ハリー・ポッターと透明の探求者   作:四季春茶

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魔法薬と甘味料

「同じノリス同士、仲良くしましょう?」

 

 軽く伸ばした手を、目の前の御仁(?)はふてぶてしく尻尾で打ち払う。今日もまた、友好を求めた私の挨拶はすげなくお断りされてしまったようだ。でもまぁ、尻尾もフカフカだから問題ない。

 

「メグ、何してるの?」

 

「今日こそモフらせて頂こうかと思いまして」

 

「……ミセス・ノリス相手に何やってんのよ?」

 

「偶然同じノリスだったのも何かのご縁、それに『猫と和解せよ』って言いますし。何よりモフりたい」

 

「言わないわよ!というか、最後のが本音よね絶対……」

 

 寒くなってくると暖かさを求めたくなるのも人の性というもの。もふもふしていれば尚良し。何はともあれ、ここ数ヶ月間の私の学校生活は概ね平和である。

 

 ハロウィン以降は特別何か事件に巻き込まれる事もなく、学生の本業たる勉強に励みつつ、魔法薬学の講習で大鍋をかき混ぜながら新薬に挑んでみたり、親しくなった人達と交流を深めたりと、正しい意味で学校を満喫していた。

 11月2日の誕生日では、アミー達がパドマやテリーといった他の一年生を巻き込んで、大鍋キャロットケーキ(魔法ギミック付き)を用意して祝ってくれた。敢えて入れ物に魔法薬っぽい大鍋をチョイスする辺り、流石だと思う。ちなみに、その様子を笑って見ていた先輩方は、今年のレイブンクローの新入生達はかなり仲の良い学年だと感心していた。

 今までの誕生日はドクターとレイに、クラスメートやブラスバンドで特に仲の良かった子が数人祝ってくれる形だったから、盛大なお祝いに嬉しいやら照れくさいやら、とても新鮮な気分だ。

 

 人間関係はほとんどが寮内で完結している感じも否めないが、なんだかんだで個人主義の強いレイブンクローゆえ、四六時中みんな一緒という訳ではない。一人で自由気儘に過ごす事もあれば、合同授業の多い関係で結構打ち解けてきたハッフルパフの女の子達と雑談に興じてみたりしている。何気に個々で勉強会やランチ、お茶会という様な授業以外での繋がりも継続している。

 ちなみに勉強会はハーマイオニー、ランチはレイとネビル、そしてお茶会はセオドールという組み合わせだったりする。

 

 寮云々はともかく、どう見ても一匹狼気質な彼が薬草学のよしみとはいえど、授業やレポート絡みでも無い交流を続けるのは流石に意外だったが、彼が弾き出した理論を聞いて納得した。曰く──

 

 

「利害の一致とでも思っていれば良い。俺からすれば、スリザリンでも『あのスネイプ先生がお気に召した』と噂のレイブンクロー生と接点があれば、学業で大きなアドバンテージが得られる可能性が上がる。逆にアンタは、俺……というよりはノット家の人間と接点があると思わせておけば、少なくともスリザリンの奴からは余計な口出しをされない。アンタだって先生に媚を売っていると言われたり、家柄や出自をいちいち聞かれるのは煩わしいだろ?これでも、ノット家の名前は寮内ならそれなりに強い切り札になるんだぜ」

 

 

 ──とのこと。なかなかにセオドールは打算的で、計算高い考えをする思考の持ち主らしい。私個人としては嫌いじゃない。寧ろ、下手に善意全開な割りに何を考えているのか分からないタイプよりも、ある意味潔くて素直に好感を持てる。

 それを伝えたら、皮肉気な笑顔と共に「スリザリンの謳い文句通りだろ?」と返された。うん、そういうの嫌いじゃない。

 

 実際、私としても家柄云々以外にも助かる部分が多い。未だに魔法界に疎い私にとって、常識や慣習、情報の貴重なソースとなるのはかなり大きい。しかも、最初に薬草学のペアになる流れを同寮生が知っているおかげで、スリザリン以外から関係を問われた場合も「レポートの打ち合わせ」と言い切れるのだから抜かり無い。

 

 

 そうそう。11月になるとクィディッチのシーズンが始まるとか何とかで、各寮で盛り上がっている。

 

 その記念すべき最初の対戦カードは、グリフィンドールとスリザリン。噂のポッター少年のデビュー戦という事で、レイブンクローでもかなり注目されていた。聞いたところによると、箒が暴走してコントロール不能に陥るトラブルが起きたものの、凄い才能を見せて劇的な勝利を納めたらしい。実際、彼の抜擢に不満を持っていた人達の一部は、実力を直接見て評価を改めたそうな。

 

 ……何故に他人事なのか?だって事実他人事だもの。自分の寮でも無し、そこまでスポーツ好きでも無し、ついでにクィディッチのルールすら良く分かっていないという無い無い尽くしの私が、果たして競技場まで行く意味とは?

 いや、言い訳すると、ポッター少年ならハロウィンの一件で助けて貰った恩もあるから、少なくともデビュー戦の応援には行こうかなと思っていた。いたのだが、透明人間(インビジブル)関係で思考の海に沈んでいたのと、場所を問わずに繰り広げられていたグリフィンドールとスリザリンの罵倒の応報に、試合前から辟易していたのもあって見送ったのだ。ブーイング合戦なぞ聴覚狂うし、聞きたくもない。

 

 なお、決して面倒だったとかではない。

 

 

 突然だが、大抵の魔法薬はとても苦い。

 

 向こうの医薬品に比べると、魔法薬はとにかく味覚的なダメージが大きい。しかもほとんどが液体で、性質上迂闊に砂糖を加えると薬効が変わってしまうのだから、どうしようも無い。

 せめて医薬品と同じ様に賦形剤の糖分やデンプンでコーティングするなり、服薬ゼリーに混ぜ込むなり出来れば良いのだが。残念ながらそんなに甘くは無いらしい。

 

「──魔法薬と砂糖は非常に相性が悪い。どのような反応が起きているのか、説明したまえ」

 

「はい。砂糖は元を正せば魔法薬の材料と同じく動植物由来に行き着く為、調合した薬と物質的反応を起こす。そしてその結果、全くの別物になってしまう。……この解釈で合っていますか?」

 

「まぁ、大方その解釈で良いだろう」

 

 私の回答に頷いた先生は、眉間の皺を深くさせながら今日の実験に使う材料や器具を並べ始める。その間に恨みがましく呟かれた言葉を聞いて、内心でスネイプ先生に同情した。

 

「誰もがその理屈を正しく理解してくれるのならば、我輩もどれだけ安心して薬を調合出来る事か。砂糖を入れるなと言っているにも関わらず、勝手に入れ、勝手に薬を駄目にし、再調合してくれと泣き付かれる。……調合の才能よりも、材料と労力を悉く無に帰す才能に秀でている生徒の方が多いとは、なんと嘆かわしい」

 

(相当の薬を砂糖で駄目にされたんですね、先生……)

 

「故に、今日は趣向を変えて薬効を損ねない割り材を作れるか否かをテーマにする。……例年我慢してきたが、今年は特に酷い。まだ学期が始まってから半年もたっとらんのに、風邪薬の再調合回数は増える一方だ。我慢ならん!」

 

 割りと本気でお怒りモードに突入している先生に、私は懸命にも余計な事を言わずに苦笑を浮かべるに留めた。正直、スネイプ先生は薬効の改良には熱意を入れども、薬の飲みやすさには拘らないと思っていたから意外な気もしないでもない。でもまぁ、せっかく調合した薬を散々駄目にされまくったら、そりゃ怒りたくもなる。

 

「目標は砂糖として反応を起こさず、尚且つ他の物質と混ざっても毒物を生成しない割り材だ。液体が一番望ましいが、服薬を阻害しないのであれば他の形態でも構わない。……さて、ミス・ノリス。その為にある果実を用意したのだが、これの名前と特性は?」

 

 指し示されたバスケットの中には、薬瓶に似た形の薄緑色の果物が入れられていた。実物で見るのは初めての果物だ。

 

「これは……エトワールアンプルでしょうか。オーロラシュガーという別名を持つ魔法植物で、砂糖と反応すると発光してジャム状に変化します。また、毒性のあるものに触れると黒く変色する性質もあるので、毒物検査の試薬としても用いられます」

 

「その通り。それ以外にも、余り知られてはいないが面白い特徴があってだな……物は試しだ、一つ食べてみたまえ」

 

「えっ!?食べても大丈夫なんですか」

 

「心配いらん。エトワールアンプルは魔法植物の中でも、数少ないまともな食用植物として分類されている。まず最初に、手を加えていない状態の味を確認すると良い」

 

「分かりました。それでは一つ、いただきます」

 

 それならば、いざ実食。手触り自体は薬瓶型ネクタリンといった感じだが、味はどうなのか。一口齧ると果物特有の甘さが広がる。かなり水気の多い、滑らかな舌触り。味は甘いけどそんなにくどくは無く、案外さっぱりとしている。けれども酸味は強くない。結構好みの味だが、どこかで食べた事のあるような、無いような……。とりあえず似た味がないか思考を巡らせる。

 

(マスカット、洋梨、メロン、ライチ、パイナップル……なんかその辺りの系統のような、でももっと甘味が強いような……)

 

 そういえば、以前ドクターが何処だかの物産展で買ってきたコンポートだかシロップ漬けだか忘れたけど、こんな感じの甘さだったなと思い至ったところで私の脳内も結論を叩き出したようだ。

 

「……若桃のシロップ漬け?」

 

「……その『若桃のシロップ漬け』とやらは分からんが、大方は桃に近い味だと感じる者が多い。さて、今の味を覚えておきたまえ。今は果実としての形状を保っているが、砂糖を加えると発光すると同時に色や形が劇的に変化する」

 

 そう言って、スネイプ先生はおもむろに小皿にエトワールアンプルを一つ乗せると、予め準備していたらしい砂糖水をかける。

 確かに反応は劇的だった。マグネシウムの燃焼実験でもしているのかと錯覚するぐらい、白っぽい光を放ちながら形が崩れていく。そして、光が収まった後には淡紅色のジャムが完成していた。

 無言で先生からスプーンを渡される。どうやらジャムの味も確認しろという事らしい。とりあえず、指示されるがままにエトワールアンプルのジャムを口にして、かなり驚いた。

 

「!!?オレンジマーマレード!?味が変わった!?」

 

「左様。砂糖を加えると大幅に味も変わる。調理せずとも砂糖一つで勝手にジャムになるゆえ、知っている人間には便利な果物として重宝されていたりするのだが……今回は薬の割り材が完成するのが先か、用意した果実が全てジャムになるのが先か見物ですな」

 

 随分と悪役染みた笑いを浮かべてみせたスネイプ先生に、私も気持ちを切り替える。割り材、もとい賦形剤の調合も薬剤師の立派な仕事のうち。絶対に完成させると意気込み、作業へ取り掛かった。

 

 

「まさかの……全敗……!」

 

 ……意気込んだ結果がこれだ。エトワールアンプルは見事に全てジャムになりました。瓶の中で美味しそうな艶と質感を煌めかせているのがまた憎たらしい。

 魔法薬は漢方薬と同じく組み合わせの薬。だから、糖蜜や水飴、シロップといった動植物由来の砂糖では絶対に反応するだろうという予想は私もしていた。だから、糖単体を抽出すればイケるのではないかと思ったのだが……ご覧の通りの有り様だ。

 

(ブドウ糖(グルコース)果糖(フルクトース)麦芽糖(マルトース)ショ糖(スクロース)乳糖(ラクトース)……抽出ができた単糖類と二糖類は全部ダメ!後は何だ!?キシリトールとかトレハロースでも入れれば良いんですかね!?)

 

「ふむ、やはり既存の砂糖では加工、混合、抽出のどれをやっても全て反応するか。そうなると、やはり砂糖に頼らずに甘味を感じる薬を新しく開発するほか無さそうだな」

 

 新しく開発、という言葉に何かが引っ掛かった。私にとっては全く新しくないが、恐らく魔法界には存在していないであろう物質。それどころか、それらは自然界にも存在していない。人間の手で作り出された成分で、砂糖よりも甘味が強くて、尚且つマグルの市井では普通に入手出来る甘味料。私はそれを知っている。

 

「あの、スネイプ先生」

 

「何かね」

 

「新しく調合する訳ではありませんが……マグル製の人工甘味料は魔法薬学的に『砂糖』の括りに含まれますか?」

 

「……マグルの甘味料か。確かにその発想は無かったが、そこまで大きな違いがあるのかね?」

 

「平たく言いますと、自然には存在しない物質なんです。薬品と薬品を混ぜて反応させて、フラスコの中で生成された結晶とも言えます。あと、甘さが頭おかしいレベルなのも特徴の一つです」

 

 甘さが砂糖の100倍、200倍なんて普通、本当にヤバい物に至っては数十万倍という劇物というか味覚凶器と言っても差し支えない次元に到達しているのだから恐ろしい。それを伝えたら、スネイプ先生は微かに頬を引き攣らせていた。

 しかし流石は研究者気質なだけあって、先生も「マグルの甘味料は砂糖足り得るのか」という追加命題に興味が沸いた様子だった。

 

「魔法薬と妙な反応を起こして新種の毒物を生成する可能性も否めないが、確かに試してみる価値はありそうだ。次の機会までにその甘味料を入手出来れば良いのだが」

 

「それなら、私の保護者に手紙を送ってみます。ポピュラーな商品なら安価ですし、普通に使う分であれば安全性も担保されていますので、余程の事が無い限り毒にはならないと思います」

 

「もし新たに購入するのならば、研究材料費として謝礼金を支払うと保護者殿に伝えてくれたまえ。貴重な研究はガリオン以上の価値がありますからな」

 

「分かりました。その様に伝えておきます」

 

 何だか悪の秘密結社における密談染みた雰囲気になっているが、至って健全かつ有意義な、教授と学生による研究の相談である。

 

 それに、だ。今日は終始砂糖と薬効の話だったが、この実験の結果によってはかなり深刻な問題が浮き彫りになる可能性がある。

 何せマグルの医薬品は、それこそ漢方薬であったり生薬由来の薬で無い物の多くは人工的に作られているのだ。特に近年は目覚ましく開発が進み、より効果的で、よりコストの低い薬を作るべく研究され、天然に存在しない薬が数多出回っている。

 

 そして、それは毒物にも言える事。

 

 私も魔法薬学を学び始めた時から度々思っていたのだが、どうも魔法界では解毒剤の開発が他の薬と比べ、いまいち進んでいない。確かに緊急時はゴルパロットの法則やら何やらの面倒な理論をすっ飛ばして、ベゾアール石を飲ませた方が遥かに早く対処出来るのだから、わざわざ開発しようと思わないのかもしれない。

 だが、それは大昔の様に世界が断絶していて、尚且つ医療という概念が民間療法止まりだった時代なら許される話だ。

 ほぼ直接的な反応を起こす魔法薬と違い、最近の医薬品や毒劇物は複雑な反応機構と間接作用を以てして効果を発揮するものが主流になっている。それをベゾアール石は例外なく解毒出来るのか?

 

 魔法使いは総じてマグルを甘く見ている傾向が強いが、向こうの情報伝達と技術開発の早さはハッキリ言って桁違いだ。

 

 ベゾアール石は動植物由来の毒を無効化する。けれども、塩水を真水に変える事は出来ない。──少なくとも私は、これがもう答えだと思っている。

 

 

「──ところでスネイプ先生。大量に生成してしまったエトワールアンプルのジャムはどうしたら良いのでしょうか」

 

「我輩の研究室に置いていかれても困る。持ち帰ってトーストなりスコーンにでも塗って処理したまえ」

 

(一人では絶対に処理仕切れないから、アミー達にも頼んで寮の皆で消費するとしますか……)




ほのぼの(?)日常を満喫する主人公。
薬と砂糖と毒、その考察がどこで活きてくるかお楽しみに。

【オリジナル設定】

・エトワールアンプル
魔法版ベネジクト試薬(+銀の効果)とも言える食用魔法植物。
果実は砂糖と反応すると閃光を発しながらジャムに変わる性質から「オーロラシュガー」という異名を持っている。
見た目は薬瓶型のネクタリン(薄緑色)、生食するとややあっさりした桃(白色)、ジャム化するとオレンジマーマレード(淡紅色)になるという、何とも脳がバグる味と見た目が特徴的。

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