皇歴2013年 帝都ペンドラゴン
今僕は、皇帝直属の諜報機関『機密情報局』が入っている庁舎に来ている。
入局式を終えた後に同期となる人達と挨拶を行い、新人研修を受けた。3ヶ月程の新人研修で情報収集技術としてヒューミントとシギントについての研修、エージェントの獲得方法、護身術、KMF操作技術、監視術の研修そして拷問耐久訓練を行なった。
僕って皇族だよね?
皇族が拷問耐久訓練するの?
士官学校やギアス嚮団で拷問耐久訓練をやって来たけど、本当にキツかった。
まぁでも一度やった事のある訓練は、他の人より余裕ではあった。拷問耐久訓練中の指導官が化け物を見る様な顔で僕を見ていたのは大変遺憾である。
確かに嚮団での訓練の方が苛酷だったのは事実だ。特にV.V.がする時は、悲鳴が上がるのは当たり前、途中から心を閉ざしてしまう事が多々あった。その経験が役立ったのは、嬉しい様な悲しい様な…。
そして今日、今後の配属先について辞令が出される。
同期の面々と講堂に集まり正式に行政本部長より言い渡されるのだ。既に僕以外の面々は、新たな配属先が決まり直立不動で整列している。
「レレーナ・ヴィ・ブリタニア殿下!」
「ハイ!」
「貴殿をユーロピア作戦部諜報第1課への配属を命じる!」
「イエス・マイ・ロード!」
「貴官らの健闘を祈る!」
行政本部長から辞令を受けてそれぞれが講堂から出て行く。僕も自身に与えられたデスクに戻った。
そして頭を抱えた。
なんで僕が最前線勤務!?
敵国で諜報任務とか、皇族のする事じゃないだろ!
いや確かにルル兄様やナナリーは、これから戦争ふっかける国に実質人質として送られたのも異常だと思うけど、諜報員として送るのも如何かと思う。これがブリタニアか…。
せめて大使館付きとかにして欲しかった。
ブウウウ、ブウウウとデスクの上に置いていた携帯端末が音を立てて振動した。端末を手に取り開くと、ビスマルク・ヴァルトシュタインと表示されていた。携帯に出ると直ぐに庁舎の正門前に呼び出されて、特務局職員にそのままペンドラゴン皇宮へ連れて行かれた。
連れて行かれた先で皇帝"シャルル"、特務総監"ベアトリス"、ナイトオブワン"ビスマルク"が待っていた。
「レレーナよ、貴様はユーロピアに派遣される事になったそうだな」
「はい」
そりゃあ皇帝直属の機情構成員で皇族の人事なのだ、皇帝に話が伝わるのは当然だろう。シャルルが知っている事は、不思議じゃない。しかしそんな他人事の様に言わんでも…。こっちは結構絶望的状態で困惑しているのに。
「殿下。思う所もありましょうが、殿下が嚮主V.V.との約束で暗殺する対象があと3人残っております」
「そうだね士官学校時代に国内の対象を七人始末したから、後3人だね」
「残りの3名は、外国におりますので軍に所属すると暗殺を遂行するのに何かと不便でしょうからと」
「あぁなるほど、配慮して頂き有難う御座います」
確かにV.V.からオルフェウスとエウリアを引き抜く条件として出された暗殺対象者10人の内7人は、すでに始末したが残りの3人は外国の政治家や軍人なので今の状態では、手を出せないのだ。特に『導師』というE.U.の裏の実力者は、とても手を出せる状況では無い。まず居場所が分からない。
そういう意味では、E.U.での諜報任務は自由時間もあり導師の捜索、暗殺に時間を割けるかも知れない。此方に配慮した人事だったのだ。
「来週からユーロピアに潜入する事になるのだ。速やかに支度をして見事役目を果たしてみよ」
「イエス・ユア・マジェスティ」
全く遺憾ではあるが、此方に配慮して貰った以上此方も全力で任務を全うしなければいけない。
E.U侵攻に役立てる様に頑張りましょう。
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アリエスの離宮
シャルル達との面談を終えて機情の庁舎へいったん戻り荷物をまとめてアリエスの離宮へ帰ると、オルフェウスとエウリアが食事の準備をしながら待ってくれていた。
そこで来週からE.Uへの諜報活動をしに行く事を伝えた。二人とも驚いていた。僕も驚いたよ。
「しかし皇族が敵国で諜報活動とか正気とは思えないな。レナ、お前本当に皇族か?」
「皇族の筈なんだけどねぇ」
「オルフェウスも一緒について行ってあげられないの?」
「下っ端の諜報員にお付きが付いてたらおかしいでしょ」
「何かあったらどうする。やっぱり俺も」
「大丈夫だよ。いざとなればギアスもあるし」
僕のギアス全知全能をもってすれば諜報任務は、問題なく遂行できるだろう。
問題は、導師の暗殺任務の方だ。
導師は、"双貌のオズ"においてオルフェウスが暗殺ミッションを受けたターゲットである。E.Uの影の支配者として長く君臨しE.Uの政財界の上層部から絶大な信頼を得ている人物であり、ギアスの事を知っている謎の人物でもある。占星術師を名乗り盲目でありながら相手の運命や本質を見抜くことができる。オルフェウスがギアスを使い他者へ変身しているにも関わらず、その正体を看破しオルフェウスを捕らえ拷問を行なった事や未来が分かっている様な事を言っている事からギアス嚮団の関係者である可能性が高い。
機情ですら正確な情報が入手出来ない謎の人物である。そんな彼の暗殺を行わなければならないとは、ほとほと困ったものである。
「レレーナ殿下!ユーロピアに赴任されると言うのは、本当でありますか!?」
また熱い男が来た。
「ジェレミア卿、また勝手に…」
「ジェレミア!入る時は、ちゃんと確認しろと言っているだろ!」
僕は、ジェレミアの登場に眉間を抑える。
オルフェウスは、いつもの様にジェレミアに注意を行なっているがジェレミアには、響かない。
「殿下!お一人で敵国に潜入など危のうございます!このジェレミアがご一緒致します!」
「あっ結構です」
「イエス・ユア…、何故ですか!?」
荒ぶってるなぁジェレミア。でもさっきも言ったが下っ端の諜報員にお供がいたらおかしいだろ。
「俺もさっきから同行すると言っているんだが、許可してくれないんだ」
「何を言っているオルフェウス!それを説得するのが貴殿の役目であろう!!!」
「分かってる!だからさっきからレナを説得しているんだ!邪魔をするな!」
「何をぉお!ならば何方が殿下に同行するか今ここで決めようではないか!!」
「いいだろう!俺が貴様を倒してレナの護衛をする!!!」
またまた始まったオルフェウスとジェレミアの真剣勝負。「私の為に争うのはやめて」と言わなければならないかな?
柄じゃ無いね。何方かと言うと「争え、勝った方を大事にする」かな…違うな。
「また始まったね」
「オルフェウスもジェレミアもなんだかんでお互いの事を認めてるんだろうね。いつも楽しそうだ」
「本当にね」
「まぁ、どっちが勝っても連れて行けないけどね」
「どうして?」
「向こうに行ったらまた大学にでも行こうと思う。そこで中央に近づけそうな子供を使って政治家や官僚に接近しようと思ってね」
「二人がいると出来ないの?」
「オルフェウスはともかく、ジェレミアはスパイを疑われるだろうね」
常識的に考えて子供と大人だと子供の方が疑われ難い。確かにオルフェウスを連れて行ってもいいんだが、彼を連れて行くとエウリアが本国で一人になってしまう。他の皇族や貴族達がどう動くかわからない上に、V.V.が本当に何もしてこないのか分からない。
だからこそオルフェウスには、本国に残ってもらいエウリアとアリエスの離宮を守ってもらいたい。
その事をエウリアに伝える。
「なるほど、つまり私が心配なのね」
「そりゃねぇ。オルフェウスとエウリアには、出来れば幸せになって欲しいからね」
「ふふ。ならこうしましょう」
「?」
エウリアが何か思いついた様に嬉しそうに笑う。
「オルフェウス!ジェレミア卿!ちょっと来て!」
エウリアが二人に声を掛けると二人が武器を納めて此方に戻ってくる。二人は、エウリアが何か嬉しそうにしているのを見て僕同様に首を傾げる。
「どうかしたのかエウリア?」
「どうしたのだ?」
「あのねレナは、私が心配でオルフェウスを連れて行けないらしいの。だからオルフェウス以外の人に私を守ってもらってオルフェウスにレナを守ってもらうのは、どうかな」
「エウリアが心配?」
「エウリア嬢は、しっかりとしておられると思いますが?」
二人は、どう言うことなのかと聞いてくるので先ほどエウリアに伝えた事を伝えた。勿論ジェレミアが居るので、V.V.の事は隠したが、それでも皇宮内での僕の立場を言えば二人も他の皇族や貴族がエウリアを害そうとする可能性がないとは言えない事に気付く。
「確かにエウリア嬢が一人で残るのは、危ないやも知れませんな」
ジェレミアは、自分がレレーナの赴任先を知った理由を3人に伝える。
ジェレミアは、皇宮内で他の皇族貴族達がレレーナがE.Uへ赴任するのは実兄のルルーシュやナナリーと同じで人質的役割であり皇帝の勘気に触れたのだと言われていたのだ。そのため居ても立っても居られずジェレミアは、アリエスの離宮へ赴いたのである。
「言い触らしているのは、ギネヴィア姉様かカリーヌ辺りだろう。ヴィ家の事がとことん嫌いのようだからね」
「でも如何してそんな事を…」
「士官学校を飛び級主席で合格した事と機情への入局で殿下の評価は上がっております。その上ナイトオブワンのヴァルトシュタイン卿が、殿下の後見をしております。そのため一部貴族の中で、殿下を支持しようと言う声が出てきております」
「具体的には」
「ゴットバルト家」
「…」
「まぁ、分かってはいた」
「他!」
「元貴族でありますが、ヴィ家の元後援貴族の"アッシュフォード家”」
「ルーベンか」
ルーベン・アッシュフォード。母マリアンヌの後援貴族であり爵位を没収された後もそれ相応の力を持っている爺さんである。現在は、先の『アリエスの悲劇』で警備上の責任を負い当主の座を息子に譲り、隠居をしてエリア11でアッシュフォード学園の理事長に収まっている。しかし隠居をして尚強い力を持っており、アッシュフォード家の動向には確実にルーベンが関与していると思われる。
ルーベンが僕を支持する…。アリエスの悲劇で被った汚名を返上する為かな。それともルルーシュ兄様の為?善意は無いだろうな。
考えても分からない。
「…他には?」
「後は、軍部に居るマリアンヌ様を支持していた者達かと」
「…最前線勤務で皇族や貴族の邪魔が入れば僕達の命が危ないんだけどね」
皇帝直属の機密情報局とはいえ、皇族や大貴族と繋がりのない者が居ないとは限らない。敵国に居る諜報員ならば敵国に情報を流すだけで自分の手を汚さずに始末出来る。僕の様な後ろ盾のない皇族なら外交交渉にもならないだろう。敵国で一生刑務所かなぁ、無理だな。
「申し訳ありません。軽率な行為でした」
ジェレミアが殊勝に頭を下げて謝罪を口にする。それを見たオルフェウスが「全くだ」と言ってジェレミアをジト目で見る。それに気づきジェレミアは、「くっ」と声を漏らす。
「まぁいいよ。僕は、ジェレミア卿を信頼しているから」
僕がそう言うと「おぉ!殿下!なんと寛大な!!!」とジェレミアが仰々しく応えマシンガン讃美を行おうとする。するとエウリアが手を叩きながらその流れをぶった斬る。
「ハイハイ、そう言うのいいからこれからの事言うわよ!」
「イ、イエス・マイ・ロード!」
「なんかエウリア、肝っ玉母ちゃんみたい」
「何か?」
「何でもないです」
迫力凄いよ、エウリア。
「ゴホン。それでどうするんだエウリア?」
オルフェウスが咳払いをし、話題を元に戻す。
エウリアを、ブリタニア帝国で一人にするのは危ないから、オルフェウスは連れて行けないとするレレーナを、説得する妙案をエウリアが提案する。
「簡単よ。まずレナがユーロピアに行くまでの間にレナの味方になる人を見つけるの」
「味方?」
「それならばこのジェレミアが!」
「ジェレミア卿は、配属先があるでしょ」
そう、ジェレミアがよくアリエスの離宮を訪れているので勘違いしそうであるが、彼は既に24歳で軍に所属しているので本人が言うほどレレーナやエウリアを守ると言うことは、難しい。それを指摘され「そうでした」とガックリと膝をつく。
「それでレナには、準備期間の一週間でレナの信用できる味方を作ってもらうわ」
「一週間で信用できる人は、出来ないよエウリア」
「その方法は、後で考えるとしてレナが新しく作った味方に私を守ってもらいオルフェウスには、レナを守ってもらう。どう?」
エウリアさん、それギアス使って味方作れってことですね。ジェレミアが居るから具体的に言わないだろうけど、ギアスかぁ。
余り使いすぎてシャルルやビスマルクを刺激したくないけど、仕方ないかなぁ。
「オルフェウス、どう思う?」
「やり方次第だろ」
「そうだね…。ふぅ、エウリアの案を採用して、味方でも作るかな」
ギアスを使えば確実だしね。さて、そうと決まれば誰を味方に引き入れるか…。
「…殿下、味方に引き入れる者、このジェレミアにお任せ頂けませんか」
「ジェレミア卿に?」
「ハイ」
ジェレミアが神妙な表情で此方を見ている。先ほどの事を気にしているのかとも思ったが、ジェレミアは、原作でも此処でもその忠誠心を疑うまでもない。皇族と祖国に絶対の忠誠を誓うこの男が、皇族である僕の不利になる人物を推薦する事はないだろう。いざとなればギアスを使えば完璧だ。
「いいだろう。任せるよジェレミア卿」
「イエス・ユア・ハイネス!」
さてさて誰を推薦してくるかな…。
でもジェレミア、本当によくヴィ家の人間に協力しようと思うね。他の皇族・貴族達に目を付けられかねないのに…。
その忠誠心は、賞賛に値するよ。
僕だったらまず出来ないと思う。小心者だし。
僕の新しい味方は、ジェレミアに任せて僕は、E.U.へ行く準備でもしよっと。
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皇歴2013年 / 革命暦224年 E.U. ルクセンブルク州 ルクセンブルク市
僕が、ブリタニア本国を離れて1ヶ月がたった。機情の潜入先として選んだのは、ルクセンブルク州だ。
ルクセンブルクは、南にフランス、西と北にベルギー、東にドイツが存在している。その為ルクセンブルクでは、英語やフランス語、ドイツ語といったE.U.の主要言語が全て通じる場所であり、さらに州策として金融と情報通信分野が産業振興を図っているので、E.U.における放送メディア産業の中核を担う場所となっている。
E.U.の情報を収集するなら国際金融センターとメディア等を抑えるのが妥当だろうとオルフェウスと共にこの場所に拠点を置いた。
「レナ。拠点も戸籍も作ったが、これからどうする」
オルフェウスが今後どうするかを尋ねてきた。
E.U.へ潜入してから真っ先にしたのが戸籍を作る事である。しかし情報化社会において、ハッキングによる偽造は簡単であるがリスクがある。その為アンダーグラウンドで闇取引されているモノを購入して戸籍を確保した。
電子通貨が一般的になっているE.U.では、偽札等が使用出来ないので他人のIDを拝借して支払った。拝借した人ごめんね。
その後E.U.市民としてルクセンブルク市の郊外に一軒家を購入して拠点にした。更に念の為に複数のアパートや平家を別名義で購入しといた。
「まずは、E.U.の機密情報を探る為に何処を攻めるかだけど…」
「俺たちで探るのは、時間と労力を使う割には成果が期待出来ないだろ」
「そうだね。だからこそ調査をするのは、他の人に任せよう」
「他?」
「そう。ジャーナリストと言う民主主義の代弁者なる人たちにね」
「だがどうやって調べさせるんだ?」
「まずは小さい出版会社を手に入れよう。後は、適当に煽れば火がつくだろう」
「…なんか本当に適当だな」
そんな事言ったってねぇ。複数のモニターを使いながらPCで株式の売買を行ってお金を稼ぎながら思いつく事なんてたかが知れてるよ。
「政治家に近づけば機密情報がある場所の情報なんかも手に入るだろうからね」
「40人委員会だったか、E.U.の政治の意思決定機関は」
「そう、もうじき委員の半分が任期満了で入れ替わる。それに一枚噛もうかなと」
選挙があると言う事は、委員にとってお金が必要。さらにライバルの醜聞は欲しいだろう。選挙で負ければ無職になる。今後の生活の為にも委員として豪勢な生活の為にも、みんな必死だ。彼らにとっては、人生の岐路といっても良いだろう。間違いなく利用できる存在だ。
「オルフェウスは、これから買収する出版会社に記者として入って貰って委員の醜聞を探してくれる?」
「脅しの材料だな」
「交渉のカードだよ」
脅しだなんて物騒なこと言わないでよ。僕が悪い人みたいじゃないか。
「似たような物だろ」
「うぅぅ」
だって導師が何処にいるか分からない以上知っている人に聞かなきゃダメでしょ。政治家なら政財界の情報も知っているだろう。
早く導師達を暗殺しなきゃV.V.がどう動くか不安だ。
「ふっ。それでレナは、どうするんだ」
「ここに行くよ」
僕がオルフェウスに見せたのは、ある大学のパンフレット。
E.U.では、上位に入る大学で原作ではインド人の天才少女"ネーハ・シャンカール"が卒業したのもこの大学である。
「E.U.総合工科大学?」
「うん!」
E.U.で確りと地盤を作って諜報活動をして行こう。五体満足で生き残る為に慎重に確実にしなければね。
その為には、たとえ子供であったとしても子を想う親だとしても利用させて貰おう。
次回
『諜報活動始めました』
感想、評価、誤字報告して下さった方々有難う御座います!
思った以上に誤字が多くて驚きました。申し訳ありません。
今後は、出来るだけ無くすように努力いたします。