そして誰もが帰ってくる Heart of the warship girls   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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好きな艦娘ソートやったら不知火響榛名瑞鶴北上加賀の順番でモロすぎてワロた。
次いで木曽とか大鳳とか武蔵出たのでそのうち登場するかも(


まさしく榛名は天使である

 島に一つしかないという調理場は随部とこじんまりとしていた。

 通常、鎮守府の食堂といえば一般の会社の社員食堂並に大きく、第一や第二とナンバリングされるぐらいに数がある。提督一人につき最大で艦娘は百人近くにもなるのだから当然だろう。朝昼晩、食事時は常に込み合い、補給艦『間宮』やパートの調理師の人たちが汗を流しながら艦娘の食事を作っていた。それでも、この島で食事を取るのは昨日来たばかりの自分を入れてもたった七人。この建物の製作者はこれをも越していたわけではないだろうが、食堂と言いつつも少し広めの一般家庭のリビングと変わらない大きさだ。大体十人くらいが許容限界だろう。私と北上が食堂に入った時には既に他の艦娘たちと提督は食事中だった。

 

「やっほー、皆おはー」

 

「……おはよう」

 

軽い仕草で手を掲げながら声を掛ける北上と帽子のつばを押さえる私に、提督や他の艦娘たちが思い思いにおはようと声を掛けてくる。机の上にはおかずの類だけが置かれたお盆が二つ、誰もいない椅子の前に置かれている。つまりアレが私や北上のものなのだろう。

 

「ほらヴェルっち、座ろーよ」

 

「ん」

 

 席に着く。焼き魚に出し巻き卵、漬物に海苔が数枚。茶碗と味噌汁はまだないが、

 

「はい、どうぞ。北上さん、ヴェールヌイさん。御飯とお味噌汁です」

 

「ありがとねー」

 

「……ありがと」

 

 ジャージ姿の榛名が手渡ししてくれた。白米に豆腐と葱、わかめの味噌汁。全部合わさればいかにもという純和風の朝食だった。席順は奥から不知火提督榛名私。逆側が瑞鶴加賀空席北上だ。榛名の向かいの座席には米櫃や調味料の類がまとめてあった。

 

「これ、不知火や榛名が作ったのかい?」

 

「えぇ、それに加賀さんもですよ」

 

「少し野菜切ってお鍋見ていただけですけどね」

 

「それでも何もしてない私や北上よりマシだよ」

 

「あははー、それは違うよずいっち。私はやろうと思えばできるよ? このアルティメット北上様にできないことはないのさー」

 

「はいはい」

 

「あ、流された。ちぇー」

 

「……」

 

 とりあえず料理を作っているのは加賀や榛名、不知火で瑞鶴や北上はなにもしないらしい。起きた時もそんなようなことを言っていたし、提督の方も似たようなものなのだろう。寝起き悪いとか言っていたし。その提督は、

 

「……もきゅもきゅ」

 

「司令、口元が汚れています。ちゃんと口に運んでください」

 

「んー……」

 

 寝ぼけ眼で食事を運ぶがぽろぽろとこぼしつつ隣の不知火に口を拭いてもらったりしていた。

 まるで介護だ。

 昨日はなんか胡散臭さ満点という感じであったが、朝の姿はなんか頼りなさ満点である。とりあえず、焼き魚を解して口に運ぶ。

 

「……む」

 

 何の魚かは解らない。それでも驚くほど美味しかった。

 それでも脂はのっているし、時間が経ったのにパサついているようなこともない。料理に関しては詳しくないが、無駄な味付けがなく素材の味が生きているというのはこれのようなことを言うのだろう。続けて出汁巻き卵を口に運べばこれも驚くほど美味しい。少し甘目の味付けは嫌いではないし、ふっくらとしていて食感も悪くない。

 

「美味しい……」

 

 気づけば言葉を漏らしていた。

 

「それは良かったです! 昨日は少し皆さんではしゃいでしまったので少し質素なメニューにしましたけど、気に入ってもらえたなら何よりでした」

 

「いや、ホントに美味しいね。正直驚いたよ」

 

「ふふーん、そりゃ榛名っちが作ってくれたんだもん、不味いわけがないよ」

 

「どうしてそこで貴女が威張るのかしら?」

 

「いーじゃんいーじゃん。ね、榛名っち」

 

「えぇ。榛名は皆さんが喜んで頂けるの。ならそれが一番の幸せです」

 

「榛名っちマジ天使」

 

 天使というのも納得できてしまうくらいに晴れ晴れとした笑顔だった。ちょっと眩しいくらいに。いや確かに『榛名』が優しいのは広く知られた話だ。金剛型戦艦三番艦『榛名』。高速戦艦として実力が高く提督たちからの人気も高い。性格は極めて優しく、純粋無垢を絵に描いたように。灰汁の強い姉妹を上手く繋いでいたり、他の艦娘に対しても優しく接してくれる。

 北上が言ったようにまさしく天使みたいな性格をしているのだ。

 何やら得体のしれない鎮守府ではあるが、そのあたりは変わらないようだ。

 ちょっと安心する。

 ほっと一息付きつつ、箸を進めていたらふと疑問が湧いてきた。

 

「そういえばこの食材とかってどうしてるだい? ほとんど無人島って何回も聞いてるけど。昨日の夜に食べていたお菓子とかも」

 

 口にした疑問に答えてくれたのは榛名だった。彼女はお櫃から加賀の分のおかわりの米を盛りつつ、

 

「お菓子や食材の一部、お米やお肉、調味料の類は月一で本土から配送されてきますよ。家具とか生活必需品も。今月は一週間くらい先の事ですけど。後の野菜とかお魚は――可能な限り自分たちで賄っています」

 

「……え? どういう」

 

「そのままの意味ですよ? 野菜はこの建物の裏に畑があって皆で栽培しています。飲料水は井戸があるのと川の水を蒸留したりして使ってますし、お魚に関しては、あ、どうぞ加賀さん」

 

「ありがとう。……私と瑞鶴が獲っているわ。艦載機に網を括り付けて地引網みたいに」

 

「そんな艦載機の使い方は始めて聞いた……」

 

「ちなみに皆で栽培って言っても、基本世話してるのは榛名よ。毎日朝食後に欠かさず雑草抜きに行ったりするしね。あ、私もおかわり」

 

 なんというか頭が痛い。だが榛名がジャージ姿なのは納得ができた。確かにあの巫女服で畑作業というのはやりにくいだろう。

 それにしたって農作業に勤しむ高速戦艦に、艦載機で漁をする正規空母。

 聞いたことがないというか聞きたくなかった。

 

「ふぁーふぉふぉふぉふふぉふぇ。ふぉんふぁふふぁいふぁふぁふぁふぁひふぉふぃっふひひはほ」

 

 何を言っているのか全く分からない。

 

「北上さん、口の中の物を飲み込んでから喋ってください。行儀が悪いです……司令、お茶を」

 

「あぁ、ありがと」

 

 いつの間にか提督の意識が覚醒していた。食事も一通り片付けられ、不知火からお茶を貰って一服し始めていた。

 

「――ごっくんとな。あー、まぁ驚くよね。私も最初は驚いたよ」

 

「まぁ、必要に応じられたんだよ。月に一回贈られてくるって言っても、生ものとかはどうしても悪くなっちゃうからねぇ。実際最初の方は何度かお腹壊したことあるし。冷凍しようにもできる量に限りがある。だから畑作ったり、漁を始める必要があったんだ。ちなみに最近は鶏とか飼おうか考えてるけどヴェールヌイちゃんやる?」

 

「遠慮しておくよ……」

 

「そ、気が向いたら言ってね。まぁそんなわけでこの無人島鎮守府では可能な限り自給自足だよ。ちなみに電気は太陽光と風力発電。あとこの島何気に色々あるから見ておいたほうがいいよ。そのあたりは北上様ちゃんにお任せだね」

 

「おっけー。このアルティメット北上様に任せてよ」

 

「いよっ、究極ー」

 

「えへへー」

 

 味噌汁を口に流し込みながら照れながらニヤニヤするという器用なのかそうでないのかよく解らないことをしていた。そんな光景を眺めながら食事を勧めていく。途中から食べ始めた自分や北上はともかく加賀や瑞鶴は未だに食事の最中、多分ご飯二杯目三杯目とかではないのだろう。正規空母なのだから食べる量は駆逐艦の数倍だ。食べるペース自体は彼女たちの方が速いのだが。

 見ていたら瑞鶴が玉子焼きを白米の上に載せて適当に解し始めた。なんとなく噂に聞くTKGの一種なのかなぁと見ていたら、

 

「加賀姉、お醤油取って」

 

「ん、はいどうぞ」

 

「ありがとー」

 

 そんなやり取りがあった。

 

「………………え」

 

 なにやらおかしいことが起きていた。

 『瑞鶴』が『加賀』のことを――姉と呼んでいる。

 

「ん? どうかした、ヴェールヌイ?」

 

「あ、いや、えっと……」

 

 驚いて思わずガン見していたらしく向こうから声を掛けてきた。でも、直接聞くのは躊躇われて思わず口ごもる。

 

「ははは、瑞鶴ちゃんと加賀さんが仲いいから驚いたんじゃない?」

 

「あー、確かに他じゃそうかもしれないけど、私と加賀姉はすっごく仲いいから気にしないでよ。おーけい?」

 

「お、おーけい」

 

「……珍しいのは解ってるけれど、気にしないでもらえると嬉しいわ」

 

「あ、はい」

 

 さり気なく流されたと思った上での加賀からの念押し。それでもうなにも言えなくなる。

 『一航戦加賀』の五航船嫌いは有名な話ではあるが――ついさっき余計な詮索はするなとか言われたばかりでもあったのだ。地味に正面や真横から視線を感じるので残り少なくなっていく食事に集中する。

 

「おかわりどうですか? ヴェールヌイさん」

 

「……頂こう」

 

 気まずさを誤魔化す為だったのかは解らないが榛名に新しい白米をよそってもらう。実際美味しいので集中するのは簡単だった。

 しばらく無言のまま過ぎて、

 

「……ごちそうさま」

 

「あたしもごちそーさん!」

 

「はい、お粗末様でした。お茶をどうぞ」

 

 差し出されたお茶を受け取り一服する。ちなみに空母二人は未だに食べていた。おかず類はなくなったがふりかけとか食べるラー油を掛けている。流石。

 

「んーと、じゃあヴェルっち。もう少ししたら色々案内しようと思うけど、行きたいとこある?」

 

「えっと……」

 

 行きたい所も何も、こっちは何があるのか解っていないのだが。それでも、榛名の言う畑には少し興味があった。

 

「じゃあ。その畑を見てみたいかな」

 

「だってさ、大丈夫榛名っち?」

 

「えぇ、榛名は大丈夫です。折角ですから一緒に手入れもどうですか?」

 

「あ、私はパスで」

 

「邪魔にならない程度に一緒にさせてもらおうかな……あと、北上は普段なにをしているんだい?」

 

「え? 昼寝とか散歩とか昼寝とか釣りとか昼寝とか?」

 

「あはは、僕と同じだね」

 

「司令は仕事をしてください」

 

「……」

 

 正直、この鎮守府で提督業とか何をするのだろうと激しく疑問だが、やはりそのあたり提督や秘書官にしか解らないことがあるのだろう。

 あるはず。

 あってほしい。

 それにしても、なんというか。

 やっていることが定年後に趣味に走った老人のような生活だなぁ、と思った。

 

 ――そしてその発想は当たらずとも遠からずだと、もう少し後に私は知ることになるのである。

 

 

 

 

 




榛名マジ天使。

農業担当榛名、漁業担当加賀瑞鶴、提督担当不知火、昼寝担当:北上様

これに畜産担当:ヴェールヌイが生まれるのだろか(

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