ユウシャとマオウ0424
気が付くと、僕は色鮮やかで巨大な樹木の根の上に立っていた。
――ここはどこだ?
辺りを窺うと、遠くで何かの衣装を纏った女の子が巨大で化け物と戦っていた。
――助けなきゃ!
反射的にそう思って、僕はその女の子のもとにまで走る。
でも女の子との距離は想像以上に離れていて、なかなかたどり着けない。
その内に、女の子の方が化け物の攻撃で僕の方にまで吹き飛ばされてきた。
――大丈夫!?
女の子はすぐに僕の声に反応して、何かを叫んだ。
「――――!?」
知っている声だ。でも叫ぶ声はいつもとはまるで違う声音で――
その顔も、やっぱり僕の良く知る顔だたった。
でも、焦るような驚くような様々な感情が垣間見える表情はやっぱり僕の知らないもので――
驚く僕を余所に、化け物は攻撃の手を緩めない。
尻尾のような場所からミサイルのような何かを発射する。それは目の前の少女に迫ると、爆発する。
「――――!!」
声が出ない。身体も動かない。恐怖で何もかもが動かない。
でも、少女を助けるには動かなければならない。動けと強く思うと、どこからか声が聞こえてきた。
『君には……となる素質がある。望む……らば、力を得るこ……るだろう』
――その力があれば、……を助けられるの? た……るの?
『……の力は史上最強。その……えば世界はおろか、過……来も望みのままに』
――なら決めた! 僕は……になる。……になって、皆を守る!!
目が覚めると、そこは学校の教室だった。
「……ぅーん?」
どうやら、ホームルーム直後に眠ってしまったようだ。
寝覚めの悪さに、うーんと大きく伸びをして、僕は先ほどの夢の内容を思い返す。
「……あれ?」
だけど、夢で見たあの女の子の顔も声も、なぜか思い出せない。
と、四時……部活動開始の時刻を知らせるチャイムが校内に鳴り響いた。
「やばっ!? 部活行かなきゃ!」
慌てて荷物を抱えて、部室である家庭科準備室に急ぐ。
これは部長にどやされるんだろうなぁ……そんなことを思いつつ、たどり着いた部室のドアを開ける。
「結城友人、入りまーす……」
「あ、友くん!」
恐る恐ると部室に入った僕に、真っ先に声を掛けたのは双子の姉の『結城友奈』。
僕と同じ赤髪をショートポニーで纏め、花びらの形をした髪飾りをつけた見目可憐な少女。
でも、その中身はいつでも元気で明るい皆の人気者だ。
そんな姉さんは僕からすれば自慢の姉だけど、結構な天然かつ能天気なところがあるので、心配も絶えなかったりする。
「……あれ、先輩は?」
いつもと変わらない姉さんの姿にほっと一息吐いて、改めて部室を見渡すと先輩の姿が見えかったので首を傾げる。
「お姉ちゃんなら、先生に呼び出されて職員室です」
そんな僕の疑問に答えてくれたのは、一年生の『犬吠埼樹』。
部長の妹で、性格はちょっと気弱だけど、やるときはやる子だ。
そして気弱な面に付随してか、小動物の様な挙動が多くて少し放って置けないところがある。
「あー、明日のことで呼ばれたのかな?」
明日の勇者部の活動は今までの活動の中では一番の大掛かりな物になる。
そうなれば部長である先輩は、先生といろいろな確認事項があるのだろう。
「だと思います」
どうやら、樹ちゃんも同じ考えのようだ。
「よかったわね、友人君。風先輩に怒られないで済んで」
そう揶揄うように声を発したのは、同じクラスの『東郷美森』。
家が隣同士で姉さんの大親友だ。その様を一言で表すなら正に大和撫子という言葉が相応しい。
それが高じてか旧時代の日本への深い造詣を有していて、その他にもパソコン関連の知識も豊富に持つなど、中々濃ゆい面の多い人だ。
ちなみに車椅子であり、その理由は中学入学を前に交通事故にあった影響とのことだが本人はそのことに対しての不安を一切を感じさないくらいに穏やかな性格をしている。
「アハハ……そうだね」
東郷さんの人が悪い言い方に、僕としては笑って返すしかない。
――と、そんな時だ。
「ただま~」
若干疲れたような声と共に部室に入ってきたのが、勇者部の部長である『犬吠埼風』。
三年生の先輩で、なにやら『女子力』という言葉に並々ならぬこだわりがあるようではあるけれど、その振る舞いや言動の男勝りさ、ひいてはその大食漢ぶりからか何とも言い難いのが現状だ。
ただ、実際には料理が得意で、樹ちゃん曰くは服のセンスも悪くないとのことで、あとは振る舞いだけだろう。
「あ、おかえりなさい。風先輩」
「お帰りなさい、風先輩」
職員室から戻ってきた風先輩を出迎える僕と東郷さん。
「うむ、出迎えご苦労」
ボケのつもりか、何処かの御偉いさんか如く振舞う風先輩。
「なんで偉そうなの……?」
それに妹の樹ちゃんが小さなツッコミを入れる。
「いや~なんかやってみたいじゃない?」
「そうかな?」
まあ気持ちはわからなくもないが、今そのボケをやるかと言われたら微妙である。やはり残念か……。
「ところで、呼びだされてたみたいですけど……何だったんですか?」
とりあえず、このよくわからない話の流れを断ち切るべく、風先輩に問いかける。
「ああ、明日の人形劇のことで幼稚園から確認があって、それを先生と合わせてきたのよ」
結局先程の通り、次の活動が今までの中でも最も大掛かりなものだったために打ち合わせも必要だったわけだ。
「ということで、明日の幼稚園での人形劇の最終打ち合わせを始めるわよ」
「「「「はーい」」」」
風先輩の号令に、皆元気よく返事する。
◆◆◆◆
《昔々、在るところに勇者がいました》
《勇者は人々に嫌がらせを続ける魔王を説得するために旅を続けています》
《そして遂に勇者は魔王の城に辿り着いたのです》
園児たちのわいわいと元気なガヤの元、東郷さんの穏やかな語り口調で紡がれる物語。
今回僕たちが演じる人形劇は、話としては王道のである勇者が魔王を討伐しに行くという冒険活劇だ。
勇者役を演じるのは姉さんで、魔王役は僕。
笑いあり、涙あり。そんな一人の勇者の物語は、最終局面を迎えていた。
「やっとここまで辿り着いたぞ、魔王! もう悪いことは止めるんだ!」
「私を怖がって悪者扱いを始めたのは、村人達の方ではないか!!」
「だからって嫌がらせは良くない。話し合えばわかるよ」
「話し合えば、また悪者にされる!」
「君を悪者になんかしない!」
物語の最後ということもあり、互いの演技に熱が入る。
人形劇なので動かすのは手と口だけなのだけれども、どんどん裏での身振り手振りが大きくなっていって、終いには――
「「あっ……」」
興奮した姉さんの肘が舞台のセットに当たり、倒れてしまう。
当然、演者である僕たちの姿が露になり、劇も止まってしまった。
「やっちゃった……」
「当たっては……ないよね?」
幸い、見やすいように舞台と園児たちとで距離を開けていたので、園児たちに怪我はないようだ。
それだけは一安心……だけれども、突然の状況に園児たちはポカンと僕たちを見ている。
「どうしよう……」
姉さんのそんな呟きを耳にどう立て直したものかと、考えを巡らせる。
でも、そうすぐには浮かんでこなくて……ついに痺れを切らした姉さんが動いた。
「勇者パーンチ!!」
「うわぁぁ!! ってちょ、いきなり!?」
突然、魔王の人形に向かって殴りかかってきたのだ。
こんなのはもちろん台本にはないし、この物語は園児たちの為に平和的に魔王を説得する展開のはずだ。
「えっ……だって」
完全に演技から外れ、困惑しきりの姉さん。
とはいえ、"らしい"ことをしなければ、この人形劇はお流れになってしまう。
――こうなればやけだ。
「ならこっちも……魔王キック!」
「うっうわぁぁぁ!?」
やけくそで、さっきの姉さんのかろうじての演技に乗る。
魔王の反撃で、倒される勇者。
「不味いわ……樹! ミュージック!」
このトンデモ展開の打破の為に部長の風先輩が妹の樹ちゃんへ、そう指示を飛ばす。
が、今の状況で慌てているのは樹ちゃんも同じで、掛かりだした音楽は《魔王のテーマ》だった。
「ここで魔王のテーマ!?」
「ごめんなさい……」
流れ出した魔王のテーマの重厚な曲調も相まって、状況は完全に魔王有利。
絶体絶命となった勇者の様子に園児たちはハラハラと僕たちを見守っている。
「フッハハハハ!! ここが貴様の墓場だ!」
「魔王がノリノリだぁ!? おのれぇー!」
もう完全にヤケになった僕の演技。
そこに東郷さんがナレーションを上手く合わせる。
「皆! 勇者を応援して! 一緒に拳を挙げて、勇者に力を送ろう!」
小さな日本国旗を片手に東郷さんが園児たちをそう促すと、元気の良い声援が飛び始めた。
「「「がんばれ! がんばれ! がんばれ!」」」
その声援を糧に、勇者はパワーを受け取る。
「えっと……こ、子どもたちの応援が私に力をくれる!! 行くぞ、勇者パーンチ!!」
「グハァァァ!!」
勇者の渾身の一撃に魔王は倒される。
でも、それで終わりではない。
勇者は倒れた魔王を介抱し、こう語りかける。
「これで、魔王もわかってくれたよね。もう友達だよ」
「……というわけで、皆の力で魔王は改心し、祖国は守られました。めでたしめでたし」
「「「「ばんざーい!」」」」
こうして、ハプニングこそあれど幼稚園での人形劇は無事に終わることができた。
――讃州中学勇者部は、本日も元気に活動中だ。
さてそんなわけで、幼稚園での人形劇を終えた僕たちは行きつけのうどん屋である《かめや》に来ている。
「すみませ~ん! おかわり~」
「はいよ!」
風先輩がお代わりを頼むと、店員さんは慣れた様子ですぐに丼を用意して提供する。
「三杯目……」
そしてうどんを勢いよく食べ始めた風先輩に姉さんが驚愕なのか呆れなのか、そんな呟きをする。
ちなみに僕が二杯目の食べ始めで、他の皆はまだ一杯目というのを知らせれば、風先輩の異常さはわかっていただけるか。
更にしっかりおでんも食べてるんだから、本当に風先輩の胃袋は無尽蔵なんじゃないかと思う。
「うどんは女子力をあげるのよ~」
若干決め顔でそんなことをいう風先輩。
対して、隣の樹ちゃんは目を細める。
「上がるのかな……」
「微妙だねぇ……」
というか絶対上げない。上げるのは尿酸値だけだ。
確か、どこかの健康番組でそんなことを聞いた気がする。
食は進み、風先輩が三杯目を平らげた頃に僕は今日の人形劇についての話題を振る。
「それにしても、よく成功しましたね……」
「ほんとよ。東郷のフォローがなかったらどうなってたことか……」
終わり良ければ総て良し。
一応成功となった人形劇だが、正直姉さんがセットを倒したときは冷や汗ものだった。
と、僕たちの言い方が少し悪かったか、姉さんが劇のことを気にしてかちょっと落ち込んでしまった。
「うぅ~……」
無論、そんな姉さんの状態を東郷さんは見過ごさない。すかさず、フォローを入れる。
「友奈ちゃんと友人君のアドリブがよかったからですよ」
若干拙い感じだが、今の姉さんにはそれでも救いらしい。
隣に座る東郷さんに甘えるように飛びつく。
「東郷さん~~」
「よしよし」
東郷さんも甘えてくる姉さんの頭を嬉しそうに撫でる。
――なんだコレ。
「おーい、帰ってこーい」
風先輩が、二人の世界に入ってしまった姉さんたちを呼び戻す。
と、帰ってきた東郷さんが恥ずかしさを打ち消すように咳払いを一つすると、風先輩に尋ねた。
「……そういえば風先輩、話があると伺ったんですが?」
「あ、そうそう。早く決めちゃおうと思って、文化祭の出し物」
「まだ四月なのに?」
文化祭は十月の最後。まだ半年以上もあるので、樹ちゃんの疑問も最もだ。
「夏休みに入っちゃう前に色々と決めて起きたいのよねぇ~」
「確かに。常に先手で有事に備えるのは大切ですね」
「去年は準備が間に合わなくて、何も出来ないで終わりましたしね」
「今年こそだね!」
リベンジに燃える姉さん。僕としても今年こそは完全燃焼で行きたい。
「今年は猫の手も入ったしね~」
「私!?」
風先輩が樹ちゃんの頭をわしゃわしゃと撫で回しながら言う。
立派な戦力扱いに、入ったばかりの新入生である樹ちゃんはびっくりだ。
「うーん……せっかくだから、一生の思い出になるようなことがいいよね」
「尚且つ、娯楽性の高い大衆が靡くものでないと」
「靡くは……なんか違くない?」
靡くって、確か服従するとかそんな意味だったような……。
「とりあえず、これは宿題ね。それぞれ考えておくこと」
「「「「はーい」」」」
「すみませ~ん。お代わり~!」
「「四杯目!?」」
――まだ食べるの!?
◆◆◆◆
かめやの帰り姉さんと東郷さんは車で帰り僕は本屋に用事があったので今は一人だ。
「一人で帰るのは久々だなぁ……」
学校終わりは基本姉さんと東郷さんと一緒だから、久々の一人を少し寂しく感じていると……
「ん……?」
何か落ちていた。
本……なのは間違いない。でも落とすにしてはヘタな洋書よりも分厚くデカい本で不自然さもある。
「……《逢魔降臨暦》?」
表紙に腕時計のバンドと無数の歯車が描かれた奇妙な本だ。
とりあえず拾い、誰のものかを探るために中身を開いてみるが、そこには何も書かれていない。
「何だ……この本?」
表題からは歴史書のようだけれど、中身の書かれていない歴史書などあるのだろうか。
「――失礼」
「うわっ!?」
気配なく誰かに後ろから声を掛けられる。
思わず飛び退くと、そこに居たのは僕よりも二回りほども大きい不思議な格好をした男性だった。
「驚かせてしまったようだね。その本は私のものだ」
「あぁ……どうぞ」
手渡すと、男性は本を仰々しく受け取った。
何なんだこの人……。若干引いていると、男性が何かを呟く。
「……君が、この世界の魔王か」
「――え?」
何と言ったのか。
聞き取れず、首を傾げていると男性は僕にこう告げる。
「明日は君にとって、特別な一日になる」
「……はい?」
「では、再開の時を待っているよ」
それだけ告げると、男性は振り返ってさっさと歩き去ってしまった。
「何だったんだ……あの人」
歩き去っていく男性の背中を見送っていると、また地面に何か落ちているのを見つけた。
拾うと、それは結構な大きさの懐中時計を思わせるアイテムだった。
「またあの人が落としたのか……?」
渡してやるかと目線をアイテムから上げると、すでに男性の姿は見えなくなっていた。
仕方がないので交番に届けるために、時計をポケットの中に入れて、その場を立ち去った。
いきなりシリアス全快ですが、日常回も挟んでいく予定です。
ここで主人公プロフィール
名前 結城友人 イメージボイス内田雄馬
肩書き 魔王
誕生日 神世紀287年3月21日
年齢/学年13歳/中学二年
身長 154cm(進むつれて伸ばす)
血液型 O型
出身地 香川
趣味 読書
好きな食べ物 うどん、団子