修練場で皆が見守る中二人は向かい合った。
「ニック様!!」
「ひゃい!!」
「勝ってくださいよ?」
「何やっても勝ちます!」
めちゃ怖い。
目の前でハッスルしてウルガを振り回す化物女よりも数倍怖い。
だから。ニックは先手を打った。
「貧乳の何が悪いんだ!」
「悪いなんて言ってません! というか俺は正直のところティオナさんの外見は好みです!」
「……騙されるかぁ!」
馬鹿と言われるティオナだが、さすがにこんな騙されるほどではない。
「嘘じゃない。髪型も素敵ですし。服だって可愛いし。何より自分の好きな武器を自慢してるときの笑顔はとても眩しくて……。見ていると恥ずかしくなってしまって。ついあんな事を」
かなりの演技を混ぜながら口説き文句を言い放つ。
ちらっとティオナの反応を伺ってみると。
「そ、そこまで言われると……」
精神的攻撃は成功した。
周りの人達は純情を弄んでも勝とうとするニックを睨んだ。
「それじゃあ。はじめ!」
「胸借ります!」
「こい!」
スタンダードに近くにあった剣を握り駆け出す。上段から振り下ろすとティオナはそれをウルガで防いだ。
剣がくだける。
「試しぶりもクソもないじゃねぇか!」
なれる前に砕けたら意味ないだろ!?
「いくよー」
今度はティオナが超速で飛び込んで振る。それを後ろっ飛びになりながらよけて、口説いている間に隠し持ったチャクラムを投げつける。
案の定弾かれるが追撃を防ぐことはできた。
「器用。戦いなれしてる? そんなわけ無いか。動きがド素人だし」
「ははっ。そこまでハッキリ言われると」
「言われると?」
「頭にくる!」
ククリ刀と二本のナイフを両手に持って再度走り出す。途中二本の短剣を投げ飛ばしてククリ刀で切りかかった。
ティオナはナイフを避けてククリ刀を受け止める。
そして空いている右足を上げて、蹴りを顎に打ち込もうとしたが、それをニックは避けた上で左足を払った。
ひっくり返ったティオナは武器を手放し、両腕を広げて裏拳を地面に叩き込む。地面がひび割れ大きく揺れた。ティオナは反作用で起き上がり武器を掴んで攻撃を仕掛けようとしたが、右に飛び退いた。
飛び退いた直後、自分の頭があった位置に飛んでいったはずの短剣が戻ってきていた。
ティオナが「何故?」という疑問を抱く前にニックは帰ってきた短剣を再度ティオナに向かって投げつける。
「っ!」
ティオナは体をひるがえしてかわしたが。
「……」
頬を掠めて血がたれた。
「先手は俺が取りました。100ポインツ!」
周りで見ていたフィン達は目を見開いた。
ティオナ渾身の蹴りをまたもかわしたのだ。
そしてニックが投げた短剣が空中で突然停止して、回転し逆向きに戻ってきた。
完全死角からの攻撃を避けたティオナも異常だが、それ以上に異常な事態。
「何をやった」
ニックのスキルは2つある。
一つはフォルムチェンジ。
そしてもう一つがデオキシスの力を手に入れる。
今使ったのはデオキシスの念力。
投げ飛ばした短剣を念力で操作して戻したのだ。
ティオナの攻撃をかわしたのは電磁波を見る力。体に合わせて動く電磁波を察知して、それから動きを予測。避けたのだ。
この能力は視覚ではなく第六感として覚醒している。だから見えないところや見えない速度でも直感でわかる。
「ド素人にしてはやるでしょ」
ティオナは頬からたれた血を指で救って舐めた。
ヒリヒリする。ゾクゾクする。
あの時後ろから攻撃が来ているとわかったのは、ニックの目を見たときに視線が一瞬自分の後ろの方に行ったから。だから察知できた。
後方に視線がそれたあと、戻ってきた目を見て、ティオナはニックの目の奥に秘められた野生、暴力性を垣間見た。
「ふふ」
アマゾネスの本能が告げている。
目の前にオスが居ると。
「あは。アハハハ!! 楽しい! 楽しいよ! えーっと名前なんだけっけ」
「ニック」
「ニック! 久しぶりに楽しくなってきた。ねぇ責任とってよ。私の全力受け止めてよ!?」
「いいぜ。胸を借りるだけじゃない! この戦いの間。お前の体は俺のものだ。責任とって喜ばしたらぁ!」
野生の怪物と宇宙からの怪物がお互いに全力で向き合った。
「殺す」「殺す」
お互い死線を踏み潰す。
ティオナは武器を振り。
ニックは武器を振りながら落ちている武器や地面を操作して攻撃を仕掛ける。
ニックもすでにボロボロ。逆にティオナはほとんど無傷。
「すごい。すごいよ!」
ティオナの双眼には四方八方から飛んで迫ってくる刃と的確にすきをついて致命傷を狙ってくるニックが写っていた。
ニックは最初のちぐはぐさが消えて、進化している。
(私が作ったんだ、私が育てたんだ)
今目の前にいる男は。私だけ見てここまで成長したという事実が、またティオナをたぎらせた。
「でも」
終わらせなきゃ。
楽しすぎて。
このままだと喰ってしまうかもしれない。
「終わらせる」
一気に懐まで飛び込んで脇腹をえぐりあげるように潰れた刃を差し込む。
ニックは自分にナイフを突き刺してむりやりそれを回避したが、ティオナの拳が顔面に迫ってくる。
それを右腕で受け止めたが、吹き飛ばされ壁に激突して血を吐き出す。
(おれたな)
腕の感覚がない。
ニックは左手を地面について立ち上がった。
「わかった」
「なにが?」
「やっと。手が届く」
ニックが手を伸ばすとそこら中の武器が空中に浮き上がった。
「同じことを」
「同じじゃない」
左手を握ると武器が次々に砕けていく。
何度も何度も砕けて最終的に金属の砂になった。
その砂がニックの周りに集まっていく。
「これなら。手足と同じように扱える」
「ねぇニック。聞きたいことがあるんだけど」
「なんですか?」
「なんで。傷が全部癒えてるの?」
見てみると傷口が全てでふさがっていた。そして腕の骨折も緩和しつつある。
これはデオキシスの再生能力。
「【じこさいせい】」
魔法を唱えると右腕が音を立てて再形成されていく。そして完全に復活した。
「悪い」
「体力があるのはいい事だよ。だからもっと私を惚れさせて!」
高速と圧倒的なステータスを持つティオナと自在に操り縦横無尽の攻撃と相手の動きを予測できる能力、そして自然治癒を持つニックは渡り合う。
ウルガを砂で受け止めて弾き飛ばす。
そしてニックは右手を振り上げる。すると砂が右手を中心に集まって形を変えてブレードを作り上げた。
それを使って打ち合う。
激しい金属音と火花が舞い散る。
「互角?」
「いや。わずかながらティオナがおしている!」
金属砂の防護壁を突き破りウルガが地面を殴った。爆発のように地面が飛び散って砂煙を生じさせる。
「うおお!」
視界が悪い中有利なのはニック。
「馬鹿! 読んでるにきまってるでしょ」
ティオナの一撃がニックに突き刺さる。
そしてニックはふっとばされた。
「私の勝」
直後ティオナが頭の側面を殴られて地面に膝をついた。
ロキ達は一瞬、目の前にある光景が意味不明すぎて理解が追いつかなかった。
砂煙の中に5人のニックが立っていた。
「何あれ」
「何が起きとるんや」
そうこう話しているとさらに異変が起きる。
ティオナの一周りの地面が隆起してそこから手が現れ、ティオナを組み伏せようとする。
膝をつかされたティオナは、自分を見下ろしているニックを見上げた。
「なにをやったの」
「増えただけ。多人数プレイもできるぜ」
これはデオキシスの自己複製能力。
グッと地面から伸びてきた腕がティオナを組み伏せようとする。
「……やるね。これなら私も全力の全力。100%中の100%でいける」
「何?」
「う……お……うぉぉおおおお!!」
拘束を腕力で引きちぎった。
そしてウルガを掴み回転をしながらニックに迫る。
ニックが生み出した影はティオナに次々に斬られて塵に帰っていく。
砂を使って動きを止めようとするが、圧倒的ステータスに生み出される破壊に耐えきれず蹴散らされる。
砂が全て散ってしまって念力が及ばなくなってしまった。
ティオナがそこまで来ている。
ニックは奥の手を切るしかないと口を開いたが、少し口を開いた後閉じた。
そして上空高く打ち上げられ、地面に墜落した。
「勝者ティオナ!」
勝ったはずのティオナは少し不満げな顔をしていた。
「何かしようとしたよね。なんで途中でやめたの?」
「……」
「私は使うに値しないから? なんでわざと負けたの?」
あれだけ楽しかったのに、最後の最後で出し惜しみをされた。
消化不良だ。
「もういいよ」
それだけ言い残すとティオナはホームへと戻っていった。
ロキ達が治療をしなくちゃと駆け寄る。
「大丈夫かい?」
「折れた」
ハイポーションをかける前に、フィンは気づく。
傷がどんどん自然に塞がっていっていることを。
「それでも重症はかけておかないとね」
ハイポーションが染みる。
「ティオナもやりすぎよ。ボロボロじゃない」
治療をして休ませてもらった。
リリも包帯を巻くなどをして手伝った。
「それで。武器はどうする」
「全部潰してしまいましたから。でもしっくりくるもの見つけましたよ」
鉄の砂。自在に動かせてとても使い勝手が良かった。
「……あれは魔法なんか?」
「え?」
「詠唱なんて唱えてなかったやろ」
「企業秘密のトリックですよ。魔法ではありません」
魔法じゃない。やっぱりスキルなんか。
物体を操作するのも。自己治癒するのも。相手の動きを察知するのも。自分を増やすのも。
(多岐に渡りすぎやろ)
「いやあ。楽しかった。最後の最後にやらかしましたけど……」
「割とナイーブなんやな」
その後。もう使いみちのない武器をすり潰させてもらい金属の砂を貰った。
お礼を言ってホームをあとにする。
「ごめん負けた」
「……もし。もしアレを使っていたら勝ててましたか?」
アレというのは初めてリリとあった時に使った姿を変える術。
あのときの圧倒的な力。
アレを使えば勝てていたんじゃないのか。
「勝てたとしてもロキに情報を渡し過ぎになる。少しくらい謎を残しておいたほうがいいだろ? お前だってステータスは秘匿しろって言ってたし」
あの約束は守ってくれたのか。とリリは少し驚いた。
「あれだけ口説き合ってたのに。こっちの約束を優先してくれるんですね」
「そう。だから慰めてリリ」
「ご褒美に頭を撫でるくらいならしてあげますよ」
「やったあー! っとその前に飯ね」
二人は豊穣の女主人に足を向けて歩き始めた。