ハリー・ポッターと透明の探求者   作:四季春茶

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四色の可能性と選択

 特急の旅路は、あの後は特に変わりなく静かかつ平穏に過ぎていった。途中、ペットの蛙がいなくなったと半泣きの新入生と思われる少年がコンパートメントにやって来たり、買い物ツアーで既知の仲だったハーマイオニーが間髪入れず蛙捜索で現れたりという軽い遭遇イベントはあったが、無事に終点に到着した。

 

「イッチ年生!イッチ年生はこっち!」

 

 入学式に相当するものがあるのかは分からないけど、どうやら一年生だけは上級生とは別行動になるらしい。ランタンを持った大男に案内されるがまま、私達は道を歩いていく。

 結構な距離を歩いたかと思ったら、今度は4人ずつボートに乗って湖を渡っていく。私が乗ったボートは隣にいたレイの他に列車で蛙を探していた少年、赤みがかった茶髪の少し気の強そうな少女が一緒だった。皆それなりに緊張と興奮が入り乱れた雰囲気の中で、レイが静かに遠くを見つめていた。黄昏ている様にも、水面を視界に入れないようにしている様にも見える。きっと彼にとって水面は嫌な記憶を引っ張り出すのだろう。同乗の二人に気付かれない程度に大丈夫かと声を掛けたら、微かに笑みを浮かべて大丈夫だと返してきた。私から言わせれば全然大丈夫には見えなかったけど、強く言う訳にもいかず、そのまま黙るしかなかった。

 

 

 湖を渡りきった先の広大な城へと到着すると、新入生の案内役はマクゴガナル先生に引き継がれた。待機スペースと思われる場所に着くと、7年間を過ごす寮を決めるべく、これから一人ずつ組分けの儀式が行われると説明された。

 寮はグリフィンドール、ハッフルパフ、レイブンクロー、スリザリン。寮ごとに年間得点を競う制度があり、自分の行動次第で得点が増減したりする。つまるところ連帯責任。聞いた話を纏めると、概ねこんな感じだろう。

 

(あー……なるほど、ミスター・ノットの言う『偏見』云々ってこれに起因してる感じですかね。競争相手の所属がそのまま肩書きになって固定化されている、と……)

 

 それならば、確かに組分けが第一印象と結び付けられても不思議ではないなと今更ながら思った。でも勝手に人を四種に判断するのは些かどうかとも思うが。そんな私はさておき、周りは一体どんな儀式なのか不安そうに話していた。……幾らなんでも、流石に入学式でテストやら試練は無いと思いたい。

 

 準備が終わったらしく、戻ったらきたマクゴナガル先生に誘導されるがまま、私達は列になって大広間に通される。大広間の幻想的な光景に、思わず私も息を呑んだ。

 

「あれは吹き抜けじゃなくて、魔法で星空を映しているのよ」

 

 私から少し離れた位置からそう解説する声が聞こえた。多分、あの声はハーマイオニーだろう。

 上級生達が寮ごとに分かれて座っていて、ここから見ると見事にローブの色で四色に分かれている。そして更に前──教員席の手前に、椅子とオンボロと言いたくなる程度には随分と年季の入った三角帽子が置かれていた。もしやあれを組分けに使うのかと考えていた瞬間、帽子の切れ目が口みたいに開いて歌い出した。

 

 

「私はきれいじゃないけれど

 人は見かけによらぬもの

 私をしのぐ賢い帽子

 あるなら私は身を引こう

 山高帽子は真っ黒だ

 シルクハットはすらりと高い

 私はホグワーツ組分け帽子

 私は彼らの上をいく

 君の頭に隠れたものを

 組み分け帽子はお見通し

 かぶれば君に教えよう

 君が行くべき寮の名を

 

 グリフィンドールに行くならば

 勇気ある者が住まう寮

 勇猛果敢な騎士道で

 他とは違うグリフィンドール

 

 ハッフルパフに行くならば

 君は正しく忠実で

 忍耐強く真実で

 苦労を苦労と思わない

 

 古き賢きレイブンクロー

 君に意欲があるならば

 機知と学びの友人を

 ここで必ず得るだろう

 

 スリザリンではもしかして

 君はまことの友を得る

 どんな手段を使っても

 目的遂げる狡猾さ

 

 かぶってごらん!恐れずに!

 興奮せずに、お任せを!

 君を私の手にゆだね(私は手なんかないけれど)

 だって私は考える帽子!」

 

 

 在校生と先生方が拍手喝采をするのにつられて私達も拍手する。……ところで、スリザリンの狡猾って褒め言葉なんだろうか。せめて野心、いや野心も捉え方によっては少々アレだから、向上心が高いとか、臨機応変とか、もう少し別の言葉選びでも良かったのではと思わなくもないのだけど。

 

「アボット・ハンナ!」

 

 ABC順で最初の名前が呼ばれると、金髪の三つ編みの女の子が前に出てくる。彼女が帽子を被ってから、さほど時間が経たないうちに帽子が高らかに叫んだ。

 

「ハッフルパフ!」

 

 すぐにハッフルパフのテーブルから上級生達からの歓迎の拍手と歓声が沸き起こる。組分けを終えたアボット嬢は嬉しそうな笑顔でハッフルパフのテーブルへと向かっていった。

 

「バラード・レイモンド!」

 

 二番手はレイだった。そういえばレイは小学校ではずっと名前順の出席番号だと一番だったなと思い出す。かなり緊張した面持ちのレイが帽子を被ると、先程のアボット嬢の時とは違って帽子はすぐには叫ばなかった。随分と時間が掛かっている。体感で数分は経過しているし、在校生の方も少しざわつき始めている気がする。

 ややあって、漸く帽子はレイが入る寮を決めて叫んだ。

 

「グリフィンドール!」

 

 じっと固唾を飲んで待っていた先輩方のうち、今度はグリフィンドールのテーブルが爆発的な歓声を上げて、若干放心気味なレイを迎え入れて歓迎している。とりわけ女子生徒から熱烈歓迎受けているような気もしないでもないけど、あの王子様フェイスならそうなるだろうなと思う。

 レイ以降はそこまで時間をかける事もなく順調に組分けされていく。私は同級生の名前と顔を一致させようという試みを早々に諦めていたので、とりあえず見知った顔や名前が出てくるまでは何も考えず眺めるのに徹していた。

 

「フォーセット・アマンダ!」

 

「レイブンクロー!」

 

 さっきボートでも一緒だったフォーセット嬢はレイブンクローへと組分けされた。ハーマイオニーはレイと同じく時間をかけてからグリフィンドールへ。これまたボートで一緒だったネビル・ロングボトムも随分と長く座った末にグリフィンドールに決まった。

 ちなみに余談だけど、ロングボトム少年は余程緊張していたのか帽子を被ったまま席に行こうとしてしまい、大広間に爆笑の渦を巻き起こしていた。これまた大慌てで次の子に帽子を渡すと、彼は物凄く恥ずかしそうにしながら戻っていった。偶然にも隣の席だったレイが彼を慰めているのが見えたけど、案外彼は大物になるタイプかもしれないと直感で思った。特に根拠は無いが。

 組分けに掛かる時間は本当に個人差が激しいらしい。今しがた名前を呼ばれていた少年は帽子が触れるかどうかというタイミングで寮を宣言されていた。恐らく最速組分けの部類ではなかろうか。

 

 なんとなく思うのだが、スリザリンは他の三寮に比べて即決率が高い気がする。ついでに言えば、明らかに貴族出身っぽい生徒が多い気もする。そこから察するに、もしかしなくとも組分けにおいて一番比重の多い要素は家系なのかもしれない。まぁ、元の世界とて有名なパブリックスクールは良家出身の人が多いと聞くし、そういう伝統とか格式と言えばそれまでなんだろう。

 

「ノリス・マーガレット!」

 

 名前順がMまで来ていたから、そろそろかなと思っていたところで私が呼ばれた。帽子のある椅子まで歩くと、否応なしに上級生達の視線を感じずにはいられない。確かにこれは余程の強心臓じゃないと普通に緊張する。

 帽子を被せられると、頭の中に直接語りかける声が聞こえた。

 

『──フーム、これはなかなかに難しい。学問に対してとてつもなく強い意欲がある。公平な視点で物事を俯瞰出来る。迷わずに突き進む強さも、必要とあらば手段を選ばぬ機転も持ち合わせている。実に難しい。それに君はもしかして……いや、違うのか?』

 

「どなたかと勘違いしているのか存じ上げませんが、私はマーガレット・ノリスです。それ以上でもそれ以下でもありません」

 

『ふむ?まぁそれは良かろう。素直に君の適正に従うべきか、これから伸びるであろう可能性を鑑みるか。さて、どうしたものか』

 

「私に一番適正があるのはどこなのでしょうか?」

 

『適正という視点だけならば間違いなくレイブンクローであろう。そこならば君の有り余る程の探究心と知識欲を間違いなく満たせる筈だ。だが、同時にそれは自己満足で能力の幅を狭め、終わり無き命題に捕らわれてしまう恐れが否めないのも、また事実。選択次第で君は英雄にも偉人にもなれる可能性を秘めている。それでも知識を望むか?名声は望まないか?──君が一番望む物は何かね?』

 

「私は別に英雄にも偉人にもなりたくない。名声なんて端から興味無いので要りません。どうでもいいです。私が望むのは、好きな事を好きなだけ、心ゆくまで探求する事だけです」

 

「ならば迷う事はない──レイブンクロー!」

 

 頭上の帽子が高らかに宣言すると同時に、レイブンクローのテーブルから歓声と共に青色が沸き立った。思わずどぎまぎしながらテーブルの方へ向かうと、監督生のバッジを付けた女子生徒が出迎えてくれた。

 

「レイブンクローへようこそ。貴女を歓迎するわ!」

 

 

 自分の寮が決まった後は、さっきよりもかなり気楽な気分で他の人が組分けされていくのを眺めていられた。相変わらず組分けは人によって長さがまちまちだった。偶然にも私の次だったノット少年は流石に瞬殺決定ではなかったが、コンパートメントでも言っていた通り、ほぼ間髪入れずスリザリンに決まった。双子の少女達は二人ともたっぷり時間をかけて、グリフィンドールとレイブンクローの別々の寮に組分けされていた。途中、グリフィンドール席にいるレイと目が合ったから手を振っておいた。

 新たにレイブンクローへ組分けされたサリー-アン・パークスという少女が私の隣に座り、互いに軽く挨拶を交わしていた時、その名前は点呼された。

 

「ポッター・ハリー!」

 

 一瞬にして大広間は水を打った様に静まりかえった。そして何処からともなく囁く声が伝播していく。「あのハリー・ポッター?」「生き残った男の子?」「英雄の子が来た!」と、四寮関係無しにざわめきが波紋の如く広がっていくのを、私はどこか他人事の様に聞いていた。いや、正確には人の囁き声が頭に入って来なかった、と言うべきか。

 

 ()()()()()()()()()、何故かそんな気がした。

 

 癖毛の黒髪に、眼鏡をかけた痩せた少年。全く面識の無い顔の筈だ。それなのに、どうしてか遥か昔に何処かで会った事がある様な気がしてならなかった。

 そんな筈は無い。どうやら彼は有名人であるらしいから、きっとレイが読んでいた新聞辺りに顔写真付きの記事でもあって、それを偶然私も目にしていたとか、そういうオチに違いない。

 

「グリフィンドール!!」

 

 本日最大とも思える歓声が大広間に炸裂して、自動的に私の思考もシャットアウトされた。グリフィンドールの盛り上がり方が凄まじい。「ポッターを獲った!」とコールしてる先輩方(見間違いで無ければ、双子だった気がする)もいる位だし、やはり相当な有名人の様だが、生憎そういった分野は特に興味が無いのも相まって、組分けが終わる頃にはすっかり他人事のカテゴリーに分類されていたのだった。

 

 

 最後の一人がスリザリンに組分けされ、無事に全員の組分けが終わった。それを見届けた校長が立ち上がった。

 

「ホグワーツの新入生、おめでとう!歓迎会を始める前に、二言、三言、言わせていただきたい。──そーれ!わっしょい!こらしょい!どっこらしょい!以上!」

 

 校長からの入学式の挨拶……挨拶?を終えると、晩餐のご馳走がテーブルに一気に現れる。そのラインナップの数々を見て、思わず顔が引き攣るのを自覚した。

 

(わぁ、芋と肉のオンパレードぉ……)

 

 由緒正しき英国料理の数々だから当然と言えば当然なのだが、とにかく芋、芋、芋、そしてそれをも上回る肉料理がずらっと並んでいる。完全に炭水化物と脂質の暴力と言っても差し支え無い。

 ……何を隠そう、私はハッキリ言って肉料理が余り好きではないのだ。肉料理というか、肉の脂身が好きじゃない。研究所では献立・調理担当の地位を存分に活用して、なるべく油っぽくならないメニューをチョイスし、更に自分の皿に入る肉を少なくしていた程度には苦手だ。なお、その好き嫌いがレイにバレて、有無を言わさぬ笑顔で皿にチキンをしこたま盛られたのも記憶に新しい。

 極力付け合わせの野菜をメインに確保しつつ、比較的許容範囲に含まれるシェパーズパイを控え目に分けていたら、向かい側の席から話かけられた。

 

「あなた、随分と少食なのね。もしかしてお肉がお嫌い?」

 

「えぇ、まぁそうですね。余り好きではないので、どちらかと言えば野菜を優先的に食べたいです。そういえばあなたは、確かボートで一緒に乗っていましたよね。確かお名前が──」

 

「アマンダ。アマンダ・フォーセット。あたしの事はアミーって呼んで貰えると嬉しい」

 

「私はマーガレット・ノリスと申します。家族からはメグという愛称で呼ばれています。よろしくお願いいたします、アミー」

 

「よろしくね、メグ。家族って事は、もしかして同じボートにいたグリフィンドールのイケメン君と親戚だったりするの?」

 

「レイの事ですか?彼なら限りなく家族に近い幼馴染です」

 

「なにそれ羨ましい!そんな素敵なロマン小説みたいな事が日常だなんて!宇宙の神秘と星の神話と同じぐらい魅力的よ!」

 

 おおっと、何やら分野こそ違えど私と同じタイプの予感がする。何より波長が合いそうだと直感で確信した。……後々、学校内外で名前を認知される「レイブンクローの変人協奏曲(クレイジーコンチェルト)」なる学問狂いのグループの、最初期メンバー(と勝手に設定された)二人のファーストコンタクトだった事を、私はまだ知る由も無かった。

 それぞれ先輩方や同寮生と親睦を深めている間に、食事はデザートに移り変わっていた。私はアミーと、隣席のサリーと共に一番最寄りの位置にいた二年生のマリエッタ先輩から授業のコツや注意点を聞いていた。マリエッタ先輩はクールそうな雰囲気に反してかなり世話好きのようで、後で要点を纏めたノートや教科書を見せてくれると言ってくれた。

 

 食事はメインからデザートへと移り変わる。嬉々として大皿からケーキをたくさん取り分ける子供達の例に漏れず、私も大好物のブラマンジェをここぞとばかりに取り分ける。肉料理は苦手だけど、甘いものは私も大好きだ。暫しデザートタイムを満喫していた後、全員の食事が終わった頃を見計らったのか、テーブルのお皿から料理が消えた。再び校長が立ち上がると、学校での禁則事項を簡潔に伝えていった。森への立ち入り禁止も含め、基本的には学校生活を送る上で当たり前の事だろう。そう思いつつ聞いていたら、最後の注意事項に思わず眉を潜めたくなった。

 

「とても痛い死に方をしたくない生徒は、決して四階の右側の廊下には入らないように」

 

(──は?)

 

 何で学校にそんな命の危機がある場所があるんだ、というよりもその説明では余りにも釣り針が大きすぎるだろう等々、諸々を叫びたくなったのを辛うじて飲み込む。ちょっと子供の好奇心と行動力と残虐性を甘く見過ぎだろう。

 急激に不安を感じて、ちらっと周りを見渡すとアミーを含め、少なくとも近くのレイブンクロー生は私と似たり寄ったりの表情をしていた。……良かった、少なくとも変な冒険心で危険な事をする人は今のところいなさそうだ。

 

 そう思って少し浮上した私は、校歌を歌うという時に先程とは違う理由でドン底へと叩き落とされた。

 まさかの指定メロディ無し、各々勝手に歌え。即ち、音響兵器。

 とんでもない不協和音の騒音に、私は当然悶絶した。生徒の半分と先生方の大多数の目が死んでる。地獄の聴覚破壊兵器は超スローテンポの葬送行進曲で歌っていた人達が終わるまで続いた。

 

 私は心の底から思った。──何なんだ、この学校はっ!!




メグがレイブンクロー、レイがグリフィンドールに決まりました。つまり原作イベントの事件がメグにも飛び火する可能性が大幅に跳ね上がった瞬間をお知らせします!

【キャラ紹介】

アマンダ・フォーセット
原作では飛行術の授業の時に名指しで挨拶されていた子。映画版では何故か獅子と蛇の合同授業にも関わらず、一人だけ混ざっていたレイブンクロー生。丁度良く名前不明の「ミス・フォーセット」というレイブンクロー生がいたので、そのまま彼女の名字という設定にしています。

サリー-アン・パークス
原作では組分けの時に名前だけ登場していた、所属寮が不明の子。
ハリーと同学年のレイブンクロー女子はパドマ以外描写されてないうえ、名前が判明している子が少ないので、勝手にレイブンクローに入れました。
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