ハリー・ポッターと透明の探求者   作:四季春茶

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時は金なり学べよ乙女

 レイブンクロー寮に案内された私が最初に抱いた印象は「快適に勉強と日常を両立出来そう」だった。

 

 西塔の螺旋階段を登った先にはブロンズ製のノッカーがあり、ノックして出題された問題を解いて中に入る仕組みだそうだ。特殊な識別認証とかパスワードじゃなくて謎解きが鍵代わりというのは、流石は学問の寮ならではと言ったところだろう。どうやら魔法使いというものは理論や理屈をスッ飛ばして考える嫌いがあるそうで、単純な仕組みにも関わらず部外者を遠ざけ続けているとのこと。

 

「種が無い葡萄はある?」

 

「実を付ける前、花ならば種は無い」

 

 監督生が目の前で実演してくれる。解けるかどうかはさておき、中に入る為のシステムは理解した。ところで、種無し葡萄自体はジベレリン処理で作れるのだけど、果たしてあの鷲のノッカーはそう回答した場合、正解判定してくれるのだろうか。

 

 中に入った先に広がっていたのは円形の談話室だった。絶景を拝めるアーチ型の窓、青とブロンズ色のシルクの壁掛けカーテン、そして星が描かれたドーム型の天井と濃紺の絨毯。談話室の中にはテーブルや椅子、本棚という勉強に必須アイテムと、創設者の一人であるロウェナ・レイブンクローの大理石象が建っている。聖堂とも図書館とも思える内装の、爽やかでありながら落ち着いた雰囲気のこの寮を私は一目で気に入った。

 監督生のロバート・ヒリアード先輩が言うには、レイブンクローは個性的な人が多く、中には変人と呼ぶ人もいるみたいだが天才と変人は紙一重、全員ここでは好きな物を着て、好きな事を信じて、思った事を話す権利があると考えてる、との事だ。

 

「僕らは我が道を行く生徒を嫌ったりしない、むしろ評価しているんだ。──ホグワーツで最も賢くて、奇抜で、面白い寮の一員によくぞなってくれた!」

 

 うん、今まで説明を聞いただけでもレイブンクローが好きな事を好きなだけ、心ゆくまで探求出来る場所なのは間違いなさそうだ!

 

 寮の部屋は歓迎会で親しくなっていたアミーとサリーが同室だった。同じ波長を感じていたアミーは勿論、改めて挨拶してすぐにサリーとも授業のコツ講座を聞いて時より打ち解けられた。二人とも魔法界で暮らしていたそうで、私がマグルの世界で育ったと聞くや否や興味津々に目を輝かせていた。

 特に自己紹介もそこそこに宇宙の神秘への愛を熱烈に語っていたアミーは、マグルの学問に地学や宇宙科学、果てには多元宇宙論といった高度な専門学問があると聞いて、是非とも本を読んでみたいとテンションを突き抜けさせていた。私は私で、アミーのお父様が癒者(魔法版の医者に相当する職業らしい)で大病院に努めていらっしゃる関係で自宅に薬学に関する論文や書物が掃いて捨てる程あると聞いた瞬間に文字通り飛び付いたので、反応としては似たり寄ったりだと思う。

 

 ちなみに、私達がハイテンションで好きな分野をエキサイトしながら話すのを見て驚いていたサリーだが、まだそこまで熱狂出来る物が無いなんて言いつつ、「恋い焦がれる様な学問に出会いたい」と恋バナにでも興じる口調で言っていた辺り、高確率で私達と同類の素質があると見た。早くサリーとも推し語り(科目トーク)がしたい。

 

 

 ホグワーツ城の名物(?)である、142もの階段の数々。動くのは当たり前、一段消えたり、行き先週替わり、果てにはどこに繋がっているのかすら謎なものエトセトラと、とにかく大小様々なギミックがてんこ盛りなのが特徴だ。そして驚くべき事に、特盛ギミックの洗礼は階段だけではなく扉やら何やらも同様という、凄まじき徹底っぷりである。ぶっちゃけた本音を申し上げると、学校として何のためにその機能を搭載したのかと思わない事もない。

 まぁ何が言いたいかというとアドベンチャー過ぎて教室が遠い。インドア派にはキツイのなんの……

 私達にとって幸いなのは、初日に監督生から配布された通称「鷲の目」こと「ホグワーツ移動階段・廊下一覧表」なるプリントのおかげで、今のところは迷子にならずに済んでいる事だ。なんでもこの超ありがたい一覧表、歴代の先輩方が階段の移動先やギミック、扉の特徴、紛らわしい廊下、抜け道、隠れ道等々を見つけては記録し、統計を取って纏めたデータなのだとか。それを後輩達が引き継いで加筆訂正し続けているそうな。

 

 

 この一週間で色々な授業を受けた。まだ受けていない科目もあるが、早くも私の得手不得手がハッキリと現れた。

 

 まずは妖精の魔法。呪文学の入門に相当する科目で、恐らく一般人が想像するであろう「魔法」のイメージそのものの内容だった。まずは杖を振る前段階の下準備といった感じだったけど、我らが寮監のフリットウィック先生の説明が非常に分かりやすくて純粋に楽しい授業だと感じた。呪文を覚えられるかが心配ではあるけど、そこは興味が成せる技でなんとかなる気がする。

 

 魔法史。これは無理。絶対無理。確実に試験で発狂する。無理。暗記科目は敵。無理。真面目に受けるとか以前に無理……!!

 

 変身術。一番難しい科目の一つという評判通り、確かに難しい。けれどもしっかりとした理論から入る授業である分、私としてはかなり取っ付き易かった。理論を一通り版書した後、その理論を使ってマッチを針に変えるように指示された。綺麗な針に変えられたのはテリー・ブートだけで、他の皆は銀色のマッチ棒やら何やらを量産させるに留めていた。かくいう私も体質の影響なのか、スケルトンなマッチ棒になってしまった。マクゴナガル先生は初めてで皆がこれだけ変化を出せたのは素晴らしいと仰っていたけど、折角ならもっと綺麗に成功させたい。後でテリーにコツを聞かねば。

 

 天文学。珍しい夜間授業という事で事前にコーヒーを胃に流し込んでおいたものの、副交感神経が全力で仕事するというか、授業中だと意識して緊張し続けないと既に全開で放出されているα波がそのままθ波やδ波に移行しそうだ。天然プラネタリウムのヒーリング効果が半端ない。電飾の存在しないホグワーツの天文台から見る星空は、向こうでは絶対に見えない等級の星まで見える。今まで地学系は興味の範疇外だったけど、一気に好きな科目になった。ちなみにアミーが始終興奮しっぱなしで、授業が終わってからも目を星の如く輝かせていたと補足しておく。

 

 闇の魔術に対する防衛術。ノーコメント。

 

 

 そして遂に来たる!魔法薬学の授業!!

 朝イチの授業なんてなんのその、私のテンションはとっくに突破させていた。同室のアミーとサリーは普通に「楽しそうね」という反応だったから良いものの、部屋割りの違うパドマやリサ達に何事かと驚かれて、マンディには熱でもあるのかと心配された。更には大広間で会ったレイにまで苦笑いされつつ「魔法薬学、楽しめると良いですね」と言われた。そんなに駄々漏れなんだろうか。

 

「今のメグに石化呪文かまして彫像にでもしたら、絶対に『楽しき学問』ってタイトルの如何にも学校らしい像になると思うの」

 

「サリー、真顔でなんて事言うんですか」

 

 とまぁ、こんな微笑ましい?会話をしつつ目指すは地下牢教室。歓迎会のご縁で何かとアドバイスをくれるマリエッタ先輩曰く、魔法薬学の先生はとんでもないスリザリン贔屓だから気を付けて……との事だけど、正直言って先生の人となりなんぞ全く興味が無いので、私の気分は上々だ。

 

 地下牢教室に一番乗りしたのを良い事に、私は堂々と最前列の真ん中を陣取って座る。私の隣にアミー、後ろにサリーが座った他、テリーやアンソニー、マイケルといった男子の一部も前列へ来ていた。他の皆はというと、教室の中央より少し前の辺りに集中して広がる青色、最後列付近からじわじわ前に進行してくる黄色という具合だ。レイブンクローもハッフルパフも授業前は至って真面目に待機しているので、余計な私語を挟まず、静かに行儀良く先生が来るのを待つ。私も髪をきっちりと束ねて準備万端だ。

 

 時間になると同時に入ってきたスネイプ先生を見て、先輩の誰かが「育ち過ぎた蝙蝠」と評していたのを思い出した。あの長ローブ、実験とかには不向きそうだけど大丈夫なんだろうとか考えてたら、出席を取り終わるや否や徐に表情を変えずに演説を始めた。

 

「このクラスでは魔法薬調合の微妙な科学と、厳密な芸術を学ぶ」

 

 調合!科学!なんて素敵な言葉!

 

「このクラスでは杖を振り回すようなバカげたことはやらん。そこで、それでも魔法かと思う諸君が多いかもしれん。フツフツと沸く大釜、ユラユラと立ち上る湯気、人の血管をはいめぐる液体の繊細な力、心を惑わせ、感覚を狂わせる魔力……諸君がこの見事さを真に理解するとは期待しておらん。吾輩が教えるのは、名声を瓶詰めにし、栄光を醸造し、死にさえ蓋をする方法である。──ただし、吾輩がこれまでに教えてきたウスノロたちより諸君がまだましであればの話だが」

 

 熱い期待を込めてガン見していたらスネイプ先生と目が合った。何故か一瞬だけギョッとされたけど、すぐに私の手元──インデックスや付箋を貼りまくり、書き込みのメモで分厚くなっている教科書に視線を向けた。その間、僅か1秒足らず。

 

「……どうやら、早くも高学年で習う内容まで読み込む程に熱心な者もいるらしい。それではミス・ノリス、お答え願おうか」

 

 おや、先生直々のご指名ときた。ワクワクする!

 

「アスフォデルの球根にニガヨモギを加えると何になる?」

 

「『生ける屍の水薬』という無色透明の強力な睡眠薬です。一般的な睡眠薬の類いとは違い、この水薬の最も多い使用用途は、激痛を伴う呪いや致命的な怪我の痛みによるショック死を防ぐ為の緊急投与ですが、その強過ぎる睡眠導入作用ゆえに用量用法を誤ると文字通り生ける屍──永遠に眠りから覚めなくなるとされています」

 

「ベゾアール石を見つけてこいと言われたら、どこを探す?」

 

「山羊の胃から探します。ベゾアール石は萎びた茶色の石で、古くから希少な万能解毒薬として使われていますが、安定して採取出来る山羊の種類、雌雄での違いといった部分は統計数が少なく、未だに解明されていません。一説に依ると、結石に間違われやすいのも解明が進まない一因と言われています。見付ける事さえ出来れば、動植物由来の毒薬はほぼ全て解毒可能です」

 

「モンクスフードとウルフスベーンとの違いは?」

 

「どちらも植物で、定義上はどちらも同じアコナイト……即ちトリカブトの事を指しています。ただ、近年は薬品の多様性によって供給が複雑化している関係で、便宜的にマグルの医薬品でも使われている減毒処理のされたものをモンクスフード、純粋な毒薬や脱狼薬といった毒性が優先されるものをウルフスベーンと呼び分ける専門家も増えつつあります」

 

「……最低限、自分の頭を使って教科書を読み込んでいるらしい。レイブンクローに1点」

 

 スリザリン以外には加点しないと噂の先生がレイブンクローへ加点した事に、思わずどよめきが広がった。そんな生徒達を一睨みしながらスネイプ先生は何事も無かったかの様に授業を進めていく。

 

「大方はミス・ノリスが回答した通りだ。補足するならば『生ける屍の水薬』には先程述べた二つの他に、カノコソウの根と催眠豆の汁が材料として必要となる。諸君に上級の魔法薬を調合するだけの腕があるならば、いずれは取り扱う内容だ。……今のをノートに書き取っているのが、前列の僅か数人足らずという時点でお察し申し上げるが」

 

 その言葉を聞いて、一斉に羽根ペンを動かして羊皮紙に書き込む音が広がる。私もメモだらけの教科書を開いて、自分の回答に瑕疵が無いか確認した。

 版書を終えた後は、実習でおできの治療薬の調合だった。やっぱり魔法薬学って私の知っている調薬というよりも料理だよなぁとは思いつつ、問題なく鍋をかき混ぜる。私とアミーのペアは何事もなく完成して提出まで漕ぎ着けたが、どこかのペアが火から降ろす前の鍋にヤマアラシの針を入れかけたとかで、スネイプ先生に滅茶苦茶怒られていた。怒声に縮こまっているのが見えたけど、うん、それは普通に怒られるやつだ。やるなって言われる物事には理由があるのだし、万が一鍋が爆発したら洒落にならないもの。寸止めの未遂で済んで何より。

 

 

 そんなこんなで所々でハプニングはあれど、私にとっては初回の魔法薬学の授業は非常に大満足だった。個人的には物質の変化の法則とか原理とか理論が気になるから、放課後にでもセルフ検定した内容の確認と一緒に質問しに行こうかしら、とか思いながらアミー達とレイブンクローの集団に混じって教室を退出しようとしていた時だった。

 

「ミス・ノリスは少し残りたまえ」

 

「え?はい。……すみません、アミー達は先に戻っていて下さい」

 

 アミーやサリーは「あたし達も廊下で待っていようか?」と心配そうに言ってくれたけど、友達を廊下でずっと待たせてしまうのも申し訳ないから行ってもらった。それにしても、何か呼び止められる様な事をしただろうか。私自身は全く心当たり無いが。

 皆が退出した後の地下牢教室はいやに静かで、どことなく寒々しい雰囲気を感じさせた。無表情のスネイプ先生からは考えが全く読めそうにない。

 

「君が使っている教科書について訊きたい事があって呼び止めた。ごく最近の論文に書かれていた内容まで含め、随分と事細かに書き込みがされてある様だが、ミス・ノリス、これらを全て君が調べて書き込んだのかね?」

 

「はい。もともと薬学分野に一番興味があったのと、教科書がほぼ数十年間改定されていないのを見て、失礼ながら絶対に最新情報とズレがあるだろうと思いまして。ちょうど今日が魔法薬学の初回授業だったので、放課後に調べた内容が合っているか確認して頂きたいと考えていた所でした」

 

「何故、情報がズレていると判断した?」

 

「進歩し続けない限り、後退しているのと同義だからです。特にこの分野は、生命が進化し続ける以上は決して止まらないものです。少なくとも50年以上も停滞する事はあり得ません」

 

「……良いだろう。教科書を出したまえ。真に最新の情報か、内容に間違いが無いか検定してやろう。明日の放課後、薬学準備室に来たまえ。それから……正直、それだけのやる気がある者を授業のみで燻らせるのは些か勿体ない。お望みなら実地で特別課題を出して差し上げるが、如何かね?」

 

「……!!是非、是非とも宜しくお願いいたしますっ!!」

 

 これは寧ろ私からお願いしたい事だ。授業だけでも興味深いが、それ以上の内容まで踏み込めるなんて夢みたいな話だ!

 一気に限界値までテンションを跳ね上げ、満面の笑顔でウキウキしている私を見て、スネイプ先生が微妙に表情を引き攣らせている。複雑な表情にも、ドン引きしている様にも見えたけど、物質の浪漫に心を踊らせている私は全く気にする事なく、単純に喜んでいたのだった。




メグさんお待ちかねの魔法薬学の授業回。あのスネイプ先生すらも若干ドン引きさせていますが、彼女の場合まだまだ序の口です。
ちなみに、教科書外の部分は全て妄想ですので悪しからず。

「進歩し続けない限り~」の所は、かの有名なナイチンゲール女史の言葉より引用。絶対にこの台詞は言わせたかった。

【キャラ紹介】

ロバート・ヒリアード
ポッターモアで出てくるレイブンクローの監督生。
この作品内でも監督生の代表として彼に挨拶をしてもらいました。ああいった場を纏める立場=最上級生と解釈しています。

マリエッタ・エッジコム
原作では正直「密告者」のイメージが強過ぎる一学年上の先輩。
でもポッターポータルとかで細かい人物象を見たところ、恋愛関係でチョウが孤立しかけた時にずっと見捨てないで側にいたらしく、普通に友好関係築いた相手にはそこそこ面倒見が良さそうな感じの子だったので、その解釈で彼女を所々で登場させています。

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