そして誰もが帰ってくる Heart of the warship girls 作:柳之助@バケつ1~4巻発売中
網を引きずる艦載機は大体十数分程度で戻って来た。その間適当に雑談していたわけだけれど、こんなにも速く終わるのは意外だった。網の中には陸に上がって、ビクンビクン跳ねている魚が十数匹ほど。
「魚探で魚いる所に海底近くまで直接網ぶち込むからね、ぶっちゃけ時間かかるのも取りすぎ魚を海中で逃がしてる時間だしさ」
漁師さんが聞いたら怒りそうだぁと思うが、しかしよく考えたらこのご時世、海産物はほとんどが養殖物だった。彼女たちの行いを止めるものはいなさそうである。
「ふむ……鯵や鯛、それに名前がよく解らないけれどいつも取れるやたらグロい子……まぁこんなものかしらね」
「なにその判断基準」
「魚の名前なんて回転寿司に出てくるような有名所しか知らないわ。結構種類判断できない魚が多いのよ」
「案外あたしたちがこれと思っているのと違ったりしてねー」
「無きにしも非ずね」
「いいんだそれで……」
あまりのアバウトさに呆れていたら、
「いいんだよそれで」
背後からいきなり声を掛けられた。
「ひゃぁ!?」
「おっと」
我ながら変な声を出してしまったことに恥じらいを持ちつつ、振り返れば、
「あっれ、提督じゃん」
「提督さん?」
「あら提督」
「やぁ、皆の提督だよ」
ヘラヘラとした笑みを浮かべながら釣竿を肩に置き、バケツを手にした提督がいた。
「な、何をしてるんだい?」
「ん、仕事面倒になったら不知火ちゃんが珈琲淹れに行った間に抜け出してきたんだよ。ついでに榛名ちゃんに昼ご飯に手打ちうどん食べたいって時間かかる料理で無茶振りして手伝いで足止めしてる」
「何をしてるんだい……」
それでいいか。というか無茶振りで手打ちうどんとか作らされている榛名が可哀想だ。
「見てよ提督さん、今日の成果」
「おお、今日も大量だねぇ。流石瑞鶴ちゃん」
「えへへ、ありがとっ」
瑞鶴の頭を撫でてから、波止場の端まで行って釣り糸を垂らす。すぐ後ろには取れたばかりの魚があるのに。思った疑問を提督も解っていたらしい。
「このあたり僕の趣味だからね。釣り糸垂らして海眺めてるだけでも暇つぶしになるさ。ヴェルちゃんもやってみる?」
「いや、私に釣りなんて……」
「無理って言ったら無理、やろうと思ったらできるんじゃないかなぁ」
「うっわなんでこのタイミングでちょっといいセリフを」
「ははは、北上様ちゃん、一々言わなくていいんだよ?」
「……じゃあ少しやってみようかな」
提督の隣に腰かけておっかなびっくりながらも竿を受け取る。見様見真似で竿を立てる。重くはない、寧ろ軽い。けれど糸の先に水のせいか妙な抵抗を感じる。流石に入れたばかりなのですぐには掛からない。魚自体は十分あるのだし、本当に暇つぶしなんだなぁと思う。
「ははは、皆もやってみる?」
「加賀と瑞鶴はさっき漁したばかりだし、北上がやらないだろう……」
なんて、私が言いながら振り返れば、
「ふふふ……ついにアルティメットの意味をヴェルっちに見せる時が……」
「――鎧袖一触よ」
「どこでもアウトレンジで決めてきます……!」
「なぜそんなやる気に!?」
無駄なオーラを発しながら変なポーズを取る三人がいた。いつの間にか艤装までも装備しているし。加賀や瑞鶴はともかく北上がどうするんだと思ったら連装砲を水面へと向けている。というか北上と出逢ってまだ一日目だし、そんなタイミングでアルティメットな理由なんて知りたくない。
「ふふふ……見るがいいよヴェルっち! 本土だったら各方面にお説教間違いないこの爆雷漁法を!」
「そして私たち空母の」
「爆撃漁法もね!」
「止めよう!?」
遅かった。
●
「あら……?」
鼻歌まじりにうどん粉を捏ねていた榛名は遠くから衝撃に顔を上げた。
「うーん、襲撃……はないとして、加賀さんたちが張り切っているのでしょうか。例の爆雷漁法、ただでさえ乱れてる生態系があれになるし、森の動物たちも驚くんですが――いつものことですね」
頷きつつ、
「続きをしましょうか、不知火さん……ってあれ?」
先ほどまで一緒に粉を練っていた不知火が消えていた。
●
「うっわ魚臭ー」
「……やりすぎました」
「……最初の頃を思い出すわね」
「………………なにこれ酷い」
「あちゃー、しばらくここで釣りできないなぁ」
視界一杯にかなりの量の魚が浮かんでいた。恐ろしく生臭いし、なによりびっくりするくらい不気味だ。ぶっちゃけ単純に気持ち悪い。
「……百くらいいるけどどうするんだ」
「一応昏倒してるだけだから放っておけば復活するだろうけど……当分魚近寄らなくなるかな」
「じゃあ放置?」
「さすがにこれらを七人で食べるのはねぇ」
一人当たり多くて十五匹くらい食べなければならないとなると勘弁してほしい。いや、空母たちならば行けるのかもしれないが、自分には絶対無理だ。あまり長くももたないだろうし。
「どうにかするとしたら干物か燻製かしら?」
「干物はともかく燻製は大変じゃない? ぶっちゃけ作り方正しいの疑問だしさぁ」
「……ちなみにどうやってるんだい?」
「穴掘って底に木辺放り込んで出た煙をあらかじめ用意しておいた迂回路で誘導して燻すのよ」
「あってる、の……?」
「一応、食べれるけどねー。燃やした木によっては凄いことになるけど」
凄いことなるとはどういうことなのか絶対に聞きたくなかった。多分絶対に碌なことではない。いや、この鎮守府に来てよかったことってなにかあっただろうか。
ご飯美味しいくらいしか思いつかない。
「うーむ。仕方ない」
重苦しく提督は顎に手を当てながら、一つ頷いて、
「放っておこう――あと間違いなく不知火ちゃんがガチ説教しに来るから逃げよう」
「え」
「わー!」
「えぇ!?」
提督が一目散に駆けだして、驚いている間にも北上たちが両手を上げて叫びながら港から走り去っていた。
というか加賀まで。
加賀型一番艦加賀。最大量の艦載機スロットを誇る一航戦の正規空母。どこの鎮守府でも主力として扱われているし、性格は冷静沈着で極めてクール。基本的に冗談とか通じない――はずだったのだが。
両手を上げた姿勢でよく解らない半目のまま棒読みの叫びを上げながら走っていく加賀なんて見たくなかった。ノリが良すぎる。
白目剥いた魚に囲まれながら呆然としていたが、視界の向こうから物凄い勢いで走っている影があった。
不知火だ。
瞬く間に距離を詰め、波止場の端にいた私の所へとたどり着く。
「……ふぅー」
周囲を見渡しながら、走った勢いで崩れていた服装を整え、
「提督はどこですか」
「え、あー……ついさっきどこかに行ったよ?」
「ちっ」
露骨に舌打ちされたが困る。
「えっと、何をしていたとか聞かないのかい?」
「大体想像付きますので。漁をしていた瑞鶴さんと加賀さんを見学しに来た貴方達に提督がサボりに来て釣りしてたら他の三人が悪乗りしてドカン、という感じでしょう」
「……ドンピシャだよ」
「よくあることですから」
「えぇ……」
ほんとこの鎮守府頭おかしい。まともな所が一つも見つからない。
頭を抱えていたらいつの間にか不知火がいなかった。首を傾げながら波止場から出れば艤装置き場から現われる。
完全武装で。
「何故!?」
「制裁です」
「過激すぎないかな!?」
「北上さんたちも艤装背負ったまま逃げたんでしょう? ならば此方も必要です」
目がマジだった。
「ちなみに提督は……」
「さて、どこに行ったのやら」
露骨にスルーされた。
「他の釣りポイントは解りやすすぎるでしょうし、鍾乳洞はこの前ノリで崩壊させ海底洞窟は罠を張ったまま反応はなし。あるとすれば森の中の小屋か湖のアヒルボートの上……あれにも乗った
ら爆散する罠仕込んで置いたのにこれも反応ない。後は建設中の鶏小屋の中? ふむ……」
何やら物騒な言葉が聞こえたが全て聞こえないふりをした。
「困りましたね……深海凄艦が出現したらしいので対応しなければならないのですが」
「へぇそうかい大変だねそれは」
「えぇ大変です。今回はスパンが短かったですね――」
「――は?」
聞き捨てならないことを口にした気がした。
「だから、深海凄艦です。四艦隊分出現したらしいので八丈島に駐在の提督たちでは手が足りないと連絡がありました。なので彼らの打ち漏らしを沈ませるために私たちも出ることになりました」
「なっ……」
「あぁ、安心してください。出たくないなら出なくても構いませんから。ただまぁ司令を探すくらいは手伝ってくれますよね」
「……」
否とは言えなかった。
けれど体は動かずに、
『こんな所で沈むの、いやだよぉ……』
『司令官……どこ……? もう声が聞こえないわ……』
『次に生まれてくる時は……平和な世界だといいな……』
思い出したくもないことを――思い出した。
皆大好き第六駆逐艦隊ですね(ゲス顔
というわけで次回シリアス。
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