ちょっとおまけで満足できない。【完結】   作:イーベル

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塚原先輩の☆獲得後、森島先輩の☆獲得イベントをスルーすると森島先輩は応援ルートへ行きます。


塚原ひびき LEVEL2 アコガレ編
SELECT 4


 塚原先輩と帰り道を共にしてから数日。あれから顔を合わせる機会も無く、自分の心の内を整理することができないまま、時間だけが過ぎていった。

 学校にだけは来ているけれど、それで何かが変わる事もない。

 代わり映えのない教室にいると息が詰まりそうで、変化を求めた僕は休み時間屋上へ出向く。屋上の空気は締め切った教室よりもヒンヤリとして、尚且つ澄んでいた。

 手すりに寄りかかって遠くを見て、呼吸をしていると、自分の中のどんよりとしたものが入れ替わっていっていく。そんな気がした。

 

「橘君?」

 

 背後からの声。一瞬、塚原先輩がよぎったけれど、そんなことはない。振り返って捉えた姿は特徴的な巻き髪がトレードマークの森島先輩だ。

 それに少しほっと安堵する。こんな気持ちで塚原先輩に会ってどうすればいいのか分からなかったからだ。

 

「あ、森島先輩。こんにちは」

「こんにちは。こんなところで会うなんて奇遇だね。隣、いいかな?」

「ええ、構いませんよ」

 

 僕が了承するとトテトテと歩いて、隣に立つ。緩やかな風が吹いて彼女の髪を揺らした。

 

「橘君はこんなところで何をしてるの?」

「ちょっと、気分転換に。ずっと教室にいると眠くなっちゃうので」

「ああ、わかる。わかる。この時期の教室、温かいものね。体育の後なんか特に眠くなっちゃうの」

「そうなんですよ。だから、ここでちょっとでも目が冴えればと思って」

 

 森島先輩はふんふんと頷く。

 

「橘君は真面目だねぇ……。人にもよるだろうけど、そんな気分だったらサボる人もいるでしょ?」

「それは……」

 

 確かに授業を抜け出すなんてのも悪くない。薫を誘って外に出ることも考えた。けれど今、それをする気になれなかった。

 きっと塚原先輩なら、そんな事はしない。そんな発想が頭をよぎったからだ。

 

「それは、良くないでしょう」

「そうだね。ひびきがここ居たら私怒られてたかも」

 

「そうですね」と僕は森島先輩の言葉を肯定する。

 

「ところで橘君。少し聞きたい事があるんだけど、いいかな?」

「聞きたい事? まあ、いいですけど。何ですか」

「単刀直入に聞くけれど、最近ひびきと何かあった?」

 

 ど真ん中直球。森島先輩は臆することなく切り込んできた。それに僕は麺を喰らって、たじろいでしまう。

 

「ど、どうしてそんな事を聞くんですか」

「どうしてって……最近二人が話してるところを見ないなーって思ったからだけど」

「そうですかね?」

「うん。最近はめっきり減ったなーって。実際の所どうなの?」

 

 白を切る事もできた。でもなぜだかそれをする気にはなれなかった。

 普段から森島先輩は邪気というものを含んでいる気がしない。それを汚すのが嫌で。純白のままであって欲しかった。

 それ故に僕は偽らずにありのままを彼女に打ち明けてしまう。

 塚原先輩と一緒に帰ったこと。

 そこで告げた言葉。

 自分の抱いてる感情は伏せておいたけれど、殆ど伝わってしまっているかもしれない。

 全てを聞き終えた森島先輩は自分の指を組んだりして、頭の中を整理しているみたいだった。

 

「……へ~橘君大胆だね。ひびきにそんなこと言うなんて。でも、そんな面白いことしてるんなら早く言ってよ。いいなー橘君。私もひびきとゲームセンター行きたかった~」

「……今度は一緒に誘いますよ」

「やった。約束だからね!」

 

 森島先輩は飛び跳ねそうな勢いでそう言って見せる。

 ……実はばれてないんじゃないか? そう思ってしまうほどに森島先輩はあっけらかんとしている。鈍いのか鋭いのかよく分からない。

 

「森島先輩、僕からも聞きたいんですけど」

「ん? いいよ。なになに?」

「他に塚原先輩に変わった事ってありませんでしたか?」

「んーそうさね~」

 

 森島先輩は少し考えるように視線を空にやってからもう一度こちらを見た。

 

「特に目に付くところは無かったかな。橘君と会う回数が減った以外は、いつも通りのひびきだったよ?」

「そうですか」

 

 結構勇気を振り絞った言葉だったんだけど、全く響いてないのか。意識的なアプローチじゃ無かったけれど、こっちが身を切った分期待していたんだけどな……。

 僕は押し付ける様に言って、あの場を去ってしまった。もし羞恥心に打ち勝ってあの場にとどまっていたら……。どうなっていたんだろう。悔やんだって仕方ないことは分かっているんだけど、どうしても考えてしまう。

 

 ……次の事を考えよう。せっかく塚原先輩と仲のいい森島先輩がいるんだ。少しでも情報を聞いておきたい。

 

「そういえば森島先輩。塚原先輩の好みのタイプとかって聞いた事ありますか?」

「ひびきのタイプ? ん~それも聞いた事無いかな。でもどうしてそんな事聞くの?」

「ちょっと気になるじゃないですか。塚原先輩からそういう話聞いたことありませんから」

「こういうのは本人から聞くのが一番なんだけど……。ひびき、素直に話してくれなさそう」

「確かに」

 

 うーん。じゃあ他にどのような事を聞けばいいんだろうか。僕は頭をひねる僕を見て森島先輩は閃いたようで人差し指を立てた。

 

「じゃあひびきのタイプを予測してみましょう! そのあと、私が頑張って聞いてみるから」

 

 渡りに船の提案だ。ここで予測して、後日森島先輩に聞けば確実にタイプが分かる。時間はかかるが確実性のある、僕にとっては殆どメリットしかない。

 

「いいですよ。じゃあちょっと考えてみましょうか」

「うん。考えてみて。私もちょっと考えてみるから」

 

 塚原先輩は知的な人だ。だから、会話も高いレベルの人の方が噛み合うだろうし、楽しいはずだ。だから、頭の良い人がタイプかもしれない。

 

「賢い人、ですかね」

「んー悪く無さそうね。でも、橘君。それは安直じゃない? ひびきは私をからかうのが趣味なんだから。実は頭がいいことよりもちょっと抜けてた方がいいかも」

「成程……それは予想から外れてましたね。じゃあそれを踏まえて──」

 

 それから僕と森島先輩の塚原先輩の好み予想は続き、時間いっぱいまでかかってしまった。途中からヒートアップしつつも楽しい時間だった。

 ついでに僕の知らない塚原先輩の事も知れたし、ダラダラしてたら時間がもったいない。心を入れ替えて頑張ってみるとするか!

 チャイムが鳴って、ぐいっと背筋を伸ばす。決意を新たに、まずは授業に向かった。

 

 

 あれははるか……と橘君!?

 屋上の扉の陰に思わず隠れてしまった。聞き耳を立てつつ、隙間から二人の様子を覗き見る。ここからだと声は聞こえないみたい。

 彼とはあれから顔を合わせていなかった。あんなことを言われた後だから、どうにも恥ずかしくて、見かける度に身を隠してしまう。

 いい加減にしないと、とは思っているんだけど……。

 一度ため息を付いてから視線を二人に戻す。それにしても楽しそうに話すな……。この間は確かにはるかには気を遣わずにいれるって言っていたけど、その言葉に嘘は無かったらしい。

 でも、こっちが悩みに悩んでいる時にあれだけ楽しそうに話されていると、この間の言葉に疑いをかけてしまいそうになる。

 相手ははるかだし、気が付いたら虜にしている、なんてあり得ない話じゃない。

 だから、こんな事をしてる場合じゃない。こんな事をしてる場合じゃない?

 ……どうして、私はそう思ってるの?

 前髪をかき分けて額に手を当てて自問自答する。

 はるかに取られそうだから?

 取られるってなによ。そもそも橘君は私の物でも、他の誰の物でもないでしょう。

 だったら、この胸の中が熱くなっていくような苛立ちは……どうやって説明すればいいのだろう。

 結局それが何なのか分からなくて、ひとまず原因から距離を置くことにする。

 階段を下りながら私はまた、ため息を付いた。

 私はどうしたいんだろう……。

 

____Low__

 

 

勇気を出して塚原先輩と話すぞ! 水泳部の部室に行ってみよう。

───────────────────────────────────────────

『!』


「橘先輩。何してるんですか?」

 校舎裏に向かった所で呼び止められた。目の前に立つ短髪の後輩、七咲はきょとんと不思議そうな表情をしていた。

「いや、ちょっと塚原先輩を探しててさ」

「ああ、それでこっちに。私はてっきり覗きにでも来たのかと……」

「違うよ! 僕がそんな奴に見えるのか?」

「ふふっ、冗談ですよ」

 

 七咲は口元に手を添えて笑った。

 

「それにしても、橘先輩って塚原先輩と仲が良かったんですか?」

「うーん。仲がいいかどうかは分からないけど、最近はよく話すよ」

「へぇ、そうなんですか。なんか珍しいです。塚原先輩って森島先輩とはよく話している所を見るんですけど、それ以外の人ってそれこそ部員ぐらいなので」

「そうなんだ」

 

 塚原先輩って結構面倒見がいいから、いろいろな人と話しているのかと思ったけれど、そうではないらしい。

 

「あ、でも塚原先輩この時間は部室にいませんよ」

「え? それはまたどうして?」

「部活が始まる直前まで、食堂のテラスにいるんですよ。なんでも、いい感じにリラックスできるんだとか」

「そっか、じゃあ塚原先輩に会うにはテラスに行った方がいいのか」

「ええ、そういうことです」

 

 七咲が頷いて、僕はそこで足を止めた。

 

「じゃあ早速だけど、僕はテラスに行ってみるよ。教えてくれてありがとう、七咲」

「いえ、これぐらいは。あ、橘先輩。塚原先輩に会ったらついでに伝言をお願いできますか?」

「それぐらいは良いけど、何?」

「風が気持ちいいからって昼寝はしない様に、とだけ」

「ん? よく分からないけど、分かったよ。伝えておく」

「はい。お願いします。塚原先輩に言えばわかると思うので」

 

 微笑む七咲に軽く手を振った僕は、踵を返して校庭のテラスへ。冬場ともなるとこの寒空の下で過ごす人は昼ぐらいで、それ以外は殆ど人が寄り付かなくなる。

 だから塚原先輩の姿は思っていた以上に簡単に見つけることができた。助言が無かったら後回しにしていただろうし、七咲に感謝しなきゃ。

 さて、部活まで時間も少ないだろうしさっさと話しかけよう。

 

「こんにちは、塚原先輩」

「……橘君。どうしたの? こんなところで」

「それは僕の台詞ですよ。塚原先輩はこんな所で何をしてるんですか?」

「私は、部活前にちょっとぼーとする時間が欲しくて」

「塚原先輩でもそんなときがあるんですね」

「うん。割としょっちゅう。それで橘君は?」

「僕は、ちょっと先輩と話そうと思って。七咲に聞いたらここにいるって言っていたので」

「そ、そうなんだ……」

 

 塚原先輩は目線をそらす。迷惑だったかな。でも、ここで引いたら駄目だ。押し付けるぐらいの気持ちでいかないと。

 森島先輩も推しが強い人とか悪くなさそうだって言ってた。それを信じることにした。勇気を出して語り掛ける。

 

「先輩さえ良ければ、なんですけど。少しお話しませんか?」

 

 言い終わった後、自然と体が熱くなった。落ち着かなくて手を何度も握り直す。

 

「いいよ。部活が始まるちょっと前までだけど。それでもいい?」

「は、はい! ありがとうございます」

 

 やった! 久々に塚原先輩と話せる。思わず机に隠しながら小さくガッツポーズ。それから塚原先輩の正面に座った。

 世間話や勉強の話なんかをして時間を過ごす。その途中で一つ思い出したことがあった。

 

「そういえば、七咲から伝言を頼まれてました」

「え、それ早く言って欲しかったな……。それで、七咲はなんて?」

「えっと、たしか……『風が気持ちいいからって昼寝はしないように』って」

 

 それを聞くと塚原先輩は呆れたようにため息を付いた。

 

「僕はよく分からなかったんですけど、何かの暗号ですか? 急ぐようだったら僕のことは気にしないで先に──」

「ううん。違うの。急ぎのようでも何でもないよ。からかっているだけ」

 

 どこから話したものかな、と塚原先輩は呟いて、間を開けた。

 

「ちょっと、昔の話。一年生の時なんだけどね。こんな風に部活前にゆっくりしてたら、疲れてたみたいで気が付いてたら寝ちゃってたのよ」

「塚原先輩でもそんな事あるんですね」

「まあ、そのときは一年で、今と比べると体力もなかったから……。それで、ジョギングに来た部員に起こされて、顔を上げたらこの机のあとがくっきりと額に付いちゃって」

「この机、柄が入ってますからね」

 

 今自分たちが挟んでいる机を改めてみる。白のレースをイメージさせる柄は顔にあと付いたら普通の机よりも印象に残るだろう。

 

「そう、それで滅茶苦茶に笑われた挙句、先輩に怒こられて……。以来、水泳部ではちょっとした弄りネタなの」

「成程、それで。あ、でもそれぐらいなら大丈夫ですよ。僕も結構ドジ踏んでるので。この間も美也に顔にマジックで落書きされたのに気が付かなくてですね……」

「ふふふ、ありがと。やっぱり橘君は優しいね」

 

 なんか得をした気分だった。水泳部の人間しか知らないであろう情報。それも塚原先輩が話したがらない物をじぶんだから話してもいいと思ってくれていることも嬉しい。

 その喜びを噛みしめていると塚原先輩が「ところで」と新たに会話を切り出した。

 

「ちょっと聞きたい事があるんだけど、いいかな」

「何ですか?」

「休み時間はるかと話してたみたいだけど、何を話してたの?」

 

 突然の問い。その突拍子のなさに僕の思考回路は一瞬凍結した。

 何で塚原先輩がそれを知ってるのか。それが疑問だった。加えて内容が内容だ。話していいものかどうか悩んでしまう。

 

「どうしたの? やっぱり話したくない?」

「えっとその……何でその事を知ってるんですか?」

「屋上でたまたま見かけたの。でもあんまりにも楽しそうだったから、話しかけるのをためらっちゃって」

「そう、ですか……」

 

 塚原先輩は笑っているけど、目がなんだか笑っていない。元から目つきは鋭いんだけど、より鋭い。差筋に刃物を当てられている様な気分だった。

 

 どうする? 僕は……

 

・SELECT↑↓


●本人の前では言わない。

●開き直って打ち明ける!


 

「実は、塚原先輩の好みのタイプを聞いていたんですよ」

 

 素直にそう返した。塚原先輩は時間が止まったみたいに固まる。予想外の答えだったらしい。でもこれが事実だし、他に言いようがない。

 

「えっと、橘君。冗談よね?」

「いえ、事実ですよ。明日森島先輩に聞いてみてください」

「そ、そう……」

 

 さっきまでの不敵な笑みはどこへやら。しおらしくなった塚原先輩は視線をあちこちに移動させていて、何だか面白かった。

 

「森島先輩に聞いても分からなかったので、予想を色々立ててみたんですけど中々しっくりこなくて。森島先輩は明日答え合わせをしてくるって言ってました」

「そんなの、私に直接聞けばいいのに……」

 

 塚原先輩が呆れたように小さく呟いて立ち上がる。どうやら時間が来てしまったらしい。

 

「ごめんなさい。私、もう行くね」

「はい、部活頑張ってくださいね」

「ありがと」

 

 塚原先輩が立ち去ろうとする寸前。振り向く。

 

「橘君、ちなみに私の好みは『誠実な人』だから。よろしくね」

 

 塚原先輩は笑顔でそう告げた。そしてコンクリートを一定のリズムで踏みながら部室へと向かって行った。

 誠実な人か……今度からちょっと意識してみよう。

 

♪♪■■■■■■■{一索}

 

____Mid__

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