二対一の攻防戦が繰り広げられる。
縦横無尽な念力の攻撃と組み合わせての攻撃。そして的確な援護。
「今です! 腕を上げさせて!」
右腕にブレードを纏わせて、ミノタウロスの両腕をかちあげた。
ガラ空きになったミノタウロスにリリが矢を打ち込む。
飛んだ矢は左目を突き刺した。
ミノタウロスは悲鳴を上げて矢を抜く。
「よし! あとはどこに攻撃を」
「右目! それから」
「それから? どこですか?」
「ケツの穴だ!」
「最低です!」
流れはこっちにある。状況は互角。
そのはずだった。
突然建物が破壊されて他のモンスターが四匹乱入してきた。
「まずっ……え?」
「嘘でしょう」
ミノタウロスがそのモンスターを瞬殺して魔石を捕食した。
傷が塞がっていき、身体の所々がまばらに黒くなった。
「はやっ!?」
一瞬で間を詰められる。なんとか避けたが、ミノタウロスの拳が地面にあたると大きく地面がひび割れた。
「何この力」
『オオオオオオオオオ!!』
咆哮を上げる。
重厚な殺意が二人の身体に降り注いだ。
赤く光る双眼。
「ヤバイってかヤヴァイ」
「一撃でも食らったら終わりですね」
ミノタウロスはニックに狙いを定める。
ニックも分身を生んで対抗する。
太い腕が分身を紙のようにちぎる。
地面を砕く余波で投げ飛ばされた。
追撃を許さないように大量の分身がミノタウロスに殺到する。
「ニック様!」
「はあ……はあ……」
「勝機がないですよ」
「いや。時間さえ。あとタイミングさえあれば……」
「……ニック様。私のことで話しが」
分身が全滅した頃には二人は会話を終えて、その4つの瞳に勝利の確信を宿していた。
ミノタウロスはそれに憤る。
「行くぞ!」
「はい!!」
二人は同時に駆け出して別れた。
前からニックが迫り、背後にリリが回る。
それを見たミノタウロスはニックのみに目標を定めた。小人の針など気にする必要ない。
「影共!!」
三十体に近い影を生み出して、その影達が落ちている武器や壊れた刃を手に握って飛びつく。
次々に消されるがそのうち五体が顔にしがみついて視界を邪魔した。
「【サイコブースト】!!」
影ごと顔を爆撃した。
ミノタウロスが煙を払っていると、その真後ろにニックが現れた。
「【サイコブースト】」
ミノタウロスは振り返ってニックに拳を打ち込む。
「【響く十二時のお告げ】!」
その声が突然女の子に変わった。
リリの前に立っていた影が身代わりになってリリを逃がす。
『ゔお!?』
煙の中、声で相手を判断したミノタウロスは、完全に声帯をコピーしていたリリに騙された。
「俺の相棒を甘く見過ぎなんだよ!」
鉄の砂でミノタウロスの足を掴んで空高く投げ上げる。
そして鉄の砂を上空に飛ばして、段々飛びにミノタウロスへと迫る。
ミノタウロスも撃墜しようと右手を振り上げたが。
「SHOT!」
リリの撃った二本の矢が両目を直撃。
視界を失う。
「これで終わりだ!! 最後の【はかいこうせん】!!」
ミノタウロスの胸に両手を押し当てて魔法を唱える。
最強最大最後の一撃が至近距離からミノタウロスの体を打ち抜き、魔石を完全に破壊した。
魔石が破壊されたミノタウロスは塵になり、風に溶けて消えていった。
「やりましたねニック様! ニック様?」
「……」
返事がない。よく見るとマインドダウンを起こしている。
「そんな!?」
受け止めないと。でも私のステータスじゃ!
「私に任せてください」
その隣をウエイトレスが疾風のごとく駆け抜けていった。
ウエイトレスは飛び上がりニックを抱きかかえて地面に着地した。
「急いで離れましょう。あんな目立つことをやったのですから。すぐに他派閥が来てしまう」
リューとリリは急いでその場から離れた。
二人は開店準備中の豊穣の女主人の二階に運び込まれた。
クロエやアーニャ。シルの手当と自前の自然治癒で二人は回復したが、ニックはマインドダウンで意識を失ってしまっている。
「リリルカさんも一晩止まっていったら?」
「いいんですか?」
「動かせないでしょう。それにアーニャも助けられたみたいだしね」
「じゃあお言葉に甘える事にします」
翌日。ニックは目を覚ました。
腹の辺りが重たい。
頭だけ起こして腹の方見ると女性の頭があった。髪の色と猫の耳があることからアーニャだということがわかる。
「起きれん」
「……」
気配を感じて横を見るとリリがこっちを見ていた。何故か不機嫌そうにしている。
「おはようリリ」
「おはようございます。朝からごきげんですね」
「ははは。良かったのか?」
「何が」
「スキルを俺に教えて。秘匿すべきなんだろ」
「あの状況でしたから」
しばらくするとアーニャが目覚めた。
アーニャはニックが目覚めているをみると抱きついてきて「よかった」と繰り返した。
「……ふんっ」
リリは先に階段を降りていく。続いてニックもアーニャを引き剥がして下に降りた。
「すいません。お世話になりました」
「良いんだよ。こっちこそアーニャが世話になったみたいじゃないか。飯があるよ」
がっついて食べる。それはリリも同じ。
「生きててよかったあ」
「ホントですね。ご飯がこんなに美味しいなんて」
たらふく食べさせてもらった。
「……さっきからアーニャが離れないんだけど」
食べてる間もずっと抱きつかれている。
「しばらく我慢してやっておくれ。坊主が心配で夜ずっと付き添ってたんだよ」
そうなんですか。と顔を覗き込むと頬を赤くして目を背ける。
「いでっ」
すねを蹴られた。
「お世話になり過ぎるのもあれですし。そろそろ行きますか」
「ああ。本当にお世話になりました」
ミアさんに頭を深く下げてお礼した。
「あんま無茶やるんじゃないよ。引き際をわきまえな。命あってのものだねだからね」
「はい!」
二人はソーマのホームへと向かった。
団員達があからさまに避けていく。
「おい団長」
「ああ!? 何しに来た!?」
明らかに嫌悪感をむき出しにしてくる。
「徴収の金を早めに納めるから神様に通してくれ」
「ふざけんな! ソーマが決まった日にち以外で動くかよ!」
「二倍払うから通せよ」
「ちっ。わあったよ。聞いてくれるかわかんねぇぞ」
二人は扉をノックして部屋に入った。
「今取り込み中だ。出ていけ」
酒を作る計画を立てているらしい。
「ミノタウロスを倒した。更新してください」
それを聞いたソーマが羽ペンの動きを止めて立ち上がる。
「横になれ」
また数日後。ギルドの掲示板に信じられない紙が貼り付けられた。
その紙の話は都市中に広がり冒険者たちを、神たちを騒然とさせる。
その内容は。
『ソーマ・ファミリア所属
ニッタ クイナ
ミノタウロスの討伐によりレベル2にランクアップ
所要期間7日間
世界記録保持者に認定』
豊穣の女主人でもこの話で持ちきりだった。
「ありえないだろ!? 7日間だぞ7日!」
「ソーマにそんなやついたか!?」
この話を当事者はいつものカウンター席で黙って聞いていた。
フードを被って全身を隠している。
「良かったですね。噂になって」
リリはランクアップしなかったので少し不服らしい。
二人は見つかったら面倒なので全身を隠している。
店員たちもそれを気遣って名前で呼ばないよう気をつけていた。
「ま。祝いです! パーっと行きましょう」
「そだなぁ! 乾杯!」
林檎ジュースの入ったジョッキを打ち鳴らした。
二人で飲んでいると、ニックの隣にアーニャが座った。
アーニャは尻尾でニックの腕を叩く。
「ん?」
今度は耳を動かした。
「ん?」
しばらくして思い出したニックはアーニャの尻尾を触ったあと、猫の耳をアーニャの頭を触った。手を離そうとすると尻尾が腕に巻き付く。とても可愛らしい。
それと思った以上に触り心地が良かった。