皇歴2015年、神聖ブリタニア帝国はアゼルバイジャン共和國に宣戦布告した。
ブリタニア帝国のアゼルバイジャン侵攻軍の指揮は、帝国第17皇子レレーナ・ヴィ・ブリタニアが行うこととなった。
レレーナ率いる侵攻軍は凡そ7万人規模で、直参将軍に立候補したラチェット将軍、シュナイゼル宰相より派遣されたアルベルト・ボッシ辺境伯率いるアルガトロ混成騎士団、エリア11より押し掛けてきたジェレミア・ゴットバルド辺境伯、本国からキングズレイ・ウォーレントン辺境伯、オットー・ブリュガー伯爵などが配属となっている。
主力はラチェットが所属していたブリタニア中央戦域軍第4師団であるが、海軍のインド洋艦隊もこれを支援する事になっている。
対するアゼルバイジャン共和国軍は陸海空軍及び大統領親衛隊で構成されており、国防省のアゼルバイジャン共和国軍参謀本部の指揮下に置かれている。又準軍事組織として内務省の国内軍と呼ばれる国内での軍事作戦や重要施設の防衛、治安維持活動を主任務とする警察権を有する軍事組織と国境警備庁国境軍、沿岸警備隊、国家保安省特殊部隊などが存在する。
アゼルバイジャンでは徴兵制が導入されている為、常時12万の兵力を有し戦時においては60万人を動員することも出来る。
戦争において数は非常に重要である。しかしアゼルバイジャンが60万の兵を導入してもブリタニアの7万の侵攻軍を相手取るには些か力不足である。ブリタニア軍は兵士も兵器も良質で、アゼルバイジャンにとっては7万ですら非常に脅威であった。また幾ら60万人が動員できるからと言って直ちに60万人全てを動員できる訳ではない。60万人を支える兵站が必要なのだ。当然その様な巨大な兵站をすぐに用意出来る筈もなくその為アゼルバイジャンは、宣戦布告を受け次第E.U.へ『対ブリタニア戦線防衛協定』に基づき増援を要請した。そしてE.U.は、トルコ州に配備されている第105軍団第112連隊を派遣する事を議会にて決定した。さらにアジアの雄こと中華連邦が、内密に義勇軍を派遣する事をアゼルバイジャン政府に通達した。これによりブリタニア帝国対E.U.・中華連邦の図が形成された。
またアゼルバイジャン共和国政府は、戦士の国と呼ばれる中東のジルクスタン王国に傭兵派遣を要請していた。
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皇歴2015年 アゼルバイジャン 首都バクー 大統領府地下司令部
アゼルバイジャン大統領府は、首都バクーにあるアゼルバイジャン国立美術館前のイスティックラリヤット・ストリートを挟んだ反対側にある赤茶色色の花崗岩の外壁部分の上に白色の大理石の外壁をもつ12階建の建築物であり、九年ほどの年月掛けて建造された物である。その大統領府には、戦時体制用の地下司令部が存在する。
大統領府地下司令部は、戦時において大統領と副大統領、首相、内務大臣、財務大臣、国防大臣、参謀総長(大将)などが詰めて戦争指揮を撮る場所である。現在旧イラン領アルダビールに集結していたブリタニア帝国のアゼルバイジャン侵攻軍が、国境を越えてアゼルバイジャンへ侵攻を開始した事を受けて政府は戦時体制へ移行し大統領達が地下司令部に詰める事となった。
そして今、地下司令部は緊張に包まれていた。
「国境軍が壊滅!第1防衛ラインを突破されました!」
「現在、陸軍第2第3軍団がアグジャバディ及びキュルダミルに防衛線を構築してブリタニア軍と交戦中!」
「キュルダミルの空軍第416戦闘爆撃機隊壊滅!」
「第5軍団との音信途絶!」
「防空司令部より入電!カスピ海上空を高速で移動する機影あり!数12!ブリタニアの爆撃機です!!!」
「攻撃予測地点は!?」
「このまま進行すれば首都バクー上空に入ります!」
「防空軍がミサイル迎撃を行います!」
「ミサイル6発が命中!6機の爆撃機がバクー上空に侵入しました!!!」
「!?」
「何だ!?」
突如地下司令部に大きな振動が伝わる。司令部の要員が原因を調査すると、先ほど防空軍の対空ミサイルを掻い潜ったブリタニアの爆撃機による空爆の振動である事が判明する。空軍のエアカバーが消失した状態では、ブリタニアの攻撃を防ぎ切れなかったのだ。そしてこの空爆によりアゼルバイジャン軍の参謀本部がある国防省が半壊し、多くの犠牲を出す事となった。
司令部内の喧騒は凄まじく、ブリタニアと戦っている現場の状況がリアルタイムで送られて来る。
しかし送られて来る状況は決して良いものとは言えず、アゼルバイジャン共和国軍の防衛戦が瓦解寸前である事を示していた。飛び地になっているナヒチェヴァンを防衛していた陸軍の第5軍団は音信途絶、第2第3軍団は防衛線を下げて戦闘を継続するもエアカバーを担当する空軍第416戦闘爆撃機隊が壊滅しブリタニア軍の空爆に晒されている。また首都バクーに設置されている国防省がミサイル攻撃を受け参謀本部共々機能不全に陥っていた。
「大統領。このままでは…」
既にアゼルバイジャン共和国軍の防衛線は崩壊寸前であったが、それでも持ち堪えていたのは中華連邦より派遣されている義勇兵とジルクスタン王国からの傭兵が奮戦していたからだ。
しかしその奮戦も長くは続かない。
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皇歴2015年 アゼルバイジャン 首都バクー
ブリタニア軍が旧イラン領アルダビール、パールハザード、ダブリーズからアゼルバイジャンへ侵攻している時、侵攻軍司令官のレレーナはアゼルバイジャンの首都バクーにあるイズミア・ストリート沿いにある5つ星ホテルのスイートルームに滞在していた。
そこでレレーナとオルフェウス、エウリアの三人は、ホテルの中庭が見える一階窓側の席でそれぞれ朝食を摂っていた。レレーナはサンドイッチにココア、オルフェウスはフレンチトーストに紅茶、エウリアはフレンチトーストにサラダ、紅茶を食していた。
そんな最中に突如轟音が辺り一帯に響き渡る。
「今のは…」
「空対地ミサイルが国防省を破壊した音だろう」
「凄く大きな音だったわねぇ」
「となると作戦も第2段階へ移行するタイミングだね」
レレーナは、朝食を食べながら今さっき発生した衝撃と轟音が何かを、一緒に朝食をしていたオルフェウス達に確認しながら現在の侵攻作戦の推移を予測する。
「そうだな」
「ならそろそろ部屋に戻ろうか」
「そうね」
レレーナの推測が概ね正しいことを認識しているオルフェウスが部屋に戻ることを提案し、オルフェウスとエウリアがそれに同意して席を立つ。そんな二人の動きを見てレレーナもココアを一気に飲み干して二人の後を追う様に席を立ち部屋へと戻っていく。そんな3人の様子を見るものは、誰もいない。このホテルには、今一般の宿泊客は存在しない。
戦時中であるからと言うわけではない。ホテルそのものがレレーナ達ブリタニア側に接収されている状態なのだ。
勿論本来であればアゼルバイジャン当局も異変に気付き様子を見に来る処だが、現在はブリタニアとの戦争中であり又ホテル側も既にギアスに寄って抑えられている状態では、誰もホテルの異常に気づく事が出来ない状態になっているのだ。その為現在ホテルは、レレーナ達の貸し切り状態となっている。
そんなホテルの中を我が物顔で悠々と歩いて移動してレレーナ達は、自身が宿泊している最上階スイートルームへと足を運ぶ。
スイートルームのリビングには壁に埋め込まれた大きなスクリーンがあり、スクリーンの前にはL字ソファーが設置されている。ソファーとスクリーンの間には、ローテーブルがあり卓上にココアの入ったコップが置かれている。
スクリーンの両側には、長テーブルが置かれており、それぞれ2台ずつ
又部屋の隅には、碧瞳に金色の髪を右側から左に流したオールバックの白人系少年と茶色の瞳に黒い髪をセンターで分け、後ろ髪は肩を少し超えるくらいまで伸ばしている黒人系少年が立っている状態で待たされていた。二人は、帝国宰相第2皇子シュナイゼルの推薦でレレーナの従卒として配属となった“シュネー・ヘクセン”と“レド・オフェン”である。
レレーナ達がリビングに入ると部屋に居た全員がレレーナ達の方を向き最敬礼をする。それにレレーナが答礼するとモニター付きの局員達はモニターに向き直り、カルタゴはレレーナをソファーまで誘導し大型スクリーンを交えながら侵攻作戦の推移を報告する。
「作戦の状況は?」
「現状では第2段階を行なっている最中です。ナヒチェヴァン自治区は、ラチェット将軍率いる第1部隊によって完全に沈黙。アルガトロ混成騎士団を中核とした第2部隊は、敵の第2防衛線を攻略中です。ジェレミア卿率いる第3部隊は、既に湖岸沿いのアリャートを攻略して此処バクーを目指して侵攻中です」
「うん。大凡予定通りだね」
「はい、国防省と参謀本部はノシャー空軍基地からの新型地中貫ミサイルによって壊滅。参謀本部に居た国防相は、局員が偽装した救急隊員達によって既に捕縛致しました」
「宜しい。この戦争も直に終わるね」
「しかし凄まじい戦果ですね、アーニャ・アールストレイムと言う少女は。たった一人で敵軍の3分の1を屠ったのですから」
「本当にね。さすが
アーニャは今作戦においてラチェット将軍率いる第1部隊に配属される事となり、ナヒチェヴァン自治区への侵攻作戦に参加していた。当初周囲はアーニャを最前線で闘わす事に反対をしていたが、レレーナはアーニャは皇帝陛下の推薦で参戦している事、実は相当な実力者であると陛下から聞かされていると答え最前線で闘わす事を変えなった。勿論アーニャ自身は、何の事だか分からず狼狽していた。レレーナ自身も実際まだ子供のアーニャには可哀想だと思いながらも、精神に寄生して居るマリアンヌの力が有れば死ぬ事は無いだろうと考えていた。又もし仮に戦死したとしてもマリアンヌが依り代を失う事となり、自身の脅威が一つ減るだけであると思えば多少の良心の呵責はあれ予々問題はないと判断したのだ。
ただマリアンヌの事を知っているのは、レレーナとオルフェウス、エウリア、そして今回ギアス嚮団から引き取ったレレーナの影武者役の4人だけであり、それ以外の周囲の人間はレレーナが大変鬼畜に見えドン引きしていた事をレレーナは知らない––––––––––––––––––––––そんな事は知らないレレーナは、作戦状況を踏まえて第3段階へ移行する事を決める。
「では、作戦を第3段階へ移行させよう」
「イエス・ユアハイネス」
「国防相を此処へ」
レレーナの命令を受け入口のそばに控えていた機情局員が国防相を連れて来る為に部屋を一旦退出する。その姿を横目にレレーナは、第3段階について確認を行う。
「
「イエス・ユアハイネス」
「
「了解」
レレーナの指示を受け全員が動き始める。そんな中先程国防相を呼びに行った局員達が戻って来る。彼らと共にいる少し焦げたスーツを身に纏っている煤で汚れた金髪中年の男が、このアゼルバイジャン共和国の国防責任者である国防相だろうとレレーナはあたりをつける。まさにその通りであり、国防相はレレーナの前で膝を床に付けて両肩を局員達に抑えられる態勢でレレーナの方を見上げる。
「くっ!離せ!私が共和国国防相と知っての狼藉か!?」
国防相は、横柄な態度をとりながら周囲を威嚇した。しかし彼の両肩はしっかりと抑えらえているので周囲に対して毛筋程の畏怖も与えられていなかった。其れどころかレレーナは、詰まらなそうに真っ直ぐ国防相を見ていた。レレーナには直ぐに分かったコイツはクズだと。なら良心は痛まない。
「何だ貴様!?子供か?目障りだからどこかへ失せろ!」
紫色の瞳に真っ直ぐと見詰められ居心地悪そうな国防相は、語気を粗めてレレーナに叫ぶ。余りに見苦しいその姿に嫌悪しつつ、まだ年若いシュネーとレドを部屋から退出させる。これは、レレーナ也の彼らへの配慮でもある。国防相の姿を見せるのは、まだまだ子供の二人には精神衛生上余り宜しくないだろうと言う判断だ。そしてギアスを知らず、又ギアスの支配下に入っていない二人にこれから先の事を見せる訳にはいかないからだ。
「小僧!貴様もさっさと出て行け!」
シュネーとレドが部屋を退出した後も尚部屋にいるレレーナに対して国防相は苛立た気に言う。しかし尚レレーナは、詰まらなそうな瞳で国防相を見続ける。そして最後には溜息を吐きながら独白する。
「はぁ。こんな男が一つの国家の国防の責任者とは…こんな男の命令で死地に送り込まれるのが何の罪もない無垢な民達とは、哀れな」
その独白は、国防相へは聞こえなかった。
「貴様!何を言っている!?」
「君には、言ってないよ。目障りだ、早々に終わらせよう」
レレーナがそう言うと国防相の両肩を掴んでいた局員達が、国防相の両目を見開かせレレーナの方へ顔を向かせる。
「なっ!?何をする!?」
狼狽える国防相は、必死に顔を逸らそうとしたり拘束を解こうとするが鍛えられた局員達の拘束を解く事は出来ず、真っ直ぐにレレーナの方へ向けさせられる。そして彼がレレーナを見た時、レレーナの両目はまるで血のように赤く光っており彼を一層恐怖させた。
「なん…何だそれは!?」
「君の知る必要のない事だ。レレーナ・ヴィ・ブリタニアが命じる!我が奴隷となれ!」
レレーナのその言葉と共に国防相の瞳を赤へと染まる–––––––––––––––––。
次回
『はじめてのお使いinアゼルバイジャンー後編』
お久し振りです。
更新が遅くなってしまい申し訳ありません。何とか生存しております。
今回の更新まで楽しみにして下さった方々、更新再開を応援して下さった方々、お気に入り登録して下さった方々、コメント・誤字脱字報告をして下さった方々大変有難うございます!
今後速やかに『後編』と『ルルーシュ兄様の受難』を更新して行きたいと思います。
このご時世ですので、読者の皆様お身体の方をご自愛下さい。
今後ともよろしくお願い致します。
・アルダビール :イラン北西部の歴史都市
・パールハザード:イランとアゼルバイジャンの国境に位置する都市
・ダブリーズ :イラン北西部の都市、
・アグジャバディ:キュルダミルから南西に向かった位置にある都市
・キュルダミル :アゼルバイジャン中央部にある都市