また、塚原先輩√は 「LEVEL 2」の☆獲得イベントは二種類あり、他の☆を取っているかどうかで分岐します。今回は七咲の☆を取っているので、そちらのイベントです。
※今回の話では特殊タグの調整が難しく、スマホ版では上手く見れない場合があります。
試した所、テキストサイズを縦持ちで60%、横持ちで130%である程度改善されます。
●休2
「ごめんね、絢辻さん。片付け手伝って貰っちゃって」
「ううん。あたしだって使ったし、橘君一人に片付けさせるわけにはいかなかったから」
絢辻さんはそう微笑む。移動教室で一人、実験で使ったものを片付けていると、彼女が声をかけてくれたのだ。
「絢辻さんは優しいね。ありがとう」
「橘君だって……いや、これ以上言うのは堂々巡りになりそうだから止めときましょう。時間は有効に使わなきゃ」
「それもそうだね。じゃあ教室に戻ろうか」
「ええ」
絢辻さんは僕の言葉に頷いて、一足先に教室を出る。自分達の教室へ向かおうとする途中だった。
曲がり角、すれ違う直前で足を止めた。声の主を確認すると、ポニーテイルに馴染みのある強気な目付き。予想通りの人がそこに立っている。
「あ、橘君。どうしたのこんな所で」
「塚原先輩。僕は授業の帰りですけど、先輩は何をしてるんですか?」
「私はこれから移動。丁度、入れ違いみたいね」
塚原先輩は脇に抱えていた教科書を見せると、隣に立っていた綾辻さんへ視線を向けた。
「絢辻さんも一緒? 意外な組み合わせだね」
「はい。橘君とは同じクラスで」
絢辻さんはすんなりと会話に入って来る。あまりの自然さに僕は違和感を覚えた。
「あれ? 絢辻さんは塚原先輩と知り合いなの?」
「ええ、塚原さんは去年の実行委員長だったから。いろいろと話を聞かせて貰ってるのよ」
「そういうこと」
絢辻さんと塚原先輩が当然の様にそう言う。僕はしばらく考えて、それでも思考が上手く結び付かない。
「……え? 塚原先輩って去年の実行委員長だったんですか!?」
「うん。前に出て挨拶もしたから、知っているものだと思ってたけど」
「去年の創設祭は参加しなかったので……」
「そっか。じゃあ知らなくても当然か」
全然知らなかった。塚原先輩の凄みにますます磨きがかかってしまう。僕が気付いていないだけで、もともと箔は付いていたのだけれど、よりハードルが高くなってしまった気がした。七咲との特訓だけで届くのだろうかと不安になる。
「橘君、もったいないことをしたわね。塚原さんの挨拶見事だったのよ」
「綾辻さん、そこまで持ちあげないで……。恥ずかしいんだから」
塚原先輩は目をそらしつつ頬をかく。それがまた彼女の愛らしさを際立てる。いつまでも見ていたい様な気分だった。
「ところで、」
気まずくなったのか、塚原先輩が話題を変える。
「橘君ってクラスだとどんな感じなの?」
「橘君ですか? そう、ですね。……まあいい人ですよ」
「絢辻さん、そんな褒める所がない人を無理やり褒めた、みたいな典型的な感じ止めて」
「ごめんなさい。別にそんなつもりはなかったんだけど、そんな風に聞こえちゃったかな?」
絢辻さんは両手を合せつつ、そんな事を言う。
「そうだね。橘君は良い人だよね」
「塚原先輩も乗らないで下さいよ」
「ごめんごめん」
塚原先輩も絢辻さんみたいなことを言ってくる。僕の周りの女性はやたらと攻撃的な気がする。絢辻さんといい、塚原先輩といい、七咲といい……。癒しはどこにあるのだろうか。
「でも、橘君。この前も放課後、あたしに声をかけてくれたり、今回の片付けだったり、誰も気が付いてないような、細かいところに気が付くよね」
「そうかな?」
「そうよ。大抵の人は気が付かないし、気が付いても見て見ぬふりするのが大半だろうから、橘君のそう言う所、すごい所だと思うわ」
テコ入れなのか、それとも本音なのか、絢辻さんがそう言った。それを受けて塚原先輩が興味深そうに「ふーん」と僕の方を見る。
「そうなんだ。橘君はいろいろな所で色目を使ってるんだね」
「色目って、人聞きが悪いこと言わないで下さい」
「だって……いや、何でもないわ」
「そんな含みのある言い方しないで下さいよ……」
気になってどうにも不安になってしまう。僕なんかしちゃったかな? そんな事を考えていると、隣で咳払いが聞こえた。
「ところで橘君、次の英語の課題終わってる?」
「え、課題? あったっけ」
「忘れてたんだ……ダメでしょ」
絢辻さんが優しく注意してくる。自分が悪いことが分かっているため、どうにも分が悪い。
「課題か……ちなみに教科は?」
「英語です」
「二年生の英語だから……あの先生か。じゃあ課題はやらないとダメかもね。あの先生、減点結構厳しいから」
絢辻さんに確認を取った後、塚原先輩がそう補足した。これ以上僕の弱点が増えては困る。ただでさえ先輩とは不釣合いなのだから、少しでも足掻かなければならない。
「塚原先輩すいません、僕、先に行きます!」
「うん、頑張ってね」
ひらひらと揺れる指先。彼女の微笑みが印象に残った。
●昼
「あら、七咲」
私はグラウンドを見つめる後輩に声をかけた。この間屋上で見かけた光景が立った今、こうして再現されていて、その正体が気になったのだ。
七咲は私を見るとハッとして、頭を下げる。いきなり上級生に声かけられるとびっくりするよね。私も一年の時はそうだった気がする。ちょっと懐かしい。
「こんにちは、塚原先輩。お疲れ様です」
「うん、こんにちは。何してるの?」
「特訓、ですかね? 私のじゃなくて橘先輩のですけど」
七咲は考えながらそう口にする。
「特訓?」
「ええ。何でも運動ができるようになってモテたいんだそうですよ」
「そ、そうなんだ」
橘君、モテたいんだ。そんな事私の前では言ってなかったけど、まあ年頃の男子の悩みとしては理解できない訳じゃない。
「それで、今は体力作りって感じなの? 七咲、分かってるじゃない」
「塚原先輩に散々言われましたから。一学期の頃は夢に出てきましたよ」
「……そこまでしつこく言ったかしら」
「ごめんなさい。ちょっと話を盛りました」
彼女はそう冗談を訂正して微笑む。本当に可愛い。私には無いものを持っている。これだけ柔らかく表情を変える事ができたら部員の勧誘でも苦労しなかったんだろうな。そう思う。
「もう、先輩をからかうのもほどほどにしなさい。ところで、どうして橘君の特訓に七咲が付き合ってるの?」
「そう、ですね。まあ恩返しです。この間お世話になりましたから」
「お世話に?」
「はい。塚原先輩、私の弟、郁夫の話、しましたっけ?」
「うん。たまに聞いたよ。色々と手を焼いてるって」
「ええ、今回は郁夫にプレゼントをしようと思って。男の子のことって、あまりよくわからなかったのでそれで、橘先輩に話を聞いたんですよ」
「成程ね」
私は頷く。橘君は素直でいい子だし、悩んでいる七咲を放っておけなかったのだろう。面識のある後輩なら尚更だ。
「結局、上手くいかなかったんですけど……でも橘先輩、その後慰めてくれて……」
過去にあったこと。それをじっくりと味わうように七咲は口に出す。
そのときの表情は私には見せた事のない物。そうさせている人物が誰なのか、明らかなのだけれど、その事実が私の胸を締め付ける。
「……そっか」
「それで、橘先輩に恩返しをしようと思って。……あっ、本人には言わないでくださいね」
「分かってる、と言っておきたいけど、七咲には橘君に私の弱みを吹き込まれた事もあったから、どうしようかなぁ……」
「そ、それは……」
「ふふっ、冗談だよ。黙って置いてあげるって」
「あ、ありがとうございます」
ホッとした様に七咲は息を漏らす。白い息がゆらゆらと天に上った。
「じゃあ、七咲にとって橘君は頼りになる先輩なんだ?」
止しておけば良かった。聞かなければ、疑問は晴れないけど、これ以上傷つくことはないはずだった。
言ってから、そう気づく。
「そうですね。男性の先輩だったら、一番です」
七咲は両手を合わせてそう答える。その迷いのなさが私にまた傷をつける。
橘君がそんな頼りになる部分を私に見せたことは無い。
彼女の中でも、彼は特別である。
その二つの事実が火をつけ損ねた爆竹みたいに、自分の中で燻っている。
「あ、塚原先輩じゃないですか。どうしたんですか?」
「え?」
視界の外から声がして、自分の世界から解放される。視線を向けるとそこには彼が立っていて、七咲からタオルを受け取っていた。
「ああ、こんにちは。橘君。ちょっと君が何をしてるのか気になって、七咲に聞いていたのよ」
「そ、そうですか。見られちゃったか……」
「何? 橘君は私に見られるのは不満?」
「いえ、そういう訳じゃ……」
「橘先輩は塚原先輩にメニューを駄目出しされるのが怖いんですよね?」
「ふーん、そっか。じゃあ安心して。さっき七咲と対策を練っていた所だったから」
「ええ、楽しみにしておいてくださいね。橘先輩」
私のパスに上手く対応した七咲は、いたずらっ子の笑みを浮かべつつそう言った。
私はそれをずっと見ているのが嫌になって、もともといた方向へと足を向ける。
「じゃあ、私は行くね。特訓もいいけど、二人とも授業には遅刻しない様に」
「分かってますって」
「なら良いけど。じゃあね。頑張ってね、橘君」
「は、はいっ!」
手を振って、二人から距離を取る事に成功。安堵する。
この燻った感情のまま二人と話していたくなかった。自分が置いて行かれているかのような劣等感。身勝手だとは分かっている、
願望と実行されない故の不満。
それらが混ざり合っている。こんな感情を捨ててしまいたい。そんな事、出来ないとは分かっているのだけれど、願わずにはいられなかった。
テラスに塚原先輩がいる。でも、様子が……。
| _ _ _ _ _ _ _ | 選択可能です | … … … … … … … … … … … ・ … … … … … … … … … … … | |||||||||
| _ _ _ _ _ _ _ | 休1 休2 昼●放 | テラス | |||||||||
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09
38 ←L ■ ■ ■ ■ ■ ■ *1 R→ 塚原 ひびき
あそこにいるのは塚原先輩、だよな。
普段だったらそう疑問に抱くことはない。ノータイムで先輩のもとへ駆けつけている。でも、今日は二の足を踏んでしまった。それも普段と少し様子が違う気がしたからだ。
以前、塚原先輩とここであったときはのんびりと、リラックスしていた。部活をする前の小休止をしているはず。なのに、今日はピリピリとした雰囲気だ。いつも纏ってる余裕さが案じられない。
声をかけるべきか少し悩んだけれど、僕は一歩踏み出す。彼女が僕にしてくれたこと、その恩返しをしたかったのだ。彼女に大きく手を振る。
「こんにちは、塚原先輩。今日も休憩中ですか?」
「……橘君か。まあ、そんな所」
「なんか、元気ないですね。何かあったんですか?」
僕は塚原先輩に問う。彼女の雰囲気、その違和感の正体を知りたかった。でもしばらく待っても、彼女は言葉を返さない。
僕は対面の椅子を引いて腰を掛ける。
「……話して下さいよ。悩んでたりするなら、尚更。先輩だって言ってたじゃないですか。話すことで楽になる事もあるって。何でしたっけ、ラ、ラバー……」
「──ラバーダッキング。あれは自分の中で物事を整理するためのテクニック。相手に対して反応を求めないことが条件なの」
「僕だって理解してますよ。ぬいぐるみみたいに黙ってます」
「ううん。そうじゃ無くて。私が反応を求めずにはいられないと思うから」
塚原先輩は首を振ってそう答えた。反応を求める。それは本来の相談という形において悪いことだとは思えない。だから僕は彼女に問う。
「それは、駄目な事なんですか?」
「駄目だよ。きっと私は耐えられない」
「どうして?」
「満足いかない結果だって、分かってるから」
「なんで、そんなこと分かるんですか」
弱々しく言った彼女にそう返した。それから彼女の思い込みを砕くために自分の中の井戸からいっぱいいっぱいの言葉を汲む。
「僕は塚原先輩の好みを完全には理解してません。けれど、もし塚原先輩に何かプレゼントをするとしたら、精一杯悩みます。それを開けないで判断されるのは……嫌ですよ」
「まるで、シュレーディンガーの猫みたいだね。でも今回は言葉だって。世の中聞かない方がいい事だって山ほどあるでしょう?」
「それは、言葉でも変わらないですよ。大切な物はいつだってプレゼントみたいに包まれてます。開けなきゃいつまでも箱のままです」
「開けなきゃ分からないこともある、か」
僕は頷く。
プレゼント受け取られなければ、開封されなければ意味がない。それどころか、ずっと心にしこりを残してくる。あの時の、中学生だった僕が今でも、燻ってしまっている様に。
「ねぇ、橘君。これから聞くこと、嘘はつかないって約束してくれる?」
普段だったらふざけて、それに「嘘付かれて答えたらどうするんですか?」とか言っていたと思う。でも彼女の雰囲気がそれを許さなかった。
真剣で、切実で、思い悩んでいる。
その姿に僕も同じように応えたいと思った。彼女がしてくれたように役割を演じる。ぬいぐるみの代わりになる覚悟を決めた。
「……はい」
僕の返事を確認すると塚原先輩はゆっくりと目を閉じて、また僕を見る。
「橘君は……どうしてモテたいって思うの?」
「え? そんなに思いつめておいて聞く事それですか? というか、どこからその話を」
「七咲から橘君が特訓してるときに聞いたの。内緒って言われてたけど、以前話してた、欲しい物の話に繋がるのかなって」
恨むぞ七咲……。確かに他言無用とか言わなかったけどさ、選りにも選って塚原先輩に言わなくてもいいじゃないか。
「彼女、欲しいの?」
「いや、それはその……」
「橘君の周りってかわいい子多いよね。七咲とか、絢辻さんとか……はるかだって。誰が狙いなの?」
ズイズイと迫って来る塚原先輩。机に乗り出してくるほどの威圧的な態度に思わず身を引いてしまう。塚原先輩は勘違いしている。僕の目標の為にはその勘違いをそのままにしてはいけない。何とか訂正するために話を切り返す。
「違いますよ! モテたいって言ったのは方便というか、その、正直に言うのが恥かしかっただけで……」
「ふーん。そうなの? じゃあ橘君、本当は何が欲しいの?」
「塚原先輩ですよ。僕が欲しいのは」
そうだ。塚原先輩が欲しいんだ。僕の目標は変わらない。その事実を改めて確認して……ん? 今僕はなんて? とんでもないものがポロっとこぼれ出てしまった気がした。
チラリと塚原先輩を見ると、その態度で確信に変わる。
「え? いや、ちょっと、いきなり何を言い出すの!?」
油断した。気が緩んだ。彼女の言葉に素直に返す様に意識していた故の失態だ。
本来であればもっとこうっ……情熱的に……ってそんな事を考えている場合じゃないっ!
「いや、その……嘘は言ってませんからっ!」
「それは、その……ありがとう。すごく嬉しい」
恥じらいながら、言葉を噛みしめながら、彼女は言う。
ムードもへったくれもなかった告白だった。けれど、彼女の嬉しいという言葉に全てがどうでもよくなってしまう。
「じゃあっ!」
今度は僕が机に乗り出して塚原先輩に迫る。立場が逆転して今度は彼女がたじろいで押されていく。
「……ごめんなさい。私は君の気持ちに応えることは、今はちょっと難しい」
「そんな……」
「苦しそうな顔させてごめん。部活に受験、集中したい事がまだまだあるの」
「そう、ですよね」
急速に温まった鉄の様な心が水に突き落とされて、急激に冷めていく。
当たり前だ。僕が塚原先輩だったとしても、彼女の目標の進学、未だ並行して行っている部活動を考えると、今ですらキャパオーバー気味。これ以上心血注ぐものを増やすことは愚行としか言えない。
事実を自分の中で再確認して、どうしようもなく、ただただ俯いてしまう。
そんな僕の頬に何かが触れた。熱を帯びたそれは滑って額へ移動すると、僕の前髪をかき上げる。光量が増えて、思わず目を細めた。
その隙をついて、明らかに違う物が触れた。指とも爪とも違う、明らかに硬度の低い物体。異質な感触に目を見開いた。
視界を独占している肌色。それが何なのか、それを理解するのに数秒。それが彼女の、塚原先輩の首で、自分が額に口づけをされたと言う事実に遅れて到達する。
その状態から解放されて、塚原先輩にピントが合う。
「こんな事、ズルいことだって分かってる。だけど……ごめん。もう少しだけ待ってくれるかな? 君が許してくれるなら、そのときはちゃんと応えたいから」
彼女の唇から移った熱がじんわりと広がっていく。背中でお湯が沸かせるんじゃないかと思うほどに熱くなる。それが全身に回って、固まっていた僕はまた動き始めた。
「それって……」
「言った通り。二度は……言わないから」
塚原先輩はこれ以上語らず、プイっと顔を背けて、席を立った。僕はその前に「はいっ!」と精一杯の元気を込めた返事をする。
「そっか。ありがとう」
席を立った彼女は頬を染めてそう言うと、足早にこの場を去った。
感情ジェットコースターを乗り切った僕は、今起きたことが信じきれなくて、頬をつねる。立てていた爪が鋭い痛みをきっちりと伝えて来て、これが夢ではないことを確信させてくれた。
夢じゃない。
先延ばしにしたけど、間違いなく塚原先輩は……。
(よおっっっっし!!!!)
ジャンプしながら右拳を突き上げる。でもそれだけじゃこの喜びを抑えきれない! 衝動のまま、僕は夕日に向かって走った。
時間がかかった特殊タグランキング更新。頑張ったから誉めて……。