皇歴2009年 神聖ブリタニア帝国 帝都ペンドラゴン
帝都ペンドラゴンに存在するペンドラゴン皇宮・アリエスの離宮の中庭では、二人の幼い男女が走り回っていた。正確には、6歳ぐらいのお転婆な妹を9歳ぐらいの心配性な兄が追いかけている状態である。そんな幼い兄弟を離宮の窓から見守っているのが二人の母である。そしてもう一人庭先の木の上で子猫よろしく丸まっているのが二人の兄妹の弟であり兄にあたる子供である。
そんな家族のひと時に執事が主人たる女性に来客を知らせる。
その来客は、白髪で屈強な体に純白のマントを纏い全身白の服装で現れる。彼こそこの帝国最強の名を冠する"ナイトオブワン"『ビスマルク・ヴァルトシュタイン』である。
「いらっしゃい。ビスマルク」
窓際で子供達を見ている女性、兄弟たちの母である『マリアンヌ・ヴィ・ブリタニア』皇妃は、執事に案内されて部屋に入ってきたビスマルクに聖母のような笑みを浮かべて歓迎する。
「マリアンヌ様、失礼いたします」
ビスマルクがお辞儀をしながら挨拶をする。よく見ると顔の至る所に細かい傷が付いている。
「レレーナに用があるのね」
「マリアンヌ様には、すべてお見通しなのですね」
「当然よ。我が子のする事ぐらい把握済みよ」
ビスマルクが今日アリエスの離宮に来たのは、マリアンヌの次男でレレーナ・ヴィ・ブリタニアが皇宮内に設置した悪戯と言う名の殺戮装置の数々について本人に直接注意を行う為である。それらの罠は、どれも常人であれば死んでしまう様なものばかりであった。
それらの罠をビスマルクが他の皇族・貴族が掛かる前に自分で掛かり撤去して来たのである。そのお陰でビスマルクは、ボロボロになったので服を着替えてからアリエスの離宮へ来たのである。帝国最強のナイトオブワンすらボロボロになる程の罠が皇宮内に設置されていたのだ。
これはまずいと考えビスマルクが直接来たのだが、マリアンヌの慈愛に満ちた笑みを見るとその気も削がれるというものであった。まぁ罠を仕掛けた当の本人は、木の上でひなたぼっこに勤しんでいるので少しイラっと来ているのだが。
「あの子の悪戯を受けてその程度の傷で済んでいるのは、さすがナイトオブワンね」
「恐れ入ります。常人であれば死人となっている所でしょう」
ビスマルクは、思い出す。
足首の高さに張られた凧糸を切ると後頭部に向けて飛んでくるコンクリートの弾丸。
ドアノブに付けられた象を即死させる毒針。
廊下に落ちていた現皇帝の記念メダルを拾うとメダルの下から吹き出してくる毒ガス。
中庭に出るとナイトメアフレームのアサルトライフルによる精密射撃などの多種多様な殺戮装置の数々を。
やはり一度しっかりと注意すべきだと思う。
「ごめんなさいね。あの子も悪気はないの」
悪気が無いのに、あの様な殺戮装置を皇宮内に大量に設置するだろうか。
「日頃のストレス発散とストレスの原因を排除しようとしているだけなの」
"だけ"と言うよりも全てであろう。マリアンヌは、皇妃であるが出自は平民であった。それ故に他の皇族や大貴族からは、
そこでレレーナが思ったのが「死人に口無し」である。
ビスマルクはレレーナの性格を知っているので罠がレレーナの設置したものであると分かったが、別の者であれば犯人の特定は不可能であっただろう。それほど狡猾な罠であった。
「殿下方の現状は知っておりますが、殺してしまいますと後々煩わしい事になりますので」
「えぇ。私も煩わしいのは面倒だから、貴方が罠を撤去してくれて感謝しているわ」
「はっ!」
ビスマルクは、思う。体を張って罠を撤去してよかったと。
「レレーナには、私からしっかり言っておくわ。それで今回は、許して頂戴」
「御意」
ビスマルクは、礼をして辞して行く。
「さて、レレーナ!こっちいらっしゃい!」
マリアンヌが木の上でひなたぼっこをしている我が子を呼ぶ。
「むむ」
木の上で小さな塊がムクリと動く。
「"むむ"じゃないわよ。早くいらっしゃいレレーナ」
マリアンヌが急かすと、レレーナと呼ばれた小さな塊が木の上から降りてテクテクと歩いて来る。
「なんですか母上」
その子供は、ブロンドヘアの直毛でロイヤルパープルの瞳。女の子の様に線が細い体。100人が100人美人と答える容姿の子供である。
「レレーナ、悪戯をするのは構わないけどバレない様にしなさい」
ビスマルクが聞いたら「そう言う事ではありません!」と叫ぶであろう内容を我が子に言うマリアンヌ。
「ビスマルクにバレてしまいましたか」
レレーナは、腕を組み右手の人差し指と親指で自身の顎に添えて考えるポーズをとっている。
実際レレーナの悪戯をレレーナの仕業と見破るのは、難しい。目撃者も無く、指紋などの痕跡も一切残さない様に設置されているので普通は気付かれないだろう。ただビスマルクは、レレーナの癖を知っていたので悪戯がレレーナの仕業だと見破ったのである。
「レレーナ。ビスマルクは、貴方の悪戯の癖に気付いているから見破られるのよ。次からは、他人の癖を使って擦りつけなさい」
この様にレレーナの悪戯に対して、マリアンヌが助言をして助長してしまうのでレレーナが悪戯を辞めないのである。と言うよりも今までのレレーナの悪戯だとビスマルクが思っているモノの中には、マリアンヌが仕掛けたものも存在したがビスマルクは気付いていない。
母は、息子よりも上手であるのだ。
レレーナとマリアンヌが話していると其処に走って近づいてくる影が二つ。
「レレーナお兄様!また悪戯をされたのですか!?」
一人は、レレーナと同じ色の髪をした妹の"ナナリー・ヴィ・ブリタニア"である。
「レレーナ!また悪戯をして来たのか」
二人目は、レレーナと同じ様に直毛で黒髪である兄の"ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア"である。
「そうだよ。でもまだまだ母上には、敵わないよ。もっと精進して最高の悪戯をしてみせるよ」
「流石です!お兄様」
ナナリーは、お兄様フィルターによってレレーナの殺戮装置の悪戯すらも兄の素晴らしい芸術作品程度の認識になっているのである。
「いや辞めなさい。それからナナリー、レレーナの殺戮装置は流石に危険だよ」
一方ルルーシュの方は、弟の悪戯を正しく殺戮装置として認識しているので辞めさせる様に努力をしているが結果は思わしくない。と言うより母と妹が助長するので悪戯が過激化しているザマだ。
昔は顔面に墨が掛かったり、顔面に小石が飛んでくる程度であったのに、今では殺しにくるので流石に危険だとルルーシュは認識している。
実際の所ルルーシュもレレーナに毒されている。顔面に石が飛んで来るのも十分に危険である。
「レレーナ、悪戯も程々にしないとダメだぞ。ユフィに何かあるとコーネリア姉上が鬼の形相ですっ飛んで来るから」
「あぁ。ユフィ姉様は、悪戯避けれなさそうだもんね」
ルルーシュの意見を聞いてユフィが掛からない様な悪戯を作ろうと決めるレレーナ。
ルルーシュの受難は、これから始まるのである。
ビスマルクの受難は、これからも続くのである。
あとがき
次回
『僕。』
レレーナに転生しコードギアスの世界で生きていく。
そんな彼について
読んで頂きありがとうございます。
久しぶりに書いたものですが、宜しければ評価ならびに感想のほどよろしくお願いします。