皇歴2013年3月28日 アリエスの離宮
「誕生日おめでとう!レナ!」
「おめでとう。レナ」
「ありがとう、二人とも」
今日は、僕の誕生日。そして就職する事になった。その為今日は、嚮団から引き抜く事に成功したオルフェウスとエウリアと3人でいつもより少し豪華な料理を食べている。
普通の皇族であれば多くの貴族や皇族、文化人、官僚、軍人などがお祝いに駆け付けるであろうが、生憎僕にはそんな風にお祝いに駆け付ける者は居ない。この場所に居るのは、3人だけ。使用人すら居ない。
昔、まだマリアンヌやルルーシュ兄様、ナナリーが居た頃は、後援貴族のアッシュフォード家を筆頭に貴族や軍人が多く訪れていた。オデュッセウス第1皇子やギネヴィア第1皇女、シュナイゼル第2皇子などの誕生日に比べればはるかに少ないがそれでも今日よりは列席者が居た。と言うよりも今日が居なさ過ぎなだけであるが…。
そもそも嚮団から帰って来た僕が2011年から二年間どうしていたかと言うと。
遡る事二年前–––––––––
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皇歴2011年
嚮団から『Cの世界』を経由して神聖ブリタニア帝国 帝都ペンドラゴンへ帰国した。ペンドラゴン皇宮の"玉座の間"へビスマルクの先導で行き、シャルルへ帰還の報告を行う。
シャルルがV.V.と『Cの世界』で何を話したかは知らないが、碌な事を話していないであろう事は見当が付く。なにせシャルルが異様にこちらを警戒しているのだ。
帰還報告で謁見した際に"ナイトオブワン"のビスマルクに元"ナイトオブツー"のベアトリス・ファランクス帝国特務局総監さらにギアス嚮団の神官達がシャルルの両側に整列していた。
凄い眼力で僕を睨み付けてくるシャルルは、本当にV.V.に何を言われたのだろうか。
「…良くぞ戻ってきたレレーナ」
そう言うならもっと嬉しそうな顔しなよ。凄く不本意だと顔に出てますよ。
全く、子供じゃないんだからもっと社交辞令が上手くならないと皇帝辞めた後苦労するよ。やめるときは、死んだ時なんだろうけど、この人の場合。
それでも日本人をもっと見習うべきだと思う。ここまで露骨に嫌そうな「お帰り」は、聞いた事がない。
「お久しぶりです、父上。レレーナ・ヴィ・ブリタニア本日帰国いたしました」
スッと片膝をつき玉座に頭を垂れる。我ながら上手く出来たと思うがシャルルたちは、全く反応しない。
正直気が重い。
「お主の帰国を嬉しく思う。今後のことは、ビスマルクに伝えさせる故今日はもう休むが良い」
そう言うとシャルルは、玉座を立ち上がりさっさと玉座の間を出て行ってしまう。それに続いてビスマルク以外の者達もいそいそと出て行ってしまう。
本当に歓迎されていないなと思う。
「ご無事の帰国、このビスマルク嬉しく思います」
シャルル達が出て行った後、ビスマルクが僕に近づいてそう言った。ビスマルクの顔には、少し緊張感が表れていた。シャルルといいビスマルクといい何をそんなに警戒しているのか分からないが、此方としては今後の僕たちの生活を保障して貰えれば良いので無茶する予定は無いのだけどね。
「これからレレーナ殿下が生活される事になるアリエスの離宮へご案内致します」
「またあそこに住めるんだ。他の二人も一緒だよね?」
「はい。嚮団より来た他の二人もご一緒です。その方が殿下も居心地が良いだろうと陛下が仰っておられました」
「それは、感謝しないとね。まぁ後援貴族も居ないのにあんな広いところで三人生活だと施設管理だけで大忙しだろうけど」
「ご安心下さい。既に我が家の者達が掃除等を行い、殿下をお出迎えする準備は、整っております」
「そっか、ありがと。なら行こうか」
そう言った後に僕は、玉座の間を出る。その後ろをビスマルクが付いてくる。これから住むアリエスの離宮は、以前家族で住んでいた場所であり皇宮内の道も以前と同じなので迷う事は無い。しかも途中から馬車なので間違う事も無い。
唯一の懸念は、道中で他の皇族貴族にバッタリしないかどうかだろう。
貴族は、まだいい。精々出会い頭に嫌味をネチネチと言ってきて殺したくなるだけだろう。問題は、皇族だろう。母マリアンヌは、騎士侯であったが出自は、平民であった。その為に他の皇族や貴族からは、快く思われておらず大変嫌われていた。側から見ても凄い嫌味を常に言われていた。
まぁしかし、そう言った有象無象の者達を一切気にせず凛とした態度で向き合っていた母マリアンヌは、なんだかんだ思う所はあってもカッコ良かった。ルル兄様やナナリーは、そう言った嫌味や嘲笑を気にしていたし、僕自身すごく不快であって顔を顰めることが良くあった。そういう顔をすると「どうしたの?」と薄笑いしながら言ってくる皇族や貴族達を思い出すだけで地獄に叩き落としたくなるが、後々煩わしくなるので悪戯は、程々にするように以前ビスマルクに言われている。アドバイスをくれる母も居らず、話を聞いてくれるルル兄様達も居ない。
その上にオルフェウスとエウリアを嚮団から引き抜く際にV.V.より出された条件を遂行する為に忙しくなるので愚人供の相手をしている暇は、無いのだ。
まぁ実際貴族達は、僕より宮廷政治や暗躍に優れた者ばかりなんだけれども。性格が本当に悪い!
そうこう考えていると『セントダーウィン通り』沿いにあるアリエスの離宮へ到着した。
"セントダーウィン通り"は、皇族の離宮が建ち並ぶ通りであり、元々は皇族の私道であった。現在も皇室の許可無く通行することは出来ない。アリエスの離宮もこの通り沿いに存在している。
アリエスの離宮の正門前を抜け車寄せに馬車が止まり玄関前に降り立つ僕とビスマルクを迎えてくれたのは、ヴァルトシュタイン家の執事とメイド、そしてオルフェウスとエウリア達だった。彼らは、玄関の両端に整列し頭を下げた状態で僕らを迎えてくれる。オルフェウスとエウリアだけは、面白そうに興味深そうにそう言った状況を見ていた。
辺りを見回すと数年間家主がおらず手入れがされていなかったにも関わらず、埃や汚れが全くと言って良いほど見当たらず、玄関から見える庭には雑草などが一切なく草木は確りと手入れされていた。こう言った状態を見ると自分がブリタニアの皇族だという事を嫌という程感じる。
皇宮内では、同じ皇族でも母の身分や位を意識せざるを得なくて自身が同じ皇族であるという事を忘れそうになるが、外では自分もまた皇族で他の人達と違うのだと感じる。地位があり、名誉があり、そして責任がある立場なのだと思い知らされる。と言うよりも勘違いしそうである。自分が選ばれた人間だと。今でも若干これが当たり前だと思えてしまう事に、僅かながらの恐怖とこの世界に馴染めていると言う安堵が心に存在する。
「じゃぁ、これから宜しく–––––––––––」
これからこのアリエスの離宮で過ごすのかと思うと少し楽しみだと思っていたんだけれど、この後すぐにビスマルクの言葉を聞いて絶望した。
「殿下、来週より『ボワルセル士官学校』へ入学して頂きますので、ご準備の程を宜しくお願い致します」
「…え」
「私は、明日もう一度参りますので本日は、ゆっくりとお身体をお休めください」
「ちょっ!?」
ビスマルクが一方的に来週の事を告げるとそそくさとアリエスの離宮を後にした。
「レナ!」
ビスマルクが乗った馬車が車寄せから出立するのを見送る形になった僕は、背後から近付いてくるオルフェウスとエウリアに気付かなかった。エウリアに背後から飛び付かれ身体が前に倒れそうになるのを右足で支えながらエウリアの方へ顔を向ける。
「エウリア!いきなり飛び付かないで!ビックリしたよ!」
「気を抜きすぎよレナ」
「そうだな。レナなら気付けただろう」
オルフェウスは、ギアスの力の事を言っているのだろうが、ここでは執事やメイド達が居るので"ギアス"と言う単語を使わないようにしているようだ。その判断は、正しいと思う。もしギアスの事を言えば、幾ら子供だろうと頭がおかしいと思われかねずこの場所に居るのが難しくなりかねないからだ。
「常日頃から見てる訳じゃないんだよ、オルフェウス兄さん」
「まぁ確かにそうだろうな」
「それにしても以前は、こんな大きな場所に住んでいたの?」
「そうだよ。母様とルル兄様、妹のナナリーと使用人とかと一緒に住んでたんだよ」
「本当に皇族だったのね」
「今も一応皇族だけどね」
二人には、嚮団を抜ける際に僕の出自について説明して一緒に嚮団を出ないかと提案した。最初は、二人とも驚いていたけど勝手に脱出するリスクとここで合法的?に脱出するメリットを説いて一緒に来て欲しいとお願いした。それは、もう凄いお願いした。必死にお願いした。
お願いの甲斐あって二人は、一緒にブリタニア帝国へ来てくれる事になった。
意外にもV.V.が二人を後推してくれた。僕が二人を引き抜くにあたっての条件や本国での僕の扱いについて説明してた。一瞬「コイツ本当にV.V.か!?」ってなったけど、その後凄い殺気をぶつけてきたから本物だと理解した。
説明を聞いた後、二人とも凄い顔で僕の事を見てた。
「どうしてそんな無茶をしたのか」や「一人でやろうとするな」など、もぉ本当にこっぴどく怒られた。正直この世界に転生してから初めて本気で怒られたような気がする。強くてニューゲームな状態の僕は、人に怒られるような事をする事がなく母のマリアンヌも自由にさせてくれたので本当に怒られない。だからだろうか少し本気で怒られた事が少し嬉しかったのは僕が子供に戻ったからかな?
二人が僕を心配して怒ってくれている事が分かっているので嬉しいんだろうね。結局二人には、今後は何かあったら相談する事手伝わせる事などを約束させられた。
人に心配されるのは、嫌じゃないね。
「これからどうする?」
「レナは、来週から士官学校という場所に行く事になるんだろ」
「そうだね」
エウリアとオルフェウスと共にアリエスの離宮の僕の部屋へ向かって歩いている途中で、これからの事を考える。
ビスマルクの話では、僕はボワルセル士官学校へ行く事になる。士官学校ということは、僕は軍人になれと言うことだろう。後援貴族がいない僕にとって自分の力だけで生きていかなければならない。要職に就けるほど力も無い。だからこそ軍人として出世することで要職に就き、他の貴族達に害される事も無くなるだろうと言う考えなんだろう。
僕が実力行使で皇族や貴族を殺さないように離れさす目的もあるのかもしれない。
「まぁ、後援貴族のいない僕が力を持つには、自分の力で出世できる軍の方が都合がいいんじゃない」
「そう言うものなの?」
「嚮団の外の事はレナの方が詳しいだろうから任せるが、何かあればちゃんと言うんだぞ」
「はーい!」
「本当に分かってるのか…」
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それから士官学校へ通い軍事学の社会科学的分野の安全保障学や戦争学、軍事行政学、戦略学、戦術学、統率論、さらに軍事工学、軍事心理学、軍事地理学などを勉強した。正直言ってレレーナ・ヴィ・ブリタニアのポテンシャルが高過ぎて余裕であった。
さすがマリアンヌの息子でルルーシュ兄様の弟だと思った。勉強すればするほどスポンジの様に知識を吸収できた。
おかげで飛び級で二年で士官学校を卒業した。
因みにオルフェウスも同じボワルセル士官学校へ入学し同じ年に卒業しました。オルフェウス本当に有能!
エウリアは、アリエスの離宮の管理と施設管理と経営学、経済学などを離宮で勉強し、片手間で僕の指示に従って株の売り買いをして資産を作ってもらっていた。二年間で結構稼がさせて貰った。
未来を見るギアスを使えば株価を表す折れ線グラフの先を見ることができ、最安値で株を買い最高値に近い所で売り儲けを出すことが出来る。ギアスの無駄遣い?有効利用です。
まぁそうやってそれぞれこの二年間を生活していた。
「レナ!オルフェウス!学校卒業おめでとう!」
「ありがとうエウリア!」
「ありがとう!エウリア姉さん!」
エウリアが僕の誕生日をお祝いしてくれた後に卒業に関してもお祝いしてくれた。オルフェウスは、少し頬を染めて恥ずかしそうであったがからかうと後が怖いのでやめておく。彼の扱い方は、ここ二年間で学習した。嚮団の時よりもお兄ちゃんらしくなった。
ちょっと小っ恥ずかしいけど嬉しいものである。
「二人は、これからどうするの?」
エウリアがこれからの事を僕の分のサラダをお皿に取りながら聞いてきた。
「俺は、明日からビスマルクのもとで騎士としての訓練を受ける事になっている」
オルフェウス、仮にも義理の親を呼び捨てって…。オルフェウス・ヴァルトシュタイン、それが今のオルフェウスの名前である。
初めオイアグロ・ジヴォンという男がオルフェウスをジヴォン家で預かりたいと言ってきたが、ジヴォン家は『メル・ブリタニア』の後援貴族で下手をしたらオルフェウスをメル家に奪われかねないので丁重にお断りした。
確かオイアグロは、オルフェウスの叔父に当たる人だったはずだから、同じジヴォン家の男として捨てられたオルフェウスに思うところがあるんだろう。僕には、関係ないけど。
そのオルフェウスも士官学校を飛び級で卒業したのでビスマルクの直属部隊に勧誘された。オルフェウスは、将来的には僕の選任騎士に就く事を目指してくれているので頑張ってもらいたい。本当にありがとう!オルフェウス!!!
「オルフェウスがレナの騎士になってくれたら私も安心だわ」
「だろ」
「二人は一体僕をなんだと思っているの」
「士官学校の入学式で教官のカツラを吹き飛ばした人が何か?」
「いえ。何でもないです」
確かに入学式でカツラを吹っ飛ばしたのは僕だ。だけどあれは、故意じゃない。貴族の後援を受けている態度のデカい学生がうざったかったので、体育館のステージで証明書を受け取った後に其奴の証明書が入った筒を後ろから突き飛ばし、飛ばした先にカツラの教官がいらっしゃったのだ。
僕の代わりに態度の悪いその学生が教官に怒られ、学生指導室へ引きずられて行った。日頃の態度が悪いから言葉を信じて貰えないんだよ。
「あの時、バルトシュタイン卿が天を仰いでたよ」
「あぁあの全身真っ黒だった不審者」
「父兄席に居たな」
ビスマルク…なんでお前がそこに居る。あと父兄席で「マリアンヌ様。レレーナ殿下は立派に育っておりますぞ」と号泣するんじゃない!おかげで僕の後ろにナイトオブワンが居ると思われて学校生活は、比較的健やかに過ごす事が出来た。それは、感謝してるよ、うん。
「僕の方は「殿下!!!御卒業!おめでとう御座います!!!」…。ジェレミア卿か」
僕が自分の事を話そうとしたらそれを遮る暑くるs熱の籠った声が僕らの部屋に響き渡る。
「このジェレミア!心より!心より!お祝い申し上げます!!!思い返せば殿下がボワルセル士官学校へ入学された日!その日は、その年一番の快晴であり前日の大雨が嘘の様な青空でありました!まさに天気すら殿下を祝福するかの様で!このジェレミア感動のあまり目から大粒の雨が流れてしまう程でした!そして入学式では、不届き者を見事撃退され帝国最強と名高いビスマルク・ヴァルトシュタイン卿すらも感動のあまり涙を流しそうになり天を仰いでおられました!!!」
「…あれって喜んでたのか?」
「どちらかと言うと嘆いてた方かな」
「さらに学校では、常に最優秀な成績を収められ史上初の二年での飛び級を成し遂げられました!!!」
「オルフェウスも一緒にだけどね」
「当然だ」
「二人とも流石よ」
その後もジェレミアの僕へ過大な賛美は続き最終的にオルフェウスによって物理的に止められた。そこで漸く冷静さを取り戻したジェレミアは、自分が許可もなくアリエスの離宮へ立ち入ってしまった事に気付いた。そこで再び僕に対して謝罪の言葉の嵐が起きる。正直長いよ。
「もういいよ、ジェレミア卿」
「しかし殿下!」
「レナがもういいって言っているだろ」
「オルフェウス!貴殿がそんな事を言ってどうする!?貴殿は、いずれ殿下の騎士になろうというのに殿下の警備に関してちゃんと考えんか!」
「問題ない、不審者だったら入った段階で殺している」
「貴殿の様な子供に殺される程このジェレミア・ゴットバルトは、弱くはないぞ」
「どうかな、あんたの様な熱しやすい男など直ぐに制してやるよ」
「何をぉお!!!」
「やるかぁあ!!!」
いつの間にかオルフェウスとジェレミアが二人で喧嘩を始めたので、僕はエウリアと一緒に夕食を続ける。
正直オルフェウスとジェレミアは、結構仲がいいと思う。ああやって会うたびに喧嘩をしているが何だかんだで楽しそうであるし、オルフェウスは年上の同性とああやって絡むのはジェレミアが初めての様だから楽しんでいる節がある。
まぁ実際二人の実力は、手段を選ばずに殺し合いをすればオルフェウスが勝つ可能性がない訳ではない。しかし正面から騎士として戦えばジェレミアが勝つだろう。まだ子供のオルフェウスに負けるほどジェレミアは、弱くない。騎士としては、間違いなく一流である。
「結局レナはどうするの」
エウリアがさっきの続きを聞いてきた。
「僕は明日から機密情報局へ入局する事になったよ」
そう。僕は、士官学校を卒業し明日からブリタニア皇帝直属の諜報機関『機密情報局』へ就職する事になりました。
なんで?
次回
『E.Uへ』
感想、評価して下さった方々ありがとう御座います!
今後とも頑張っていきたいと思いますので応援宜しくお願いします!