ちょっとおまけで満足できない。【完結】   作:イーベル

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さて、いよいよ塚原先輩とクリスマスデートです。全力で楽しんで下さい。


SELECT 11

    ……一方その頃

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 シャワーを浴びて、鏡の前で髪を乾かす。

 明日は創設祭。その後片付けが終わったら引退。だから今日は実質、最後の部活動だった。

 たぶん、ちょっと前の私だったらこの世の終わりみたいな顔をしてシャワーを浴びていたと思う。でも今はそんな事はない。明日に楽しみな事があると知っているからだ。

 クリスマスイブ。

 この日がこんなに待ち遠しくなるだなんて、去年は想像もしていなかった。これもきっと彼と約束をしてくれたからなのだと思う。

 

 明日、最初に会ったらなんて言おう。

 明日、彼はなんて言ってくれるだろう。

 考えるだけで、気持ちが昂っていく。

 

「……私、こんな顔できたんだ」

 

 自然に浮かんだ表情に自分で感心してしまう。始めからこんな風に笑えたらどれだけ楽だったのやら……。

 

「これも橘くんのおかげなのかな」

 

 確かめるようにつぶやくと、体がどんどんと熱を帯びていく。紅く染まっていく。そういった変化を自覚するとそれがより一層際立っていく。

 まいったな……こんな状態じゃちゃんと寝れるかわからないや。ひとまずコンセントを抜いて、鏡から離れることにした。この笑顔を彼の前でできますようにと祈りながら。

 


□ 確認     * 行動が実行されました    〇 次へ

[]


 

 

 学校に向かう桜坂。そこに向かうと一足先に塚原先輩が着いていた。いつもの制服姿に空色の手袋。肌に吹きかける息は白く色づいて天へと昇っていく。

 僕は駆け足でそこへ向かった。

 

「すいません! 待たせちゃいました?」

「ううん。準備が思ったよりも早く片付いたから前倒しで来ただけ。気にしなくていいよ」

「そうは言っても……」

「そう言ってる時間がもったいないでしょ? 早く行くよ」

 

 塚原先輩は足早にこの場から離れていって「待って下さいよ」と背中を追いかけた。

 校門のアーチをくぐって、デコレートされた校内を二人で並んで歩く。

 

「こうやって見るとすごい綺麗ですね」

「うん。準備も大変だったけど、やったかいがあったかな」

 

 運動部はこの時期いろんなところに駆り出されると、梅原も言っていた気がする。塚原先輩も例外では無いのだろう。だから余計にこの景色に充実感を覚えるのだと思う。 

 そんな事を考えていると、歓声がこちらまで聞こえてくる。

 

「盛り上がってますね。ステージの方ですかね」

「あ、開会式かな? 見に行かない?」

「そうですね」

 

 ステージに付くと塚原先輩の言う通りに開会式が行われていて、丁度絢辻さんが登壇した所だった。

 

『皆様、本日は東日輝高校創設祭に──』

 

 マイクの前に立った絢辻さんは、実行委員の挨拶を一つのほころびもなく遂行して見せた。大人顔負けのその立ち振る舞いは会場の拍手をかっさらう。

 

「やっぱり、こういう挨拶を聞くと始まったって感じがするね」

「そうですね。塚原先輩は毎年聞くんですか?」

「一年の時は聞いたよ。二年の時は自分が話す側だったから、ちょっと浮足立ってたな……懐かしい」

「塚原先輩でも、ああいう所は緊張するんですか?」

「するよ。私を何だと思ってるの?」

「才色兼備、学内に敵なしのウルトラ美人、とか?」

「調子いいこと言って。もう……」

 

 塚原先輩が視線をそらして、頬をかく。その仕草にボクも釣られて、恥ずかしくなってしまった。勢いでとんでもないことを言ってしまったものだ。

 その羞恥心を誤魔化すために僕は話を切り替えることにした。

 

「開会式も終わりましたし、どこから回りましょうか」

「そうね。いろいろ見て回りたいけれど、サンタコンテストを見たいの。だからそれまでには戻ってきたいんだけど、いいかな?」

「はい。僕も見たいので、大丈夫です。じゃあ間に合うように回りましょうか」

「ありがとう。じゃあ行きましょうか」

 

 それから、茶道部の二人の先輩にからかわれたり、水泳部のおでんを買いに行って同級生の子からもからかわれたりした。その他にも紆余曲折あったけれど、最終的にもう一度ステージに戻って来る。

 すると、手を大きく振って、ひときわ目立つ女性が僕たちの方に向かって来た。

 

「ひびき~。橘く~ん」

「あれ、はるか。はるかもコンテストを見に来たの?」

「もっちろん! 今年は参加しないけど、その分ばっちりと見させてもらうんだから!」

 

 そう森島先輩は意気込む。観戦するだけだというのに気合十分だ。と言う事はサンタコンテストにはそれだけの美女が毎年集っていると言う事なんだろう。

 これは楽しみになって来た。

 

『さて、それではいよいよコンテストスタートです』

「丁度、始める所みたいね」

「ええ、楽しみですね」

 

 コンテストが始めると、一人一人呼ばれてセクシーなサンタ衣装を披露し始める。どの子もレベルが高い。高いが……。

 

「とびぬけてる人がいるわけではないですね」

「むむっ、橘君。冷静な分析ね」

「そうかな、十分かわいい子だと思うけれど」

「甘いわね、ひびきちゃん! いい? まず──」

 

 塚原先輩に森島先輩が熱弁を振るい、隣で聞く僕も頷く。そうしている間にもコンテストは進んで、結果発表を迎えた。

 

『皆様! お待たせしました! いよいよ優勝者の発表になります!』

 

 会場がより一層盛り上がって、発表を今か今かと急く気持ちをドラムロールが掻き立てる。

 

『栄えあるミス・サンタクロースに選ばれたのは……伊藤香苗さんですっ!!』

 

 一瞬の静寂の後降り注ぐスポットライトが当たったのは、僕の知り合いでもある香苗さんで、その事に少し驚く。まあ確かにセクシーな衣装にキュートなルックスも人気だったからな……。

 それは隣の先輩達も同じ意見みたいだった。

 しばらく、インタビューに答える香苗さんを眺めていたのだけれど、その途中彼女はとんでもないことを言い出した。

 

『森島先輩に勝たなければミスサンタとは言えない!』

 

 そう二連覇中の森島先輩が参加しない。その想いは確実に会場にシコリとしてあった。それがここにきて爆発したのである。

 そして大発生する森島コール。その原因の本人は、かなり戸惑っていた。

 

「はるか、呼ばれてるなら行かなきゃ」

「え? ひびきちゃんったら困ったこと言って。面白そうだし、行きたいのはやまやまだけど、衣装だってないのよ」

 

 まあ、それは確かに。だって急すぎるし。

 

「衣装なら……あるわ」

「え、あるんですか!?」

「ええ、私が作ったのがね。部室に置いてあるから、取りに行ける」

「でもひびきちゃん……いいの?」

「勿論。着られないで押し入れに行くより、晴れの舞台で来てもらった方が嬉しい」

「ひびきちゃん……」

「ただ、これを着るからには三連覇してきなさい」

 

 その言葉を受けて森島先輩は覚悟を決めたようだった。大きく手を上げて名乗り出ると、塚原先輩と共に衣装準備の為に姿を消す。

 待つこと数分。塚原先輩が手伝いを終えて戻って来た。

 

「お待たせ」

「いえ、それほどでは。森島先輩はもう行ったんですか?」

「うん。もう少ししたら出てくると思うよ」

 

 キラキラと輝く景色を見つつ、唐突な事で聞き損ねた事を聞くことにした。自分だけが知らないことがあるなんて、嫌だったからだ。

 

「塚原先輩」

「ん? なに?」

「どうしてサンタ衣装なんて持ってたんですか?」

 

「私ね」そう彼女は語り始める。渋ることなく、懐かしむような声色だった。

 

「去年はサンタコンテストに出たかったのよ。衣装まで作って、気合入れてね」

「成程……あ、でも先輩って実行委員長だったから、やっぱり忙しかったんですか?」

「ううん。そんな事はないよ。まあ、確かに忙しかったけど、そこまでじゃない。建前としては使ったけどね」

 

 塚原先輩は首を振りながらそう言う。

 

「じゃあ、どうして辞退したんですか?」

「……恥ずかしかったの。自分で作っておいてなんだけど、衣装も過激だったし。それを着て、ステージに立てる自信も無かった。この時期になって思い出してね。つい、持ってきちゃったのよ」

 

 語り終えた彼女は愛おしそうに空になった紙袋を撫でる。

 それを眺めている僕は一つだけ追加で問う。

 

「……塚原先輩は、後悔してますか?」

「してたんだろうけど、今は、そうでもない。自分はコンテストに出られなかったけど、はるかが衣装を着て出てくれる。それで充分」

「塚原先輩……」

「さっ、出て来たよ!」

 

 塚原先輩がステージを見る様に促した。大歓声の中、森島先輩が姿を現す。その柔肌の上に映える赤色の衣装は、間違いなくこのコンテストでは最上の輝きを放っている。

 その輝きは他の観客にも伝わったようで、森島先輩を前代未聞の三連覇へ導いた。

 

 

 激動のコンテストが終わりを告げた。森島先輩が木の裏で着替えていたことが発覚したり、温かいココアを差し入れたりと、いろいろあった。

 その中で印象的だったのはやっぱり、コンテストが終わった後の塚原先輩だ。

 周りに比べて、その喜びの表し方は控えめであった。けれど、他の誰よりも森島先輩の優勝を自分のことの様に噛みしめているのがはっきりとわかる。

 だって、あの塚原先輩が思いっきり腕を振ってガッツポーズするなんて……僕には考えられなかった。

 

 そして、今は立ち入り禁止の校舎に僕らはいる。着替えの為に特別に用務員さんに許可されたのだ。

 空き教室で着替える森島先輩を待つことしばらく。ガラガラと引き戸が開いた。

 

「おっまたせ! はい。ひびきちゃん。ありがとね」

「確かに受け取ったわ。お疲れ様、はるか」

「ううん。私は楽しかったし、疲れてないけど……洗って返すって言ってるのに、良かったの?」

「良いの。これは私がやるから」

「……なら、いいけど。じゃあ、そろそろ私行くね。ひびきちゃんの邪魔をし過ぎちゃったし」

「邪魔だなんて、どうしたのはるか。急にしおらしくなっちゃって」

「そう言う所。空気読めないと嫌われちゃうぞ」

「それ、はるかに言われたくないんだけど」

「ふふっ、そうかもね」

 

 ふらりと森島先輩が塚原先輩の前から退いて、僕を見た。寂しさと嬉しさが混ざり合ったみたいな笑みを浮かべ、彼女は僕の肩に手を当てる。耳元で小さく呟く。

 

「橘君。ひびきちゃんをよろしくね」

「え……あ、はい」

「もうちょっと元気に返事をして欲しかったかなぁ……。まあ、それは今後の課題ね」

 

 森島先輩は僕に返して、また塚原先輩を見た。

 

「ひびきちゃんってさ。他の人の時は鋭いのに、自分のことだと鈍くなるよね」

「え? それどういう意味?」

「ちゃんと空気を読んだ方が良いってこと。じゃあね!」

「あ、ちょっと待ちなさい。はるか!」

 

 塚原先輩の制止を振り切って、森島先輩はものすごい勢いでこの場から去っていった。二人で残された僕らの間には、ちょっとした沈黙と気まずい空気が流れていた。

 それに耐えきれなくて口を動かす。

 

「すごい勢いで行っちゃいましたね」

「そうね。言いたい事だけ言って……はぁ。全く」

 

 口ぶりに比べて、塚原先輩の顔はちっとも嫌そうじゃ無い。僕がそんな表情が引き出せるようになるのにあと、何年もかかるのだろうなって思う。森島先輩が羨ましい。

 

「ねえ、橘君。ちょっと歩かない? 夜の学校ってなかなか入れないでしょ?」

「良いですよ。今なら──塚原先輩のクラスにも行き放題ですしね」

「何それ。別に普段から来てもいいのに」

 

 塚原先輩が口元に手を添えて笑う。……良かった。ついうっかり露出とか口走らないで。気が付かないうちに崖っぷちにいるとは思わなかった。

 

「じゃあ、私のクラスに行ってみようか」

 

 僕は「はい」と頷いて、二人で歩き始める。何気ない会話が廊下に染み込んでいく、非日常的な感覚。階段を叩く足音の調べが鼓膜を振るわせて、気持ちを昂らせた。

 それが最高潮に達しようとしたとき、彼女の教室にたどり着く。

 引き戸を開けて、僕が入る事の無かった空間に足を踏み入れる。

 人のいない教室。窓ガラスと僕たちを遮るものは存在しなかった。

 下の明かりがうっすらと届いて、その上をひらひらと白の粒が落ちていく。

 

「見て、橘君。雪が降り始めたよ」

「ええ。今日はクリスマスに雪って良いですよね」

「うん。ロマンチックだね」

「……はい」

 

 二人で窓のそばに向かって歩く。届きそうで届かない雪を目の前で眺める。

 クリスマスツリーにライトが灯って、二人して声が漏れた。

 世界中に二人だけだと錯覚してしまうほどの雰囲気の中、彼女と目が合った。

 

「ねぇ、橘君。聞いて欲しいことがあるの」

「……はい。なんですか」

「ずっと、待たせてたでしょ。応えたいの。君の……気持ちに」

 

 ずっと待っていた出来事が、今、始ろうとしていた。震える指先を取り繕って、僕は頷いた。

 

「私は……塚原ひびきは、橘、純一君のことが──好きです」

「やっと、ですね」

「意地悪言わないで。自分でだって、嫌なことしてるって分かってたんだから」

「はははっ、ごめんなさい。でも、一生に一回しか言えないって思ったら、言いたくなっちゃって」

「……もう、そんなこと言ってたら、愛想尽かしてどこか行っちゃうよ?」

「それは、勘弁してほしいです」

「素直な子は好きだよ。それに、やっとなんだから。こんな事で愛想を尽かしたりしない」

 

 彼女は僕との距離を詰めて、僕に抱き着いた。

 柔らかな肢体と、その熱が存在を主張する。僕は圧倒されつつ、恐る恐る身体に腕を回す。

 

「橘君、私のこと、好き?」

「この間言ったじゃないですか」

「もう一度聞きたいの。ダメ?」

 

 眼と鼻の先の彼女が首を傾げた。潤んだ瞳が拒否を許さない。

 

「好きです。世界中の、誰よりも」

「……じゃあ、恋人関係成立ね」

「……はい」

「ねぇ。橘君。もっと、強く抱きしめて貰ってもいい?」

「勿論、いいですけど。痛くないんですか?」

「痛いぐらいがいいの」

 

 塚原先輩が笑う。腕に込める力を強くする。彼女の存在が自分の中でより一層大きさを増していく。

 

「これからは、もっとこういう、恋人らしいことをしていきましょう。お互い、我慢してたと思うから」

「そうですね。いっぱいありますよ、先輩としたかったこと」

「そうなの? 例えば、どんな?」

 

 彼女の問い。それに僕は間髪開けずに答える。どうしてもしたい事が、一つあった。

 

「ひびきって呼びたいです」

「いいよ。……純一」

 

 頬が紅く染まる。その色は温かみがあって、見ていると愛おしさが増していく。

 衝動を抑えきれなくなった僕らは、距離を近づけあって、二度目の口づけをした。

 

 

 

 

 

塚原 ひびき スキエピローグ B E S T

 

 

 

 

 あれからもう一年が経とうとしている。

 私は大学へ、彼は受験生へとステージが上がって、慌ただしい時間を過ごしている。忙しくて、会えない日も多いけれど、二人の時間は格別だ。

 

「これ、プレゼントなんだけど」

 

 観覧車の中で彼から箱を受け取る。

 

「ありがとう。開けてもいいかな」

「勿論」

 

 頷く彼を見て開封すると、可愛らしい、青色のリボンが姿を現す。

 

「わぁ……かわいいリボンね」

「はい。ひびきはヘアゴムが多かったので、たまにはこういうのもアリかなって」

「嬉しい。ありがとう。大事にする」

 

 プレゼントを愛おしく、胸に抱えた所でまだ箱の中に何かが残っていることに気が付く。

 

「これは……?」

「あっ! それは帰ってからに……」

「だーめ。待ちきれないから」

 

 一枚のメッセージカード。筆跡が普段と違う。たぶん、万年筆で書いている。彼の一生懸命さが紙から伝わって、心がじゅんと熱くなった。

 

「……もっと、大切な場面で使えば良かったのに」

「何言ってるんですか。今日以上に大事な日なんて思いつかないです。だから、自分の字でしっかり伝えたかったんですよ」

「……もう」

 

 彼が隣に席を移動した。ゴンドラがゆらゆらと揺れて、ちょっと驚く。繋がれた手は温かくて、この日々がまだ続いていくことを感じさせてくれる。

 

「誕生日おめでとう。ひびき」

「ありがとう。純一」

 

 強めに手を握り返すと彼も同じように力を強くする。ちょっと、痛かったけど、この痛みがあるから、これが現実だって確認できた。私は今、世界一幸せ者だろう。

 

 

 

『ちょっとおまけで満足できない。』 完




塚原先輩誕生日おめでとうございます!! (11/1は塚原先輩の誕生日)

あとがきは活動報告にて、読みたい人はどうぞ。茶番が見られます。
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