ポケットモンスター。縮めてポケモン。
この星に生きる不思議な不思議な生き物。
ある者は海に、山に、空に。
この星のあらゆる場所に生息している。
目覚めた俺がいたのはそんな世界だった。
ゲームで愛用していた厨ポケと共に。
「なんじゃこりゃあぁぁぁああああ!」
俺の悲鳴が響き渡った。
ポケットモンスターというゲームがある。
今年で20周年を迎えた長寿人気ゲーム。
昔俺もそれはそれはハマってやり込んだものだ。
ところで皆さんは、とりわけどのタイトルに思い出が残っているだろうか。
俺はエメラルド、ダイヤモンドだろうか。
当時まあそれなりは成長していた俺の記憶によれば、毎日毎日家に帰ってきては一人で冒険に出かけ、休日には友達と対戦したり交換したり。
そんなことばかりしていた記憶が残っている。
思い出が残っているのはその二つなのだが、やり込んだといえるのはポケットモンスターYというシリーズだ。
当時店頭で見た看板ポケモンのイベルタルに一目惚れし、なけなしの金をつぎ込んで購入した。
もちろん新規追加のメガシンカは俺の胸を騒がせ、それはそれはメガストーンを求めてあちこちを飛び回ったものだ。
しかし俺がこのゲームで一番力を入れていたのは「厳選」だ。
親とメタモンでひたすら卵を産ませ、育て屋の前の道やミアレタワーの周りをただひたすら走り続けたのは懐かしい話だ。
当時、オンライン環境がないクソ田舎に住んでいた俺は、その厳選したポケモンたちを使ってひたすらバトルハウスやバトルシャトーで戦っていた。
その時愛用していたのが、ガブリアス、ゲンガー、ガルーラ。
俗に言うガブガルゲンというやつだ。
こいつらはそれはそれは強力なポケモンたちだった。
当時友人にそそのかされ、友人の家で印刷してもらった攻略Wikiの紙を片手に育てあげたのだが、あら不思議。
旅で使っていた相棒たちよりはるかに強いではありませんか。
俺は若干強キャラ厨みたいなところがあるが、この三匹はその中でも特にお気に入りだった。
さて話を戻そう。
目が覚めたら知らない天井が見え、知らないベッドで寝ていて、へやには巨大な謎の生物たち。
驚かないはずがないではないか。
悲鳴をあげたのも仕方がないことだ。
だがその悲鳴のせいで謎の生物たちの目が覚めたご様子。
育てていたポケモンと酷似した特徴が見て取れるが、中身まで同じポケモンだとは限らない。
ここはその確認から入るべきだろう。
願わくばゲームで俺が育てたポケモンたちであることを祈って。
「さ、三人はどういう集まりなんだっけ?」
このあとめちゃくちゃ舐められた。
心配は杞憂だったようで、彼らは俺の知っている三匹であるようだった。
率直にゲームで育てた三匹なのか問いかけたら頷いていたし間違いない。
なんで自覚があるのかは置いておいて、ポケモンとはいえ知り合いがいるのは少し心強い。
窓から見える景色はまるで日本のものとは思えなかったから。
なんかフランスっぽいとは思ったけれど。
まずポケモンがいる時点で地球ではないんだけどね。
それからここがどこなのか確認したところ、どうやらここはハクダンシティのポケモンセンターらしい。
案内板に書いてあったし間違いないだろう。
持ち物も確認したのだが、その中からトレーナーズカードが出てきた。
どうやら俺の名前はダンというらしい。
俺の体ごとこちらに来たんじゃなくて、意識だけがこちらに来た形になるのか。
なんか元の体の持ち主にはすごく申し訳ない。
申し訳ないのだけど、そればかりじゃいられない。
まずは現状を把握することを優先したい。
あれから二日が経った。
色々確認できた。
まず食料に関しては問題ない。
トレーナーズカードがあればポケモンセンターでは無料で食事ができるようだ。
それに宿泊費も無料。
洗濯だって無料でできる。
もちろんポケモンの怪我も治してもらえる。
なんだこの神施設。
六年長持ちする非常食も水もバッグに入っていたし、テントもあったので旅に出てもすぐに餓死する心配はない。
生活面に関してはポケモンセンター側のサービスが手厚いため問題はない。
一番気になっていたポケモンの強さなのだが……
はっきり言って強すぎた。
一日目に現状把握し、二日目にジムに挑んだのだが完膚無きまでにボコボコにしてしまったのだ。
ハクダンジムのジムリーダーはビオラ。
虫ポケモンの使い手だ。
ジムへの挑戦権はトレーナーズカードがあることが条件らしく、ものは試しだと挑戦してみた。
結果はこちらの完勝だった。
二対二の勝ち抜きバトル。
ビオラの初手はアメタマ。
こちらの初手はガブリアス。
ガブリアスはほのおのきばを搭載しているため選抜した。
まず、そもそもこちらに攻撃が当たらない。
俺は終始「躱せ」と「ほのおのきば」しか喋らなかった。
アメタマにはこうかばつぐんではないのだが一撃で倒すことができた。
アメタマの次に出てきたビビヨンも十秒もかからず倒せた。
これはもしかしなくなても努力値とか知らない感じの世界なのだろう。
でなければおかしい。
ジムリーダーがこんなに弱いはずがない。
こちらを見ている審判の人やビオラさんの目線に耐えられなかった俺は、ジムバッチを受け取ってすぐにジムを出た。
とまぁ、二日間で起こったことはこんな感じだった。
冒険に出ても生活面でも、戦闘面でも困ることはなさそうだ。
男なら一度は憧れる、冒険。
それがこの世界でできるのなら選択肢は一つだけだろう。
俺はこの世界でゲームで育てた厨ポケと共に冒険して、いずれチャンピオンになる。
行動方針が決まった俺はこの街の外へ最初の一歩を踏み出した。
「なんなのあの子……」
ハクダンジムリーダー、ビオラは戦慄していた。
先程訪れた新米トレーナーの件だ。
初めはバッジを一つも持っていないというので、少し手加減するつもりだった。
最初のジムでコテンパンにやられて心が折れないトレーナーは少ない。
ジムはあくまでトレーナーを導くもの。
心を折るものではない。
そう考えているビオラは無力さを味あわせ、成長を促すことはあっても、本気を出して新米トレーナーの心を折ったことはない。
今回もそのポリシーに従うつもりだった。
しかし彼の繰り出したガブリアスを見て考えを変えた。
この地方ではフカマルはあまり見かけないポケモンだ。
しかもその最終進化まで辿り着いたガブリアス。
只者ではないとトレーナーとしての勝負勘で感じ取ったのだ。
その考えは正しかった。
そして甘かった。
彼のガブリアスは今まで目にしたことがないほど速く、そして攻撃が重かった。
ビビヨンを繰り出したときはジムリーダーとしてではなく、自分が挑戦者であると自覚し、本気で挑んだ。
しかし、十秒と保たなかった。
彼はジムバッジを受け取るとすぐに帰っていった。
「あの少年凄まじい強さでしたね。末恐ろしい……」
審判を務めてくれている弟子の女性が話しかけてきた。
「ええ、そうね」
「あれは現段階でも四天王にも匹敵するのではないでしょうか。あれで無名とは……」
「いいえ、違うわ」
「え?」
──あれは過去に目にしたチャンピオン以上の強さだった。
そんな逸材がこれからカロスに名を轟かせるのかと思うと、恐ろしく感じた。
しかしそれ以上にビオラはワクワクが止まらなかった。