そして誰もが帰ってくる Heart of the warship girls   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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というわけでセカンドシーズン。


海の光は全て命 Life of the warship girls
やっと大鳳は疲れを取る


 荒れ狂う海と嵐の中、砲火の残滓と血風が吹き抜けて行く。

 調整機器(スタビライザー)が最早機能は怪しく、自分自身の経験とバランス感覚で海上を駆け抜け、電探の類は既に中破状態故に広い範囲での索敵はできない。単純な性能に関しては人間をも逸脱しているはずだが、嵐と夜のせいで普通の人間程度にしか感覚が使えていなかった。ただの服に見えて霊的な装甲である装束も人間サイズに作り替えられた主砲や艦載機の発射台も大破していて、もうまともに動かないだろう。

 

「っ……ハァーッハァーッ」

 

 実際、私は動ける気がしなかった。

 装甲空母大鳳。最新の技術を駆使され艦娘であり、空母としても耐久が比較的硬いこの身でも最早いつ轟沈してもおかしくなかった。手にしているクロスボウはもう柄の部分しか残っていないから使い物にならない。

 そしてそれは私だけではなく、

 

「皆さん……被害、は」

 

 首と耳に取り付けられた無線に話しかける。幾度かのノイズの後、

 

『……木曽だ、武装は尽くイカれた。後は切先の折れた剣だけだな。隣の武蔵も無線も壊れ、主砲も残らず焼き付いててる』

 

『時雨だよ。夕立も僕も似たようなものだね。特に僕の右脚の艤装が完全に使えなくて、一人で立つのも難しい』

 

『ハチで、す。さっきので魚雷を使い切りました。水着もボロボロです』

 

 同じ艦隊の仲間である『木曽』『時雨』『伊8』、それに無線の不調らしい『武蔵』と『夕立』。聞こえてきた声はノイズ混じりだが疲労の色が濃く、内容も悲惨なものだ。まず間違いなく全員が大破、あるいは轟沈寸前と行ったところだろう。これ以上は砲撃一発だってできはしない。

 満身創痍。

 でも、

 

「この戦い……私たちの勝利です」

 

 ――海の藻屑と消えていく深海の怨念たちへと私は告げた。

 或は己に言い聞かせるように。

 誇張抜きで決戦だった。持ちうる弾薬燃料装備艤装。それらを最善の状況にして挑み、それでも尚一筋縄では行かなかった化け物は純白の海姫だった。

 飛行場姫。

 高い戦闘能力とある程度の知性を持つ人型の深海棲艦の中でも比較的最近発見された『姫』。白い体に体に纏う滑走路めいた生々しい艤装。名前の通り飛行場がそのまま人間としての形を得たような相手だった。

 それこそがこのアイアンボトムサウンドの女王であり、その栄華も今が終わりだった。艤装や装甲の代償に完全に停止した姫は海の中に消えて行く。取り巻きにいた戦艦たちももう残骸だけ。

 自分たちもいつ沈んでもおかしくない状態だが、それでも沈んだのは彼女たちだ。

 先に沈んだ方が――負け。

 

『……い……う……ちか……』

 

インカムから酷いノイズが響いた。だが無線の相手が操作をしているらしく、少しづつクリアになって行った。

 

『大鳳! 応答しろ! こちら提督! 第一艦隊応答しろ! 木曽、武蔵、時雨、夕立、ハチ!』

 

 焦るような、恐れるような、色々混じった大声で叫ぶ私たちの司令官だ。

 

「こちら、大鳳聞こえています提督」

 

『っ! ようやく通じたか!』

 

「すいま、せん。嵐が酷くて遠距離の無線が不調でした。報告もまともにできず……」

 

『いや、構わん。それで……どうだ?』

 

「はい」 

 

 一つ頷いてから息を吸う。

 この瞬間は何時だって気持ちがいい。姫を倒したせいか嵐が収まり厚い雲の切れ間から太陽の光が指す。他の仲間たちも目視で確認しながら私は提督に告げた。

 

「作戦完了、第一艦隊これより鎮守府へと帰投します!」

 

 

 

⚫●

 

 

 

 ある一定の時期、期間、地域に深海棲艦が大量発生することが儘ある。

 それは放っておけば人類の勢力範囲が大きく変わってしまいかねない勢いでだ。原則的に深海棲艦が出没する海には一定のパターンがあり、大量発生時にもそれは変わらない。ただ単に短いスパンに数多く、さらに特別強力な深海棲艦がそれらの海を統べている。そんな状況陥った場合、早急に大本営から一部の提督が選別され、海域の近くに仮説本部を設置し対処に当たる。

 だからこそこういう類の海は俗にE海域と呼称されていた。

 『Emergency』や『Enemy』、さらに成果を挙げた提督には特別な報酬が与えられたり、海域の奥で新種の艦娘が発見されることが多いために、『Event』という意味などを込められてそう呼ばれている。

 正直なところ、私は最後のイベントという意味合いは好きではなかった。多分、他の仲間たちもそう思っていることだろう。

 イベントだなんて、そんな楽しいものではない。

 たくさん死んで、たくさん殺される。

 ただそれだけのよくある戦場だ。

 艦娘だからそこにいるのは当たり前なのだけれど。

 

「……でも、これで終わりね」

 

「あぁ、終わったな」

 

 天井を見上げながらポツリと漏らした私の言葉に反応は武蔵さんだった。普段は短めの白髪を二つにくくっているが、ドック、つまりお風呂の中なのでそれらは湯に濡れ流されている。起伏のはっきりとした体つきと褐色の肌は同性の私から見ても艶かしい。胸の谷間溜まるお湯なんか特に。

 別に羨ましいわけではない。

仮にも空母でありながら駆逐艦や某RJな軽空母のごとくにまな板な胸部である私だが羨ましくなんか、ない。

 湯船に預けていた体を会話のために持ち上げる。未だに重い疲労が残っているが、これでも大分回復した方だ。そして武蔵さんの周囲にはさらに私の仲間であるもう四人が体を癒していた。

 

「ふぅ……」

 

 口元までしっかりと湯に浸かる木曽さん。

 

「あー、まだ辛いっぽいー」

 

 縁に体を預け、脱力している夕立さん。

 

「こらこら、あまり力を抜きすぎると溺れるよ?」

 

 そんな夕立さんの気を使っている時雨さん。

 

「……」

 

 そして言葉を発さず、態々防水加工をして持ち込んだ本のページを噛み締めるようにハチさん。

 共にE海域を制覇した戦友たち。

 基本的にドッグというのは提督一人につき最大でも四人分しかない。一つの艦隊が全員入渠するということはまずなかったが、今回に限り、海域突破の報酬として六人分のドッグが解放されていた。正直なところ全員が全員とも轟沈間際だったのでありがたい話だった。艦娘として今の私の練度は既に上限である99で、他の五人もそれに近いがこうして六人一緒に入渠したのは始めて。

普段ならばそれなりにはしゃいで水の掛け合いくらいしそうだが、今のところはそんな余裕がないのが残念だけれど。

 

「今回は、八回行きましたっけ」

 

「あぁ。そのうち二回は有効打を与えられず、一回は敗退。四回目からようやくダメージを与え、八回目でようやく打倒……いやはや、我らのことながらよくやったよ」

 

「ですね……」

 

 記憶を掘り返して嘆息しながら同意する。

 基本的に『姫』と称される深海棲艦は異常なまでに強い。通常の深海棲艦の何倍もの戦闘力を持ち、耐久力も同様。一度の交戦で倒し切れるものではないし、高い自己修復能力すらもある。

 まんま反則級の相手だ。

 いやよく勝ったなと思う。

 それが私たちのやるべきことなのだけれど。

 

「この海域も長かったですね」

 

「かれこれ三週間か。一体どれだけ沈んだんだろうな」

 

「……考えても仕方ないことです」

 

「……そうだな」

 

 少し嫌な気分になる。普段は努めて考えないようにしていることだったが、大きな戦いの後だから若干感傷的になっていたらしい。しかし戦いは終わったのだ。しばらくすればまたE海域は発生するだろうし、鎮守府に戻ってもまた深海棲艦たちとの戦いには変わりがない。

 それでも区切りは区切り。

そう信じ、私は再び湯船に体を沈める。

 今頃、提督はなにをやっているのかしら。

 

 

 

 

 

 

 

「……もう一度、言ってもらえますか?」

 声の震えを理解しながらも俺はそれを止めることはできなかった。

 E海域に近い港に作られた仮設鎮守府、その最も地位の高い元帥閣下の部屋だ。三週間前に作られた急ごしらえということで執務机とエアコン以外大したものは置いていないが、これはどこの提督の私室も似たようなものだ。そしてそれらは視界に入れず、執務机についた元帥閣下に視線を向ける。

 一体どんな視線だったのかは解らない。

 

「……もう一度言おう」

 

 巌のように鍛えられた体を提督指定の白メインの軍服に押し込んだ元帥は感情を押し殺したように繰り返す。この元帥のことはそれなりに知っているが、しかしこうやって言葉を発するのは初めて見る、

 

「アイアンボトムのその先に――新たな海があった」

 

「――」

 

 海の向こうにまた海がある。

 それは当然のこと。世界中の海は繋がっているし、それぞれに地域毎の名前があるわけだが、元帥閣下が言う場合意味合いが異なる。

 つまり――まだいるのだ。

 深海棲艦。

 海に揺蕩う怨念。

 何一つ解っていない人類の天敵たちが。

 戦いは、終わっていない。

 驚愕を押し殺すのは無理があった。

 自分だって提督としてかなりの経験を積んでいる。二十代後半ながらも第一艦隊の平均練度が九十を超えているのがその証。E海域が想定よりも広かったというのも前例がなかったというわけでもない。十分に想定できることだった。

 それでも驚愕は隠せなかった。

 それくらいに今回のE海域は修羅場だったのだ。

 投入された艦娘と提督はほとんどが高い練度を誇るそれぞれの第一艦隊の精鋭たち。そんな艦娘たちが一体何人海に沈んでいったことだろう。高練度艦娘の育成の時間と手間を考えるとそれは馬鹿にならない。実際俺の第一艦隊にしたって木曽夕立時雨の三人は提督に着任してからの長い付き合いであり、比較的最近発見されたもう三人はある程度艦娘に付いての知識を得て効率的(・・・)に育ててきた結果だ。三人とも性能が高かったが故にかなりのスピードで今の様な形になったが、普通はこうはいかない。

 もっと言えば高練度の艦娘と使える提督は別である。 

 どうするか、というのはこの場合愚問である。

 

「他の提督たちにこのことは」

 

「まだだ。だがすぐに発表する。君に教えたのは、君が先の戦いにおける功労者であること、我々の中でも最大クラスの戦力保有者であること。この二つだ」

 

 つまりそれは、

 

「私に矢面に立って戦えということですか」

 

「そうだ。……拒否権はあるぞ? 君の代わりがいないこともない」

 

「やります」

 

 即答だ。それ以外にない。この身は提督なのだ。驚きもした、動揺もした。だが、深海凄艦がいるというのならば艦娘を引きつれ戦うだけだ。

 

「現在私の第一艦隊は入渠中ですが、終わり次第作戦会議を開きます。新海域に付いて情報があればお教えください」

 

「……解った」

 

 その時――なぜ元帥閣下が悲しそうな目をしながら頷いたのは解らなかった。

 

 




なんでE4からはっちゃんとか武蔵とか大鳳いるんだよとかいう突っ込みはしちゃだめだ! 
ぬいぬいと帰ってくる提督との約束だ!
約束を破ったら帰ってくる提督がぬいぬいにお仕置き(ご褒美)されるぞ!!!

まぁ秋イベぽい感じなので気にしない。
というか上官とかの呼称が解らない(

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