露店で特売になっていた果物を買い込んだ。道中袋から林檎を取り出して丸かじりする。甘くていい味だ。
世界で一番おいしい果実は林檎だと思うね。
(青森の林檎食べたいなあ。蜜があるやつ)
甘くて美味しかったなあ。それと比べると今かじってる物が物足りなくなってきた。
「……一度思い浮かんだら駄目だな」
林檎を飲み込んで次の果物に手を出そうとしたとき。それは目に入った。
路地裏の方で小さな女の子が数人の男に絡まれている。
よく見るとそれはリリだった。
さらによく見るとリリと冒険者の間に少年が立っている。ベルだ。
足早に近寄る。
「そいつをよこせってんだ!」
「嫌だ!」
「ベル様。もういいですから私を置いてく逃げてください!」
「何やってんのお前ら」
「ニック!」
「俺の女と知ってやってんのか?」
「チッ。行くぞ」
うん。このミカンは甘い。これは向こう側の物よりは好みだな。
「すまんベル。うちの団員が世話かけた。いろいろな意味で」
「気にしないで」
「……それで何があったんだ?」
カクカクシカジカ四面楚歌。
どうやら俺の躍進が気に食わない奴等がリリに当たろうとしていたらしい。
何故リリにやるのかがわからない。
「最初私を連れ出すときに"この女は俺がもらう"って言ったじゃないですか。だから私はあなたの大切な人とされているみたいで」
「ならハッキリ言えよリリ。なんも関係はないって」
「それが駄目なんです。すでにヘイトは買ってますから。今の私はあなたの名前に守られてます」
「成る程。関係がないって言うと逆に狙われちゃうんだ」
そういう事ですとリリは項垂れる。
面倒なことになってるな。
俺の女だから報復の対象になるが、俺の女じゃなくなったら普通に命狙われる。
「あなたの女じゃないですからね」
「しかしなぁ。俺今武器無いからなあ」
「え!? 武器ないの!?」
全部失っている。しかも調達が難しい。
潜る階層を下げるどころか、今までの階層でも難しいかもしれない。
「じゃあ。僕も一緒に行動すればいいんじゃないかな。数は増えるよ」
「……でもなあ」
「僕じゃ力不足かな……」
「いやそう言うわけではないのです。ただ……これはソーマの問題なので」
他派閥のベルを巻き込みたくない。こんなドロドロした危険に関わらせたくない。
「でも。力になりたいんだ!」
何この聖人君子。超カッコいい。
「じゃあお言葉に甘えるか」
「明日からよろしくお願いします」
これによりパーティは二人と一人が合体。三人の仮パーティを結成した。
宿屋の二階。二人部屋。
二人はしばらく同じ宿に泊まることにする。流石に家までベルに頼るわけには行かない。
「そう言えばニック様はスキル何をとったのですか?」
「なんかよくわからんスキルだった」
「よくわからんスキル?」
「ソーマが"これでいいやろ"と勝手に取ったから」
「あの神は本当に……」
あまりにもだらけ過ぎだ。人生を分けるスキル選択を独断で適当にやるなんて。
ふざけている。
「【極光】っていう名前」
「どんなのができるのですか?」
「こんなの」
両手を合わせて力を込めると虹色の光が漏れ出してきた。
手を広げると虹色の光が部屋を包んだ。
「これは」
「オーロラだ。知ってる?」
「本で読んだ程度ですが。これがオーロラ……綺麗です。で、これが何なんです?」
「これだけ」
首を傾げる。
「オーロラを出すだけ」
実際ステータスの写しにはそんくらいのことしか書いてなかった。何故こうもステータスは説明をしてくれないのか。
(あれか? 俺本来の力じゃないからか?)
「つ、使えますか?」
心当たりはある。
「やってみてください」
数分。頑張ってみたが、ボヤーとしただけで上手く行かない。
その上オーロラを消す方法が分からなくて消すのに手間取った。
使えないわ消すのに時間かかるわとソーマの独断で取らされたスキルは散々。
本人は「練習したらできる!」と言い張っていたがリリには無駄にしか見えなかった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆
三人は時間通り集まる。
ニックはまだ目をしょぼしょぼさせているが、ベルは快活。
現代暮らしと田舎暮らしの差だろう。
圧倒的にベルの方が朝は強かった。
ニックは結局ソーマのホームから要らない武器を強奪した物を使っている。
だがやはり、ロキのホームから貰ったものよりかは劣化していた。
「使い勝手わっる! 切れ味ざっこ!」
試しに使ってみたが全然駄目。
役に立たない。
ゴミクズめ! と浮かべた金属の砂をポスポス殴るニックを尻目に二人は周りを見張りながら会話する。
(居るね。一人)
(はい)
(ニックに伝えとく?)
(アレは原理は不明ですが高性能の感知能力があります。気づいているでしょう)
気づいていた。二人以上に。
(んー二人居るなあ。モンスターパレードでも無さそうだ。様子見か?)
二人の冒険者は様子を見ていた。
「旦那。アイツメイン武器がないようですぜ」
「みたいだな。だがそれでも奴を倒すのは無理だ」
髭面がにたりと笑う。この男こそニックをファミリアに加入させた張本人。
こき使ってやろうと思ってたら一瞬でやられた上に武器まで奪われた男。当然強い殺意を抱いている。
「一人増えてるし」
「逆にチャンスでは?」
「は?」
「俺たちは結構前から見張ってたんでね。リリルカの奴がステータスを秘匿しろと教え込んだせいで、どんな窮地に陥ってもスキルを使わないんですよ」
「成る程な」
「俺に策を立たせてくれればあいつらを陥れてやれますよ」
「じゃあ任せる」
二人は闇の中へと消えていった。
二人が居なくなったのを確認してニックはいざというときの為に広げていた鉄の砂を集めて袋に戻す。
「もう行ったぞ。二人だけだから多分様子見だな」
「二人……ですか」
「もう一人は気が付かなかったね」
「そっちのが闇討ちの経験が豊富なんだろうよ。何するかわからないが、武器が本調子でないとなると不安になるな」
頭の後ろをかきながら言った。
レベル2になったが武器がないと自身が持てない。自分がどれだけ武器に頼り切っているかがわかる。
「私のこの魔剣だって微妙ですからねえ」
「でもすごいよ! 魔法だよ魔法!」
「俺もそういうカッコいいのがいいなあ」
あなたのも便利でしょうと言いながら魔剣をしまった。
ベルは魔法がほしいようだ。
その気持ちもわかるが、魔法を持つと余計に金がかかる。ポーションとかで。
「本とか読んだらどうですか? 魔法の発現がしやすくなるようですよ」
「シルさんに聞いたらどうよ。あの人って本とか読むんじゃないか」
「ニックは読まないの?」
「学区の図書館でちょっと借りる程度だな。家がないから買えないし」
ニックはホームのように固定した場所を持っていない。だから本や家具のようなかさばるものは一切保有できない。
「いつか欲しいなあ。マイホーム。リリは金をためてどうしたい?」
「私は……」
言い淀んだ。
下を向いて何か思いつめている。
「帰り飯どうする!?」
話題を変える。
久し振りに豊穣の女主人に顔を出すことになる。あれ以来一度も行っていない。
酒場に行くと少なからずいる顔と名前を知る人間に遭遇する可能性があるからだ。主にソーマ。
鉄砂で鉄仮面を形成して被っていこうとしたら逆に目立つと言われ、リリが持っていたマスクとサングラスをかけていく。
「スーパースターみたいにならないこれ」
ハワイ芸能人取材とかで見る光景なのだが。
「初見さんごあんなーい」
「初見さんのテンションじゃないですよね」
あくまで初見を装って店内に入る。
「ベルさんいらっしゃい。そちらの人達は?」
シルさんが乗ってくれた。正直滑ったかと思ったが救われた。
「初めての人ですか。わかりましたカウンター席にどうぞー」
他の人達も空気を読んでニックの名前は出さない。
聞き耳を立てると未だに自分の話をしているのが聞こえたがどうやら嘘の噂がカモフラージュになっていて正確な容姿は広がっていないようだ。