割とハードな現状
あの後ミノタウロスを倒した現場に戻ってみたが、もうチャクラム等は片付けられていて。鉄の粉もなくなってしまっていた。
これは困った。メイン武器がない。
「新しく探さないと」
しかしあれだけの投擲武器やナイフを集めようとすると相当な金がかかってしまう。
そして一番の問題は。
「鍛冶職人は自分の武器に自信を持って送り出してるんだよな」
その自信を持って送り出した武器が戦いに使われる前に砕かれて粉にされる。
そんな事がやっていいのか?
気が引けるというのが正直な心境だ。
だから少しでも気が楽になるように今は武器の中古売店を訪ねていた。
しかし中古と言うだけあって砕いても使い物にならなさそうなものが多い。
中々うまく行かず、フードを深くかぶって階段に腰掛けて溜息をついた。
「うまくいかないなあ」
わざわざ壊させるために武器を作る人なんていないだろう。
そんなの本末転倒だ。
「ん? ニックか」
フードを抑えて逃げようとする。
「祝だ。ポーションはいらないか?」
ミアハ様だとわかってニックはフードを外した。この人はいい神様だ。だからフードを被る必要はない。
「そこまで信頼してもらえると嬉しいな」
「心が読めるのですか?」
「神の勘はするどいぞ。気をつけろ」
相変わらずのミアハ様だ。この人は側に居るだけで何故か心が落ち着く。これも心優しい神格がなせる技なのだろうか。
「そう言えばポーションが切れたんだった。今から買いに行ってもいいですか
「ああ。私も今から帰るところだ」
ミアハ様に色々なことを話しながら薬局へと向かった。
途中茶菓子とお茶を買っていく。
店の中に入ると相変わらず無愛想に椅子に座るナァーザが居た。
「ナァーザよ。ニックが来たぞ」
「お茶とお菓子持ってきました」
安全地帯に一息つく。
「しかしは話を聞いていたが無理をし過ぎではないか?」
「うん。急ぎ過ぎだよ。少し腰を落ち着かせたほうがいい。まず何故逃げなかったの。危険な相手なら、勝てるかどうかわからないのなら挑むべきじゃない」
ナァーザのトーンがかなり低くて本気の声だったのでニックは生唾を飲んだ。
鬼気迫った顔をしている。
「ごめん。空気が重くなった」
「しかしナァーザの言うとおりだ。危なすぎる」
「よく言われます。リリにも言うことを聞けと言われますし」
だがあのときは通したい筋があったのと、生来の意地っ張りの性格もあって逃げるという選択肢はなかった。
「それで死んだら意味がない。死んだら悲しむ人はいるでしょ」
居るのだろうか。
リリとか悲しむのかな。
「……悲しむのか? あいつ」
全くその姿が想像できないけど。
無理矢理身の回りの人で想像すると少しこそばゆいし現実味がない。
「リリが死んだらどうする?」
「泣く」
大切な人だもの。そりゃ死んだら泣くよ。
「リリだってきっとそうだよ」
それはどうだろう。
最近怒られてばっかりだからな。
俺が死んで泣いたりしてくれるのだろうか。
「神様も眷属に無関心だし。仲間はそもそも少ないし」
「ニックよ。少なくともお主が死んだら私は悲しむぞ」
「それ目の前で言うのは卑怯ですよ」
真っ向から言われるとこっ恥ずかしい。
「そんなだから女の子に勘違いされるんですよミアハ様」
「されるか?」
「されてる」
ナァーザは頭を抱えた。
こちらも苦悩をしているらしい。
「そう言えば大丈夫なの? 神々とか冒険者は大騒ぎだけど」
「ああ。容姿については嘘の情報を流しました」
「嘘?」
長身で金髪青目のツンツン頭。武器はバスターソード。という嘘の情報を流した。
神がソーマの構成員に聞けば真実がわかるだろうが問題ない。真実の白が多少あったとしても、偽りの黒が大きければ黒に染まる。
どんな真実でも嘘を信じる人のほうが大きければあまり問題にはならない。
その上、住所不定なので追跡もし辛い。
注意を払いに払って払いまくれば、かろうじて日常生活を送っていられた。
という説明をしていると扉がノックされた。
そしてミアハ様が返事をする前に扉は開かれる。
「ミアハ邪魔するぞー!」
「邪魔するなら帰ってや~」
「なら変えるわ〜って帰るかぁ!」
ノリのいいおっさんが入ってきた。
その隣には美女が立っている。
「むむ! 美人がいるぞ!」
「俺に注目しろ!」
神様を名乗るおっさんが乗り込んできてミアハは顔をしかめる。
「客がいるんだぞ」
「何処に?」
「俺」
「誰だお前」
「今世紀最大級の大型ルーキーニッ……!」
ナァーザに足を踏まれる。
危ない。思わず名乗るところだった。
「にっ……ニクラス・ケイジ」
勿論嘘と見抜かれて、鼻で笑われた。
この神様はディアンケヒトと言うらしい。
「今月の払いはまだの筈だ。なじりに来ただけなら帰ってくれ」
ディアンケヒトはニックに近寄って方に右手をおいた。
「こっちの店に来ないか? 安くしとくぜ。少なくともこっちのファミリアみたいにポーションを水で薄めたりはしない。なぁ?」
その手を払いのける。
「ミアハ様達がそんなことするわけ無いでしょう。俺はお二人に絶大の信頼をおいています。お帰りください。あとお嬢さんの下着は何色ですか?」
ナァーザは少し眉をひそめた。
「はっ。そうやって騙されてな」
おっさんと美人が立ち去る。
「まてっ! お嬢さんのスリーサイズを」
扉は閉じられた。
「さすが俺。追い払ってやったぜ」
「セクハラしてただけ」
「すまなかったなニック。見苦しいところを見せた」
「良いですよ。お互い色々ありますね」
「と言うと何かあるの?」
「ええ。ファミリアの団員に殺意を持たれてます」
二人はぎょっとした。
お互い色々あるなぁとミアハは苦笑いをする。
お茶飲んでニックは店を出る。
ポーションなどは忘れずに買っておいた。ミアハ様は礼に金はいらないといったがちゃんとお支払いはする。
「また。来てね」
「いつでも来い」
フードをかぶり直して笑顔で「また来ます」と言って立ち去る。
やっぱりあそこは落ち着く。
行ってよかった。