ダンジョン生活にもかなり慣れてきて、モンスターの相手も魔石の採集も恐れずに行えるようになった。
今では中層の一歩手前の階層まで踏み込んでいる。
「怪物祭り?」
「はい。モンスターを地上に連れて上がるんです」
「危なくね?」
「そこはテイムを十八番にしているガネーシャ・ファミリアとギルドが主催にやりますから安全ですよ」
お祭りか。お金に余裕はあるし行ってみるのも悪くないか。
「ソーマもお酒売ったりするのか?」
「するでしょうね」
「酒か……リリ見てたんだよな。俺ヤバかった?」
「誰が噴水に捨てたんでしょうね」
「お前がやったのか」
噴水に捨てられるほどのことを俺はやったのか。
ニックは改めて禁酒を心に刻みこんだ。
「よし祭りに行くぞ!」
「やめておきます」
「祭りだぞ? 小銭たくさん落ちてるぞ?」
「ダンジョンに籠もるほうが稼げますよ」
それもそうか。
魔石の採取を終えてナイフから血を布で拭いてから仕舞う。こうしないとすぐに錆びて駄目になってしまう。
「それよりも鉄の粉は使わないんですね」
「散り散りになると操作できなくなるからな。いざというとき以外は使わないことにする」
塊の操作や大雑把になら操れるが一粒一粒となると厳しい。
「リリもロキ様にボウガンもらったんだろ?」
「ええ。かなり威力も上がりました」
ハードアーマードの外殻を貫けるほどに火力が上がった。上層ではオーバーウエポンのレベル。
「そろそろ夜です。あがりましょうか」
上層に上がっていくと荷車の集団に遭遇した。
そのすぐ側に知った顔がいた。
「ベルじゃないか。久し振りだな」
「あ。ニックとリリ。久し振りだね」
「お久しぶりですベル様」
「あれは?」
「怪物祭りに使うモンスターを入れてるんだって」
よく聞くと檻の中からモンスターの鳴き声が聞こえてきた。
その声だけで自分より格上の存在だということがわかる。
「ミノタウロスも居るのかね」
「さあ」
「考えたくないなあ」
その荷車の後ろにつくように歩く。荷車の護衛をしているガネーシャの冒険者がモンスターを倒してくれるので帰りは楽して帰れた。
「明日はアーニャ様をデートに誘ったらどうです?」
「いやあ。勘弁してくれ」
「聞いたよ。その。やっちゃったんだって?」
「あれ深刻に伝わってない? その反応」
ベルには訂正される前の情報で伝わっていたようで誤解を解くのに時間がかかった。
「そう言えばベルの神様どんな人か知らないな」
「ヘスティア様でしたか? それならたまに見かけますが」
「何処で?」
「じゃが丸君販売店でアルバイトをしているのをたまに見かけますよ」
「へー」
「でもそれが」
ベルは困った顔をした。事情を聞く。
「神様が行方不明?」
「一大事じゃないですか」
「俺も知り合いに聞いてみるわ」
「知り合いって」
「豊穣の女主人とミアハ薬局」
「共通の知り合いだね」
意味がなかった。
世間は狭いというがこんな事もあるんだな。
三人は豊穣の女主人で飯を済ませてホームへと戻った。
このとき知ったがベルはシルさんにお弁当を作ってもらっているらしい。リア充め。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆
翌日かなり早くに目が覚めた。
正直祭りと聞いてテンションが上がっている。
武器を装着して中身を可能な限り減らした鞄を持って出る。
いつもより大通りを歩いている人が多く街全体が活気にあふれている。
街路には露天が立ち並んでいて人を呼び込んでいた。
「じゃが丸君の店はっと」
見つけた。
「あ、どうも。塩味を一人分」
袋に包んでもらっている間に店主に質問した。
「最近ヘスティア様が来てないと聞きましたが」
「ああ。あの子なら別のアルバイトに移ったよ」
「あ、そうなんですか」
「看板娘が居なくなってねぇ」
「ははは。それでも結構並んでますけど」
「味に自信はありだからね」
確かに食べてみるとめちゃくちゃ美味しかった。もう一袋買っておくべきだったな。
リリにもなにかお土産を買っておこう。
要らないと言われるだろうが、やはりこういうのは気持ちが大切だと思う。
置物は邪魔になるだろうから、そこそこに保存が効きそうで美味しそうなものを買っておいた。
「彼処が闘技場か」
ニックはクレープを食べながら歩いて向かう。
「だーれにゃ」
突然何かに後ろから飛びつかれ、目の前が真っ暗になった。
急にかけられた重さにニックは崩れる。
「情けない」
「あんたが重いんだろ猫……」
「アーニャ早くどきなさい。起き上がれないでしょう」
ニックは最初にステータスをもらってから一度も更新をしていないので未だに初期値。ALL1だ。
だから女の子一人でも一苦労。
「二人共何をしているんですか?」
「そうだ。お前シルかベルかどっちか見なかったかにゃ?」
「いや。見てないですけど。何かあっ……まさかデートか!?」
ついに一歩踏み出しやがったかあの野郎。
(リア充め)
「リア充め!」
思わず心の声が出てしまった。
「リューさん悔しいからデートに行きましょうよ」
「嫌です」
「ベルとシルの恋路気になるでしょう? ほらほら想像してください。ゴンドラに乗った二人が顔を合わせぶっ!?」
頭を踏みつけられる。
「不謹慎ですよ」
両手塞がってるからってひどくないか?
「俺なんか女の人に嫌われまくってる気がする」
「にゃはは。やっと気づいたかにゃ」
「何が悪い」
「顔と性格と言動と所業」
リューの加減のない言葉が次々に心に突き刺さる。
しかしなぜだろう。踏まれるというのもなかなかいいかもしれない。
「仕方ないか。俺はもう行きますね」
「待つにゃ。なぜ私を誘わないのかにゃ」
「……いや。普通誘えないでしょ」
気まずすぎるわ。
「だからといって最初から候補にすらかすらないのは頭にくるにゃ」
「何その意地!?」
リューはアーニャから袋を受け取って言う。
「行ってきたらどうですか? あの日から妙に意識しているじゃないですか二人共。この際ハッキリさせたらどうです?」
「あれ。もしかして俺がシルさんとベルの関係をいじったの怒ってますか?」
そっぽ向いていってしまった。
どうやら怒っているらしい。
そりゃあ、友達の恋路を茶化されたら怒るのも当たり前か。
「行くかアーニャちゃん」
「お、おう」
「アンタが緊張したら駄目だろ!」
二人は売店を回ったりゲームをしたりする。
「……撃つにゃ」
ボウガンで吸盤のついた矢を打って当てるという射的ゲームなのだが。一向に撃つ気配がない。
少ししてニックはボウガンを下ろした。
「すまん。目が悪くてまず的が見えん」
「何故やったのにゃ!」
等と割と楽しんで回っていたのだが。二人はほぼ同時に気づいた。
これはデートなのか? と。
ただ友達同士が遊んでるだけじゃないのか? と。
「よし」
「ん?」
「行くぞアーニャ」
「にゃ?」
ニックは突然アーニャの手を掴んだ。
「どうした」
「い、いきなりだにゃ」
酒を飲んだときもこんな風に積極的になった。
(こっちが本性なのかにゃ)
手を通して伝わってくる相手の鼓動が鐘を打つように早いのでお互い少し緊張する。
「興奮しすぎにゃよ」
「アーニャだって心臓バクバク言ってるが」
急にぎこちなくなる二人。
その後もいろいろと回ってみた結果。
「うん。わかった」
「私達の間にはそんなことはなかったにゃ」
多分空気や突然のお互いの行為にドキドキ来ていただけで好意なんてものはお互いの間には無いという結果を共通として得られた。
「それじゃあ。また店で」
二人は別れる。
そこら辺りを歩き回っていると何処からか吠える声と男の叫び声が聴こえた。
「モンスターが脱走したぞぉー!」
何匹もの野生の鳴き声が聞こえてくる。
その聞こえてきた方向と男が示すモンスターが逃げ出した方向は。
「アーニャが歩いていった方向じゃないか!」
それに気がついたニックは駆け出した。