カボチャの幽霊に取りつかれてからというものなんかよく分からない組織に勧誘されるし、四六時中話しかけてきてうるさいし、誰か助けてください 作:雨乞い
——————14歳のある日カボチャの幽霊に取りつかれた。
何を言っているかわからない?安心してほしい、俺も分からない。何があったのかはよく覚えていない。ただ、朝起きたらそいつはそこにいた。黒いマントに身を包み、佇んでいる2mくらいの人影。部屋は薄暗かったし、家には誰もいないから本来ならそこで、俺は悲鳴を上げていたことだろう。だが、そこで悲鳴を上げずに冷静になったのは、その人影の頭部が——————カボチャの被り物だったからだ。そう、ハロウィンの仮装で良くかぶられているあれ。
もっとわかりやすく言うなら、ジャック・オー・ランタン。
俺は思った。なんでカボチャ?血だらけの人の頭でもなく、矢が刺さった落ち武者の頭でもない。カボチャ、そう、カボチャだ。
「なんでカボチャ?」
『いや~、こういった姿の方がインパクトあるかなと思いまして?』
喋った………カボチャがしゃべった。女性とは言えないが男性とも断言できないよく分からない声。なんだか現実感がなさ過ぎて、恐怖の感情とか驚愕とかは湧き出てこなかった。
「ジャック・オー・ランタン?」
『をイメージしてはいますが、本物のジャック・オー・ランタンではございません』
「ちなみにうちに何の御用で?」
『ワタクシ、大変暇を持て余しておりましてね?このまま一人でいるのも大変なので、貴方に憑かせてもらえないかと』
「え、やだけど」
『もちろん利益もありますよ。こう見えてワタクシ強いのです!そしてあなたは強くない」
「は?」
喧嘩を売っているのだろうか?
『ですから、見たところ大して魔法の才能がない宿主殿でもワタクシの力を使えるようになれば、様々な野望が叶えられるというわけですよ!』
「野望とかやりたいこととかないんで帰ってください」
『……そうですかね~、ワタクシから見れば相当業の深い野望を抱えているように見受けられますよ』
「………」
『目を見ればわかります。腐っても亡霊ですので』
カボチャお化けは、近づいてきて顔を覗き込むようにして目を合わせてくる。
「‥‥…お前、目とかついてるの?」
『……突っ込むところそこなんですか?』
「触れたりとかするの?」
『で、できなくはないですけど』
「その頭のカボチャ取れたりする?」
『え?あ、あの、ちょっ…引っ張るのやめてくださいません!?』
これがジャック・オー・ランタン(仮)との最初の記憶。
『あ?起きました?』
目を覚ますと、カボチャが見える。反射的に、拳を振るって殴り飛ばす。
『な、何するんですか!?しかも、魔法で強化した拳で殴りましたね!いいですか?ワタクシだって殴られれば痛いんですよ!』
だって、素で殴ると痛いし……なんか、幽霊ってそのまま殴るの怖いし。殴られるのが嫌なら霊体化してればいいのに。
「それに朝起きて目の前にカボチャ頭があったら殴りたくなるだろ。普段振り回されてる恨みを込めて」
『おや?ワタクシが何時宿主を振り回したというんでしょうか?』
心底愉快そうな声色で話すジャックに、飛び蹴りをかましつつこの馬鹿の悪行の数々を思い出す。そしてその中から一番腹が立ったものを口にする。
「忘れたとは言わせねぇぞ、お前が昔遺跡にあった石碑に面白半分で書き込んだ
『よい教訓でしょう?物事の真偽は一度自分の中でかみ砕いて判断するほうが良いということですよ』
いつの間にか、部屋にある椅子に座って紅茶を飲みだしたジャック。こいつ……マジで腹立つ…
「数え上げればきりがないぞ!最近じゃなんかよく分からない怪しい連中に仲間にならないか?とか言われてるし!お前幽霊じゃなくて疫病神とか悪魔とかじゃないだろうな!」
『悪魔も幽霊も紙一重ですよ。すべてはあなたの認識次第です。ヤハハハハッー』
「そのカボチャ頭砕き割ってやろうか?」
『それよりいいのですか?学校に遅れますよ。宿主殿』
「普段から目立たないように平凡な優等生演じてるんだ。一回くらい遅刻しても問題ない」
遅刻の常習犯というわけではないのだから、一回くらい遅刻しても問題はないだろう。電車が遅延しましたとでも、具合がすぐれませんでしたとでもいえばいい。こういった時のための優等生の仮面だ。
『……そういった容量の良さはよく似てますね』
「何か言ったか?」
『いえなにも』
カーテンを開けると薄暗い部屋に朝の光が差し込む。そういえば、この自称亡霊は太陽の光を浴びても平気らしい。
階段を降り、キッチンにたどり着く。棚からマグカップとティーバックを取り出しお湯を沸かす。カップに勢いよく熱湯を注ぐと、それは一瞬濁ったのち、じわりと琥珀の色を滲ませる。
熱湯を落とされた袋は湯を吸い込んで大きく膨れ上がる。そして最後の抵抗のように水面に顔を出し、助けを求めるようにもがいて、もがいて……やがて沈んだ。美しく透き通っていたはずの湯が、侵食されるように琥珀の色に染まっていく。
俺は何となくこれを眺めているのが朝の日課になっていた。本来ならコーヒーを飲むところだが、ジャックに出会ってからはよく紅茶を入れるようになっていた。
カップを片手にソファーに行き、どっかりと座る。エアコンはすでについていた。ジャックが勝手につけたのだろう。俺は、ジャックが勝手につけたニュースをBGMに紅茶を嗜む。
「次のニュースです。昨夜、江東区の高層マンションでバラバラ死体が発見されました。死体にはほとんど損傷はなく、加えて頭部のみがなくなっていることから警察は4日前と2日前に起きた殺人と同一犯のものとみて捜査を進めています」
「……江東区か。割と近いな」
『いや~、怖いですね~。猟奇殺人。ワタクシ恐怖で震え上がってしまいそうですよ』
「幽霊が何で殺人犯を怖がるんだよ。お前に出会ったら殺人犯が卒倒すると思うぞ」
新聞を読みながら、ニュースを聞くという器用なことをしながらジャックが冗談っぽく話す。というか、ジャックの姿はあったときと同じくジャック・オー・ランタンのままだ。その姿で、新聞を開き紅茶を飲んでいるのはあまりにもシュールだ。
『どうでしょうかね~、少なくとも魔法師ならワタクシを怖がったりはしないと思いますが?少なくとも、宿主殿は怖がりませんでしたよね』
「いや、俺は怖がらなかったんじゃなくてあまりの驚愕で感覚がマヒっただけだから……」
そんなバカな会話をしていると時間がかなり経過していた。もうサボろうかな。外熱いし。…よし、今日はサボろう。
そう心に誓い、学校に欠席の連絡をしてから、俺はソファーの上で寝転がり目を閉じた。