いつもの通り林檎ジュースと芋を注文する。
「肉や他の野菜も食べたらどうですか? 偏りますよ」
「いつ死ぬか分からないんだから好きなのだけ食べる」
「そんなのだといざという時に実力発揮ができませんよ。ミア様お肉をお願いします」
偏食家のニックの代わりにリリが料理を注文した。
「ほら。好き嫌いをしない」
「リリは面倒見がいいね」
「ほっとくとトラブル起こしますからね」
「ほうかなあ。ほういやベル。シルさんに本きかないのか?」
忘れてた。とベルはシルさんに相談を持ちかけている。
少しすると見たこともないよくわからない本を持ってきた。
「店に誰かが忘れていったみたいなんだけど。借りちゃった」
「良いと思いますよ。こんな所に忘れていくやつが悪いですから」
ニックが顔がバレないように気をつけながらチラチラと後ろの方に視線をくれている。
「気になりますか? アーニャ様が」
「いや? そんなことねぇけど」
アーニャは普通に接客をしている。
気にし過ぎのようだな。
俺たちの間には何もなかったんだし。
「お久しぶりです」
リューが座る。
「お久しぶりです! 相変わらずお美しい!」
「改めてランクアップおめでとうございます」
「いやあ。どうです? 今世紀最大のルーキーとデートにでも」
リリが脇腹をつねる。割と痛い。
「これから方針はどうするのですか?」
「今はこの三人でパーティを組んでいます。ただ」
「ただ」
「武器が無いんですよ」
ニックの言葉に眉を寄せる。
「調達が難しい上に質のいいものは無いですから……中層に通用しないんですよねぇ」
ロキの倉庫の物でもミノタウロス相手に全く歯が立たなかった。あれでもかなり上等な物のはずだ。あれ以上の物の調達は難しい。
「武器を変えることも視野に入れたほうがいいのでは? まだ冒険者になって間もないですから今なら間に合いますよ」
それも考えないといけないか。
しかししっくりくる武器がなかなか見つからず、やっと見つけたのがあれだ。
無理矢理使いなれるしかないのだろうか。
「そう言えばニッタさん」
「何ですか? 麗しき乙女」
リリにスネを蹴り上げられた。
「ガネーシャが逃げ出したモンスターを倒した人に恩賞を渡しているようです。ミノタウロスやその他を倒したのですから名乗り出たらどうですか?」
初めて聞いた美味い話だ。
「リリどうする」
「ガネーシャは信頼のできるファミリアです。事情を話せば名乗り出たことを大きく扱わないでくれるでしょう」
「え? ミノタウロスの討伐って地上での話だったの?」
頷く。
「僕もヘルメットゴリラを倒したんだけど」
「名乗り出たら貰えるんじゃないか?」
今度三人で行くかという話になった。
これで武器を買うための資金になる。
金というとあの時のリリの反応は何だったのだろうか。
気になるが聞かないほうがいいよな。
「そういや。ベル武器変えたのか?」
「そう! 神様が買ってくれたんだ!」
銘柄を見てみるとヘファイストスと書かれている。
「かなりの品だ。クラネルさん。大切に扱ってください」
リューがベルから受け取り鑑識した。その内容にリリも同意する。
ヘファイストスは都市最高の鍛冶ファミリア。その銘柄なんだからかなりの品質だ。少なくとも駆け出し冒険者が手に持つものじゃない。
ニックだって身元不明のよくわからない武器を使っている。
「買わないの?」
「宿ぐらしは贅沢言えねぇのよ。ホームがあるのが羨ましいわ」
一番宿が金かかる。
いっその事ソーマのホームを強奪してやろうかな。
「金かあ。僕のところも貧乏な零細だからなあ。もっと僕が稼げて神様を楽させてあげられたらいいのに」
親孝行すぎるだろ。
こんな眷属を持てて神様も幸せものだな。
「はあ。ニック様もこれくらい立派だったら良かったのに」
「最近リリの言葉が刺さる刺さる。リューさん慰めて」
「貴方は甘やかすと駄目なタイプに見える」
「少し御手洗いに」
「あちらを曲がったところです」
リリは椅子から飛び降りて歩いていった。
「……嫌われてるなあ」
頬杖ついてこぼした。
「どうしたの」
「この前にさ。言うことを聞かないって言われてから対応が辛辣なんだよね……はあ……」
この間というのはロキの模擬戦の事だ。
あの時からリリのニックに対する対応が塩対応になっている。
「そうかな。僕はそう思わないけど」
「ええ。私もそう思いますよ」
「たまにプライベートのリリと合って話すんだけど、やっぱり壁がある感じがする。でもニックと話してるときはそういうの感じないよ」
「本当に嫌いなら。貴方がミノタウロスと戦っていると聞いてその場に駆けつけませんよ。そんな無謀に付き合う必要はないわけですから」
確かに。俺がミノタウロスと戦っていることを知って駆けつけてくれた。
キツイ言い方なのもある程度信頼してくれてるからなのかも知れない。
「だと良いなあ」
「結構気にする人なんだね」
「野郎はともかくレディには好印象でありたいし」
リリが帰ってきた。
「お帰り」
「はい、ただいま。何か他に注文しますか?」
「芋」
「偏食はやめてください」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆
営業時間が過ぎて豊穣の女主人は片付けをしている。
アーニャはサボっていたところリューに見つかって急いで店内を箒ではき始めた。
皿洗いを終えたリューとシルが厨房から出てくる。
「アーニャ。ニックに声掛けなくてよかったの?」
「今行って身元がバレたら大変だからにゃ。もうすこし噂が落ち着くまで待つ」
「大丈夫? 他の人に手を出しそうな勢いだったけど。リューだって声かけられてたし」
「気にしないにゃよ。ちゃんと面倒見てくれるなら」
都合が良すぎないか? と二人はアーニャを心配した。もっと欲張りにわがままになってもいいんじゃないかと。
だがアーニャは窓に腰掛けて外を見上げながら言った。
「今は片思いで我慢するにゃ。帰ってきてくれるだけでいいにゃ。それに……」
「それに?」
「あれは一箇所に落ち着く人間じゃないにゃよ」
確かにと。各人同意した。