ニックはバベルにある装備屋が立ち並ぶ階層に居た。ここにいる理由は唯一。使っていた主戦力装備である"強奪した剣"がハードアーマードを斬ったときに砕けたから。
奴の甲殻は硬いとエルフのギルド職員から指南を受けていたがあそこまで硬いとは思わなかった。
「……パッとしないな」
どうもコレといったものが見つからない。
大剣や大太刀小太刀、直剣やレイピア。ガリアンソードなんかもあった。
「お困りかな?」
振り返ると小人の優男が立っていた。
「宗教には興味ないので」
「違う違う。この前君に迷惑をかけたからね」
「何処かでお会いしましたか?」
俺の知り合いにこんなイケメンはいないはずだ。
「自己紹介がまだだったね。僕はロキの団長。フィン・ディムナだ」
この前揉めた相手か。
少し眉をひそめそうになったが自制して笑顔を繕った。
「ソーマの下っ端。ニッタ クイナです」
「武器を探しているみたいだね」
「はい。ですがこれといったものは見つからず」
フィンはそれならと提案する。
「僕のところにある倉庫に装備が眠っているんだ。そこから選んでみないか?」
「おいくら万円」
「タダでいい。この前のお詫びだよ。君と同胞に対する失礼を詫たい」
リリから他派閥との関わり合いは極力避けたほうがいいと言われた。なぜなら相手は抗争相手であるから。
注意を受けていたが今回は大丈夫だという自信があった。
相手は酒場でやらかし派閥の評判を下げている。それも完全に自分に非がある形で。
大派閥ほど評判は気にしなければならないものだ。だからここは相手の顔を立ててやれば悪いことにはならないだろう。
「お言葉に甘えたいのですが。俺は冒険者になって一週間も満たないのです」
「なら。こっちで指南もしよう」
美味しい話だ。
「じゃあ行こうか」
「行きましょ……」
ニックが振り返るとそこには両手を腰に当ててムスッとした表情であからさまに怒っているリリが立っていた。
「お願い」
「……」
「今度飯奢るから」
「……」
「貰わないと次の探索素手で行くことになっちゃう」
三秒ほどムスッとしたあと頭を抱えつつため息をついた。
「この前の。私の言うことを聞くという約束を早速破りましたね。……軽蔑します」
この男にはへりくだっている予定だったリリの中で堪忍袋の緒が切れた。
本気でゴミを見る目で見る。
「私も行きますから。あなた一人で行かすのは危なすぎます」
ニックは頷いた。
内心結構傷ついている。
でも必要なんだ。仕方ないじゃないか。
「行くからには1000万ヴァリス以上はするものを2、3個強奪しますよ。ええ」
かなり不機嫌だ。正直かなり怖い。
フィンも冷や汗流して苦笑いをしている。
生きた心地がしない時間を過ごしロキのホームへとたどり着いた。
フィンは館の窓からこっちを見ているロキに目配せをした。
「よう来たなぁ」
ロキがやってきてニックとリリは深く一礼した。
「ええよええよ。かしこまいらんでも」
ロキはニックの袖を引っ張って囁く。
「なんや、すごい目してるやん。何したん」
「言うこと聞かずに他派閥のホームに行こうしとしたから」
成る程なと納得する。
リリは表面上笑っているが、怒りは目に現れていた。かなり物騒な目つきをしている。笑顔なのが逆に怖いほどに。
「ほ、ほな行こか」
(フィン。やばいやつ連れてきたなあ)
(正直事故った)
四人はホームの裏にある武器倉庫に向かう。その間何人かの冒険者とすれ違った。ほぼ全員がニックの顔を見てぎょっとする。
それもそのはずこの前トラブルを起こした相手かホーム内にいるのだから。
「鍵鍵鍵っと。よし」
重たそうな扉が開かれるとそこには大量の武器が眠っていた。
剣や槍、盾、ボウガンetc……。
同じ種類でも素材や職人が違うせいでそれぞれ特徴がある。
「武器の種類。武器の重さ。重心の位置。リーチ、切れ味、刃の流れや装飾。ありとあらゆる部分が武器に差異を与える。だから細かい調整が必要になるんだ」
確かに似たような形の剣でも持ってみると感覚が違う。
「よし。取りあえずは直感で"気になる"と思ったものから試していこうか」
「じゃあこれとか」
気になるものを選んで袋に詰める。
本当に気になるものを選んだので「これ実践で使えるのか?」と言ったものも含めて選択した。
修練場に向かい武器を下ろす。
サブもメインも含めて持ってきたのでかなり重かったがリリは軽々運んでいた。
やはりステータス差があるのだろう。
「さあ。やろうか」
次々に武器を試していく。
そうしていると窓から見たのだろう。
何かやってるなあ。とロキの冒険者達が降りてきた。
「あ。アイズさん」
「久し振りだね」
「あの時はお世話になりました」
改めてお礼をする。
「いいよ。所で何してるの?」
「武器を見てもらっているんです」
「でも。しっくり来てなさそうだね」
何を降ってみても使ってみてもなかなか合わない。
「想像しているスタイルに問題があるのかもしれないわ」
胸の大きなアマゾネスが言った。
露出がかなり多い。露骨に目を背ける。
「うぶ」
「童貞には酷」
今まで女性に無縁で生きてきたのだ。
気取った立ち振る舞いをしているが、そこらあたりはさっぱりなれていない。
ハッキリ言って二の腕を見るだけで少し緊張するレベル。
「あれ? 私のお腹を見たときそんな感じはありませんでしたが」
「アウトオブガンチュー」
「……こっちから願い下げですよ」
だがここ迄魅力がないと言われるとそこそこ頭にくる。
「僕は綺麗な見た目をしていると思うよ」
「団長……?」
「はは。武器を収めてくれるかな?」
「それなんですか?」
「これ? これはククリ刀っていうのよ」
へー。かっこいいな。
「私のの武器はこれ」
胸の無い方のアマゾネスが大きな武器を出してきた。
「何それ! かっこいい!」
ニックも男の子。目を輝かせる。
思った以上の反応にティオナもご機嫌に武器の説明をしだしたが大雑把で役に立たない。が、ニックは興味津々に聞いている。
「お二人そっくりですね」
「私達は姉妹なのよ。私が姉のティオネ」
「私はティオナだよ」
リリは心の中で「紛らわしいな」と思った。
「紛らわしいな」
(思っても言わないでくださいよアホニック!)
「どうにか覚えやすい方法を探してるんだけどね」
「あるじゃないですか。胸が無いからティオ無」
それを行った途端空気が凍った。そして次の瞬間。
ニックの頭上にウルガを構えたティオナが居た。
「ティオナ!」
「危なっ!」
ニックは体をそらしてかわした。
「無いっていうなぁ!」
「気を害したなら謝罪します!」
飛びつこうとするティオナをティオネが羽交い締めにする。
(ニック……だっけ。あれ何で避けれたんだろ。レベル1には見えない速度だったのに)
アイズは疑問に抱く。それはロキもフィンも同じだった。
あの速度はレベル1が反応できる速度じゃない。なのに軽々と避けた。
「はーはー。わかった。許す」
胸をなでおろした。
「ニックはどうやっても武器がしっくりこないんだよね。そこで一つ思いついたことがあるんだけど」
「何ですか?」
「実践形式でやってみない?」
「やっぱり怒ってますよね!?」
「うるせぇー! 斬らせろぉー!」
そのやり取りにロキが口を挟んだ。
「ええやん。実践形式でやってみようや」
「「え?」」
二人してロキを見る。
「その方が早いやろ」
それを良しとしなかったのがリリだ。
「だ、駄目です! ニック様は冒険者になって五日にもなってないんですよ!? それなのにティオナ様と実践なんて絶対にだめです!」
「ええやないか。やろうや」
だから言ったんだ。他派閥に関わりを持たないほうがいいって。
神なんて自己中の存在。関わったら破滅するだけ。なのになぜあの人はその危険に飛び込んでいくのか。
「ああー。辞めておいていいですか?」
「なんでや?」
「俺はリリの言う事を聞かないといけないので」
「逃げるのかこのやろうー!」
「せやったらこうしようや。ティオナの武器は刃を潰したものを使う。そんでそっちが勝ったら賞金を渡す。でもこっちが勝っても何もとらん。ええ話やろ?」
「そんなの」
神相手にこれ以上反抗したら大変なことになる。相手は都市最強派閥だ。
しかも気まぐれなトリックスターのロキ。
「ニック様。やってください」
リリは折れた。