よし、今日は自分磨きをしてみよう。目指すは塚原先輩と釣り合うような自分! と、意気込むのは良いんだけれど、どうしたらいいんだろう。
悩んだけれど、明確な答えが出なかったので、ひとまずは塚原先輩が好きそうなことができるようにすることにした。
先輩が好きそうなこと……『おしゃれ』これはハズレでは無いだろう。森島先輩とショッピングに行くぐらいだ。趣味と言ってもいい。
次に『食べもの』。心を掴むにはまずは胃袋からつかめとも言うし、中でもお菓子が嫌いな女の子はいないはずだ。
そして『運動』。塚原先輩は運動部。同じ運動ができる男子というのも悪くない。
パッと思いつくのはこれぐらいだろうか。とはいえ、がむしゃらに頑張っても効果が出ないんじゃ意味がない。頑張りましたで評価されるのは小学生までだ。確実に効果が出るようにするには、やはり専門家の指導を仰ぐべきだろう。
専門家……専門家か──
・SELECT↑↓
●薫にファッションについて指南してもらう。
●梨穂子にお菓子作りを指導してもらう。
●美也と七咲に体を鍛えてもらう。
この中だったらやっぱり運動かな。今でも不得意が無い程度には動けるし、ゲームでも得意分野を伸ばすのは鉄則だ。
指導してもらう運動部のあてには、梅原もいるけど……梅原は幽霊部員だし、こういう時に頼るのはちょっと違う気がする。そうなると頼るべきは美也と七咲だろう。
そうと決まれば善は急げだ。早速一年生の教室に行くとするか。
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「おーい美也。七咲~。いるかー? お兄ちゃんが来たぞ~」
一年生の教室にだどり着くと勢いを失わない様に声をかけた。ギョッと驚いた二人は素早く教室から飛び出すと、美也は肘を容赦なく腹部に。七咲はそのフォローをするように後ろから羽交い締め。流れるような連携になすすべなく黙らされてしまう。
「お兄ちゃん! そういうの止めてよ。恥ずかしいじゃん」
「そうですよ先輩。私も巻き込まないでください」
「悪かったから、肘をもう一度打ち込むのは勘弁してくれ」
両手を上げて降参のポーズをとると拘束と脅しから解放される。美也はともかく七咲にまで容赦されなくなってきたのは喜べばいいやら、悲しめばいいのやら……。
「それで、お兄ちゃんは何の用なの? みゃーだけならともかく、逢ちゃんまでセットで呼び出すなんて」
「そうですよ。本当にびっくりしたんですから」
「実は二人に頼みたい事があって……」
「頼みたい事……ですか?」
七咲が首を傾げる。まあ突然のことだし、無理もない。だけど、休み時間もそう多くはないので、説明している暇も無かった。端折って僕は頭を下げて二人に頼み込む。
「僕の師匠になってくれ! この通りだ!」
「え? ちょっと先輩!? 何を言い出すんですか。それもこんな所で……」
「……お兄ちゃん。流石の美也にも訳が分からないよ」
……上手くいかなかったらしい。二人なら僕の意思を組んでくれると思ったのに……仕方がない。
しっかりと二人に運動ができるようになりたいと言うことを話した。
「成程、それで師匠ですか」
「お兄ちゃんのやりたい事は分かったけどさ……。何? 頭でも打ったの?」
「美也ちゃんそんなこと言っちゃダメだって。熱があるのかもしれないでしょ?」
「二人とも、そういうフォローの仕方は要らないから」
僕のイメージが二人の仲でどのような形成のされ方をされているのか疑問が生じたが、今はそれどころでは無い。置いておこう。追及したら悲しい気分になりそうだし。
「一応聞いておくけどさ、お兄ちゃんはどうして運動ができるようになりたいの?」
「それはほら、運動ができる男子ってかっこいいじゃないか。間違いなくモテる。僕もそれを目指そうと思ってさ」
「あ、良かった。いつも通りのお兄ちゃんだ」
そう聞くと七咲は渋そうな顔をする。
「何だよ、七咲」
「いえ、そういう人って部活だと二週間ぐらいで自然消滅していくので……。ね? 美也ちゃん」
七咲が隣の美也にそう相槌を求めると、美也も「そうだね」と頷いた。二人とも運動部でそれなりに真面目に取り組んでいる。だから、そういう人間に苦手意識があるのかもしれない。僕は違うと思うけれど。
「そんなことはない。僕は本気だ。信じてくれよ」
「本当かな~?」
「…………」
ぎこちない笑みを浮かべるな、七咲。そんな風にみられると僕も心苦しいじゃないか。
「勿論タダでとは言わないぞ。僕ができる範囲で何でも言う事を一つ聞こう!」
「お兄ちゃんに言う事を聞かせられる、か……」
「先輩に……」
二人はそういって何やら考えるそぶりを見せる。
『別にいいかな(ですかね)』
「なっ、二人ともなんだよその言い草は! そんなに僕が頼りないって言うのか!?」
「別にそれほど今は困ってないですし。先輩にできる範囲ってそんなに……」
「あ、逢ちゃんそれぐらいにしてあげて。流石のお兄ちゃんでもかわいそうになるから」
「あ、そうだね。ごめんなさい、先輩。さっきのは失言でした」
七咲は頭を下げる。
「そんな気を遣ったみたいな矛の収め方は止めてくれよ。虚しくなる。七咲頼む、お前だけが頼りなんだ」
僕は両手で七咲の肩を
「……止めて下さい先輩。分かりました! 分かりましたから!」
「本当か!」
「不本意ながら、ですけど……。まあ引き受けましょう。ここでいつまでも居座り続けられるのも困りますし」
「え? 良いの? 逢ちゃん」
「うん。大丈夫。……それに口だけならすぐに脱落するから」
え? なんかボソッと物騒な言葉が聞こえた気がするんだけど。気のせいだよね。
「それならみゃーも参加するよ。逢ちゃんと二人きりにすると何するか分かんないし」
「ありがとう美也ちゃん」
「そんなに僕って信頼無いの?」
何かちょっと自信を無くしそうだ。
「そういう訳で先輩。早速今日から始めましょう。放課後は部活があるので昼休み、着替えてグラウンドで待っていて下さい」
「みゃーと逢ちゃんに感謝するのだ」
「ああ、七咲には感謝するよ」
「みゃーにも感謝するの! バカにぃに!」
こうして昼休みに二人に鍛えて貰うことになった。七咲が何か言っていたのが気になるけど、まずは了承してくれたことを感謝しなきゃ。よーし頑張るぞ。
言われた通りにグラウンドに来たぞ。七咲と美也は……あそこか。
「おーい、美也、七咲~」
「あ、先輩やっと来ましたね」
「お兄ちゃんおそーい」
美也が不満げにそう言う。
「そんなに待たせたか?」
「いえ、それほどでは。ところで先輩、お昼は食べてきましたか?」
「まあ、軽くだけど。これから運動するんだったら、食べ過ぎは良くないだろ」
「分かっているなら大丈夫そうですね」
「では」と七咲は両手を合せて場を仕切る。
「早速始めましょう。時間もないことですし」
「始めるのは良いんだけど、今日は何をするんだ?」
「今日はランニングです」
「えーランニング?」
何というか専門家ならではの意見が聞けると思っていただけに、そう口に出してしまう。
「えー、とは何ですか。いいですか、先輩。何をするにもまずは体力です。ランニングを侮ってはいけません。どんな運動部でも走り込みは重要なんですから」
「それは、そうだけどさ」
「取りあえず校庭のトラック十周してみましょうか。丁度空いてますし」
「十周? 一周が確か二百メートルだから……二千で、二キロ!? そんなに走るのか?」
「あ、これはふるい落としも兼ねてます。先輩が本気で運動ができるようになりたいなら、この程度軽々とこなして欲しいものですね」
「くっ……」
そこまで言われてしまっては引き下がれない。僕だって本気なのだ。
「やってやるさ! 僕の本気を見せてやる! うおぉぉ────!!」
僕はトラックに向けて駆け出した。何とか時間以内に終わらせたものの、体力はギリギリ。午後の授業はすっかり寝てしまった。
初日からこれとなると、これから自分はどのような事をこれからやるのか不安だけど、全ては塚原先輩に振り向いてもらうため。頑張っていくぞ!
・
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・
「あ、見て見てひびき! あれ橘君じゃない?」
「本当だ。何やってるんだろうね」
はるかに言われてグラウンドを見ると、橘君の様な人影を発見して眺める。そばには七咲や橘……ああ、分かりづらいな。美也らしい人影もいるから殆ど間違いないだろう。
彼は叫び声を上げたかと思うと突然グラウンドを走り始める。
「あ、走り始めた。本当に何をやってるのかよく分からない子だよね」
「はるかも人のこと言えないと思うけど……」
「そんなことないわよ。橘君と私は違いますっ!」
心外っ! と言わんばかりにボディランゲージで示す。知らぬは本人ばかり。私からすれば二人はとても似た者同士だ。
さっきも言ったみたいに突拍子のないことするし、ぱっと見ではしっかりしてるけど、割と手がかかるし……。うん、やっぱり似てる。
「そうかな?」
「そう! ひびきちゃんったら失礼しちゃう! 私はあんなふうにわんちゃんみたいな可愛い振る舞いはできないよ!」
「そこなんだ」
気にするとことがちょっとズレている。そこもまたはるからしいとは思う。……というか可愛い、かな? 彼って。そんな印象は薄いと思うけれど。
「じゃあはるかは橘君のこと気に入ってるんだ?」
「そうでさあねぇ。割と気に入ってるかも。あまりいなかったタイプだし、話してて面白いし……ひびきちゃんがお熱みたいだし?」
「な、何を言い出すの」
不意を突かれて、たじろいでしまう。いつもの仕返しのつもりなのかもしれない。ふーんと含みのある笑みを浮かべつつ、はるかの攻撃は続いた。
「結構気にかけてるし、結構ひびきちゃんのタイプだったりするのかなぁって思ってみたりして」
「タイプって、橘君はその、そういうのじゃ……」
「またまた~。最近頻繁に話してるところ見るし、この間だって、二人でゲームセンターに行ったって聞いたよ」
はるかが「えいえい」と肘で私の体を小突く。どこからその情報が漏れたのかな……って一人しかいないか。
「あれは……その、たまたまよ。時間が合ったから、付き添っただけよ」
「そんな事言っちゃって! まんざらでもないくせに」
「……あんまりからかわないで」
「ごめん、ごめん。つい張り切っちゃった」
「もう、調子に乗り過ぎよ」
まったく……。ため息をつく。油断も隙もあったものではない。
まあ確かに、彼とは馬が合う。こんなにも一緒にいて気が楽なのははるか以来だし、男性では初めてだ。だけど、そんな簡単に好みのタイプという枠に収めてしまっていいものか分からない。それ故に自分の気持ちをどこにおいておけばいいのか、結論を出せないでいる。
「でもね、ひびきちゃん。いつまでもそうしてる訳にはいかないよ」
「珍しいわね。はるかがそんなこと言うなんて」
「最近断った子が、そんな事言ってたなぁ……って思ったの。実際この学校にいるのもあと数ヵ月だから」
「それはそうだけど。でもそんな事ばかりにかまけてる場合でもないでしょ? 部活だってあるし、受験だって終わってない」
「固いなぁ……ひびきちゃんは」
「はるかが適当過ぎるの」
「あら? 痛いところをつかれちゃった」
「ちゃった、じゃ無いの! ……もう。大丈夫なの?」
「大丈夫、大丈夫。ひびきちゃんには心配かけないから」
「本当?」
「本当だって。だからひびきちゃんは自分の心配を……いや、それよりも橘君の心配をした方がいいかも。気が付くと女の子と一緒にいる気がするし……うかうかしてると取られちゃうんだから」
はるかはそう言った。
橘君が? そんな事……いや、確かに良く女の子と一緒にいる。今回だって二人一緒にグラウンドに来ていた。まあ、片方は妹なんだけど、私が見ていないだけで他にもいろんな子と……。
思考に集中している所にチャイムが鳴って、はっと現実に思考を戻す。
「あ、いけない。行きましょ、ひびきちゃん」
「……ええ。そうね」
呼びかけに答えて、私たちは屋上を後にする。その直前。チラリとグラウンドを見たけれど、橘君たちの姿はもうなかった。
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「ちょっとは女の子と仲良くなった?」
「何だよ美也。帰って来ていきなり」
「いや、なんとなく聞きたくなって。そろそろご飯だからね」
「わかった。じゃあ荷物置いてくるよ」