このイベントは強制イベントを起点として発生します。
このイベント内部では会話イベントが待ち受けています。5回目の会話で『行動』を選択し、☆獲得イベントへ進めましょう。
この時ゲージを全開放しているとアタックを選択することができますが、この場合CG回収のみ。今後☆は回収できません。罠です。間違えずに『行動』を選択しましょう。
夕日に染まる教室。そこで僕は荷支度を終えて、同じ色のグラウンドを眺める。これ以上ここにいてもしょうがないし、元よりさっさと帰るつもりだったけれど、一つ加えてこの場を去る理由ができた。
それはポツンと一人で歩く人影であり、僕がここ数日追いかけていた人でもある。
「やっぱり、あれ塚原先輩だよな」
言葉にして確かめる。口を動かすよりも目を細めた方が良いとは思うけれど自然にそう動いたのだから仕方がない。
部活帰りなんだろうけど、一人なのか? 他の部員はどうしたんだろうか。まあいいや。一人だったら丁度いい。ここで声をかけて一緒に帰るか誘ってみよう。
そうと決まれば善は急げだ。荷物を担いで、人のいない廊下を走り、息を弾ませながら移動。追いついた背中に僕は声を投げかけた。
「塚原先輩っ!」
「…………あら、橘君。どうしたの? そんなに急いで」
ちょっと反応にラグがあったものの、彼女は振り返って僕を見る。振れるポニーテイル。校内では付けていない手袋が印象的だった。
「帰ろうと思ったら、塚原先輩が見えたので。良かったら帰りませんか?」
「え、私?」
「他に誰がいるんですか」
「いないけど……私で良いの? 橘君って変わってるね」
「そうですかね?」
「うん。私を誘う時点で変わってる」
塚原先輩はそう言って笑う。そうだろうか。この前もそうだったけど、彼女は若干自虐的な所がある。こうも下向きなのを前向きに出されるのは何と言うか……もったいない。せっかく美人なのに。
彼女はふっと笑うと言葉を続けた。
「じゃあ、帰ろうか。せっかく誘ってくれたし」
「はい。ありがとうございます」
よし。これでなんとか『会話』に持ち込める。まずは何から話そうか。いきなり踏み込んだ話題というのもどうかと思うし、手堅く『世間話』から入ってみよう。
「塚原先輩は丁度部活が終わった所だったんですか?」
「いや、ちょっと残って練習してたの。髪とか乾かしてたらこんな時間になっちゃって」
「やっぱり、乾かすのって時間かかるんですね。塚原先輩は纏めてますけど、
「肩甲骨ぐらいまでかな」
「結構長いですね。それは乾かすのに時間がかかりそうですね」
「うん。だから短くしようかなぁ、とか思ったりもするけどね。はるかがもったいないって」
「ええ、もったいないですよ。せっかく似合ってるんですから」
「ふふ、ありがとう」
良し! 悪くないぞ。この調子だ。次の話題はどうしようか。塚原先輩は運動部だし、話に事欠かないであろう『運動』にしてみよう。
「塚原先輩って、よく走ってるんですか?」
「走ってるけど、どうしてそう思うの?」
「この前の体育で森島先輩がぶっちぎりの一位って言ってましたから」
「ああ、それで」
塚原先輩は納得がいった様に頷いた。
「逆に橘君は走らないの?」
「僕ですか? 僕は……あまり。たまに思い至ったときぐらいですかね」
「そっか」
それからも僕たちは話をした。勉強の事とか、食べ物の事とか。そのたびに塚原先輩は優しく頷いて、自分の考えを話してくれる。
この間以上に彼女を深く知れて、その事に充実感を覚えた。でも、一歩踏み出すたびに、確実にこの時間が消耗されているのが分かって、それがとても、残念でならなかった。
塚原先輩もそう思ってくれたらいいのにと、思う。
でも彼女にとって、僕はどこにでもいる普通の後輩で、ありふれた知り合いの内の一人でしかない。それがたまらなく、悔しかった。
「……塚原先輩」
「ん? なに?」
「ちょっと、寄り道しませんか」
気が付けばそう『行動』を起こしている自分がいた。言い終わってからハッと目をそらす。塚原先輩は僕の提案に乗ってくれるほど仲がいい訳ではない。なんて無謀な賭けをしているんだと自分を責めたくなる。
恐る恐るもう一度彼女を見ると、困った顔をして頬をかいていた。ああ、やっぱり駄目だったかなと、うつむく。
後悔が押し寄せて来る。自分の心臓が握りつぶされそうな気分だった。この瞬間が早く終わって欲しいと願うほど、一秒が引き伸ばされていく。
そんな心持ちで僕は彼女の次の言葉を聞いた。
「そうだね。たまにならいいかな」
慌てて顔を上げた。想定外の言葉だったからだ。
「何? そんな驚いた顔して。誘って来たのは橘君でしょ?」
「そうですけど……来てくれるとは思わなかったので。正直、意外でした」
「そうかな? 私だって、誘われたら遊びにだって行くよ。丁度、気分転換したかったしね。橘君は普段どこに遊びに行くの?」
「そうですね。僕はよく──」
・SELECT ↑↓
●ゲームセンターに行きますよ。
●ファミレスで友達をからかいます。
●ダーツを本気で練習します。
「ゲームセンターに行きますよ。友達と一緒に格闘ゲームをしたりします」
「なんかイメージ通りだね。男の子って感じ」
「逆に塚原先輩はどこに行くんですか?」
「私はショッピングモールかな。はるかと一緒にウィンドウショッピングをするの」
「へぇ、それはすごい女の子らしいですね」
「……橘君、それは私が普段女の子らしくないってこと?」
「あっ、いや、そういうつもりで言った訳じゃないですよ! 塚原先輩の可愛らしい所をもっと見たいな……って思ってました。なんなら今から行きましょう!」
つい早口で僕はそう述べてしまう。それを見た塚原先輩はくすりと笑った。
「ふふっ、ごめんなさい。嫌な言い方したね。大丈夫、ちゃんと分かってるから。でも、この間必要なものを買ったばかりだし……今日はゲームセンターに行こうか」
・
・
・
学校から最寄りのゲームセンター。僕と梅原のホームと言ってしまっていい程に通い慣れた場所を塚原先輩と歩く。彼女はキョロキョロとあたりを見渡している。
「塚原先輩はゲームセンターで何しますか?」
「私は……はるかと来ることが多いのもあってUFOキャッチャーとかかな。あの子、ぬいぐるみとか好きだから……」
「なんか想像しやすいですね」
「でしょ。あの子、可愛いものには目が無いのよ」
「じゃあ、今回は普段行ってなさそうなアーケードゲームとか行ってみましょう。格闘ゲーム以外にも色々ありますから」
「そうしようか」
僕らはそうしてアーケードのゲームを眺めて回る。その中で塚原先輩が立ち止まったものが一つあった。
「麻雀もこういう風にゲームになってるのね」
「塚原先輩、麻雀できるんですか?」
「ええ。私に限らず
「まあ、この近辺だと麻雀牌が出土する*1ぐらいですからね……ちょっとやってみましょうか」
僕はあらかじめ両替してポケットにストックしていた百円玉を一枚放り込むと席を塚原先輩に譲った。
「橘君、どこ行くの?」
「隣の反対側の席です。このゲーム対戦できるんですよ。せっかくなので勝負しましょう。負けた方がジュース奢るとかでどうですか」
「良いね。面白いね。のったよ」
ほぼノータイムで塚原先輩が了承したのを確認して僕は反対側の席に座って同じように百円を入れた。
対戦モードを選択するとサイコロが回って手牌が配られる。
親の塚原先輩の第一ツモ。最初に切った牌は不思議なことに横を向いていて、それに違和感を覚える間もなく箱体が冷たく『リーチ』と宣言していた。
・
・
・
『ロン!』
南家 ツカハラ の和了
立直 1翻 ドラ{南北}
一盃口 1翻
平和 1翻
断幺九 1翻
画面上で塚原先輩の手配が表示され、僕の点数が引かれていく。試合はもう最終局面で、この和了が決定打となり、塚原先輩の勝利が確定した。
立ち上がって箱体越しに塚原先輩を上から見ると、それに気が付いた彼女が僕を見上げながらピースサインをした。
「私の勝ちね」
「……完敗です」
敗者らしく席を立って、自販機でパンダココアを二つ購入。片方を塚原先輩に渡して外に出た。冷たい空気が肌を撫でて、思わず体を震わせた。
「塚原先輩、麻雀強いんですね」
「ううん。運が良かっただけ。普段は負ける方が多いぐらいよ」
「そうなんですか?」
その割には打ち回し方が手慣れてた気がする。あれで負け越すとなると、その卓についている人物は相当な打ち手なのではなかろうか。でもそんなことを考えても仕方がない。そう思考を切り替えて隣を見る。
彼女はチビっと缶に口をつけて、ホッと息を吐いていた。
「ごめんね。今日は私の気分転換に付き合って貰っちゃって」
「ごめんねって……誘ったのは僕ですよ?」
「そうだったかな」
「そうですよ。今日だって僕がお礼を言いたい所なんですから」
「ありがとう。でも気を遣ってくれなくてもいいよ。……君だって、はるかや七咲と遊べた方が嬉しいでしょ?」
まただ。彼女は時折こういう事を言う。自虐的に自分を貶める。理由は分からない。けど、それがどうにも好きになれなくて、不満だった。
我慢できなくなった僕は、感情的に言葉を紡ぐ。
「……確かに、七咲や森島先輩と遊ぶのは楽しいですよ。気兼ねなく過ごせますから」
「……うん」
「でも、そうじゃ無いんです」
そうだ。違う。僕は女の子と遊びたいって理由でここにいるんじゃない。そんな気持ちで誘った訳じゃないんだ。僕は、僕は────
「僕は塚原先輩が良かったんです。塚原先輩と一緒に遊びたかった。他の誰かじゃ……ないんです」
塚原先輩が目を見開いてこっちを見てる。冷えていた体の中に炉ができたのかと錯覚するぐらいに体がかっと熱くなる。
今、僕はなんて? すごいことを口走った気がする。
時間が経つほどに外気で僕は冷静さを取り戻して、悶えたくなるような羞恥心がこみ上げて来た。
「すいません! 僕家こっちなんで!」
曲がり角でそう強引に告げて駆けだした。呼び止める声が後ろから聞こえた気がしたけど、振り返れなかった。こんなことを言って、僕はどんな顔をして塚原先輩に会えばいいのだろう。
……今日は上手く寝付けなそうだった。
……一方その頃
『僕は塚原先輩が良かったんです。塚原先輩と一緒に遊びたかった。他の誰かじゃ……ないんです』
彼の言葉が頭の中で繰り返される。帰って来てからの食事やお風呂でも、今こうしてベッドで横になっている瞬間もだ。
まさかあんなことを自分が言われるとは思わなかった。それ故に私はあの瞬間から浮足立ってしまっている。
橘君は優しい人だ。
それは妹の美也からも、彼のシリアイで後輩の七咲からも感じ取れる。面白そうに話す二人から、興味を持っていたのだけれど……まさかあんな言葉を投げ掛けてくるとは思っていなかった。
はるかや七咲じゃなくて、私がいい。
そんな事を言われたのは初めてで、びっくりして、どう答える事もできなかった。彼がすぐに逃げ出しちゃったのもある。けれど、それに関しては引き留められなかった私にも、非はあるだろう。
今となってはあの言葉の真意を確かめることはできない。
あれは彼の優しさから出た言葉なのかもしれないけど、もし、もし仮に……彼が本当にそう思ってくれているなら……。
「思ってくれたら、いいのにな」
期待が口からこぼれる。そうすると何だか恥ずかしくなって、思わず顔を覆った。足をじたばたさせてもこの気持ちは収まらない。
「はぁ……明日、どうやって声をかけよう」
結局私は自分の気持ちに折り合いをつける事ができないまま、意識を手放した。