銀河道中夢語~ギンガドウチュウユメカタリ   作:二子屋本舗

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アニメ最終回のエンディングで、何やらロビーへの恋を諦めたかのような描写をされているヤンさん。
え?いいの?ヤンさん! 本当に! そんな芋ようかん持ってきた男に、ほっこりしていたら、ハッチがロビーにイズモンダルへ「幸せを掴みに行こう」って誘ってるんだから、決定的に「告白もしないで」失恋しちゃうよ! 
それは困るので、とりあえず、まずはヤンさんに告白してもらいましょう!のくだりです。
・・・・実は、どうやったらヤンさんが告白してくれるのかが一番難しかったです。
だって・・・ロビーは鈍いし・・・ヤンさん、自分が告白もしていない自覚ないし・・・アニメスタッフは「ハッチ×ロビー」押しなのは明らかだし・・・・
でも、これなら、とりあえず告白はするだろ! てか、がんばれヤンさん!(文責:二子屋本舗字書き担当:はりもぐら)


第1話:銀河道中の夢

今もなお夢に見る。

 

――――いや、手ぶらってのも何だったんで・・・―――

 

そんな一言で、そそくさと「みるくいちご」キャンディーの大袋を置いて、札束を抱えて出て行った後ろ姿を。

 

『ヤンさん! なんで貸したんですか!』

『あいつに・・・ロビーに返済なんてできるわけないでしょうが!』

 

返済のあてのない貸付をした自分に対し、側近の二人が猛抗議したことも。

そして、彼らに対して『身体で返させるから問題ない』と言ったそのことも。

 

だが、それは何もかもが自分だけが抱いていた泡沫の夢だった。

もう決して届かない。ただの独りよがりな願望だった。

 

 

『地球を救った英雄に・・・いや、銀河連邦そのものをアウタースペースからの侵略者から救った英雄には・・・』

 

高利貸は似合わない。

 

あれは、ロビーが借金まみれの「ただの男」だったから、自分に与えられたチャンスだったのだ。

借金でがんじがらめにして、そうして自分のモノにする。

 

『それだけの・・・つもりだったのだがな』

 

地球の高層ビルの最上階。本社の社長室にて、ほろ苦くヤンは自嘲する。

 

今や、月の王子が相棒で親友で、そして、銀河連邦中が『英雄』として賛美するロビーだ。

そんなロビーにどうして、自分が何かできようか?

 

『もう・・・追いかける口実も・・・ない・・・』

 

どれほどまでに恋い焦がれようと、近づく術すらない。

近づこうにも、理由もない。根拠もない。方法などどこにもない。

 

『馬鹿だな・・・私も・・・・』

 

 

気づかなければ良かったのかもしれないと思う。

あの男だらけの惑星・ハママⅡで、無理にでもロビーの身体を奪ってしまっていれば、こんな思いを抱くことはなかったのかもしれないとも。

 

『だが、違うな』

 

それもまた分かっている。

あの時。

衆人看視の『巨大うなぎレース』の折に、無我夢中でロビーの下着に手をかけていた自分は、確かにあのまま押し倒してしまうつもりだったのだ。

だが、結果的には逃げられ失敗したことで、ヤンは己の気持ちに気づいてしまったのだ。

 

―――私は・・・ロビーを・・・どうしたいのだろうか・・・―――

 

『は? 捕まえて腎臓売るんじゃ!?』

『マグロ漁船に乗せるとかじゃ!?』

 

ヤンさんっ!?

 

驚愕のあまりに、茫然自失となったアロとグラの二人の側近らの顔も覚えている。

三人の間で、とんとんとん・・・と空しく転がっていったビーチボールの音までも。

 

今は自分の気持ちははっきりと分かっている。

 

最初は「無謀な借り入れをするロビーを捕えて、好きにする」だけのつもりだった。

今までも時折、無茶な借金をする連中相手が「逃走」する都度、必ず、捕えては生まれてきたことを後悔するまでしゃぶりつくしてきた。

 

ある者は、極度のSM趣味の客に高値で売り、あるいは、臓器を生きながら取り出し、それを幾度も繰り返すプロメテウスに与えた罰のようなことをしたことも一度や二度ではない。

 

ヤンにとって、「どうしようもない借主」というものは「自分の投資先」というよりは、半分は日々の業務で鬱積したストレス解消も兼ねた「お遊び」相手だった。

返せないと分かっていて、わざと貸し付け、そして、その者から「すべて」を奪う。

 

逃げるなら、ゆっくりと追いつめる。

恐怖心に駆られて必死に逃げる借主を追いつめるのは、さながら狩りにも似た楽しみであり、猫が捕えた鼠をいつまでもいたぶっているのと同じ感覚でもあった。

 

だから、最初はロビーに貸し付けたのも同じ動機だったのだ。

いや、同じつもりだったのだ。

借金のカタに、その身体を差し出させ自分が思うがままに貪る。

飽きるまで楽しませてもらおう。

それしか考えていなかった。

 

『なのに、な・・・』

 

もう遠く離れてしまった想い人。

英雄には、手は出せない。どう出せるというのだ?

 

あのハママⅡで、ウナギで精をつけすぎたあまりに、つい情欲のままに手を伸ばしたものの正気に戻った自分は『それ』を酷く後悔していたというのに。

 

衆人看視の中で身体を奪うなどという暴行に及べば、どれほどまでに嫌悪されたか。

それすらもあの時は考えていなかった。

いや、嫌悪されることなど、どうでも良かった。考えてもいなかった。

 

だが、今はもう無理だ。

何よりも自分で自分がそうしたことができないことが分かってしまっている。

 

「どうしたいのか・・・か」

 

己自身の自問自答には苦笑すらできはしない。

 

そもそも、あれ以前には自分の中には「ロビーに嫌われたくない自分がいる」ということすら分かっていなかったのだから。

 

いや、根本的に「誰かに嫌われたくない」と思うような感情が自分の中にあったこと自体が、ヤンには驚きそのものだったのだ。

 

今なお信じられないが、ヤンの胸にはロビーを思うだけで熱くなる何かがある。

この広い宇宙で出会えたこと自体が奇跡だと・・・そう思ってしまう自分がいる。

 

だから困ったのだ。そして、今、どうしようもなくなってしまったのだ。

 

手に入れたいのは今も変わらない。

けれど、それは「無理強い」して「嫌われて」でも、という意味ではない。

 

自覚は恐怖にも似ていた。

 

好きで、そして、相手にも恋われたいなどという想いは、ただ絶望という壁のみが立ちはだかっていた。

 

「ロビーをどうしたいのか、か・・・」

その答えはどうに出ている。

 

そうだ。自分は「ロビーに自分を好いて貰いたい」のだ。

できるなら想い想われる恋人に・・・いや、違う。

「もっと・・・ずっと・・・長く・・・」

一生を共にする伴侶にしたい。

この生涯かけてロビーを愛し抜き、大切に慈しみ、互いに愛し愛され過ごしたい。

 

それこそが、叶わぬ夢。

分かっていて、分かっていても。それでも、想いだけはヤンの胸から離れることはなかった。

 

ほんの少しだけ、彼に似た男にさえも浅ましく反応してしまう自分。

冷徹な金融の帝王のヤンは一体どこへ行ってしまったのだ?

 

「ロビー・・・」

 

呟きが声になっていたのは無自覚だった。

だから、それをアロとグラが聞きとがめたのも、ヤンには想定していないことだった。

 

「ヤンさん・・・」

 

空になった「みるくいちご」キャンディの袋をもったまま、たまらずボスであるヤンに叫んでいたのは金髪のアロの方だった。

 

「ヤンさんっ! なんだって、そんなに悲しそうな顔をしてるんですかっ!」

「そうっスよ!」

 

小柄なアフロヘアのグラもまた唱和する。

 

「ヤンさんらしくないっす!」

「お前たち・・・」

 

道端で拾った時からずっと、なんとなく手元に置いていただけなのに、常に自分に忠実で、そして、それこそ全身全霊で自分に尽くしてくれるアロとグラ。

この二人が自分に意見を言うなど、まして、抗議するなどかつてあったろうか?

 

驚きで目を見張るヤンに対して、イセカンダルへの旅路でヤンのロビーへの恋心を良く知った上で懸命に応援していた二人は、必死に言葉を続ける。

 

「ヤンさんは・・・ロビーが好きなんじゃないんですか!」

「そうですよっ!」

「好きなら・・・なんで、告白しないんですかっ!」

「そうっスよ!」

「告白・・・?」

 

それは予想だにしない言葉だった。

自分とロビーは、借金の「貸主と借主」というだけの関係だ。

その借金の返済が終了してしまった今更、何をどう・・・と、諦めた眼差しのヤンに忠義者の二人は負けじと食い下がる。

 

「ヤンさんっ! 俺らが尊敬するヤンさんは、諦めない人っス!」

「そうっス!」

「だったら、借金なしのロビーに、告白ぐらいしたっていいじゃないっすか!」

「そうっスよ! 一回でダメなら、何回だって! 何もしないなんて、最初から交渉を諦めてるなんて・・・! ヤンさんじゃないっス!!」

 

「お前たち・・・」

その忠義には胸が熱くなる。だが、相手は「あのキャバクラ大好き、巨乳美女大好き男」のロビーなのだぞ?

 

相手が自分でなくとも「男」というだけで、端から相手にすらされないだろうに・・・。

 

そんな戸惑いを見せる上司に業を煮やしたのか、グラは、自分のスマブレからヤンの部屋のスクリーンに突如何かのCMらしき動画を映し出す。

 

♪恋のパワースポット、冥王星~~~♪

 

見れば、ハートの氷の雪原で、ハッチと冥王星人らしき娘が、きゃっきゃうふふと追いかけっこで戯れている。

 

「これが・・・?」

 

最近、冥王星が観光惑星としての目玉に「あの銀河の英雄も出演した冥王星のラブスポットへどうぞ!」のキャンペーンを張っているのは知っている。

どうせ、この画像は、地球からイセカンダルへ行く途中に、ロビーがハッチに出演させて撮ったものだろう。

そんなものがどうかしたのか?といぶかしむヤンの目の前には、問うより先に、信じられないものが映し出された。

 

「はあい! 全銀河の皆さん~~~~」

「月の王子、ハッチ・キタです」

「その相棒のロビー・ヤージだぜ!」

 

仲良く超アップで映し出された二人が、両手を振って、画面の向こうへ呼びかける。

 

「俺たち、今度冥王星のキャンペーン『冥王星から、イズモンダルへ』で結婚します~!」

「今なら、特別提携で、冥王星でラブスポットツアー体験のカップルは、イズモンダル婚を優先予約できるんだぜ!」

「結婚するなら!」

「恋をするなら!」

「冥王星と!」

「イズモンダル!」

 

♪恋をするなら~~結婚するなら~~~冥王星とイズモンダル~~~~♪

 

「・・・・・なんだ・・・これ・・は・・・」

 

結婚? 誰と、誰が?

 

茫然としているヤンに、アロはここぞと食い下がる。

 

「あいつら! 今、イズモンダルに向かってるらしんっス!」

「何!?」

「このCM映像やたらと評判いいらしくて、あっちこっちで拡散されまくって、連続小説みたいだとかなんとかで、続きが期待されてて・・・」

「まさか、その最終回は・・・」

「そうです! そうなんすよっ!」

 

エンドレスで流れるCM画像では、やたらと嬉しそうに手を振るハッチとロビーが、「俺たち結婚しま~す♪」を繰り返している。

 

「・・・まさか!? ハッチは月の国王の後継者だぞ!? それにロビーは女好きだ! あの二人が結婚など・・・」

「ですが、ヤンさん。このままだと、あいつら本当に結婚しちまいますよっ! 今更、同性婚ができないなんて惑星、どこにもありませんしイズモンダルは特にそういうことに鷹揚なプラネットですし!」

 

 

次の瞬間、ゆらり・・・とヤンの周りに金色のオーラが立ち上った。

気のせいではない。少なくともアロとグラの二人にははっきりと見えた。

金融界の帝王、銀河の覇者、泣く子も黙るヤンズ・ファイナンス総帥の神髄が、今ここに蘇ったのだ。

「・・・宇宙船を出せ・・・」

「はいっ!」

「準備はできてますっ!」

「ならば、行くぞ! 目指すは・・・」

「イズモンダル!!! っスね!」

「了解っス! 黄金のシャチホコ・バージョンⅡ発進準備完了! ワープいきやす!」

 

『ロビー・・・私のロビー・・・』

 

手の中には、ロビーからかつて貰った「みるくいちご」キャンディの空袋。

二人から渡された『それ』を握りしめ、ヤンは、無我夢中で叫んでいた。

 

「人の恋路を邪魔する者は! シャチホコに食われてしまえばいいのだ!」

 

その時のヤンは本当に神々しいほど、勇ましかったと。

後に、アロとグラの二人が何度も語る、久方ぶりの『元気な』ヤンだった。

 

復活のヤンだった。

 

 

★★★

 

さて、その頃、件の二人こと「ハッチとロビー」の二人はと言えば、

冥王星の観光局長とその娘と一緒にイズモンダルまで来て、

あれこれと打ち合わせの真っ最中だった。

 

「まったく、ロビーも良くやるよねえ・・・」

呆れたように言うのは若干18歳のまだまだ若い月の王子ことハッチである。

「まったくだ。その『いい頭』を持ちながら、どーしていつも、巨乳のねーちゃん達に騙されるんだか」

ため息をつくのは、ロビーのウサギ型サポートロボットのイック。

 

二人が、木端微塵になったナガヤボイジャーの2号を新しく作って、地球へと迎えに行ってみれば、肝心なロビーは「地球を救った英雄」として散々持ち上げられていたはずなのに、何をどうしたのだか、無一文で路上生活をしていたのである。

 

「だってよ~~~ヒザクリガーブームが思ったより早く終わっちまって、在庫処分の経費分借金にならないためには、いろいろ権利放棄しないとダメだって言われてサインしたら、全財産なくなっててさ~~~」

「・・・どーせ、それ言ったの美人巨乳弁護士のねーちゃんだろ」

「え? イックよく分かったな! いや~~~美人でさ~~~~~~で、俺のことが心配だからって、俺の権利関係全部整理してくれたんだぜ!」

 

いや~~、あの谷間は目の保養だった! と鼻の下を伸ばしまくりのロビーに、呆れ果てたとばかりにハッチとイックは顔を見合わせる。

 

「・・・イック・・・どうして、こうも『騙されていること自体に気づいていない』わけ??」

「いつものこった・・・俺様がついてねーと、こーなんだよっ! たく情けねえ・・・」

顔も頭もかなりイイ線行ってる癖に、なんだってこーなんだかなっ!

 

とは言いつつも、イックが本気ではイラついてはいないのには理由がある。

実は、ハッチがルナランドへ帰る折に、イックもかつてはルナランドにいたことが判明し、その頃の記憶のバックアップなりともの回収も兼ねて月に滞在していたのだが、その際に、イックが執筆した『RobiHachi~地球を救った男たち』が銀河を席巻する大ベストセラーとなったのである。

結果、かなりの印税が「イックが管理しているロビーの『管理口座』」に振り込まれ、よって、実はロビーは文無しではないのだ。

ただし、それについてはハッチと示し合わせて敢えて具体的な金額などは教えていないイックであった。

 

「金があると分かると、また、おねーちゃんに騙されて使っちまうからな」

「そうそう、ヒザクリガーの権利もほぼ騙されて放棄させられてるしね」

実際は、全銀河にまだまだブームが続いているので、ブーム終焉自体が嘘八百なのだ。

よって、現在、ハッチの命令により、ルナランドの王立顧問弁護士自らが、ロビーの権利放棄の無効と損害賠償などについては係争中だが、それらの解決金なども『イックの管理口座』に入れる予定である。

 

よって、ロビーの認識としては「ナガヤボイジャー2号」の費用については、イックの執筆料で賄ったので、自分名義になってはいるものの、それ以外は依然文無しということだった。

だから、ハッチから、「二度目の旅」に誘われた折、ちょうど、冥王星が以前の広告プロデュース料を支払いたいとの申し出があったのを機に、更に、観光誘致を強化しよう!と、現在、絶賛冥王星用のPR活動・・・。

有体に言えば、プロデュース料目当ての活動中だったのである。

 

もちろん、冥王星の観光局長の美人娘の谷間と涙にほだされた・・・のは当然の前提として。

 

「お願いします! 銀河の英雄様!」

と泣きつかれただけで、ほいほいと承諾する様に、イックとハッチが呆れ果てていたのは、言うまでもない。

 

だが、実際のところロビーは火星の観光についてのアドバイスの際もそうだったのだが、実は、プロデュースでも何でも、一流広告会社のドンツーより遥かに的確だし、映像の作成も、脚本制作に至るまでプロも裸足で逃げ出すセンスと才能の持ち主なのである。

 

それもあって、以前の「ハッチと冥王星の娘が、らぶらぶきゃっきゃ」な映像も受けまくったのだが、あの映像そのものは、ルナランドから正式に「あくまでも広告用で、現実とは異なります」という注意書きを入れなければならない羽目になったとかで、せっかくのクオリティが台無しとなったという顛末に陥った冥王星に、再度、救世主ロビー・ヤージが降り立った!というわけだったのである。

 

「でもさ~~ロビー。オレが、あの娘と結婚するわけじゃないってのは、ルナランドが告知しまくったから、広告材料としては無理がない?」

 

いぶかしむハッチに対し、にっと笑って、独特の深い青みのある瞳でいたずらっ子のようにロビーは言葉を返す。

「いんや。むしろ世間的には、禁断の恋!? 許されない想い!? ロマンチック・・・」

とかで、思いっきり受けてるぜ? 現に、冥王星の観光客数も恋愛スポットでの出会いでのもろもろの収益も、右肩上がり。

「てなわけで、後は、世間様が夢見る『幸せゴールイン』まで演出すれば、完璧って奴だ」

「でも、冥王星は、結婚式の惑星としては・・」

「だから、結婚するなら、イズモンダル!で有名なあそこと提携したら、お互いに利益抜群だろ?」

「・・・で、今度はイズモンダルで撮影ねえ・・・」

 

わざわざ、そんな遠方まで・・・まあ、どうせ旅先にイズモンダルも考えてたからいいんだけど。

とのハッチの愚痴に対して、ロビーは今からプロデュース収入の計算で、うはうはしている。

 

「いや~~~冥王星人って金払い良くって助かるわ! 俺、今スマブレまた止められてるって言ったら、現金払いにしてくれるしさ!」

「で、最終PR画像のコンテとかは出来てるの?」

ナガヤボイジャーの船室でハッチが問えば、ばっちりとロビーは親指を立てる。

「なんせ、銀河の・・・つか、この際、宇宙の英雄か? な俺たちが出演だぜ?」

王子様ってのが、特にいいよな~~~! ハッチ王子様万歳だぜ!

「・・・王族って、別にそんないいもんじゃないけどね・・・。息苦しいし・・・」

「で、また家出王子様が何を言ってるやら。ま、いいじゃん! 何事も経験だぜ!」

「オレはいいけどねえ・・・」

 

ハッチが少々危惧していることを察して、ロビーは、更に笑う。

「なあに、お前のファンが、あの娘に攻撃したりしないような最終回にしてみせるって!」

「なら、いいけど」

女の子のためならたとえ火の中水の中のロビーである。そこは信用してもいいのだろうと、ため息まじりに了承する。

 

「じゃあ、撮影とかは全部ロビーに任せるよ」

「おう! まかしとけ!」

 

この時、その冥王星とイズモンダルの提携PR動画撮影行きの旅が、二人の・・・いや、イックも含めて三人にとって、もろもろに運命の転換点になろうとは、誰も知るはずがなかった。

 

よもや、黄金のシャチホコが追ってきているなどとは・・・それこそ夢にも思わなかったのである。

 

 

ロビーもハッチも、ヤンのことなどとうに忘れていた。

それこそが、運命の皮肉だったのかもしれない。

 

 

★★★

 

しかし、本人達はPR用と思っていても、ヤンの頭の中ではすでに「ハッチがロビーを嫁にする!」という妄想が渦巻いていたのだから、どうしようもない。

 

イズモンダルの中でも随一の結婚式場で、おごそかに執り行われる式の最中、神父の声が朗朗と響く。

「それでは・・・この結婚に異議のある方は・・・」

 

異議なし! おめでとう! 

が、脚本にあったセリフである。

 

だが、突如、開かれた扉と共に響き渡ったのは、良く通る良く響く素晴らしいテノールだったのである。

 

「異議あり!」

 

「は?」

 

式場の祭壇にいたハッチとロビーが唖然とするそこに、ずかずかとやってきたのは、ある意味見慣れた金融会社の社長の姿・・・。

 

「おい? ヤン?」

なんで、お前・・・

ロビーが撮影の邪魔するなよ、という間もなく、ヤンはがっしとロビーの腕を掴むと天に届けとばかりに、大声で叫んだのである。

 

「ロビー! ハッチなんかと結婚するぐらいなら、私を選べ!」

「はい?」

「そうとも、私の方がお前を愛している。だから!」

「はぁああああああっ!?!?」

 

沈黙する式場、困惑する神父から恐る恐る声がかかる。

「ロビー殿? 今回の撮影の段取りは・・・」

「ああ、そうだった。おい、ヤン! 誰と誰が結婚だって!?」

「は?」

今度は、ヤンが目を丸くする番である。

 

「今回はな、冥王星のプロデュースも兼ねて、こっちの娘さんと婚約者の本当の結婚式もやっちまおうって企画なんだよ! なんで、あんたが邪魔すんだよ!」

「は? いや、お前とハッチが・・・・イズモンダルで・・・結婚・・・」

それを聞いたロビーは更に天を仰ぐ。

「ああ、えっと? 確か、俺とハッチで『俺たち、イズモンダル婚まで行ってきます』だったけか?」

「そうだ! だから、私は・・・!」

「・・・良く聞け! しっかりCM見とけよ! 俺たち、『行ってきます』だろーが!」

何を勝手に誤解してんだ、あんたはっ!

「お蔭で撮り直しじゃねえか! ったく、花嫁にとっちゃせっかくの式だっつーに・・・」

ごめんな~~~と、美しく装ったウエディングドレス姿の冥王星の娘に頭を下げているロビーからすると、どうやら本当に自分が勘違いしたらしいと、今更、ヤンは蒼白になる。

 

『だが・・・そうか・・・・』

ロビーは言った。

誰が結婚するのか、と。

つまり・・・。

『ハッチとロビーが・・結婚するのでは・・・ない!』

 

それだけで、ほっと・・・胸の中の大きなつかえが取れたのを、ヤンは確かに感じ取ったのだった。

 

「おおい! 邪魔が入ったけど、もう一度な!」

 

そうして、銀河の英雄も列席、つまりハッチが新郎側の付添、ロビーが新婦側の付添という絵面での撮影も無事に終え、やっとこれであとは編集!となった時、ヤンはロビーから唐突に呼びつけられた。

 

「で・・・あんたは?」

「え?」

「わけのわからないこと叫んで、撮影邪魔した分! 説明と経費分の賠償してもらおうか!」

 

さあ、こっちへ来い!

そのまま、式場のラウンジまで連行される羽目になったのであった。

 

 

★★★

 

ホテルラウンジと同じく、静かなロビーラウンジにてコーヒーを前に、腕組みした仏頂面のロビー。

そして、どうしたものかと緊張の面持ちのヤン。

 

珍しい取り合わせに、アロもグラもハッチもイックも、そして冥王星の面々まで、興味深々で柱の陰からこの二人を見詰めていた。

 

「なんか・・・お見合いみたいっスねえ・・・」

「ヤンさん! がんばっス!」

応援する輩もいれば、

「ねえ、イック・・・さっきのヤンのあれ、なんだったわけ?」

「さあ? つか・・・ロビーの悪運の引きの良さはハンパねえからなあ・・・」

と、心配顔のロビーサイド。

 

いずれにしても、肝心なロビーとしては、とにかくヤンが何を考えているのかさっぱり分からないのだから、まずは事情を言えと言ったのは、至極当然のことだったろう。

 

「確かに、俺はお前から借金して、すぐに返さなくて迷惑かけた。けど、それについては完済してるだろうが。今更、何の恨みがあって俺のささやかなお小遣い稼ぎまで邪魔してくれんだよ」

「小遣い稼ぎ?」

意外そうに目を見開くヤンに対して、ロビーは気難しく頷く。

「俺、ヒザクリガーブームが終わって、一文無しなんだよな。だから、冥王星のプロデュースやって小金稼いでいる最中だったんだよ。なんで、それをあんたが邪魔したんだか、理由を聞きたいんだが?」

「それは・・・」

理由を知ってしまえば、今更「ハッチと結婚すると思って、その阻止のためだけに」との理由は言いにくい。

言いにくいが・・・本当のことだから言わざるを得ない。

 

「すまん・・・」

絞り出すようなヤンの声に、「意外だ・・」と驚いたようなロビーの声が響く。

「あんたが謝るなんて。いや、こっちは余計にかかった経費とか負担してくれればそれでいいんだぜ?」

で、手打ちにしねえ?

とのロビーの言葉に、頷きかけ・・・だが、これだけは・・・とヤンは己の勇気のすべてを振り絞って声にした。

「ロビー・・・」

「あん?」

「愛している」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」

 

重たい沈黙が流れること数十秒。

いや、もっとだったかもしれない。

 

ちなみに、凍りついたのはロビーのみならず、ギャラリーの面々もである。

誰も、予測もしていなかったのだ。こんなみんなが見ている目の前で、いきなりそんな展開になろうとは。

 

しかし、一度腹を決めたヤンは、さすがの胆力だった。

「私はお前を愛しているのだ。だから、お前とハッチが結婚すると誤解した。そして、たとえ阻止が無理でも、自分の想いだけでも伝えたいと思ったのだ」

だが、それがお前の仕事を邪魔してしまったというのなら、詫びる。すまなかった。

 

「えっと?????」

未だ、要領を得ないといった風のロビーは、明るい茶色の髪をかきむしりながら、考え考え首を捻る。

「あのさ、俺・・・男なんだけど?」

「それが?」

「でもって、俺は、おねーちゃん達が好みなんだけどな?」

「知っている。だが・・・」

 

その時、唐突に、あはははははっ!との声がヤンの耳に響いた。

見れば、目の前のロビーは、さも可笑しいとばかりに、テーブルを叩いて爆笑しているではないか。

 

「なんだよ! 天下の大企業! 泣く子も黙るヤンズ・ファイナンスの総帥様がよ! たかが、こんな一文無しが、月の王子様と結婚するわきゃねーだろーがっ! それを誤解? で、泡食って追いかけてきて? わざわざイズモンダルまで?」

 

あ~~はははははっ! おっかしーでやんのっ! あんた変だぜ、絶対!

 

「ロビー! 私は!」

変だと言われさすがに、むっとなったヤンに対し、不意にロビーの深い青い瞳が向けられる。

 

「でさ・・・。まあ誤解は誤解として・・・あんたはこれからどうしたいんだ?」

「え?」

不意を突かれて、ヤンは思わず言葉に窮する。そんなヤンに対して、やれやれ・・・とロビーは呆れたと両手を上げる。

 

「そうだな。愛してる・・・は、ともかく」

「本当だ! それだけは!」

「いや、そういう意味じゃなくてだな・・・」

 

う~ん、とロビーは何事か考えている風情であったが、にっと笑って、ごく軽く言葉を返す。

「俺さ、あんたに迷惑かけたから嫌われてるんだと思ってたんだよな」

「それこそ、誤解だ!」

「つっても、まあ、借金したもんとしちゃ、そうとしか思えなかったわけで・・・・。そんなあんたから、唐突に今度は『愛してる』とか言われても困るわけだ」

「分かっている。お前が、私のことなどなんとも思っていないことなど・・・」

だが、肩を落とすヤンに対し、ロビーが言ったのはヤンにとっても皆にとってもあまりに意外な言葉だった。

「いや、だから、いきなり『愛してる』には答えられねーけどよ。取りあえず、あんたが俺のコトが嫌いなわけじゃねえってんなら、友達から始めるってのは、どうよ?」

「・・・ロビー?」

それは・・・まさか、まさか?

私のことを「考えてくれるという」ことか?

驚きに硬直しているヤンに対し、ロビーは「ダメか?」と尋ねる。

 

「俺は、あんたのこと嫌いじゃねーぜ? つか、こうも目の前で面と向かって『好きだ』の『愛してる』だの言われたのも生まれて初めてだしな。男同士だとか、年齢がどうのとかいうのも差別っぽいから今更だし」

 

てなわけで、友達でどーだ? 

「一緒にメシ食ったり、どっか出かけたり、遊んだりさ!」

 

「ロビー!!!!!!」

「おいおいおいっ!」

感極まったヤンが、思わず立ち上がってコーヒーカップをぶちまけてまで、ロビーを抱きしめたのは全員が目撃した後々までも語り草。

 

「あ~~とりあえず、今回の迷惑料として、ここの料金はあんたのおごりな。それから、冥王星とイズモンダルの提携結婚プランへの融資。これが条件だぜ」

「飲もう! 造作もない!」

「じゃ、決まりだ! イック! ハッチ! それと、冥王星とイズモンダルの観光局長さん達も聞いたな!」

 

恋のパワースポット冥王星と結婚の惑星イズモンダルの『ハッピーブライダルプラン』については、ヤンズ・ファイナンスが低金利で全面的に融資面でバックアップしてくれるってよ!

「こんだけ、話まとめたんだ! 俺のプロデュース料もはずんでくれよな」

 

 

 

そう。ロビーの頭の中には、その時はまだ「自分の小遣い稼ぎ」が最優先だったのである。

そして、それはイックやハッチもまた、そんなものだろうと思ってしまっていたのである。

 

まさか、これが・・・後に、ヤンにとっての長い長い幸せな夢への第一歩になっているとは露知らず。

 

そう、これこそが銀河道中で生まれた叶わぬはずの夢への実現への一里塚だったのである。

 

この時は、まだ・・・当のロビーも誰も気づいてすらいなかったが。

 

だが、ヤンだけは・・・・心の底から歓喜していた。

 

『ロビーが・・・考えて・・・くれると!』

 

友達からでもいい。それでもいいっ!

 

ああ、ハママⅡで無理強いして嫌われなくて良かった!

アッカサッカでは、ハッチとロビーが永遠の愛の鐘を鳴らしてしまったが、それでも諦めなかったこの想いよ!

 

『私は・・・・二度と・・・』

 

みるくいちごを・・・ロビーへの恋を自ら諦め、捨てるような真似はすまい。

この先、何があろうともだ。

 

だが、今はまだいい。

ロビーは「やったぜ! 全部、ヤン持ちだ!」

と、はしゃいでいる。

 

嬉しそうなロビーの傍らにいることを、私は許されたのだ。

それでいい。

 

今は、まだ。

 

(第1話終わり)




これが冒頭です。
ちょっと初めての投稿につき、誤字脱字他、いろいろな間違いがあるかもしれません。
直していこうと思いますので、その点はご容赦を。
ヤンさん好きな方がいらっしゃればいいなと、思っております。
あと感想は大歓迎です。次は、ロビーとヤンさんのデートですね。そこから進展していき、そして、ハッチもまた自分の気持ちに気づいて、三角関係になるのですよ。うふふ。

追記:あ、絵描きの桜さんから「夏コミ用に描いた(ハッチ×ロビー本)のヤンさんのイラスト挿絵にしていいよ~~。同じヤンさんだから!」とのことでしたので、ちょいと入れてみました。
ご興味ある方で、挿絵表示なしにされている方はクリックしてみてくださいね

【挿絵表示】
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