ハリー・ポッターと透明の探求者   作:四季春茶

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 運命なるモノは、理論上の確率を超越した一種の芸術品(アート)である。

 これが仮想の創作物(フィクション)であれば、全ては理路整然とした確率の上に収束し、伏線と理論が織り成す物語という形に仕上がるのだが。
 例えそれがどれだけ奇抜な舞台で、不思議な配役で、混沌とした設定であったとしても、最初から最後まで一貫とした筋書き(シナリオ)として成立するものであり、そうでなければならない。
 もし仮にその法則が崩れてしまおうものなら、読者は、観客は、斯くしてこう怒り出すに違いない。

「こんなものは陳腐なご都合主義でしかない」と。

 しかしながら、現実というものは往々にして小説よりも奇なり。理屈では説明出来ないレベルの、それは彼らの言う「ご都合主義」さえ裸足で逃げ出す程の偶然と奇跡とミラクルの果てに生み出された芸術的産物こそが、人生の岐路となり得るものなのである。

── 筆者不明のとある手記より、一部抜粋



プロローグ

「色無き探求者によって、本来生まれ得ぬ新たな運命の天秤が作られる。探求者の手を引くは、まつろわぬ傍観者。導かれるがまま、眠れる守護者と邂逅を果たすだろう。しかしその均衡は一時の黄昏の安寧に過ぎぬ。探求者の心は薬と毒の紙一重。正しく導けば救済の暁光へ、誤れば破滅の宵闇へ。数多の因果を巻き込みながらも、いずれは一方へと見えざる天秤は傾くであろう」

 

 

 闇の帝王に打ち勝つ「運命の子供」の予言を終えてもなお紡がれる言葉。これもまた紛れもない予言だ。

 しかし、最初の具体的な予言に比べると余りにも抽象的で、曖昧な内容であった。故に盗み聞きしていた者は当然この部分を聞いてすらいないし、真っ正面から聞いていた者もその時はまだ軽く心に留める程度だった。

 

 そう、流石に誰一人として予想していなかったのである。まさか違う内容の予言の主役達が、実は双子の姉弟であるという事を。

 

 

 本来ならば、その姉弟は普通の双子のはずだった。

 

 二卵性双生児ならばありがちな、容姿の似ていない双子。けれども、同じ色の黒髪と瓜二つな緑色の瞳は、確かに血の繋がりを主張していた。双子で誕生日が二日違いなのは少々珍しいかもしれないが、取り立てて騒ぐ様なものでも無い。──本来ならば。

 

「7月末に闇の帝王に打ち勝つ子供が産まれる」という傍迷惑極まりない予言に該当してしまったが為に、身を隠すだのどうのと本人達の預かり知らぬ所で話が急速に動き出していた。7月31日生まれの弟は確実に該当するとして、二日早い7月29日生まれの姉はどうなのかという話にもなり、ますます大騒ぎだった。

 不死鳥の騎士団を率いるアルバス・ダンブルドアは当初、間違いなく予言の内容に合致している弟を「予言の子」として騎士団で重点的に保護し、彼よりは些か予言から遠い姉は安全な親族の家に疎開させるべきだと考えていた。ただでさえ予言に合致している子がポッター家のみならずロングボトム家にもいるのだ。安全の為というのも勿論嘘ではないが、動きが制限されてしまう騎士団員を極力減らしたい、闇の帝王を倒し得る子供をまず確実に護る為に候補を絞りたいというのも、隠し様の無い本音であった。

 しかしながら、そんなダンブルドアの思惑を知ってか知らずか、その案に対して真っ向からに反発し、猛反対した者達がいた。二人の両親、ジェームズ・ポッターとリリー・ポッターである。当然だ。どこに居たって危険が付きまとうご時世に、何を根拠に親戚の家なら安全だと言えるのか。そもそも仮に親戚の家が安全だとして、何も身を護る術を持たない、まだ1歳にも満たない小さな我が子をたった一人だけ家族の元から引き離すなんて、親として考えられない。ポッター夫妻のみならず、彼らの学生時代からの親友達も一様に口を揃えて姉弟を一緒に護るべきだと主張した。

 

 結局、大議論を繰り広げて揉めに揉め、漸く至った結論は「二人とも同じ様に厳重に警戒して保護するが、その為に秘密の守人を立てて一家で隠れる」というものだった。秘密の守人はジェームズの一番の親友であるシリウス・ブラックが二つ返事で引き受けた。

 現在進行形で予言に振り回されているポッター家の姉弟──姉のシャーロットと弟のハリーは、かくして両親と共にゴドリックの谷に隠れ住みながら秘匿される事となったのである。

 

 

 二人ともそれぞれ1歳の誕生日を無事に迎えた数日後、シリウスがポッター邸へ訪れていた。

 とにかく子供達が可愛いくて仕方ないシリウスは、せっかく整った容姿が形無しになる位に笑み崩れながら、親友夫妻そっちのけで小さな姉弟と遊んでいた。途中で黒犬に変身してご満悦な様子のハリーを背中に乗せて爆走しつつ、どことなく眠そうなシャーロットを構い倒していると、途中からジェームズも乱入して一緒になって大騒ぎし始めた。結果、堪忍袋の緒が切れたリリーから特大の雷が大人二名に叩き落とされる事となる。全て毎度繰り広げられるお決まりの流れだ。

 さて、多少の落ち着きを取り戻したリビングでは、相変わらず元気いっぱいのハリーがおもちゃの箒を乗り回し、一連の騒ぎで眠気が飛んだらしいシャーロットは小さなトイピアノで適当なメロディを奏でている。基本的に何事にも興味津々で人懐っこいハリーと比べると、シャーロットは一人黙々と遊ぶ事が多く、興味の有無もハッキリと分かれているように見える。我関せずに好きな事を一人で熱中するシャーロットの様子に、大人達は誰に似たのか首を傾げつつ、それも個性であり、シャーロットは独特な感性の持ち主なのだろうと結論付けている。

 おもちゃには全く興味を示さないシャーロットが楽器や音楽には反応していたのを見て、ジェームズはもしかしたらシャーロットは芸術家としての素養があるかもしれないと興奮気味に騒いでいた。ちなみに箒を乗り回すハリーには将来のクィディッチ選手に違いないと自慢していたので、つまるところ彼は親馬鹿なのだ。そんなジェームズに同意しつつ、シリウスは誰に言うでもなく呟いた。

 

「それにしても、シャーロットは誰に一番似てるんだろうな」

 

「そうね。確かにハリーは一目瞭然だけど、シャーロットは親の特徴が見事に分散しているわね」

 

「髪の色と輪郭は僕、髪質と瞳はリリーだね。他の親戚からも色々と受け継いでいる様な気もするけど」

 

「なんとなく楽器を弾いてる時の雰囲気はユーフェミア小母さんに近いかもな」

 

「母さんかぁ……確かに母さんも昔からピアノが好きだったから、案外シャーロットは似てるかもしれない」

 

「ふふ、皆の良いところを貰えたのね。勿論、シャーロットだけじゃなくてハリーもね。……でもハリーはちょっとジェームズの要素が濃すぎて心配だわ」

 

「リリー!?何が心配なんだい!?」

 

 どんな時代でも子供の将来を想像するのは親の特権。早くも学校に入学したらこうなるに違いない、こんな才能を開花させるはずだと、嬉々としながら親馬鹿トークを彼らは繰り広げる。

 しかし、そんな楽しい話ばかりしていられないのも現実だった。一頻り子供達の話をした後、真面目な表情を浮かべた。

 

「ところでジェームズ、秘密の守人の件なんだが──」

 

 

 才能というものは、いつ、どのタイミングで開花するのか分からないものである。たゆまぬ努力の果てに目覚める事もあれば、生まれながらの体質である事もある。

 シャーロットが特殊な能力を持っているかもしれないと最初に気が付いたのはリリーだった。いつもの如く、ふと興味を示したオルゴールの方へ行こうとしたらしいシャーロットの姿が突如霧のように揺らいだかと思ったら、光の軌跡らしきものと共に消え、少し離れた位置に現れてみせたのだ。

 最初は幼児にありがちな魔力発現の一つだと思っていたが、どうもそんな単純なものではなさそうだった。姿現しや目眩まし術とも違い、静かに空気に溶け込んで透明になり、次に姿を見せるまで存在ごと消えたようになっているのだ。心配したリリーはジェームズに相談して、二人で情報を共有する事にした。シャーロットが消える瞬間を実際に目の当たりにしたジェームズは一つの仮説を引っ張り出した。

 

「もしかしたらシャーロットは透明人間(インビジブル)なのかもしれない」

 

透明人間(インビジブル)?」

 

「七変化や生来の開心術士みたいな生まれつきの能力の一つだよ。何かで聞いた事がある。呪文無しで姿と気配を一時的に消せるという、文字通り透明人間になれる体質だったはずだ。実例はほぼ無いに等しい位少なくて、正直僕も眉唾物だと思っていたけど……」

 

「シャーロットの能力の事は騎士団にも報告するべきかしら」

 

「いや、まだ止めておこう。透明人間(インビジブル)は未だ解明されていない部分が多い体質だし、余りにも隠密行動に適し過ぎるから敵味方関係なく利用される危険だってある。下手に知られると危ない」

 

「……そうね。それにシャーロットが透明人間(インビジブル)だとしたら、双子のハリーも同じ体質の可能性もあるわよね?」

 

「ああ。その辺りもしっかりと見極めておかないといけないね」

 

 幸いにも透明人間(インビジブル)の体質を持っていたのはシャーロットだけだった。最初は未知の体質を発現させた娘が心配で仕方ない様子だった二人も、一ヶ月もしないうちに慣れて受け入れていた。ジェームズに至っては、ある程度状況が落ち着き次第、まずは親友達に娘の素敵な能力をお披露目して驚かせてやろうと画策していたのだった。──もっとも、その目論見が叶う事はついぞ無かったが。

 

 

1981年10月31日

 

 様々な思惑と事情が水面下で動いていたものの、少なくとも表向きは不穏さなど全く感じさせないまま、それどころかちょっとした平和すら錯覚させながら過ぎていた。

 そんなこんなで迎えたハロウィンも、以前のように派手なパーティーこそ出来なかったが、家族四人でささやかながら一家団欒の時間を楽しんでいた。

 

 けれども、幸せは唐突に終わりを告げる。

 

「リリー!二人を連れて逃げろ!あいつだ!行くんだ、早く!僕が食い止める──」

 

 招かれざる客に、ジェームズは叫ぶ。リリーは真っ青になりながらハリーとシャーロットを連れて二階の子供部屋へと逃げ込んで、不思議そうな様子の二人をベビーベッドに置いた。下から聞こえてくる物音に状況を察し、逃げ場も失ったリリーが悲鳴を上げたが、嘆く猶予は無い。ほんの僅かな、気休めにもならない程度の時間稼ぎにしかならないのは重々知りつつ、それでも我が子達だけでも守る為に必死にドアにバリケードを積み上げていた時だった。

 

 バチンという音が部屋に響いた。

 

「──っ!?シャーロット!?シャーロットはどこ!?」

 

 突然後ろから魔力が膨れ上がって暴発したかと思った瞬間、姿くらまし特有の破裂音が聞こえた。リリーが慌てて振り返ると、ベビーベッドにはハリーしかいなかった。シャーロットが透明人間(インビジブル)で消えたのではないと直感で分かった。けれども理性が否定する。そんな馬鹿な、この家は姿くらましを封じていたはずだと。

 慌ててベビーベッドへ駆け寄ろうとしたリリーだったが、ドアがバリケードごと吹き飛ばされた事で妨げられた。そして──

 

 

 

 闇の帝王が倒され、ハリー・ポッターただ一人が生き残った。

 

 暗黒の日々に終わりを告げた英雄の出現に魔法界の世間の人々は浮かれ、大騒ぎした。両親を殺害し、小さな姉を遺体すら残さず消し去った残虐な帝王を、生き残った男の子が打ち破った。誰もがその顛末こそ全てだと考えていた。

 

 だから、誰も知らない。

 

 消えたシャーロット・ポッターは、本当は()()()()()()()()()()()()()()という事を、彼らは誰も知らない。

 

 

1981年11月2日

 

 一度あることは二度あるとは、よく言ったものである。だが、流石にこの光景を見つけた時、その男は思わず表情を険しくさせた。

 無造作に転がりながら泣いている赤ん坊。果たして誰が考えるだろうか。よもや自宅──それも門や玄関の前ではなく倉庫内、つまるところ完全なる他人の敷地内に赤ん坊が捨てられているだなんて。ありえない。最低限の常識と良心を持っている人間ならば、こんな事をする筈が無い。

 当然ながら、彼も真っ青になって彼女を抱き上げて救助する。

 

(何時からここに置かれていた!?)

 

 その赤ん坊にとって不幸だったのは、倉庫の中という居住スペースから微妙に離れ、人目に付きにくい場所に放置されている状態だったがゆえ、発見されるまで時間が掛かってしまった事だ。だが、同時に幸運でもあった。 彼女が置かれていた、というよりも転がっていた場所は、倉庫とはいえ室内。雨風が凌げる上にそこそこ保温性のある場所だったからこそ、丸一日以上も放置された状態でもそれなりの小康状態を保っていられたのは間違いない。

 何より、この家の主の本業は医者だ。そして、彼は救うべき患者に対してはどこまでも善人であった。

 故に、まずは深い事情を考えるよりも先に哀れな赤ん坊を保護して手当てをするべく、診療室の方へ大急ぎで舞い戻ったのだ。

 

 彼はこの赤ん坊が自宅の倉庫に置かれるに至った経緯も、出自も、一切合切を何も知らない。ただ、今までの経験から感じていた。この子も()()()()()相当の訳ありなんだろうな、と。そしてほぼ間違いなく家の住人が増える事になるだろう、とも。

 彼は理屈では説明出来ない勘が侮れないものである事を嫌というほど身を以て知っていた。

 

(これはもしかしなくても、()()()()()()の可能性が高いのかな。だとしたら、早急に記憶を確認した上で戸籍を作るべきか否かを判断しなくてはならないのだけど。さてどうしたものか……)




初めまして。四季春茶でございます。
ハリポタ熱が再燃して初の二次創作に飛び込んでみました。
ハーメルンの機能をまだ理解しきれていないのと、執筆速度にかなり波がある可能性が高いため、お見苦しい所も多々あると思われますが楽しんで頂けると幸いです。

ステルス能力を持った主人公ですが、隠密とは程遠いタイプになるかと思われます。ここから上手く原作に絡めていけるように頑張っていきますので、何卒よろしくお願いいたします!


【オリジナル設定】

透明人間(インビジブル)
ステルス能力。七変化と同様に生来の特殊能力の一つ。
かなり珍しい能力のため、よく分かっていない事が圧倒的に多い。
目眩まし術との大きな違いは、気配もろとも存在を消せる事。
消え方は霧だったり蜃気楼だったりと個人差はあれど、目撃される特徴は軒並み「空気に溶け込むように」消えるらしい。

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