廃墟の地下。
ボロボロで埃っぽいけど、ここが一番落ち着く場所。つまり僕のホームだ。
僕はここで神様と二人で暮らしている。
「おはようベル君」
「おはようございます神様」
ヘスティアは目をこすりながら立ち上がり、コップに水を注いで一気に飲み干し眠気を覚ました。
昨日残しておいた食べ物に手を伸ばす。
「そういやベル君。君とパーティを組んでいた二人はどうしたんだい? 君が一緒に住んでいいかと聞いていた二人だよ」
実は一緒に住まないかと誘って二人に断られたあと、ベルはヘスティアに相談だけはしていたのだ。
事情を聞いたヘスティアは最初渋ったが最終的に良いと言った。
「ああ。実はですね」
ベルは地下で何があったのかを全て話した。
「そうか。僕の知らないところでそんな事をやっていたなんてね。大変ご立腹だよ」
「ご、ごめんなさい」
「それで。二人は結局どうしたんだい?」
それはですね……。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆
とある通りの一角。そこにあるちょっとボロい四階建ての建物の最上階の一番狭い角部屋。
「ん……ぐ……」
窓から差し込む日が顔を刺激する。
瞼を通して入ってきた光が眩しくてニックは背筋を伸ばして起き上がった。大きく欠伸をしながら腕を上げて体を伸ばす。背中がバキバキと音を立てた。
周囲がはっきり見えるようになってきたところで、部屋を見渡すとリリが椅子に座ってボウガンの手入れをしていた。
リリはニックが起き上がったのに気がついて声をかけた。
「おはようニック。もう朝ですよ」
伸びた日差しがリリの笑顔を照らした。
栗色の髪と稚げのある笑顔にニックは少し見惚れて、恥ずかしげに笑顔を返す。
「おはようリリ。ごはんある?」
「昨日買い置きしたパンがありますよ」
二人はあの宿屋に二度と戻ることはなく、新しく部屋を借り二人で暮らしていた。
どうして二人で暮らすことになったのか。それはあの夜がきっかけだった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「ニック様。私は。私は___私は悪党です。悪人です。今まで何人も騙して奪って盗んで生きてきました。やってきたことで言えばあいつらと変わりはありません」
リリは袖を強く握りしめる。
「私は……私は……! 貴方も騙そうとしました! 貴方は冒険者になりたてだから……騙せると思って取り入ろうと思ってあなたに近づきました! 自分を守る盾にしようと思って近寄りました!」
自分の負い目を一気に吐き出す。その声はとても痛そうな声だった。喉が裂けそうな悲痛な声だった。
「貴方は勘がいい、気づいてなかったわけがない! どうして私を助けたのですか!? どうして……こんな私を……命の恩人を騙そうとしていたリリを……」
リリはニックを赤く晴れた目で見上げた。
「理由か」
ニックは困る顔をする。
「無い」
「は?」
「無いよ。……強いて言うならリリが俺の大切な人だからになるのか? うん。多分これ。これって事にしとこう。美談になるしな」
目の前の男の発言があまりにアホらしくて心の中が空っぽになった。
私の悩みは何だったのか。
「いちいち行動に理由探してたら苦しいだけだぞリリ。そうやって理由をつけて自分を不幸にするな」
ニックはしゃがみ込んでリリの涙を拭う。
「ほんと……貴方は根っこが馬鹿ですね……」
リリは思わず笑ってしまった。
「馬鹿で結構。大切な人を守れるのなら、いくらでも馬鹿にでもアホにでもなってやるよ。だから泣くな、俺は笑ってるお前が好きだぞ」
「口説いてますか?」
「ドキッとした? ほれ」
リリ持ち上げてお姫様だっこする。
「このまま一緒に暮らしちゃう? 小さな女の子にはお兄さん優しくするぞー」
ふざけた調子で抜かすニックに、リリはクスクス笑って顔を耳に近寄せる。
「今夜は長くなりそうですね」
「へ?」
突然耳元で低い色っぽい声で囁かれたニックは不意を突かれて間抜けな声を出し、顔を赤くして固まってしまう。
リリは意地悪く笑って飛び降り先に走っていってしまった。
「ちょ待てよ。ちょ待てよ! お前実年齢何歳よ!?」
「一緒に暮らすのですよね? 家どこにしますか?」
「お前何歳よ!? 10とかじゃないのか!? 年上!?」
余裕を失って追いかけるニックを後目に見る。
「ヒント! ヒントくれ!」
(多分本当はニック、貴方より年下ですよ。でも貴方がそれで私を意識するのなら…………)
「秘密です!」
リリは向日葵のような明るくお茶目な満点の笑顔をした。