宇宙招来体がダンジョンに潜るようです。   作:チノパン

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踏み入れる

 二人は全力で駆け下りていく。

「どけどけー! 邪魔だ邪魔だどけどけー!」

 そして直ぐに霧の濃い階層に辿り着いた。

 実はこの階層はあまり好きでは無い。

 元々目が良くないのにこんなに深くて薄暗いから本当に見えない。それに

「キラーアント嫌いなんだよな」

 一体ならいい。だが数十体となったらそりゃ悪夢ですよ。

 人間の胴体ぐらいある蟻が大群でカチカチ言いながら来たらトラウマになる。

「俺が来たぞー! 今世紀最大級の大型ルーキーニック様が来たぞー!」

 その声を聞いた者達は作戦を開始した。

 

 

 

 リリが目を覚ますと全身を縛られ轡を口に入れられて、硬い地面に転がされていた。

 周りの暗さを見るにダンジョンに居るらしい。

 目の前には、あの自分を眠らせた男が立っていた。

「起きたか」

「お前にはあの二人を呼び出すための餌になってもらうぜ」

 轡を外される。

「あの二人があなた方にやられるわけがない!」

 それはどうかなと男は笑う。

 

「メイン武器がない上に『あの姿』も封じられてる。だってお前が刷り込んだんだろ? "他派閥には秘匿しろって"よ。あれ以来どんな窮地でも他の派閥がいるかもしれないところでは使ってないんだろ?」

「それじゃあ。ベル様はただの抑止に……。そ、それでも負けるわけが」

「これなんだ」

 男はビンを見せびらかせる。

「蟲毒っていう手法で作られた毒だ。加えて瀕死のキラーアント。あの男は苦手らしいなあ大量のキラーアントが」

 嫌らしい。あまりに嫌らしすぎる。

「さらに……」

「何ですか?」

「血だらけにしたお前の服を吊るしておいた。精神に来るだろうよ。冷静を保てるか?」

 駄目だ。ニックは確実に冷静を保てないだろう。毒をくらってモンスターに囲まれ冷静さを失う。最悪のパターンだ。

 

「なあ。リリ……取引がある。お前が溜め込んでいる金を全額よこせ。そうすりゃあ、あの二人の命は助けてやる。あの髭は殺すことに執着してるみたいだがな……俺は別だ。金さえあればいい」

「……わ……わかりました話します。だから止めてください!」

 リリは隠し場所を吐いた。

 男はメモを取ってリリの首に刃物を押し当てる。

「な、何を」

「キラーアントに始末させるのは不確定が多すぎるからなあ。俺の手で終わらせてやる」

 

 リリは気づいた。冷静さを失っていたのは自分の方だったと。

 普通考えてこいつが約束を守るわけがない。なのに信じてしまった。

「終わりだリリルカ・アーデ」

 刃を喉仏に向かって振り下ろそうとする。

 悔しさのあまり涙がこぼれた。

 

「待ってくださいよう旦那あ」

「あ?」

 闇から血に濡れた髭面の男が戻ってきた。だらんと無気力に手足を垂らした2つの遺体を両脇に抱えている。

 ニックとベルだ。

 

「もうすみやしたぜ。一瞬でパニックに陥って矢で打たれてこのざまですよ」

 持ち上げられた二人の顔は苦悶に歪んでいた。

「いくら強くても。闇討ちは俺たちが上ですからね旦那」

「やるじゃねぇか」

「旦那。なぜその女を殺すんです? 貴族のマニアにでも売りゃあ高く付くじゃないですか」

 旦那と呼ばれる男は上機嫌に笑ってリリから刃を離した。

 リリは二人の遺体を見て涙をボロボロと流す。

 

「ねえ。旦那……?」

「何だ」

「俺って演技派じゃね?」

「は?」

「【ファイアボルト】!!」

 髭の後方から火炎が飛んできて男の顔面に直撃。吹き飛ばされる。

 

 困惑するリリを見て髭は嫌らしく笑った。

「可愛い顔してらあ。売る前に操を貰っとこうかねぇ」

「もういいでしょ。早くときなよそれ」

 髭はゲラゲラ笑いながら自分の顔に手を当てて、仮面を取るような動作をとった。

 すると姿形がゆらゆら蠢いて、オーロラの七色のカーテンが形を変えて別人に変わっていく。

 

「どうもー! 今世紀最大級の大型ルーキーニックです。もしかしたらハリウッドも狙えるかもねん」

 ニックがヘラヘラ笑いながら現れる。

 これは意味がないと思われていたスキル【極光】の力だ。ニックはデオキシスがポケスペでオーロラの幻影を使うことを知っていた。だからこそ有用性があるといったのだ。

 

 吹き飛ばされた男が顔を抑えながら叫ぶ。

「何でだ!? キラーアントは!? 毒は!?」

「キラーアントは何か知らないけど次々死んでったぞ」

 実際二人にはよくわからなかったが何故か死んでいった。

「毒は!?」

「俺場所によっては毒食らってもいみないし」

「へ!?」

 ニックはナイフを腕に挿して抜く。抜いたから傷が塞がる。

「食らったら回る前に削ぎ落とす。その後再生させれば問題なし」

 そんなことできるわけが無い。人間は蜥蜴とは違う。

「まあ激痛はある。けどよお前らに好きやられるのを考えたら楽だわ」

 顔は引きつっていた。必要であればリスクを犯すことをためらわないニックだが、今回は流石に堪えた。

 

「これ以上は好きにさせない! リリを返せ!」

 男は後ずさろうとして、床に転がされているリリに足があたった。

 男は突発的にブチ切れリリを蹴ろうとする。

「【ファイアボルト】!」

 ベルの新魔法が駆け抜けて男の脇腹に着弾した。

(俺の魔法より早いな)

 速度は【サイコブースト】の遥か上を行っている。簡易発動可能でかなりの速度を誇るベルの魔法に思わず舌を巻いた。

 

(っとそんな事より)

「なあ。お前の目的は俺か? それともリリか」

「俺の目的は金だよ」

 男は脇腹を抑えながら立ち上がった。右手にはまだ剣が握られていた。

「そいつはなあ! 俺達とパーティを組んで報酬をちょろまかしたんだ! その盗まれた金を奪って何が悪い! 取り返して何が悪」

 ニックは男の口を封じるように顔を掴んで壁に叩きつけた。

 

「おまえが……お前らが……お前らが正当性を訴えんじゃねぇよ!!」

 二度三度と壁に叩きつける。

「お前ら……あの時何やってた?」

 思い浮かべるのは最初の日のこと。あの凄惨で残虐な悪魔の所業。人間の悪意が蔓延る地獄の魔宴。

「何が盗まれただ。何が騙されただ。その仕返しがあの私刑か? ふざけんじゃねぇぞ!」

 十二回叩きつけて、壁も床も血で濡れている。

 

 ニックは反対の手を振りかぶって、金属のグローブを作った。

「お前らが!! 正当性を口にするんじゃない!!」

「んー! んんんー!!」

 男は抵抗するが逃れられない。

 目の前にあるのは、闇と言っていいほどに深い深い負の感情を写したニックの両目。

 本能で理解する。殺す気だと。

「地獄で焼かれて悶え死ね」

 ニックはこぶしを振り下ろす。男は目をつむった。

 

「んーーーー!! んーー……。ん?

 一向に痛みが来ない事を訝しんで男が目を開けると、振りかぶった手を掴んで止めるベルが居た。

「離せよ……」

「駄目だよ」

「離せっていってんだ!!」

「ニックがそっちにいったら! 誰がリリを守るの」

 殺したら、こいつらと同じになってしまう。同じ穴の貉だ。

 ニックは奥歯を強くかんだ。顎が軋んで音を立てる。興奮しているせいで、獣の様な粗い息が漏れ出した。

 

「そっちに行ったらだめだ……!」

「ニック様やめてください」

 縄が解けたリリもニックの行動に静止を呼びかける。

「お願いします……あなたに……貴方にそんな目をして欲しくない!」

 ひときわ強く顎に力を込めたあと、両手の力を抜いた。

 男は地面に落下した。

「ニック」

「もう……大丈夫だ」

 息を整える。

 

「ふ、ふざけんなボケ! サポーターが何だってんだ!! 冒険者にもなれない脱落者が偉そうに!! お前ら小人なんてステータスもろくに伸びないゴミだろうが! 雑魚は雑魚らしく奴隷になって言う事聞いてれば」

「【ファイアボルト】」

 顔の真横に着弾してこめかみを焦がす。

「次なんか言ったら僕が怒る」

 男は尻もちを付いて気絶した。

 三人はその場から立ち去る。

 地上に登って、ベルに礼を言ってから別れた。本当にいい仲間を持った。

 

「リリ」

 帰り道。リリはニックに背負われていた。

「お前ソーマを脱退するために金をためてたんじゃないか?」

 リリは息を呑んだ。

「な、なぜそれを」

「団長から聞き出した」

 この前武器を強奪しに行ったときに一応脱退の方法を聞いておいたのだ。

「俺はもう一人でも冒険者やっていける。だからお前はお前の自分の道を進んだらいいんだぞ」

 リリはぎゅっと腕を締める。

 

「ニック様は。なにか欲しいものとかやりたい事とかあるのですか?」

「俺は家が欲しいな。……正直言うよ。ベルがちょっと羨ましい」

 家があって。只今って言えて。お帰りって言われる。そんな場所がほしい。

 ニックだって化物じみた力を持っているが、元はただの一般人。

 

 咳をしても怪我をしても一人。色々な意味で周りからの目を気にしないといけない生活。根無し草の生活は正直かなり辛いところがある。

「……」

 少し沈黙してリリは腕を解いて、ニックの背中から降りた。

 突然のことに振り返るとリリが両手で袖を握りしめて、何か意を決した顔をしていた。

「ニック様。私は。私は___

 

 

 二人はあの宿屋に二度と戻ることは無かった。

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