Absolute Nein   作:後菊院

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 解決編です。
 きっと最後の最後までもやもやは取れないでしょう。

あ、最後なんで三人称視点です。


答え合わせ

 数日後――夕刻。

 346プロの最寄り駅の前で、『アイドル炎上』という見出しのニュース記事をスマホで観ていた神谷奈緒に、「犯人わかったんでしょ」と声をかける者がいた。

 北条加蓮だった。

「え……?」

「わかるよ。私には」

 加蓮は得意気な顔で笑った。

「加蓮にもわかったのか、犯人が」

「いや、それはわかんないけど」

「わかんないのかよ」

「私にわかるのは、奈緒が何を考えているかってこと。長い付き合いだからね」

「知り合って1年経ってないけどな」

「そういうこと言う――で、私の勘は当たってる?」

 そう訊かれ、奈緒は少し迷ったようだったが――結局、首を縦に振った。

「やっぱり。で、誰?」

「……未央だよ」

「へえ、未央。意外」

「全然意外そうな感じがしないぞ」

「いや、驚いてるよ。かなりびっくりしてる。アブソリュートナインの誰かだと思ってたから」

「なんだ、アイドルの誰かだとは思ってたのか」

「うん。流石にね……そんなには、ね。で、何で未央が犯人なの? 何か証拠があるの?」

「証拠は無い……。ただ、未央以外の誰にも卯月のスマホを盗めなかったってだけの話だ」

「未央には可能だったの?」

「ああ」

「何で? えっと、確か未央は11時18分から5分ぐらいアリバイがないんだよね。その間に盗みを働いたってこと?」

「そうだ」

「でも停電は11時20分で終わるんだよ。18分から20分までたった2分じゃん。未央はその2分で本館の地下から別館の更衣室まで移動して、閉まったロッカーを全部0424にして、卯月の財布とスマホを盗み出して、停電が終わるまでに更衣室のカメラをすり抜けたの?」

「いや、2分じゃそんな芸当無理だろ。けど、5分あれば可能だと思う」

「どういうこと?」

「アリバイ工作だよ。簡単だ。未央はみりあと莉嘉と色々な遊びをしていた。未央が抜け出る前にしてた遊びは宝探しだって言っていた……宝探しをやるとして、最初はどうすると思う?」

「え? 鬼を決める?」

「……まあそうだけど。うん、まず鬼を決める。じゃあ鬼は次に何をする?」

「隠す範囲を決める」

「……うん。隠す範囲は多分あの部屋の中全部だ。その次は?」

「隠す物を決める」

「何でもいいよ! 聞き手やるならもうちょっとまともに答えてくれよな! さあ! 宝を探す為にはまず何をしなけりゃいけないんだ!?」

「ああ、宝を隠す」

「そうだ! その通り! ――さて、仮にあの3人で宝探しをやるとして、尚且つ未央が鬼になったとする。未央が宝を隠している間、みりあと莉嘉は何をしていると思う?」

「何してるって、別に何もしてないんじゃない?」

「悪い、質問が悪かった。2人はどこにいると思う?」

「どこって……ああ、部屋の外にいるのか。未央が宝を隠している姿を見ちゃったらつまんないから」

「そう。もし外に出てなくても、目は瞑っていただろう。つまり未央には2人にバレないままあの部屋の物を自由に弄りまわすことができた」

「でも未央が鬼になれなかったらそんなことできないんじゃない? じゃんけん勝ったらどうするの?」

「それは……まあ、一番年上だし、『最初は私がお手本で隠すよ!』とか言ったら、簡単に鬼になれるんじゃないのか?」

「何それ。なんかふわふわしてない?」

「うるさいな。いいんだよ。最悪、鬼になれなかったら犯行を取りやめればいいんだから……そこは気にするな!」

「え? 未央が鬼になれてなかったら事件は起きてなかったの?」

「ん、まあそうだな。少なくともあの日は平和に1日が終わったんじゃないのか」

「ねえ、ちょっと待ってよ。どうして未央が鬼だと未央が犯人なの? 鬼だから?」

「もー、話が脱線してきた! いいか? 未央は鬼で、鬼だからあの部屋の中の物を自由にできる時間があった! ここまでわかったな?」

「うん。まあ」

「その時間を使って、未央は壁に掛かってる時計の針を10分ぐらい進めたんだ。そしてその状態で宝探しを始めた。2人の記憶に時刻を刻む為、時計を見上げさせるように制限時間を設けてな。みりあたちは本来より少し未来の時刻を覚えた。宝探しが終わって、未央は遊びから一時抜ける。壁の時計は11時18分を指していた。だけど、本当はまだ11時10分にもなっていなかった」

「ああ、なるほど」

「未央は別館に侵入して、2階の更衣室前のカメラに映らない場所で、予め盗んでおいた晶葉の『停電スイッチ』を押した。そこで停電。更衣室に入り、閉まっているロッカーのダイヤルを一つずつ0424にしていき、卯月のロッカーを開けた。財布とスマホを取り出す。スイッチを更衣室に置き捨てて、盗品を持ってまた本館に戻る。5分あればできる」

「できるだろうね」

「仕上げに、みりあたちを屋外の遊びに誘う。自分は最後まで部屋に残り、時計の針を元に戻してから追いつく。このタイミングで、盗品を自分の鞄か部屋の見つかりにくい場所に隠したんだろう。未央もあたし達と同じように持ち物検査を受けたけど、何も出てこなかったからな」

「え? じゃああの時未央を名指ししたら証拠つきで真犯人を見つけられたんじゃないの?」

「そうだな……。あたしにはできなかったけど」

「質問。どうやってこの推理を思いついたの? 何かきっかけがあった?」

「……感想戦やってる途中で凛が時間を聞いただろ。多分あれがきっかけだ」

「え? 何でそんなのがきっかけになるの?」

「壁に掛かっている時計が示す時刻とあたしのスマホが示す時刻が同じだった……アブソリュートナインのレッスン、志希を除いて一番遅く来たのはシンデレラプロジェクトの3人だっただろ。更衣室前の映像を見てた時、確か周子が年下組が一番最後か~みたいないじりをした。それにみくが『シンデレラプロジェクトの部屋の時計がちょっと遅れていた』みたいな反論をしたんだ。覚えてるだろ?」

「いや、覚えてないけど」

「案の定か……。とにかくそんなやり取りがあったんだよ。朝の時点でシンデレラプロジェクトの部屋の時計は遅れていた。それなのに午後3時には時刻が合っている。」

「進めておいた時刻を戻す時、未央が正確な時刻に戻したんだね。『遅れ』の再現を忘れちゃったわけだ」

「そう。少なくとも、誰かが分針を動かしたことは疑いようがない」

「でもそれだけじゃ証拠にならないでしょ」

「ああ。仮に時計に未央の指紋が残ってたとしても、あそこはシンデレラプロジェクトの部屋だ。何の違和感もない。時計のずれだって『分針が遅れているのに気づいてちょっと直しました』って言えば、誰もそれを嘘と断言できない」

「わお。まさに完全犯罪。ねえ、細かいこと突っ込んでもいい? みりあちゃん達が時間の変化に気づく可能性はなかったの?」

「まあ、あったとは思う。けどそんなに高くなかっただろうな。壁に時計がかかっていることがわかっている部屋にいるのに、わざわざスマホで時刻を確認しようとは思わない。そもそもスケジュールが詰まってるわけでもないから、時刻を確認すること自体殆どしないだろう。分針じゃなくて時針を変えたとしても気づかないんじゃないのか」

「時針は無理でしょ。流石に」

「うん、そうか。どっちかには気づかれるかも。あと、気づかれるリスクが一番高いのは針を進めた直後だけど、犯行の前ならキャンセルができるからな。気楽に挑戦できる」

「ああそうか……でも結構運に左右されるんだね」

「だが、未央以外の人間には犯行の機会が無かった。明さんと志希、周子、美嘉には時間が足りない。楓さんの無実はあたしが証明している。その他のみんなに関してもシロだ。本館にしても、出社してた人は停電の時間、全員会議に出てたんだろ? みりあと莉嘉はお互いの無実を証明している。別館と本館の入口にはカメラが付いていて、それ以外の人間を映していない。つまり未央が犯人だ」

 加蓮は何度も頷いた。そして少し笑った。

 何故笑ったのだろう。

「――そうだ、ねえ奈緒。謎がまだ一つ残ってるよ」

「どんな謎だ?」

「電気製品が使えない暗闇の中で、犯人はどうやってロッカーのダイヤルを合わせたの?」

「更衣室にはすりガラスの窓がある」

「そうだけどさ、それだけじゃ光量足りないんじゃないの?」

「その時は多分、電気を使わない明かりを使ったんだ」

「電気を使わない明かりって?」

「そんなの決まってるだろ」

 二人は並んで改札を通り、階段を昇った先のプラットホームにあがる。そこで彼女達は二人の知り合いと遭遇した。一人は彼女達と同じ、トライアドプリムスに属する少女、渋谷凛。彼女は松葉杖を突いている。もう一人の知り合いは――ほんの二週間前に初めて出会った、トライアドプリムスのマネージャー。

 スーツが似合うキャリアウーマン。

「おや、北条さん、神谷さん」

 凛と談笑していた彼女は、二人に気がつくと軽く頭を下げた。

 奈緒は言う。

 奈緒は呼ぶ。

 彼女の苗字を。

「奇遇ですね――武内さん」

 列車が来る。

 扉が開く。

 四人一緒に乗りこむ。

「ねえ奈緒。まだ謎があったよ」

 加蓮が訊く。

「どうしてシンデレラプロジェクトの部屋の時計はちょっと遅れていたの?」

 奈緒は答える。

「知らねえよ」

 扉が閉まる。

 

 

                               終わり




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