ガンダム ビルドダイバーズ FULL BREAK 作:とくまっす
電脳仮想空間、「ディメンジョン」内にて、ガンダムのプラモデル…通称「ガンプラ」によるバトルを行う、今世界中で人気のオンラインゲームだ。
その人気は、今や人を選ばず様々な楽しみ方ができる様になっている。
GBNの熱気に飲まれたプレイヤーは、何も子供だけの話では無かった。
休日だと言う事もあり施設内は老若男女あらゆる人で埋め尽くされていた。
少年、トバ・カヅキもその一人で…偶然彼は出会ってしまった。
それまで、一切興味の無かったガンプラバトルに。
機動戦士ガンダムと言う作品に。…そう、この戦いにおいては…彼にも無関係とは言えまい。
現トップランカーのダイバー…「クジョウ・キョウヤ」の駆る「ガンダムAGE-Ⅱマグナム」。
そして相対するは古参フォース「第七機甲師団」リーダー、「ロンメル」の駆る「グリモア・レッドベレー」。
その二機の対戦は、言葉では言い表せない「何か」が、カヅキの胸を熱くさせた。
お互いがお互いの全力をぶつけ合い、機体までもぶつけ合いながら戦っている姿を見て、カヅキはその場を駆け出した。
興味が無くなったから、では無い。
今すぐにこの場を駆け出して、動き出さなくちゃ行けない…そんな気になっていた。
だが、現実とは常にいつも先周りして突き刺してくる物だ。
すぐ隣に存在する日本最大級のガンプラショップ、ガンダムベース東京。
そこに点在するありとあらゆるガンプラは好奇心と共に、ガンダムに…ガンプラに対する知識が皆無なカヅキに極限の絶望を与える事となる。
「種類が多い」「何を選べば良いか分からない」「スケールって何」「GBT限定とは一体」
恐らく普通に考えれば気付くワードですらもこの広大な戦場の前では「不思議」へと変わっていった。
とりあえず、と店内を一周。棚を見て適当に一つガンプラを手に取る。
「…ザクⅢ?…俺の知ってるザクとなんか違う…こっちはなんだ…ドーベンウルフ?名前かっこいいな…えー…ゼットゼットガンダム…なんだこりゃ…」
頭に一斉に飛び込んで来る情報量の前に、カヅキの脳味噌はショート寸前だった。
カヅキの知っているガンダムの知識と言えば「アムロ」と呼ばれる少年がガンダムに乗って「シャア」と呼ばれる変な仮面を付けた3倍早い男と戦う…くらいなものだ。
嘘や冗談ではなく、本当に知識が皆無なのだ。馬鹿にしている訳でも無ければわざとでもない。
そうこうしているうちに、既に夜も更け、閉店時間が近付こうとしていた。
「…君」
声を掛けられ、振り返るとそこにはスーツ姿の男性が立っていた。
凛とした顔に、ビジネススーツ。
見れば分かる程、絵に描いたようなサラリーマンだ。
「…あ、はい!すいません、邪魔でした!?すぐどくんで!」
「いや、違う違う。…閉店時間一時間前だよ」
優しく諭す様に、男性は微笑んだ。
ふ、とポケットの携帯に母親からの鬼の様な着信履歴に驚き、現在の時刻を見る。
「うわ…本当だ。すいません、すぐ帰ります」
「はは、君は慌てん坊の様だね。…ガンプラは初めてかい?」
「というか、ガンダム自体あんまり知らなくて」
「おや、珍しいね。何故ここに?」
「さっき、隣でやってたバトル見たんです!あのガンダム…?と、頭の赤いザクみたいなのがガンガンぶつかってるのがカッコよくて!」
「…あぁ!クジョウ・キョウヤさんとロンメルさんの戦いか!あれは燃えたよね。…そうか、それで始めたいと」
「はい。…あー、やっぱりガンダムの知識無いとお断り…って感じ…ですかね?」
「いやいや、そんなことは無いさ。知識が無くても楽しんでいる人はGBNに沢山いる。君はバトルがしたいんだろう?」
「はい、あんなバトルがしたいです!」
男性は、ハキハキと喋るカヅキの表情を見てその気持ちが本物だと気付く。
知識が無くても、とにかくあんなバトルがしたい。そんな純粋な気持ちを感じ取った男性は胸元からジオン軍のエンブレムの描かれた緑の名刺入れを取り出すと、中の名刺を一枚渡す。
「僕は、カシマ・シュウだ。もし、君が良ければだが…明日また、ここに来て欲しい。その時に色々教えてあげよう」
「え、良いんですか?」
「勿論。君、見た所高校生だろう?あんまり遅くまでいちゃ行けないよ。親御さんが心配してしまう」
「分かりました。…あ、俺はカヅキ。トバ・カヅキです!宜しくお願いします!」
「うん。それじゃあまた明日ね」
別れた後も、好奇心が止まらなかった。
最初は無理かもしれないが、あんなバトルが自分にも出来るのかと思うと胸が踊る。
帰りの書店にて、ガンプラの初歩的なテクニックの書かれた本を購入してから帰宅した。
…家がいくら近所とはいえ、遅くまで遊んでいれば激怒されるのも無理はなかった。
「…なぁ、父さん」
夜、父であるトバ・ミチナリが枝豆をつまみながらビールを飲んでいると、カヅキが呟くように尋ねる。
「なんだ、どうしたカヅキ」
「…ガンダムって知ってる?」
「ん?あぁ。俺が子供の頃からやってたなぁ。それがどうした?」
「じゃあ…ガンプラは?」
「おう!そりゃもう沢山作ったさ。なんだ、カヅキも興味あるのか?」
「まぁね。今日GBN?ってゲームの対戦、偶然見ちゃってさ」
「ん、あのネットゲームか。それで?」
「…俺も、やりたいな…なんて」
後ろで、プラスチックのコップの落ちる音がした。
カヅキが振り向くと、こちらを見て慌てた様子の母、シズカがそこには居た。
「…か、カヅキ?今なんて…」
「え、GBNやりたいって…不味かったかな。流石に。ネットゲームだもんな」
「ちょ、ちょっとお父さん!お赤飯!お赤飯よ!」
「そ、そうだな!俺ちょっと買って来る!」
「今行ったら飲酒運転だぞ!てかなんなんだこの空気!なんで赤飯なんだよ!」
「だ、だって…あの何に関しても無関心だったカヅキが!…うん、いいわよ。GBN許すわ!…ただし、危ない事だけはしないで。これは約束。…良い?」
「わ、わかったよ。…あぁ、それで父さん。…道具とか…持ってない?あったら貸して欲しいんだけど…」
「おう、あるぜあるぜ。好きなだけ持っていけ!」
今まで、カヅキは何事にも無関心だった。
クラスメイトがサッカーや流行っているゲーム、玩具など。…何を見ても、やっても、魅力を感じず長続きしなかった。
そのせいか、友達もおらず今の今まで生きて来た。
しかも部屋は思春期の少年の物とは思えないほど殺風景だ。
ベッドに勉強机。備え付けの小さな本棚には読みもしない辞典や小説が間を開けて並べられている。
まるで、囚人の部屋だ。こんな空間にカヅキは、少なからず窮屈さを感じていた。
しかし、その部屋に二つ。父からもらった道具箱とガンプラ初歩テクニックの本だけで、何故だか彩りが与えられた様に感じた。
そして翌日。
いつもよりも早起きしたカヅキは、意気揚々と開店の一時間前に準備を開始していた。
「…よし!」
道具箱の入った巨大なカバンを背負い、カヅキは再びガンダムベースへ向かう。
辺りを見回しても、男性…シュウはいない。
それ故にやる事と言えば…そう、ガンプラの物色である。
カヅキの昨晩の調べによれば、GBNでのガンプラバトルは基本的に、HGシリーズ…1/144スケールか、SDと呼ばれるデフォルメされた物を使用する。
つまり、1/144スケールの物を使用する、と言うわけだ。
「…うん、ある程度覚えて来たぞ。これはザクⅡ、これはザクⅡ改。これがゲルググで…これがゾゴック。…うん、完璧。…後はガンダムだな」
「ふふ、そのリック・ディアスというMSも、実はガンダムなんだよ」
「へぇ…ってうわあ!シュウさん!」
「やぁカヅキ君。おはよう」
「おはようございます。…あぁびっくりした」
「驚かせてすまない。先程から見ていたようだが、何か見つかったかい?…その顔を見れば一目瞭然だね」
助けを求める様な視線を送られるが、それをシュウは笑って誤魔化す。
こればかりは、自分自身で決めなければならない事だ。
そのことを理解して、カヅキは決意する。
「…俺、目を閉じて歩いて、手に取ったガンプラにします!」
「まさかの運頼み。…いやしかし、ガンプラとの出会いは縁だ。良いかも知れないよ」
「はい!…行きます!」
壁に手を付けて歩きながら一歩、二歩と慎重に歩みを進める。
緊張の瞬間だ。この一歩で、自分が使うガンプラが決まる。
そして、止まる。棚を手探りし、ついに一箱を手にする。
「……これだっ!」
目を開き、手に取った箱を見つめる。
これはなんだ、ガンダムなのか。
やはり、ガンダムだ。箱に気持ち良いほど豪快に「ガンダム」と書かれている。
「…えーと…ガンダム…アス…何?」
「アストレアか!確かに、武装もシンプルで初心者向けだ」
「…おぉ、おぉ!アストレアか…よし。シュウさん!俺これにします!」
「うん、買っておいで。僕は制作スペースで待っているよ」
「はい!」
急ぎ会計を済ませ、カヅキも向かう。
そこには、作業テーブルがずらりと並びある程度の道具が綺麗に整頓されたケースが置かれている。
「わ…わぁ…す、すごいですねこれ!」
「あぁ、道具は持参の物が無い限りは使っても問題ないよ。…さ、早速作ってみようか」
「い、いきなりですか!」
「あぁ、君のガンプラが早く目の前に立つ姿を見てみたくは無いかい?」
「はい!見たいです!」
「大丈夫、僕が色々教えてあげよう!」
こうして、シュウの指導の元ガンプラ製作が始まった。
一つ一つパーツを丁寧に処理し、着々と組み立てて行く。
初めての事が多く、失敗を重ねシュウのサポートを含めて着々とその姿を現して行く。
そして製作を始めて四時間が経過した時だった。
ついに、アストレアはその姿を見せる。
「……出来た!」
「漸く完成だね。…どうだい、初めてガンプラを組んでみた感想は」
「ちょっと難しかったです。…けど、すっごい楽しかったです!俺、もっともっと色んなガンプラ見てみたいです!」
「そうか、ならば…早速だがGBNに行ってみないか」
「はい!」
「登録が必要になる。カウンターに行って登録を済ませて来るといい」
「はい!」
登録は至って簡単だ。簡単な個人情報を記入して提出する。
そして、ダイバーギアを貰い完了だ。
「…つ、ついに始まるんですね!GBN!」
「あぁ、そうだよ。今回は一緒にダイブしよう。僕がサポートさせて貰うよ」
「分かりました!それじゃあ!」
こうして、少年…トバ・カヅキはGBNの世界へと足を踏み入れるのであった。