ハリー・ポッターと透明の探求者   作:四季春茶

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名も無き毒の矛先は

「今更だけど……情報筒抜けって不味くない?」

 

 誰からともなく呟かれた言葉に、私達は揃ってぐうの音すら出て来なかった。何故なら全くもって正論で、寧ろ何で今まで誰も気付かなかったのかと思う程度には至極当然の指摘だったからである。

 

 

 遂に生徒まで襲撃されたという緊急事態に、校内はこれまでの比では無いぐらい緊張感が広まっていた。そして、それは我らがレイブンクロー寮内でも同じ事。元より「連絡網」を作るべく試行錯誤していたが、その中でも非常用の警報ベルと緊急連絡の機能は前倒しで作ろうという流れになっていた。……で、その打ち合わせ中に飛び出したのが件の指摘という訳だ。

 一様にフリーズしていた私達だったが、ややあってからまとめ役のパドマが呻いた。

 

「……そうだったわ。元々は他の寮との連絡目的だったのに、完全に色々な機能搭載を考えるのに夢中になり過ぎて、すっかりその事を失念していたわ」

 

「だよねぇ……私達レイブンクロー生だけが使うなら全然問題無いと思うけども『鷲の目』とか一応は流出厳禁な機密文書扱いだし、何より寮内独自情報が漏れたら大変な事になるもんね」

 

「更に言うなら幾ら入り口に鍵代わりのノッカーがあるとはいえ、あれだって逆に言えば質問にさえ答えられる人ならば誰でも寮内に侵入出来てしまいますからね……」

 

 サリーと私も思わず頭を抱えながら続ける。何でもかんでも情報が筒抜けになってしまったら、それこそ何の為に寮ごとのセキュリティがあるのかって話にもなりかねない。

 

「どうする?とりあえず、早急に必要になりそうな非常ベルだけ『連絡網』の仕組みから独立させる?」

 

「でも、今から新しく構想練っていたら手遅れじゃないかな……」

 

 アミーの提案にリサが困った様に呟いた。確かにその通りだ。身も蓋もない言い方をするならば、それならマグル製の防犯グッズでも逆輸入した方が手っ取り早い。まぁ、魔法界ではマグル製品が誤作動を起こして壊れるらしいので、それならそれで使う為には何らかの手を施す必要があるのだが。

 と、ここで今までの議事録(という名のメモの束)を引っ張り出して黙々と読み返していたマンディが顔を上げた。

 

「ねぇサリー、確か『両面鏡』っていう道具の仕組みを参考にして『連絡網』の術式のベースを考えたんだよね?」

 

「えっ、うん。一番最初は『両面鏡』の術式に直接必要なのを追加するつもりだったんだけどね。今はそこから親機の鏡と持ち歩き用のコンパクトに分割しているよ」

 

「魔法道具の術式的に、それをもっと細かく分割って出来そう?」

 

「……どういう事?」

 

 マンディの質問にパドマが怪訝そうに尋ねる。私達も設計のメモと議事録を見返しながらマンディの言葉を待つ。

 

「私達が使うものは今まで通り、他寮の人に渡す方を『両面鏡』だけって出来ないのかなぁと思ったの。あくまでもペアになっているコンパクトと会話するだけのものなら、セキュリティ部分は解決しそうじゃない?」

 

「あぁ……つまりは、連係を二段構えにするって感じでしょうか?言うなれば親機、子機に続いて孫機みたいな……?孫機自体はそのまま『両面鏡』で良いとして、問題はどこまで個人の子機で御せるかだと思います」

 

「大鏡であたし達のコンパクトを一括管理して、更に各コンパクトで会話相手のコンパクトというか小鏡を管理するって解釈で合ってる?そもそも大元の部分から独立したシステムってどこまで自由に動くのかって話にもなりそう」

 

「それに、その形だとちょっとシステムが複雑怪奇になり過ぎそうじゃないかなぁ……?あ、でもどっちみち親機で一括管理するんだったら、コンパクト側で他の連係があろうと無かろうと、それも引っくるめて包括したシステムになるかも?それなら仕組みがちょっとややこしくなるだけで出来なくもない気がするよ」

 

 マンディの発想の趣旨は理解出来た。とりあえず私、アミー、リサの順に今聞いた感じの見解を述べてみる。お互いに疑問や見解を交えて意見交換をしてみて、最終的には「やろうと思えば出来なくはない」という結論に行き着いた。

 全員の意見を纏めたパドマが手を一度叩いた。

 

「よし、とりあえず少し方向修正して『連絡網』は駄目元で三世代式に舵を切ってみましょう!役割分担は今まで通りで良いわね?」

 

「はい!異議無し!」

 

 そんなこんなで「連絡網」プロジェクトは少し企画の修正を挟みつつ、また一歩前進したのだった。

 

 

 ……ところで途中から話が脱線して、私達は揃いも揃って最初に話していた「とりあえず非常ベルだけ先に作ろう」という議案が頭から完全にすっぽ抜けていた。今のご時世的は事を鑑みたら少々呑気過ぎたと言わざるを得ないが、まぁ真剣に熱中していたが故という事で大目に見て頂きたい、と言い訳しておく。

 

 

 薬草学のレポート打ち合わせを建前にしたお茶会は、今年も同じ空き教室で続ける約束となっている。幾ら授業がペアからグループに移行しようと、一年間で身に付いた習慣はそう簡単に変えられるものでは無い。それぞれにとって最も効率良くレポート作成をする為に四人で相談した結果、授業直後に押さえるべき要点を共有し、後は各自が昨年と同じスタイルで行こうという結論に至った訳である。勿論、後で何か共有すべき情報が出てきた場合は、それも別途報告しようという約束もした。

 まぁ、いざとなったら私がアミーやテリーの個人作成組とセオドールの中継役になるんだろうなと思っている。多少手間はあるものの、寮を跨いだグループならではの事だと割り切っているから、別に面倒とは感じていないので問題無い。

 

 さて、そんなこんなで今日は例のお茶会の日なのだが……いつも冷ややかなまでに冷静沈着に立ち振舞っている筈のセオドールが、今日は珍しく非常に苛立った様子で現れた。

 

「何かあったんですか?」

 

「別に。ただ、今まで過ごしてきた人生の中で初めて本気で殺してやろうかと思った奴が現れただけだ」

 

「……それ、は……随分と物騒ですね?」

 

「少なくとも、アンタなら居合わせていたら俺と同じ事考えると思うぞ?──魔法薬学の授業中、人の大鍋に花火を放り込んで授業妨害しやがった大馬鹿野郎がいたら、アンタだって呪いの一つ二つ位は叩き付けたくなるだろ?」

 

「は、はぁ!?それは勿論ギルティです!即刻ギルティですっ!!まぁ……流石に倫理的観念に基づき殺しはしませんけど、間違いなく鍋でぼっこぼこのタコ殴りにはします!!」

 

 今日のセオドールに少々恐怖を感じていた私だったが、彼が物騒発言した理由を聞いて、思わず私も叫んでしまった。いやいや、最早それは授業妨害ってレベルじゃない。余りにも危険過ぎる。どう考えてもアウトだ。ここまでスリザリンとグリフィンドールの組み合わせが致命的というか壊滅的という有り様なら、もう合同授業やらせるなよというレベルでヤバい。

 

「というか、鍋に花火って……怪我とか大丈夫でしたか?」

 

「薬品被った奴は結構いたが、スネイプ教授がその場で全員を治療して下さった。俺も座っていた場所が比較的薬が飛び散って来ない場所にいたから、授業を滅茶苦茶にされた事を除けばそこまでの被害は無い。調合していた薬も爆発騒動の前に提出していたしな」

 

「それなら良かったです。いや、全然良くは無いですけど」

 

「何かする為に騒ぎを起こしたのか、恨みある奴を貶める為にやったのか、或いは単にスリザリンが気に入らないのか、色々思う事はあるがこの際どっちでも良い。ただ、真面目に授業を受ける気が無いならサボるなり何なりして失せろって話だぜ。……迷惑だ」

 

 完全に目が据わっていて怖い。でも気持ちは非常に分かる。これはもう、それとなく違う話題に変えるのが吉だろう。しかし、本当に誰がやったのか知らないけど、変な意味で行動力を炸裂させるというのは考え物である。

 ……まさか、その件の騒動を起こした張本人の一人がハーマイオニーで、更には校則どころか法律的な意味でアウトな盗みに入った挙げ句、違法に禁書の薬品──ポリジュース薬の密造を行おうとしていたなんて、私は夢にも思ってもいなかった。

 

 

 決闘クラブなるものが開催されるらしい。

 

 個人的に決闘そのものには全く興味無いが、自己防衛の手数は多いに越した事は無い。レイに防衛術の練習を手伝って貰っているとはいえ、不得手なのには変わりないのだから、補習的な感覚で受けても損は無いだろう。

 それに聞いた所によると、昔フリットウィック先生は「決闘チャンピオン」だったらしいという。それならば、きっと為になる催し物であるに違いない。

 

 ……そんな風に期待していた時間もありました。えぇ、非常にデジャヴしかないこの一連の流れ。またもや過去形で言っている時点で察して頂きたい!

 

 

「静粛に」

 

 やたらと勿体ぶった口調で壇上に上がるロックハート氏に、前方に詰め掛けた女子生徒達からの黄色い歓声が上がる。……よりにもよってこの男が主宰者とは、天は完全に私を見放したらしい。

 

「皆さん集まって!さあ、私の声が聞こえますか?私の姿が見えますか?──結構結構!ダンブルドア先生から私がこの決闘クラブを開くお許しを頂けました。私自身が数え切れない程経験してきた様に、自らの身を守る必要がある、万一の場合に備えて皆さんをしっかり鍛え上げる為です!」

 

 再び上がる歓声。それに反比例するかの如く、私の機嫌は急降下していった。

 

「……もうやだ!私、(いえ)に帰る!帰ります!!」

 

 とりあえず、思わず羞恥とか人の目が気になるとかそういうのをかなぐり捨てて子供返りよろしく駄々をこね地団駄踏む程度には、私の気分は最低最悪だ。初回授業から拗れに拗れまくった結果、もうアレルギーを起こすのと同等レベルでロックハート氏そのものが精神的に受け付けないのだ。

 

「マーガレット、どうどう。落ち着こう。でも気持ちはすごく分かるよ。……僕も来た事を心底後悔しているし、帰りたい」

 

 少しでも前列から離れようとした同士たるテリーに宥められる。それにしても熱狂的な女子生徒が前列を占め、ファン以外の生徒達が後列に固まって冷ややかな視線を送るという、完全に授業中と同じ構図になっている。

 断言しても良い。それこそ突然ロックハート氏が正しい説明の大切さに目覚め、何でも目立てば良いという思考を破棄しない限り、ほぼ確実に防衛術の初回授業と似た様な展開になる。

 そんな私の諦めと嫌悪感と面倒くさい気分を他所に、壇上では新たな動きがあった。

 

「では、助手のスネイプ先生をご紹介しましょう。彼がおっしゃるには、決闘についてごく僅かにご存知らしい。訓練を始めるにあたり短い模範演技をするのに勇敢にも手伝って下さるというご了承を頂きました。しかし、私が彼と手合わせした後でも皆さんの魔法薬の先生はちゃんと存在します。ご心配めされるな!」

 

(うわぁぁぁ……スネイプ先生の表情が恐ろしい事になってらっしゃる……怖い、寧ろ私が逃げ出したいレベルで怖いです)

 

 どういう経緯でスネイプ先生が助手を引き受けたのか甚だ疑問だけど、本気で悪鬼と見紛う様なとんでもない形相のスネイプ先生を目の前にして、よくあんな煽っているとしか思えない紹介が出来るなと思う。わざとなのか素なのか。素ならある意味才能かもしれない。……少なくとも、私ならあんな殺気立った気配を差し向けられた瞬間、全速力で逃走したくなる。

 

「二人で作法に従って杖を構えています。それから三つ数えて最初の術をかけます。大丈夫です、お互い殺すつもりはありません」

 

 私の目には仮にロックハート氏はそのつもりが無くとも、スネイプ先生はどう見ても隙あらばぶっ殺す位の気分で構えている様に思えるが。気のせいだろうか。

 

「1、2、3──」

 

「エクスペリアームス!」

 

 カウントが終わるや否や、スネイプ先生が呪文を唱えた。武装解除の呪文は相手から杖を奪う呪文だったと記憶していたが、どうやら加減次第では相手ごとぶっ飛ばす事も可能らしい。

 さて、まともに呪文を食らったロックハート氏はというと、派手に吹き飛んで大の字になっている。

 前方の方からは悲痛な悲鳴が上がっているが、それ以外からスネイプ先生を賞賛する声が聞こえてくる。それこそ普段は蛇蝎の如く嫌悪感を剥き出しにしているグリフィンドールの方々さえも、スネイプ先生に拍手している人が一定数いるという具合だ。

 

「今のが『武装解除の術』です。ご覧の通り、私は杖を失ったわけです。スネイプ先生が今の術を見せたのは素晴らしい考えですが、やろうとしたことはあまりにも見え透いていましたね。それを止めようとしたら、いとも簡単に出来たでしょうが……」

 

 本当かしら。何だかこれも物凄いデジャヴしか感じない。

 ちなみに、あれこれ言い訳をしていたロックハート氏だったが、流石にスネイプ先生の本気の殺気と実力差を察したのか、一声掛けるとそそくさと二人一組のペアを組み始めた。

 私達レイブンクロー側は比較的平和というか、わりとまともな組み合わせだが、例によってグリフィンドールとスリザリンの方は酷い事になりそうなペアが多い。若干面白がっている様子でペアを指定していくスネイプ先生の姿に、噂は聞いていたけれども……と内心で独りごちた。

 

(心から尊敬しているだけに、あんまり……そういう方面の姿は見たくなかったです……まぁ言っても仕方ない事ですけど)

 

 それはそうと、私の周囲を見渡す。アミーはマクミラン少年、サリーはリリーとペアになっている。反対隣ではネビルとフレッチリー少年、テリーとセオドールの組み合わせが見える。さて、私のペアは誰かと言うと……

 

「おや、メグがペアですか。偶然ですね」

 

「レイ!良かったぁ。……あ、一応お手柔らかにお願いします」

 

 ある意味、私の実力を一番理解しているであろうレイと一緒である事に私は心底安心した。これなら事故を起こす危険性も格段に下がったと見て良いだろう。

 ろくな説明も無いまま実践に移ったのに一抹の不安と嫌な予感を覚えつつ、とりあえず杖を構える。武装解除の呪文なら一応は予習済みだし、相手は謂わば私の講師役と言っても過言ではないレイだ。多分、私達のペアに関しては大丈夫だろうと思う。そんな事を考えつつ、カウントを聞く。最初に動いたのはレイだ。

 

「エクスペリアームス」

 

「っ……!プ、プロテゴ!」

 

 若干、呪文を噛みかけたものの、何とか杖を持っていかれる前に防御に成功した。すかさず私も反撃に転じてみる。

 

「エ──エクスペリアームス!」

 

 私が呪文を唱えた瞬間、レイが破顔したのが見えた。その様子からして、十中八九レイは手加減していたのだろうけど、彼が手にしていた杉の杖は弾かれた様に私の方へ飛んで来た。左手でそれをキャッチしてから、レイに返却する。

 

「武装解除の呪文って今の流れで合ってました?」

 

「ええ。上出来でしたよ、メグ」

 

「誉められました!それなら不得手なりに一生懸命練習した甲斐があったという事ですね……って、きゃー!アミー!?」

 

 ……ただし、私達の様に平和かつ上手く練習が出来たペアはかなりの少数派だったらしい。各所で大惨事になっている。真っ先に視界に入ったアミー達の所ではなんと流血沙汰になっていた。怪我して座り込んでしまったアミーに、倒れ込んでいたマクミラン少年もかなり動揺しながら慌てている。

 

「すっ、すまない、ミス・フォーセット!決して怪我させるつもりじゃ……!しかも顔に当ててしまうなんて……」

 

「だ、だいじょうぶ……ちょっときっただけ……」

 

「アミー!とりあえず、鼻血ならここを押さえて下さい。止まり方が鈍い様子なら冷やした方が良いかもしれません」

 

 親友が怪我しているのを見て、私は慌てて彼女の下に急行する。壇上では先生の制止の声、生徒による披露という事でポッター少年とマルフォイ少年が指名されたのは聞こえていたが、悪いがそんなもの後回しだ。

 そんなあたふたしていた私達に、至極冷静だったレイが近付いて来た。まだ座り込んだまま動けずにいるアミー達に順番に治癒の呪文を唱えていく。

 

「一旦落ち着いて下さい。押さえて冷やす前に止血だけはしておくべきですよ。少々失礼──エピスキー。ミス・フォーセット、大丈夫そうですか?」

 

「え、ええ。ありがとう、ミスター・バラード」

 

 手慣れた手付きで応急処置の止血をやってのけたレイに私達は驚きと尊敬の眼差しで見た。エピスキーは教科書に書いてある内容部分なら予習していたものの、まだ使った事は無かった。

 まだまだ私は覚えて、学ばなければならない事がたくさんあると再認識して噛み締めていたその時だった。

 

「サーペンソーティア!」

 

 マルフォイ少年の声に、直感で嫌な予感がした私は壇上の方を振り返った。そして、後悔した。視界に入ったのは鎌首をもたげて臨戦態勢剥き出しの、なかなかに大きな蛇だった。普通に怖い。周囲が小さな悲鳴と共に一斉に後退る中、私達は見事にその流れから出遅れてしまった。

 

「私にお任せあれ!」

 

 悪い状況は重なるものらしい。何を思ったのか、ロックハート氏は杖を振り回しながら蛇に向かって何か唱えた……ら、大きな音と共に蛇が二、三メートルぐらい宙を舞ってから、思いっきり床に叩き付けられた。どう控え目に見ても蛇は完全に怒り狂っている。

 

 一番最悪だったのは──蛇が飛んで来た場所は、私達のすぐ近くだった事だ。

 

 一番近くにいるのはフレッチリー少年。そして、その次は私だ。牙を剥いて這い寄って来る蛇に、私は一気に血の気が引いた。

 

「─────!──!」

 

 その瞬間、突如として聞こえてきた声……いや、まるでモスキート音みたいな響きの、到底人が発した声とは思えない音に周りが一気に凍り付いた。先程まであんなに怒り狂っていた蛇は、まるで嘘みたいに大人しくなり、王様に忠誠でも誓っているかの如くポッター少年の方を向いて鎮座している。

 そんな中、ふと壇上にいたポッター少年と目が合った。彼はまるで何か良い事をしたかの様に笑っていた。嫌な汗が背中を伝っていくのを感じる。何が起きたのか分からないけど、とんでもない事が目の前で繰り広げられたという事だけはハッキリと理解した。

 

「いったい、何を悪ふざけしているんだ?」

 

 沈黙を破ったのは、フレッチリー少年の怒声だ。そのまま大広間を飛び出して行った彼に、ポッター少年が困惑している。さりげなく後ろから腕を引かれ、庇われる様に少し壇上の方から離された。そちらを見やるとレイが難しい顔をしていた。疑っているのとは少し違う、何か強い懸念を抱いている様子のレイは静かにポッター少年の方を見ていた。

 やがてポッター少年は、ハーマイオニーとウィーズリー少年に連れられて逃げる様に大広間を後にした。みんな一斉に離れて道を開ける。彼らが消えた途端、大広間が悪い意味でざわついていく。聞こえるざわめきに混じる単語は決して穏やかなものじゃない。

 

 あぁ、これはいつぞやと同じ雰囲気になってしまった。そして何より、奇しくも私が危惧していた展開の一つが現実になった瞬間でもあった。──いつだって閉鎖空間の正義は悪意と表裏一体だ。

 流石にポッター少年がわざと蛇をけしかけるタイプではないと思っているけど、あれは一体何だったのだろうか。

 

 不安、恐怖、不信感。見えざる敵に対する疑心暗鬼。そんなものが渦巻く中、あからさまに「普通じゃない」行動を大勢の目撃者の前で取ってしまったポッター少年。

 悪意は伝播する。静かに、でも確実に。毒みたいなこの感情の渦が指向性を一度定めてしまえば、もう一瞬で攻撃的な凶器へと変貌してしまう。

 

 斯くして、ポッター少年は継承者騒動の最有力容疑者として学校中に広まったのだった。




決闘クラブ回。ハリーの蛇語バレ回でもあります。つくづく原作見て思いますけど、逃げ場の無い所で犯人探しの槍玉に挙げられるのって本当に地獄だと思います。
あと、何気に「ミス・フォーセット」って原作では名前だけちょこちょこ登場しているんですよね。今回の決闘クラブにおける、女子生徒なのに鼻血という展開も原作準拠です。

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