そして誰もが帰ってくる Heart of the warship girls   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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タイトルとあらすじ変えました


それでも武蔵は受け入れる

 

「……静かだな」

 

 夜の海を見渡しながら沈黙が鬱陶しくなって私は言葉を吐いた。

 意外なほど波が穏やかな海は不自然に静かだ。少し前からこのあたりの海に入って来たが、気持ち悪いくらいの静けさが海原を支配されている。

 静かというか、張りつめている。

 嫌な汗を、掻く。

 

「確かにちょっと不気味っぽい」

 

「敵影未だに無し。索敵機からの反応も無いですね」

 

 陣形としは真っ直ぐ、単縦陣。旗艦の大鳳を前にして、私、夕立、時雨、ハチ、木曽。いつも通り、といえばいつも通り。

 艦娘としては当たり前だが、艦娘は海の上を滑る。艦娘はそもそも海を歩くことができるし、足に艤装のスタビライザを活用すれば時速数十ノットで海上を航行できる。最も速度に関しては艦娘の種類によって様々で、この面子に関しては私とハチが低速、他の四人が高速で、彼女達が自分とハチに合わせてもらっている。

 まぁハチなんかは水の中に潜っているわけだから、気分としては私だけにあわされている感じだ。

 低速なのは艦隊の中で最も重装備だからなのだが。

 

「――アイアンボトムサウンド、か」

 

 鉄底海峡――それがソロモン海、サーモン諸島近海における異名だった。

 艦娘とは異世界の軍艦の精霊が人間としての形を取った――らしい。

 らしい、というのは艦娘たちの誰もがそのあたりの実感がないからだ。別にそれぞれ皆で頭を突き合わせて真面目に話し合ったことはないが、互いのなんとなく察し合っている。鎮守府で建造されたり、海で彷徨っているところを拾われる時にあるのは、異世界とやらにおける自分たちの軍歴と深海凄艦に対する基本的な知識だけだ。

 そこからくみ取れるこの辺りの海域の知識はあまりいいものではない。

 第一次、第二次ソロモン海戦。

 自分たちのオリジナルが作られ、戦った世界ではそう呼ばれた海戦があった。『戦艦武蔵』が深く関わっていた戦いではないが詳細は詳しくない。

 詳しいのは、夕立だろう。

 真後ろにいる彼女のオリジナルこそがその戦いにて戦果を上げた軍艦だったのだから。戦って、戦い抜いて――沈んだのだから。

 色々思う所は――ない。

 あってはいけない。

 自分たちは艦娘であり、艦娘は兵器なのだから。

 物思いする兵器なんて笑えない。

 だからそう。折角終わったと思っていた戦いがまだ続いてしまった、それが辛いなんて、考えては行けないのだ。

 そんな、ことを考えていて、

 

「――敵艦隊発見!」

 

「!」

 

 旗艦の大鳳が叫んだ。声は続いていき、

 

「泊地凄姫一、浮遊要塞三、駆逐ロ級フラグシップ三!」

 

 大鳳が先行して飛ばしていた索敵機から情報を口にしていく。真後ろにいる自分は肉声がそのまま聞こえるが、それより後ろの仲間たちには首の無線を通して全員に繋がっている。

 

「泊地凄姫だと? また随分な大物が……ッ」

 

 深海凄艦の中でも目撃情報の少ない『姫』クラスの化物だ。完全な人型に背中に背負った長大な砲身。見た目のカラーリング以外は艦娘と何も変わらない。さらに口のついた球状の浮遊要塞を数多く従えている。

 驚く暇もなく、すぐに肉眼で深海凄艦が肉眼で確認できた。夜だから索敵範囲がかなり下がっているのだ。そもそも空母は夜の海で戦うことはない。それでも大鳳が艦隊を率いているのは彼女が自分たちの中で最高練度であることと、昼戦に移行した時の為だった。

 

「敵艦隊見ゆ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

『これより戦闘に移行します!』

 

「了解。何かあり次第順次報告しろ」

 

 鎮守府の司令室にて大鳳からの通信に応えた俺は静かに息を呑んでいた。新しい海域に於ける最初の戦闘、それも出てきたのは泊地凄姫だ。大鳳たちが練度平均九十を超えているとはいえ不安は残っている。

 それでも艦娘と深海凄艦の戦いに俺たち提督は関わることはできない。息を長く吐き、呼吸を整える。ここまで来てしまえば自分は進退の指示しかできないのだ。

 

「大丈夫か」

 

「えぇ、問題ありません」

 

 司令室にあるのは空調と無線機、それが置かれた机に幾つかの椅子。そしているのは俺と、元帥閣下の二人だ。本来ならば出撃中の提督の部屋にそれ以外の人間がいることはない。それでも今のように新しく発見された深海凄艦の出没海域等に初めて進む場合などは元帥クラスの者が一緒にいることが稀にある。

 今回がこれだ。

 多分、落ち着かないのは元帥と一緒にいるからというのも少なからずあるのだろう。時代錯誤にもほぼ自分の執務室から出る時には常に軍刀を佩いているのだから落ち着けという方が無理だ。

 

「繰り返しになるが、今回は威力偵察だ。無理して深く進むことはない」

 

「はい」

 

 それは解っている。

 けれど簡単に引き返すつもりもなかった。新海域というのは危険が大きいのは当たり前だがそれ以上に旨みも大きい。新種の艦娘が見つかることは多いし、新しい深海凄艦の発見による情報、またそこから発展される新装備、攻略による勲章。それらは提督の業績としては大きい。これまで俺自身そういう手の報酬は何度も得ているからこそ、よく解っている。

  

「……大佐、君はこうして提督をやってもう何年になる?」

 

「はっ、軍学校を卒業してから今八年になります!」

 

 唐突な質問だったが相手は上官である。質問されたことにも、質問の内容も内心眉を潜めつつ、反射的に返答した。

 八年。

 この俺が提督として艦娘を率い、深海凄艦との戦いが始めてそれだけの年月が経っていた。別段長い期間ではない。そもそも既に六十年以上人類と深海凄艦の戦いの歴史は続いているのだ。流石に当時の現役提督は前線に出ていないが、四半世紀でも戦い続けているような超熟練提督だって存在するのだ。保有艦娘の殆どが練度カンストしているという話だってよく聞く。

 そういう人に限って前線を引退しているのだから、俺にはよく解らないのだが。

 執務室で座っていることしかできないのだから年なんて関係ないだろう。

 いずれにせよ八年というのは提督としては決して長い年月ではない。子供提督なんてマスコットは例外にしても大体の提督は軍学校を卒業してから提督になる。それで大体は二十歳前後。自分はそこから八年提督して生きているわけだが、同期の中でも自分以上に高い平均練度はいないはず。自分でいうのもなんだがエリートと呼ばれる提督の一人なのだ。

 

「そうか。スマンな、変なことを聞いて」

 

「はっ、問題ありません」

 

 まぁそういうしかないが意味不明だと思う。

 いまいちよく解らない人だ。この元帥にしたって確か未だに四十代なのに元帥となっているから尋常ではない提督のはずなのだ。なのに艦娘を従えているところを見たことがない。精々妻らしき女性くらいだ。

 妙齢のいつも日傘を指す如何にも大和撫子な人だったと思い起こして、

 

『被害報告!』

 

「!」

 

 無線機から悲鳴に近い大鳳の声が届いた。

 こういう時、何が起きたかは大体決まっている。

 

『空中要塞、駆逐ロ級は轟沈させましたが、泊地凄姫が中破。また武蔵さんと木曽さんが中破状態です!』

 

「……ッ」

 

 撃ち漏らし。それほど珍しいことではない。敵艦がダメージを追っている場合、大きく迂回してやり過ごすのが基本だ。しかし今回は面倒だ。泊地凄姫という姫クラスは中破でも当然のように戦闘する。退くにしたって進むにしたって、姫相手ではリスクが大きい。

 しかしどっちにしてもリスクが大きいのだ。

 

「大鳳、そのまま泊地凄姫を倒しきって――」

 

「待て」

 

「……はっ。なんでしょうか」

 

「撤退しろ」

 

「――」

 

 短く、拒否を許さない命令だった。

 

「武蔵と木曽改二は絶対数の少ない艦娘だ。それも高練度なると万が一の場合失うわけにはいかない。ここは撤退だ、大佐」

 

「……しかし、撤退と言われますと」

 

 命令そのものに、異議はあまりない。元帥の言葉も最もだからだ。戦艦武蔵を保有する提督は少ない。練度九十超えなど極稀だろう。木曽自体は比較的数が多いが、改二になると一気に数は減る。だから元帥の判断に逆らうつもりはないが、問題はできるかどうかだ。

 基本的に、撤退はそれほど難しくない。適当に砲撃でもばら撒きながら全力で後退するだけなのだから。だがしかし当然ながら場合よっては艦娘の被害が大きく、自力で逃げるのが困難であったり、敵の方が逃がしてくれないということがままある。

 今回がまさにそれだ。相手は泊地凄姫。中破状態だからといって、動きが損なわれるものでもない。寧ろ深海凄艦は傷を負ってから活発化することすらあるのだ。

 その場合どうするか。

 答えは――囮を用いること。

 戦闘中の海域から少し外れた所に複数の艦隊を待機させておいて、撃ち漏らしの気を逸らして撤退や進撃の補佐をするのだ。無論、危険は大きく殆どの艦娘はその時点で轟沈する。基本的に練度の低い駆逐艦で行われているやり方だ。

 今回に関してその囮艦隊がどういう風に配置されているか、俺はまだ知らなかった。本来ならば通知があるはずなのに、元帥から気にせず出撃しろと言われてたから。

 俺の疑問を、元帥も察しっただろう。

 深く頷き、

 

「安心しろ。今回は俺の伝手で助っ人を呼んでいる。そいつらが大佐の艦隊を回収する手筈だ」

 

「――助っ人」

 

 囮ではなく――助っ人?

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだだ、まだこの程度で武蔵は沈まんぞ……ッ」

 

「ちょっとばかし、涼しくなったもんだぜ」

 

「強がらないでください! 提督から撤退命令が来ました!」

 

「!!」

 

 服や艤装を破損させた私や木曽の顔に浮かんだのは驚きと、それに怒りと悔しさ。泊地凄姫相手の撤退命令。それが表わすのは自分たちを逃がすために囮となる艦娘が来るということだ。これまでの海域でもそうだった。私たちが華々しい戦果を挙げる裏には多くの艦娘が犠牲になっている。

 できることなら、やりたくない。

 そうも言っていられないけど

 

「■■■■ーーーーッッ!!」

 

「ほんと、しつこいっぽい!」

 

「夕立、焦らない!」

 

「魚雷、行きます!」

 

 視界の先では声にならない絶叫を上げながら砲身を振り回す泊地凄姫と、それの相手をする夕立たち。砲撃も魚雷も、もう何度も当たっているのに未だ沈むことはない。

 本当に、悪夢みたいだ。

 そんな下らない感傷染みたことを思った瞬間だった。

 それは、来た。

 

「――」

 

 何かが自分たちの横を高速で通り抜けた。夜の大気を貫くそれは、私や木曽、大鳳を一瞬で追い抜き、前方で戦う夕立たちすらも超えて――泊地凄姫の肩に突き刺さった。

 直後、爆発。

 

「■■■ーーーー!!!」

 

「な……!?」

 

 泊地凄姫が絶叫するが、驚きは同じだ。一体どうすればあんなことができるのか。

 答えは、でない。

 けれど手掛かりは背後に。

 

「――ふむ」

 

 囮艦隊、だったはずだ。

 彼女たちは私たちを逃がすために捨石になるためにここに訪れた艦娘だったはずだ。

 なのに、彼女たちは違った。何が違うのかは解らず、もう少し後になって知ることなり、この時感じた違和感は他の皆も感じていたことをこれもまた後に知ることになるのだが。

 ともあれ、その六人はいた。

 駆逐艦不知火。戦艦榛名。正規空母加賀。正規空母瑞鶴。重雷装巡洋艦北上。駆逐艦ヴェールヌイ。

 彼女たちは、現われた。

 旗艦らしき不知火は手袋を嵌め直しながら、

 

「行きましょうか」

 

 まるで少し買い物へ行くくらいの気軽さで、泊地凄姫へと真正面から突っ込んだ。

 




ぬいぬい!
多分これはぬいぬいたちが無双してその他大勢がすげーってなる話。
あと大鳳たちの提督のキャラが全く決まってないという由々しき事態
どうなるんだ(

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