ガンダム ビルドダイバーズ FULL BREAK   作:とくまっす

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第2話「マスダイバー」

第2話「マスダイバー」

 

カヅキはゆっくりと目を開く。

フルダイブにより、眼前に広がる世界は広大で…まるで目の前にその世界が存在しているかの様だ。

「…すげえ…ここがGBNの世界か…」

「あぁ、ここにいたか。カヅキ君」

「…え?」

軍人の様な紺色のコートを身に纏い、茶色い髪をオールバックにした男性がカヅキに接近する。

やはり、見知らぬ人間だ。…しかし気付く。

「俺の名前を知っている…って事はシュウさん?」

「正解だよ。ただ僕はGBNの世界では「ブレイド」の名前で通っている。こっちではそう呼んでもらえるとありがたい」

「はい、ブレイドさん。…って、俺の格好…なんだこれ?」

「…ふむ、一般的なキャラメイクをしたね。特にコスプレなどをするつもりがないならそれで良いんじゃないかな」

紺色の半袖の薄いパーカーに、ベージュのパンツ。

普段から着慣れた様なラフな格好に、真新しさは感じられない。

「そうなんですね…うん、なんかこれ気に入りました。俺このまま行きます!」

「よし、まずはあのロビーでミッションを受注しようか」

少女が一人、柱の陰から二人を覗き込む。

揺れる薄桜色の髪の毛は隠れるには向いていないがそれでも彼女は覗き続けた。

「……ふーん、初心者さんだ。…ちょっとからかってあげようかなぁ…ふふっ」

不穏な笑いと共に、少女はその場を去った。

「えーと、これなら。…戦闘訓練?」

「いいんじゃ無いかな。僕もサポートとして参加しよう」

「じゃあ、受注します」

クエストを選択し、OKを押して受注する。

しかし、何処に移動するでも無く二人の間に謎の時間が生まれた。

「……あれ?え?…こ、こっからどうすれば?」

「はははっ、やっぱりそうなるか!こうするんだよ」

ブレイドが笑いながら指を鳴らすと、今まで立っていたロビーからハッチに移動する。

急激な景色の変化に驚き飛び跳ねてしまったカヅキを見て再びブレイドは笑いを漏らす。

「よし、ここがガンプラハッチ。君のガンプラはここに収容されている」

店の前に堂々と立っていたユニコーンガンダムと同じ大きさのガンプラ。

先程、自分が時間をかけて丁寧に作ったガンダムアストレアが立っていた。

鈍く光るマットな青に対し、白いパーツは光を軽く反射するほど光沢を持っている。

初めてのガンプラにしては、と嬉しさのあまりカヅキは固まってしまう。

無関心なのでは無い。自分が作ったガンプラが今こうして目の前で立っている。

その事実が、既に彼の心を感動で満たしていた。

「…凄い、これがGBNなんですねブレイドさん!」

「あぁ、そうさ。隣を見てみてくれ。これが僕のガンプラ。リゼルだ」

「…カッコいい…!羽がある…って事はもしかして変形するんですか!?」

「見てのお楽しみさ。さぁ、行こう。コンソールを操作して、「搭乗」を押してくれ」

言われた通りに、コンソールを操作してボタンを押すと、いつの間にかコックピット内へ移動し座っていた。

手元には、青白く光る球状のコントローラー。

その間にはアストレアの描かれた画面が表示されている。

そして眼前に広がるモニターには、高い視点から格納庫を一望出来た。

「…うぉおおお!俺ガンダムに乗ってる!すげえ!」

「じゃあ、発進するよ。ミッションスタートだ」

そうブレイドが告げると同時に、機体に衝撃が走る。

どうやら、ベルトコンベアか何かで運ばれている様だ。

「カヅキ君。僕の様に言って見ると良い。発進シーケンスはガンダムの基本さ。ブレイド。リゼル・カスタム!出るぞ!」

「…あ!行きまーす!みたいなやつか!カヅキ、ガンダムアストレア!出るぜッ!」

リゼルとアストレアの目が輝き、腰を低くして起動を開始する。

目の前に配置されたシグナルが全て「GO!」へと変わった瞬間、背部に接続されたワイヤーを引き抜きながら二機は強制的にカタパルトデッキから射出された。

視界に映り込む高速の風景に恐怖し、思わず目を瞑ってしまう。

「カヅキ君、目を開けてご覧」

しかし、モニターの横側から現れたブレイドの通信ワイプから聞こえた声に目を開ける。

そこには雄大な自然と街並みが眼下に広がっており、その上を飛んでいる感覚にカヅキは再び感動した。

「GBNでダイバーでいる内は、機体が撃墜されても実際に痛みが来たりはしない。無論死ぬ事も無いから安心して大丈夫だよ」

「わ、わかりました!」

「…あ、戦闘エリアだ。あそこに入ったら戦闘訓練が開始されるよ」

「つ、ついにガンプラバトルデビューですね!」

「あぁ、もし危なくなったら僕がサポートする。安心して良いよ」

青いドーム状のフィールドに近付き中に侵入すると、ガンプラバトルデビューの嬉しさと緊張が入り混じった感情に脳内を埋め尽くされるカヅキだったがレーダーが敵機を捕捉した音でふと我に帰った。

フィールド内にいたのは、騎士の兜を模した頭部。シンプルなデザインのモビルスーツ、リーオーだ。

GBN仕様のNPD(ノンプレイダイバー)リーオーが三機、カヅキ達を待ち受けていた様に現れ始めた。

「…あれが敵!」

着地するや否や、チュートリアルが開始される。

指示通りに、スロットを展開。スロットの1番、GNビームライフルを展開すると、掌にビームライフルが握られる。

「成る程、これを撃てばいいのか!」

初期装備のシールドを構えながら、ビームライフルで射撃する。

しかし、その全てはリーオーには当たらず明後日の方向に飛んで行ってしまう。

「くそ、なんでだ!」

「カヅキ君、良く狙って撃つんだ。ビームライフルは基本的に真っ直ぐにしか飛ばない!照準をしっかり相手に合わせれば当たるはずだ」

「真っ直ぐ…狙って…撃つ!」

カヅキの飲み込みは早かった。

モニターに表示された照準をリーオーに定め、引き金を引く。

GNビームライフルにより放たれたビームは、リーオーの腹部を貫いた。

風穴の空いたリーオーのうち一体は、ヒーロー物の敵役の様に倒れながら爆発した。

「当たった!」

「次が来るぞ!」

「接近!?」

「よく見て撃てば当たる、落ち着くんだ!」

「そんな事言われても…ッ!近い…何か武器は…そうだ!サーベル!」

「…カヅキ君、GNプロトソードがキットについていた筈だが…」

「…え?プロトソード?」

「…まさか、忘れたのかい?」

「…多分。…けど、これならビームサーベルで!」

腰スカートから引き抜かれたGNビームサーベルで、リーオーに斬りかかる。

一気に間合いを詰められたリーオーは、なす術無く斬り裂かれてしまう。z

「やった!」

「次で最後!最後まで油断してはいけない!」

「…あっ、しまった…!」

時既に遅し。

既にビームサーベルを振り被ったリーオーがアストレアの右から攻めていた。

シールドを出すにも既に遅い。サーベルも反応できない。

その時、モニター全体に赤い文字で【CAUTION】と表示される。

アラーム音が鳴り響き始めた次の瞬間、右側のリーオーが何者かに「叩き潰された」。

巨大すぎる剣。それを振り回していたのは…青と黒の二色が特徴的な、ドムベースのカスタム機だった。

「これで仕事は完了か。ちょろい仕事だったぜ」

「…お、おい!今の横取りだろ!」

「あぁん?なんだお前…まだいたのか。シッシッ」

ドムの角張った指で、あっちへ行け、とジェスチャーされたカヅキは怒りを隠しきれなかった。

「なんなんだよいきなり現れて!これは俺のクエストだぞ!マナーとかルールとかそういう…」

「あーあー、面倒くせえ。そういうの一番萎えるんだよなぁ…お前も「こう」してやるぞ」

大剣の切っ先で、粉々に砕いたリーオーの残骸を突く。

同時に、先程隣で響いた何かをすり潰す様な音が脳内でもう一度再生される。

それだけだ。先程、「実際に死にはしない」とは言われたが…その寸前の体験は味わう事となる。

その恐怖は、まだ15にもならない少年の心には深く傷を刻む事となる。

「カヅキ君、下がるんだ!ここは一旦引こう。またやり直せば良い!」

「…ブレイドさん。やらせてください。…これは、俺の戦いです」

「カヅキ君…」

「はん!活きが良いな!良いぜ、やってやるよ。あいつは邪魔だからな…おい、足止め頼むぞ!」

突如、ブレイド操るリゼル・カスタムの元に、ギラ・ドーガが高速でタックルし、カヅキとの距離を取らせる。

「ブレイドさん!」

「心配はいらない!君は君のバトルをしてくれ!」

「…はい!…行くぞ!アストレア!」

ビームサーベルを片手に構え、シールドを前に突き出して相手を見据える。

しかしドムは、大剣を地面に刺すと背部からヒートサーベルを発振させる。

高速で振動させた熱により、対象を切断する武装だ。

サーベルの周囲に現れる陽炎がその熱量を思い知らせる。

「…来いよ坊主。戦い方を教えてやる」

「てやぁああッ!」

直線、真っ直ぐにカヅキは突っ込んで行く。

しかし、初心者だと想定していたドムは、その攻撃を回避しアストレアを蹴り飛ばす。

「…ぐっ!な、なんだ!」

「真っ直ぐ来るとはバカな奴だ!」

「…ならこれで!…真っ直ぐ狙って…撃つ!」

展開したビームライフルで、ドムに向かって射撃するが一発たりとも当たらない。

それもその筈、先程倒したリーオーは「動いていなかった」のだ。

「くそっ、くそっ…なんで当たらないんだよ!」

「やっぱり素人かよ!…ガンプラの出来はまぁまぁでも、ダイバーがダメなんじゃあな!えぇ⁉︎ガンダムのパイロットさんよぉ!」

ビームライフルを持つ右腕を、ヒートサーベルが手首ごと両断する。

しかし、負けじとカヅキもシールドを前に出してドムを後退させる。

所謂シールドバッシュと呼ばれる技だ。

「少しはやるじゃないか小僧…だがな!攻撃とは二手三手先を読んでするものだッ!ブレイクデカール!起動!」

突如、機体から紫色のオーラが放たれる。

機体が軋み、悲鳴を上げている。

そして、気付いてしまった。

ドムが手に持っていたのは…大型携行武装の一つ…「ジャイアントバズ」だ。

高威力のバズーカは、食らえばただでは済まない威力を持っている。

しかし、防げない。…今の体制から無理やりシールドで防いだとしても、高威力のバズーカにシールドが耐えられず壊れてしまう。

かと言って回避も出来ず、カヅキは目の前で発射されるバズーカの直撃から逃れる事は出来なかった。

遥か後方に吹き飛ばされ、大樹にぶつかる事でなんとか留まる事が出来た。

だが、アストレアに異変が発生してしまう。

モニターに映り込むアストレアの体一面に【CAUTION】の文字が多数表示されている。

表示された各部のダメージ量も既に70%に到達しており、もはや限界が近くなっていた。

一切の操作を受け付けなくなってしまったのだ。

「…動け、動けよ、アストレア!」

目の前まで、ドムが近付いている事に気付く。

そのヒートサーベルは形を変えて、歪な剣と化した。

持っていた熱も、最早溶岩の領域にまで達しており、直撃した際の被害は予想もつかない。

「冥土の土産に教えてやるよ。小僧。…俺達は「マスダイバー」だ」

「マスダイバー…?」

「ブレイクデカールと呼ばれる不正ツールで、ガンプラを極限まで強化できる。言っちまえば簡単に強くなれるんだ。…こんな力…手を出さない方がおかしいぜ!」

「簡単に…強く」

「そう、小僧…強くなりたいならブレイクデカールを手に入れな」

「…っ…」

そんな物になんの意味があるのか。

格好良く正義感の強い主人公気質の人間ならばそう言い切れただろう。

けれど、意思の揺らぎかけているカヅキには強い否定が出来ない。

ただ、何をどう取り繕おうとも今彼は敗北する。

この事実だけは取り消せないのだ。

「…じゃあ、死ねッッ!!!」

「させない!」

背後から飛翔したリゼル・カスタムのビームサーベルにより、ドムはコックピットを貫かれる。

「何ィ!」

「マスダイバー…お前達の存在は許さない!」

至近距離でのビームライフルの連射。

いくらブレイクデカールで強化されていると言っても、関節の脆弱さまでは補いきれない様だ。

当たった箇所から爆発し崩れ落ちていく。

「くっ、クソォォォオオ!」

爆風の中、大破したアストレアを抱え離脱しながらその場を立ち去った。

ミッションが中断され、ロビーに戻った二人の間には微妙な空気が流れていた。

ドン底まで沈んでしまったカヅキと、宥めようとするブレイド。

その空気は、ブレイドの一言で終結した。

「…今日はもう遅い。ログアウトしよう」

「…はい」

 

深い水底から吸い上げられる様な慣れない感覚が体を襲い、少しの気怠さによって深い溜息を吐いてしまった。

「…今回は負けてしまったけれど、次はきっと勝てるさ。君とアストレアならね」

「……はい、頑張ります」

ただただ純粋に、シュウがカヅキを励まそうと放った言葉の反応を見た後に、シュウ本人までもが思わず溜息を吐いてしまった。

「…すいません、折角付いて来て貰ったのに。明日、また来ます。もしいるなら声を掛けてください。…それじゃあ」

「…あぁ、また」

哀愁の漂う背中で退店するカヅキの背中を、シュウは見つめる事しか出来なかった。

店を出た頃だ。

丁度入ろうとしていた少年に、カヅキは呼び止められる。

「…お前、トバか?」

「…誰だ?」

眉毛が隠れる程の前髪と、スタイリッシュなデザインの黒縁メガネ。

見覚えがある様な無い様な。その程度の間柄だろう、とカヅキは納得してしまう。

「俺だよ!同じクラスのイノセ・アスマ!」

「…誰だっけ」

「名乗ったのに!?そんな事は良いや!お前、今この店から出て来たな?」

「お、おう…」

「つまりGBN、やってるんだな!」

「…今日始めたばっかりだけど」

「なら、俺と一緒にフォース組まないか?」

マシンガントークとまでは行かないが、連続的に出される質問に嫌気が指して来た。

「…グイグイ来るな…っていうかなんだよフォースって」

「おま、フォース知らないのか!?…ん、まぁいいや。明日、明日学校で話すからさ!休んだりすんなよ!じゃあな!」

嵐の様に現れた少年、イノセ・アスマは店の中の人混みへと消えて行ってしまった。

「…フォース…なんなんだ一体」

 

 

暗がりの中。

GBNのとあるサーバー、そのデータの海の中で。

真珠の様な小さな光が一つ、海中を漂っていた。

 

「第一段階、「起動」……クリア」


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