では働く必要性はなく、私の役目は戦争を終わらせて皆を元の世界に返すことなのだと思い至った。

 天之川君達が戦う意志を固めている以上、彼等や教会と対立するより、まずは協力して戦争を終わらせる事に集中した方がいい。そうすれば私たちの要望も通りやすいはずだ。

 ……実在する神が下界に干渉してもなお戦争が終わらないことに若干の違和感を覚えるが、これは今の段階では考えても仕方ない。それだけ魔人族が手強い相手だということだろう。

 

 一人納得した私は、ベッドに倒れ込み睡魔に身を委ねた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 普段の数倍もの睡眠をとることが出来たので、今日はいつもより頭が軽い。心なしか体の調子も良いように感じる。こんなにゆったりとした朝を迎えるのは何年ぶりだろうか。

 

 これから早速訓練が始まる。

 騎士団長のメルド・ロンギスさんが直々に私たちの訓練の様子を見てくれるらしい。

 

 まず、訓練施設に集まった私たちにスマートフォンほどの大きさの銀色のプレートが配られた。団長さん曰く、これは『ステータスプレート』と呼ばれており、自らの客観的な強さを数値化して示してくれるかなり便利な物らしい。身分証も兼ねていると言うので、無くさないようにしなければ。

 ステータスプレートについての説明を受けた私たちは彼の言う通りに指先に針を刺し、浮き出た血を一滴、プレートに刻まれた魔法陣に垂らした。すると、魔法陣が淡く輝き能力値が表示された。

 

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神代愛 17歳 女 レベル:1

天職:司教

筋力:20

体力:30

耐性:100

敏捷:20

魔力:100

魔耐:100

技能:大いなる時間・災厄の花・再生の卵・契約・全属性適正・全属性耐性・回復魔法・複合魔法・高速魔力回復・読心・言語理解

============================

 

 ……このように表示されるのか。

 

 自分の能力値(ステータスと呼ぶらしい)の他にも、所持者の名前や年齢まで見ることが出来るのは便利だな。これならば説明の通り、身分証としても十分機能するだろう。

 気になるのは、技能の一つに災厄と書かれているものがある事だ。これは……?

 

 他の生徒たちと同様に自らのステータスを興味深く眺めていると、メルド団長から表示された各項目について説明がなされた。

 

 レベルはその人間の限界値、天職と技能は才能を指すらしい。ステータスを上昇させることで共にレベルが上がるのだが、技能は先天的なもののため、レベルが上がっても基本的に増えることはないようだ。

 異世界においても、唐突なパワーアップが見込める都合のいい方法はなさそうか。

 これからはステータスを上げて強くなる為に、日々の鍛錬で地道に腕を磨いていくべきだろう。幸いにも私たちはこの地の人々に比べて数倍の能力を備えている。戦いの役に立てない、という事は起きないはずだ。

 ……天職である司教が戦えるならば、の話だが。

 

 説明が終わり、生徒たちが次々とステータスプレートの内容を報告する中で、南雲君が冷や汗を流し狼狽えているのが見えた。声をかけるべきだろうか?

 だが、その前に私のプレートの内容を報告する順番が回ってきた。彼の様子は気になるが、私が気にするまでもなく愛子先生か白崎さん辺りがフォローするだろう。それに、今まであまり接点がなかった私が声をかけたら、彼を動揺させてしまうかもしれない。

 

 これらの考えを頭の隅に追いやり、私は団長にプレートを見せた。

 

「ほう? 非戦系ではあるが、かなり魔力に秀でたステータスだな。見慣れない技能が多いが、これならば後衛としても不足はないだろう。レベル1で三桁が幾つもあるとは、君も中々に規格外だな!」

 

 ……よかった。どうやら問題はないようだ。

 気がかりだった災厄という項目も、前後にある『大いなる』『再生』の言葉と一括りにして、天職に関わる信仰系技能だと団長は推測していた。これで安心できる。

 

 私がプレートを見せ終わると、白崎さんと八重樫さんがこちらへやってきた。

 

「神代さん! ステータスの内容はどうだった?」

 

 白崎さんは屈託のない笑顔でそう言った。

 どうやら彼女たちは戦闘系の天職だったようで、天之川君と同様の優れたステータスを得ることが出来たと喜んでいる。……いや、八重樫さんはともかく、白崎さんは世界ではなく南雲君を守る力を得られたことが嬉しいのかもしれない。

 私は自らのステータスプレートを見せ、天職が非戦系であることを話した。

 

「天職が司教だからか、変わった技能が多いわね……」

「非戦系でも回復魔法が使えるのは私と同じだよ。一緒に頑張ろうね!」

 

 八重樫さんは真剣に私のステータスについて考えており、白崎さんは自分との共通点があった事を喜んでくれた。

 以前から白崎さんと接点があったからか、最近は八重樫さんも私に話しかけてくれている。異世界への転移という状況の中でも変わらずに接してくれるのは、ひとえに彼女たちの優しさだろう。もしくは、異邦の地で突然戦争などということに巻き込まれて、不安に思っているのかもしれない。

 それならば、私が少しでも二人の不安を軽くするために行動しなければ。昔、私が白崎さんに助けられた様に、今度は私がこの二人を手助けする番だ。少しずつでも恩を返して、改めて友だちとして接したいと思っている。そのためにも、彼女たちと一緒に訓練して強くなるんだ。

 

 白崎さんが、ステータスプレートの件で落ち込む南雲君に駆け寄って行く。

 八重樫さんがその様子を見て苦笑いを浮かべるのを尻目に、私は密かに決意を固めた。

 

 




DOD作品を読みたいが為にシリーズの厄ネタを全部のせてしまった。
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