ハリー・ポッターと透明の探求者   作:四季春茶

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トリック・アンド・トラブル

「……アミー、生きてます?大丈夫ですか?」

 

「………………」

 

「返事がない。ただの屍になっていらっしゃる」

 

 こんなふざけた会話を繰り広げる本日の大広間。昼食の為に自習を切り上げた私は、先日欠席していた飛行術の振替授業に出るアミーと終わり次第合流する約束をしていた。で、約束通りの時間に行ったら、先に到着していたアミーが精魂尽き果てた状態でテーブルに突っ伏していたという訳だ。

 

「信じらんないし、あり得ない。無理無理、ギスギスなんて可愛いものじゃない。あたし、あの空気の中なら3日もしない内に胃に穴あく自信あるわよ……。何でグリフィンドールもスリザリンも平然として喧嘩に勤しめるのかなあ!実は宇宙人なんじゃないの」

 

「……そんなに大変だったんですか、今日の振替授業」

 

「もう二度とイヤよ!先生方も何であの組み合わせを容認してるのか理解に苦しむわ。言っちゃ悪いけど、入学してまだ一週間ちょっとしか経っていないのにあそこまで雰囲気拗れるなら、もう最初から接点無くすべきじゃないのってレベル」

 

「うわぁ……」

 

 先輩も獅子と蛇の組み合わせには混ざりたくないって言っていたけど、それは酷い。仮にも教育機関として良いのか。というか私の印象ではスリザリンが他と断絶気味に感じているのだけど、それも長年の慣習とか何とかで放っておいてる様に思えてならない。

 早々に学校の闇深案件の一端を垣間見てげんなりしていた私に、まだ突っ伏していたアミーが爆弾を投下した。

 

「そういえば、さっきの飛行術。メグの幼馴染のイケメン君、怪我してたよ。重症では無さそうだけど、一応お見舞い行ったら?」

 

「は!?えええ、怪我!?」

 

「何かね、仲良いお友達がパニックになってトルネード大回転からのダイナミックなアクロバットフリーフォールを敢行しちゃって、それを咄嗟に助けようとした彼が腕を怪我したってところ。見た感じ、関節やっちゃったみたいね。左肘の辺り押さえてたから。で、二人纏めてそのまま直行で医務室送りになってたの」

 

「左腕……って、そのお友達も含めて、どう考えてもかなりの大惨事じゃないですか!?」

 

「まぁね……。あ、でもお友達を空中でキャッチする姿は滅茶苦茶カッコよかったよ。その後のポッターインパクトで忘れられてる感あるけど、あたしはミスター・バラードも十分に称賛されるべきだと思うんだけどなぁ」

 

「私は一体どこから突っ込むべきなのでしょう……!」

 

 訳が分からないわ、とつい叫びたくなった私はきっと悪くない。

 

 

 医務室に顔を出すと、ちょうどレイ達も簡易的な昼食を食べている最中だった。アミー曰くのトルネード大回転少年って誰だろうと思っていたら、ロングボトム少年の事だったらしい。

 ロングボトム少年と真っ正面から話すのは初めてだったけど、彼がとても温厚な性格の子だったのと、レイが仲介役となって私達それぞれを紹介してくれたのもあって、すぐに打ち解けた。私個人の感覚としては、ありがちな信用止まりではなく、真の友達として信頼関係を築けるタイプだなという印象だ。何と言うか、人に対して真摯に向き合う子だと見た。

 お互いに自己紹介して、名前で呼ぶ程度まで打ち解けると、私は医務室に訪れた本来の目的を訊く事にした。

 

「何だか二人とも、飛行術では色々と大変だったみたいですね……怪我は大丈夫なんですか?」

 

「僕は、レイモンドが助けてくれたから大丈夫。着地する時に転んじゃって、足を捻っちゃったけど……。でも、僕が箒を暴走させたせいでレイモンドまで怪我させちゃった……」

 

「随分と情報が早くありませんか?……いや、そういえばレイブンクローの方が一人振替で来ていましたね。僕としては、寧ろ彼女の精神的ダメージの方が心配ですよ。ほら……こっちの二寮はかなり独特な空気になるので……」

 

「その子、私と同室の友達なんですよ。まぁ見事にアミーは空気に当てられてグロッキー状態になっていましたけど、なんだかんだで元気なので大丈夫です。アミーは。──で、レイは?」

 

「……話を反らしたの、バレましたか」

 

 まぁでも、そろそろ潮時ですかね。そう小さく言いながらレイは私達の方に向き直った。そこで私も、レイが友人に腕の事を話していないかもしれないという可能性を失念していた事に気付いた。

 

「実を言いますと、怪我自体は大したこと無いんですよ。ただ──あー、ネビル、今からの話を他の方々にはまだ言わないで下さい。余り見せ物にしたくは無いので」

 

「う、うん。分かった」

 

「ありがとうございます。……早い話、僕は左腕が義手なんです。普段はマクゴガナル教授から頂いたグローブのおかげで普通の人と同じ様な見た目になっていますが、外すとこの通り」

 

「っ!!」

 

「さっきのも関節が外れた訳ではなく、うっかり自分が義手であるのを忘れて何も考えずに箒を握ろうと負荷を掛けた結果、留め具が壊れて軽く肉を抉ってしまったというのが顛末です」

 

 なんて事無い口調で外していたグローブと義手を並べてから、レイは人から見えない様に毛布で隠していた腕を出してみせる。そこにあるのは、肘の少し上辺りで途切れた腕だ。……本当にこればかりは何度見ても慣れない。初めて目の当たりにしたネビルに至っては、真っ青になって息を呑んでいた。

 軽く肉を抉っただけだなんて言うけど、全然軽い話じゃないし、聞いている方が痛みを想像してしまう。それに、良くも悪くも噂話が広まりやすい学校という閉鎖空間でも平穏でいられるよう、特殊なグローブでせっかく上手く隠して立ち回っていたのに、それを私が無神経にも友人の目の前で暴かせてしまった。

 

「レイ……ごめんなさい」

 

「どうしてメグが謝るんですか。遅かれ早かれ、どのみち説明しないといけない場面が来るんです。大勢の人が見てる所で腕が外れるだなんて大惨事になる前に、信頼出来る相手に前もって説明できたんですから、寧ろ、これで良かったぐらいです」

 

 怒るどころか穏やかに微笑む姿に、自然と罪悪感が軽減されていくのを感じる。常々思うが、レイは人を宥めるのがとても上手い。私と同い年の筈なのにまるでそんな気がしない。

 私以上に青ざめて固まっていたネビルはというと、我に返った途端に半泣きになっていた。

 

「僕も秘密を話させちゃってごめんね。今日の飛行術だけじゃなくて魔法薬学の時も散々迷惑をかけてるし、助けてもらってばかりだけど、レイモンドが困っている時は必ず力になれる様に頑張るね。僕じゃどこまで出来るか分からないけど……」

 

 その言葉に目を丸くしていたレイが、一拍置いてからさっきよりも小さく「ありがとう」と言って、軽く俯いた。

 

「……本当に、僕は人に恵まれているよ」

 

 表情は見えなかったけど、何となく今は、その言葉の意味にこれ以上踏み込んではいけない気がした。

 

 

 ところで、アミーがぽろっと言っていたポッターインパクトとやらが何の事なのか、翌日に案外あっさりと明らかになった。

 

 飛行術でとんでもない才覚を発揮し、クィディッチなる魔法界のスポーツの寮対抗チーム、それも唯一無二の花形(シーカー)ポジションに抜擢されたそうな。で、朝一番に早速ハリー・ポッターの元に競技用の箒が届けられたという。その辺りからはスリザリンの子が食ってかかったり、別のグリフィンドールの子が言い返したりという一連の騒々しい流れを私も見ている。正直かなり騒がしかった。他所でやってくれ、どうでもいいから朝食くらい落ち着いて食べさせろ、というのが私の感想だ。

 それはまぁ良いとして、本来は二年生以上が選抜テストを受けてチーム入りする所を一年生が選ばれるのは異例中の異例。という事で、当事者のグリフィンドールに留まらずレイブンクローでも少なからず話題になった。純粋に驚いていたり、控えめに称賛するといった反応も多かったけれど。

 

「──何あれ。ズルい」

 

 決して大きな声ではないけど、ハッキリと聞こえた。言い放った声の主はマンディだった。普段の生真面目で穏やかな彼女からは想像も付かない程、冷ややかな眼差しで大騒ぎの中心地を見据えていた。マンディと仲の良いリサも、どこか刺々しい視線を向ける。

 

「グリフィンドールだけ特別待遇?英雄だからって?完全に依怙贔屓も良いところじゃない。……レイブンクローだって、ちゃんと平等に選抜テストを設けていたら、とても上手かったマイケルは選ばれたかもしれないのに。不公平よ」

 

 マンディとリサだけじゃない。周りを見ればマリエッタ先輩や他の上級生達もだ。あそこに乗り込んだスリザリン生の様にあからさまに文句を言う人こそいなかったけど、少なくない数のレイブンクロー生が明らかに不満そうな表情を浮かべていたのも事実だった。

 直接その場に居合わせたアミーも「アレが選抜扱いなんだ……」と呆れていた。見ていないから何とも言えないけど、余程規則を強引に捻じ曲げたとみえる。

 

(年齢制限ガン無視かつ規定のテストをスッ飛ばしてのチーム抜擢。それも補欠スタートとかではなく、初っ端から重要らしいポジション。そもそも校則で一年生の箒持ち込みを禁止されているにも関わらず、特例扱いで学校側からプレゼント。しかも、よりによって全校生徒が揃っているであろう、朝の大広間で。……これ、擁護出来ない。マンディやリサ達の反応は当然ですよ)

 

 ……これを決定した先生方は、この決定を補講とか特別講習と同じ次元だとお思いなんだろうか。幾らなんでも校則まで捻じ曲げるなんてやり過ぎとしか思えない。

 件のハリー・ポッターが異様な「特別扱い」される程、普通に接していた人間も敵に変わってしまうというのに。先生方も随分と残酷な事をなさるものだ。

 

 

 私自身の学校生活は、早くも一部の教科(というか魔法史)が脱落寸前になっている以外は至って平穏かつ順風満帆だ。

 

 特に魔法薬学の追加講習では、少し前から上級の魔法薬調合を実践するだけではなく、新しい実験もやる様になっていた。とっても楽しい。材料の特性から組み合わせた場合の反応を予測し、実証実験を行う。結果を考察したら、また理論を組み立てる。以下、その繰り返し。この上なく楽しい。

 魔法薬は料理みたいだと思っていたが、訂正しよう。漢方薬の調合に限りなく近い。それでいて組み合わせと手順は無限大。可能性も無限大。楽しすぎて最高に気分が良い。そんなこんなで今日も薬学情報について纏めているマーガレット・ノートは順調にページ数を増やしています。最近はスネイプ先生も乗ってきているらしく、ノートに魔法を掛けて無限にページ追加及び並べ替えが出来る様に細工して下さった。使ってみた印象では、魔法版書き込み式ノートパソコンといった感じだと思われる。途中から先生自身の研究も多分に含まれている様で、初日の微妙なドン引き具合は何処へやら、存分にやれと言わんばかりに資料やら材料やらを提供して頂いている。超楽しくて笑いが止まらない。

 

 ただ、順調に進んでいない事もある。

 

 私の透明人間(インビジブル)については、どれだけ調べてみてもどうにもパッとしない。先天的な変身系能力、生来の目眩まし術使い、気配もろとも消える事から実は隠蔽魔法の系譜ではないかとの諸説あり──収穫はこんなものだ。

 そろそろ単独で調べるのも限界かもしれないが、「消える」という特性を考えると余りおおっぴらにはしたくない。

 

 そうやって充実した日々の中に、ある種の煮詰まりとジレンマを感じながら、10月31日──ハロウィンを迎えた。

 

 

「──何なんですか。私が何をしたっていうんですか」

 

 一人で文句を言いながら、粉だらけのローブとスカートを叩いてから濡らしたハンカチで拭き取っていく。盛大な独り言だけど、言わないとやってられない気分だ。

 

 何故私が小麦粉まぶしになっているのか。それは少し前に遡る。

 授業を終えて、大広間に向かう道中。朝から既にカボチャ料理の甘い香りが充満していたのと、学校での初めてのハロウィンというのが相まって、私達はいつになく浮かれていた。で、そのタイミングでポルターガイストのピーブズに狙い撃ちされた訳である。……悲しいかな、私は運動神経の無さが遺憾無く発揮された結果、かわせずに投げつけられた小麦粉の袋を頭から被ってしまったのだ。他の皆はちょっと被弾する程度で済んだのに!

 

 流石に全身真っ白という悲惨な姿で大広間には行きたくない。仕方ないから、アミーとサリーに私の分の料理の確保をお願いしつつ、身綺麗にすべく最寄りの女子トイレに立ち寄って現在に至る。

 

 漸くある程度まで小麦粉を落とし終えたところで、個室の奥から誰かがすすり泣いているのに気付いた。プライベートの面倒事に首は突っ込みたく無いが、万が一具合が悪くて泣いているとかの場合だと放置するのは不味い。声を掛けるべきか少し迷ってから、その個室の前まで行くと控えめに声を掛けた。

 

「……あの、大丈夫ですか。もし体調不良でしたら、先生をお呼びしましょうか……?」

 

 驚かせてしまったのか、さっきまでの大きな独り言に萎縮させてしまったのか、中にいる人は息を潜めてしまった。さてどうしたものかと考えあぐねていると、恐る恐るといった雰囲気で反応が返ってきた。

 

「……マーガレット?」

 

「えっ、ハーマイオニー?って本当に大丈夫ですか?かなり元気なさそうですよ」

 

「……あなたも、私のこと、悪夢みたいな奴だって思う……?」

 

「は?え、逆に聞きますが、私、ハーマイオニーにそんな風に思わせてしまう様な言動を取りましたか?だとしたら、今すぐに誤解を解きたいんですが……」

 

 慌てて事情を尋ねたら、ぽつりぽつりと今日の顛末を話してくれた。曰く、授業でペアになった子にお節介を焼いて、強めの口調で助言してしまったらしい。その結果、ただでさえ良好とは言い難かった雰囲気が最悪なまでに険悪となった挙げ句、聞こえよがしに悪口を言われてしまい、耐えられなくなって此処に逃げ込んで泣いていたのだという。

 さてどうしたものか、と再び内心で考える。レイみたいに上手く慰める言葉が言えたら良いのだけど、そこまで対人関係は得意じゃない。ええいままよ、私も言葉を選びつつ率直に話そうか。

 

「まず、私自身はハーマイオニーを友達だと思っています。それこそダイアゴン横丁のお買い物ツアーの時から、同じ学校に通う、初めての友達だと認識しています」

 

「………………」

 

「その、正直上手く言えないんですけど、言い方がキツかったとかそういうのは、少しずつ距離感を掴んで変えていけば良いんじゃないかと。その辺りは意識の持ち様で幾らでも変わります。その点は私が保証します。というより実証済みです」

 

「………………」

 

「だから……そんな風に言われたからって、友達の存在を全否定しないで下さい。私まで悲しくなってくるじゃないですか」

 

 ドア越しにどこまで私の言葉が届いているかは分からないけど、一旦言葉を切って待つ。やがて、小さくドアが開いてハーマイオニーが出てきた。目が赤いけど、表情から私の言いたい事が伝わっているみたいで安心する。

 とりあえず顔を洗ってから大広間に行きましょう、と言い掛けた私の言葉は、突如漂ってきた悪臭によって遮られた。

 

 咄嗟に入り口の方に視線を向けて、後悔した。

 

 入り口にいたのは数メートルの巨体に棍棒を持った怪物だった。どう考えても、学校に居て良いようなモノでは無い。完全に思考停止に陥っていた私はハーマイオニーの「トロール……!?」という呟きで我に返った。

 今日ほど惰性でやっていた小学校の避難訓練に感謝した事は無いかもしれない。次元こそ違えど、非常時に冷静さを失わずに安全確保に意識を向けられたのは大きい。

 悲鳴を上げかけたハーマイオニーを何とか落ち着かせ、のそのそと入ってきたトロールから死角になる位置の個室に飛び込む。ここからどのルートなら安全に外へ脱出可能か、それとも隠れてやり過ごすべきか急ピッチで思考を巡らせていたが。誰かが外からドアに鍵を掛けやがった。──おいコラ、ふざけんな!殺す気か!?

 思わず悪態をつきかけたが、それ以上に最悪な誤算が襲い掛かってきた。私はトロールの知性の低さを見誤っていたのだ。視界から獲物が消えれば、物音さえ立てなければ、余程の嗅覚や知性を持ち合わせていない限り一般的な猛獣と同様に諦めると思っていた。

 

 だから本当に予想外だった。まさか、捕食対象(わたしたち)を諦めるでも探すでもなく、闇雲に棍棒を振り回すだなんて!

 

 結果、どうなるか。個室も、洗面台も、滅茶苦茶に破壊されて大惨事だ。私達だってしゃがみこんでいなかったら木っ端微塵にされていたに違いない。

 流石にこれには私達も限界を迎えた。先に悲鳴を上げたのはどちらかは分からない。けれど、個室の残骸の側でへたりこんでいた私達のうち、運悪く最初にトロールに目を付けられてしまったのは私の方だった。振りかぶった棍棒が私に振り下ろされるのを、私はただ目を見開いたまま、動く事も出来ず、いやにスローモーションに感じながら見ていた。

 

「あ、ああ────」

 

 ──そして、床が粉々に砕け散る音が辺り一帯に轟いた。




ハロウィン回にして、本格的なトラブル発生です。続きます。
残念ながら主人公も避けては通れない運命だったようです。

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